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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 7.終 息 03

2010.09.07  *Edit 

「個人的に勉強を見たりとかはしなかったんですか?」
「生憎、無かったんだ。なんせ、東大だから、俺としては綿密に
指導してやりたかったんだが、本人から断られた。贔屓にあたるんじゃ
ないかって。だが、俺は贔屓とは思って無い。彼女だけ特別扱い
するわけじゃない。訊きに来られたら見てやるのは教師として
当たり前の事だからな。実際、彼女は他の先生方の所へ毎日通って
教えて貰ってた。俺の所にだけ来ないんだ。ファンクラブの連中が
怖かったみたいだな」
 雅春のその言葉に生徒達から笑みがこぼれた。
「それになぁ。何十人もいる補習クラスの連中の、学習計画や
チェックだけでも、相当な時間を費やされるんだ。一人だけにどうこう
してる暇なんて無かった。今だって、折角結婚したって言うのに、
忙しくて新婚らしい生活ができなくて困ってる」
 笑い声が起こった。
「在学中に、深い関係にあったって言うのはどうなんですか?」
 と、女生徒の一人が言った。その質問に、生徒達は一斉に静かになった。
「その件に関してだけは、ノーコメントだ。どう思ってくれても構わない」
 雅春の言葉に、教室内は騒然とした。
「いいんですか?勝手にあれこれ思われても。否定しないっていうのは、
肯定したのと同じじゃないですか」
「否定しないからと言って、肯定したとは言えない。俺は否定も肯定も
しない。否定したって、信用しないヤツだっているだろう?だから、
どう思おうと個人の自由だ。ただ、思うのは勝手だが、その事と自分の
やるべき事をするしないとは別問題だ。人の恋愛問題をあれこれ詮索し、
自分のすべき事をしないでいたら、どういう結果になるか。最終的に
損をするのは自分自身だ。お前達が志望校へ入れなかったとしても、
それは自業自得だ。一生懸命頑張ったのに残念な結果に終わったのなら、
俺は悲しい。だが、そうで無い人間が落ちた所で、俺は全く悲しくも
無ければ、痛くも痒くもない。当然の報いだからな」
 誰もが黙った。確かにその通りだと思ったからだ。勉強をするのも
受験をするのも自分だ。勉強をしなければ合格できるわけがない。
自然の道理だ。
「目の前に、東大卒業生がいる。過去に多くの受験生達を志望校へと
導いた男だ。この男の教え通りにやれば、合格できる確率は高い。
だが、そいつは、女生徒と恋愛するようなヤツだ。毛嫌いして
教わる事を拒否し、自分一人で頑張るか、それとも気に食わないが
合格する為に利用してやるか。二つに一つだ。どちらを選ぶかは自由だ。
さぁ、どうする?」
 雅春は、堂々とそう言って、微笑んだ。
 結局、この日参加した補習クラスのメンバーは、全員が勉強に身を
入れ始めた。そして彼らの変化が少しずつ周囲へと波及していった。
特に3年生の多くは受験を控えている。補習クラスのメンバーの変化に
焦りを覚え始めた。呑気にしていられない。そんな思いが生じて来た。
 雅春は、受け持ちのクラスの生徒達にも喝を入れた。朝のホーム
ルームで出席を取った後、彼らを突き放すような事を言った。
今まで好き勝手に言いたい放題だった生徒達に変化が生じた。動揺し始め、
雅春に真相を確かめるべく質問してきた。これも狙い通りだった。
憶測で決め付けられるのは大嫌いだ。
 こうして、コソコソと噂話に興じていた生徒達から声が上がるように
なっていった。結局のところ、みんな本当の事を知りたかった。
 雅春は、職員会議の時に生徒達の声を無記名で紙に書かせて提出
させる事を提案した。今回の噂について、思う事、言いたい事、
訊きたい事、要望などを自由に書かせる事で、今後の具体的な対応に
ついての方向性が見えて来ると思うと訴えた。
 雅春は、生徒達の質問には、出来る限り正直に答えるつもりでいた。
その為にも、大勢の人間達の質問を事前に聴取し、まとめて答えるのが
良いのではないかと思ったのだった。その後、生徒達がどう反応
するかで、雅春自身の進退を考えて欲しい。最悪の場合は、辞職も
覚悟している旨を伝えた。
 雅春の提案に、多くの職員はショックを受けた。生徒達の声を
聴取して答えると言う事には賛成だったが、辞職を覚悟していると
言う事には納得できなかった。
「増山先生。幾らなんでも辞職まで考えなくても・・・」
 と、石坂が言った。
「勿論、辞職しないに越した事は無いです。ただ自分は、誠意を
持って答えても通じないのであるならば、ここに自分が居る必要は
無いんだと思うんです。必要とされて無いわけですから、居続けても
意味が有りません」
 雅春の言葉に、室内はしんとした。
 職員会議終了後、前年度同じ3年担当の教師達を始め、雅春に
好意を抱いている教師達が雅春の周りに集まって来た。
「増山先生。子供達がどう言おうと、辞める事なんか無いぞ」
 と、諸星が言った。
「そうですよ。そもそもこんな事で増山先生が辞職されたら、
却って生徒達にも示しがつきませんよ。教師の立場が今後弱く
なる可能性も大だし」
 斎藤がそう言った。
「理子はどうしてる。この事を知ってるのか?」
 諸星の言葉に、雅春は頷いた。
「知っています。僕の様子がいつもと違うので、心配して
後輩に訊いたようです」
「まぁ。じゃぁ、ショックを受けてるんじゃありませんか?」
 柳沢が心配そうな顔で言った。
「ショックは受けてましたが、彼女の方が僕より強かった。
何を言われても屁でもない。そんな生徒達の面倒なんか見る必要
ないから、学校を辞めたらいいって言われましたよ」
 雅春の言葉を聞いて諸星が豪快に笑った。他の教師達は驚いていた。
「理子は本当に度胸があるな。繊細そうでいて案外、太い」
 雅春はその言葉に苦笑いを浮かべた。
「彼女は本当のところは、とても繊細です。この渦中の真っただ中にいて、
あの空気を毎日肌で感じていたら、とても平静じゃいられないと思います。
ただ、『逃げるが勝ちと言うこともある』って言われて、納得しました。
外側にいる彼女の怒りに満ちた言葉を聞いているうちに、僕は冷静に
なれたし腹も決まりました。矢張り、その渦中にいると目が曇る
みたいですね。だから僕は、覚悟は決めましたが、生徒達の多くは
解ってくれる筈だと思っていますよ」
 雅春はそう言って笑った。その笑顔を見て、みんなどことなく
ホッとした顔になった。
「結局は、理子君に助けられたって事になるんでしょうかね」
 石坂が笑顔でそう言った。
「そういう事です」
 雅春は、全くその通りだと頷くのだった。

