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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 7.終 息 02

2010.09.06  *Edit 

 職員会議は、その後も何回も持たれた。だが、毎回、結論は出ない。
方途も見つからない。職員の半数近くは、雅春擁護派だった。同学年で
交友関係を持った事のある人間の多くは雅春に好意的だった。真面目で
仕事熱心であり、責任感も強い。特に前年度、一緒に3年生を
担当した者達は、受験への取り組みの苦労を共に分かち合った中でもあり、
雅春がいたからこそ、今年の進学率が上がったと実感している。
 それに、何と言っても、理子は東大に合格している。彼女が毎日
職員室へ通い、一生懸命勉強していた姿を見ている。普段の生活態度も
真面目だし、どう考えても恋愛に現を抜かしていたとは思えない。
そもそも相手が誰であっても、恋愛していたとは思えない様子だった。
 だから、今回の噂の内容の酷さには、生徒達に対して失望感を
抱いた者も少なく無かった。まさに憶測だし、誹謗中傷の類である。
こんな事で教師が辞職や異動に追い込まれるとしたら、自分達次第で
教師を追い落とす事ができるんだと、逆に誤解でもしやしないかと
心配になってくる。
 だが四分の一程の教師達は、雅春への処分を強く要求していた。
彼らは普段から雅春の事を快く思っていない。簡単に言ってしまえば
妬みだ。彼らにとっては、雅春は目障りな存在だった。
 そもそも、