 牧田は電気部の部活の時に、3年の崎村から思わぬ事を言われた。
「先生、綾子先輩と付き合ってるんですか?」
 仰天して、あやうくハンダで火傷しそうになった。
「何言ってるんだよ。付き合ってるわけが無いだろう」
 牧田は思いきり否定した。間違っても、彼女と付き合う事は無い。
「だって、卒業してから頻繁に、アパートに呼んでるんでしょ?
『いつ行っても散らかってて汚いから困っちゃう~』って、
綾子先輩が言ってましたよ」
 崎村は他の生徒達に「なぁ?」と同意を求め、みんなが
「そうだ、そうだ」と答えたのだった。
「牧田先生って、万年床なんだそうですね」
「片づけてもすぐに散らかすって言ってたよな」
「そうそう、だらしなくて困るとか何とか」
「でも、そういう所が吾朗ちゃんの可愛い所とか」
 生徒達はニヤ気顔で口々にそう言った。
 牧田は唖然とした。彼女はそんな事を後輩達に言いふらしているのか。
「お、お前達、いつ本人から聞いたんだ」
「ゴールデンウィークの前に、先輩達と集まって、その時ですよ。
でもって、最近、喧嘩したのか綾子先輩が泣いてるって。駄目ですよ、
先生。女の子を泣かせちゃ」
 牧田は不愉快になった。向こうが勝手にやってきて、勝手に
部屋を片付けていっただけなのに、まるで付き合っているが如くに
吹聴している。
「お前らそれは誤解だぞ。俺は綾子と付き合ってなんかいないからな」
 牧田は無愛想にそう言った。
「でもそれなら、何で綾子先輩は泣いてるんですか?」
「そんな事は知らん。俺には関係ない」
「でも、先生の事を吾朗ちゃんって呼んでましたよ」
「それは向こうが勝手に言っているだけだろう」
「でも、先生はアパートの中に入れたんでしょ?」
 その言葉に、牧田はドキリとした。
「正確に言えば。・・・入れたんじゃなくて、勝手に
上がりこんで来たんだ」
「そんなの、詭弁じゃないのかなぁ。言い訳にもならない
ように思いますけど」
 生徒達が不信そうに牧田を見た。だが牧田にしてみれば、
いい迷惑だった。
「とにかく、付き合ってる事実は無いからな」
「そんな、ムキにならなくていいじゃないですか。増山先生みたいに
相手が在学中ってわけじゃないんだし」
「馬鹿言うな。在学中であろうが無かろうが関係ない。間違っても
綾子と付き合うなんて事は無いんだ」
「あー、先生、それは酷いなー。綾子先輩が可哀そうじゃないですか。
まさか、本人に向かってそう言ったんじゃないでしょうね?
だから綾子先輩は泣いてるとか?」
「お前ら、いい加減にしてくれ。俺と綾子は無関係だ」
 牧田は憤然としてそう言った。そして、つくづく綾子に対して
嫌悪感を抱くのだった。考えてみれば、あの女はお喋りで噂好きだった。
そして、毒舌家でもある。自分の気に入った、仲良くしている人間に
対しては姐御みたいに世話焼きだが、気に入らない人間に対する悪口
雑言の類は凄まじいものがある。
 その最近の筆頭にいるのは、吉住理子だ。
 そう思った時、牧田の中に嫌な思いが浮かんできた。中間テストの
休み明けから始まった、雅春と理子の酷い噂話。噂話の内容の中に、
綾子が牧田に言った言葉と同じ言葉が幾つも混ざっている事に気付いた。
 そもそも、増山の相手が理子であると言うことを在学生達が
知ったのは、卒業生からの伝達だ。卒業生達の間に広まったのは、
結婚式の二次会に招待された人間からだ。綾子は参加はしなかったが、
招待はされていて、後日詳細を出席者から聞いたと言っていた。
 そして、理子に対して憶測で散々貶めるような事を口にした。
その内容と、広まっている噂はそっくりだった。
 牧田は寒気がした。自分はとんでもない女と中途半端に関わって
しまった。物凄い形相で帰って行った綾子を思い出し、
不安な気持ちに駆られた。
 それから暫くして、牧田は崎村から、
「綾子先輩が、牧田先生に弄ばれたって、物凄く嘆き悲しんでますよ」
 と言われ、愕然とするのだった。


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~ Comment ~

Re: いや、かっこいいですね!>misia2009様 

misia2009さん♪

元々クールで合理主義者の先生ならではの
セリフですねー。
カッケーです^^

石坂先生はキッパリ諦めて、陰ながら幸せを
祈っているんだと思います。
いい先生なんですよ、このお方も。
私は好きなんです^^

牧田先生は可哀想ですけど、こういう性格だと、
今後も生徒に舐められ続けるんじゃないのかな。
少し、改めないといけませんねww。

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

あはは、、、まだ元凶と決まったわけでは…。
でもまぁ、そうでしょう。(^_^;)

私もニュートラルですねー。
争いごと嫌いだし、人をそういう風に判断したくないし。
友達になりたくない人ですね。
こういう人と、長い人生の中で何度か出会ってますが。。。

できれば、もう会いたくないな。。。><;

いや、かっこいいですね! 

「目の前に、東大卒業生がいる。過去に多くの受験生達を志望校へと導いた男だ。
この男の教え通りにやれば、合格できる確率は高い。
だが、そいつは、女生徒と恋愛するようなヤツだ。
毛嫌いして教わる事を拒否し、自分一人で頑張るか、
それとも気に食わないが合格する為に利用してやるか。
二つに一つだ。どちらを選ぶかは自由だ。
さぁ、どうする?」

大人としての考え方を身をもって子供たちに教える。こういうセリフ大好きです!

理子にアレだった石坂先生が、増山夫妻を祝福している様子にもホッとしました。

牧田先生には……お気の毒です……こちらも収束することを祈ります……

NoTitle 

やっぱり、アイツが元凶かーーーー!!!
ぬぉぉぉぉぉ!!!
この、おたんこなすがぁぁぁぁ!!!
世の中は、敵or味方って人いますよね。
(私はニュートラルな関係が大好きです。)
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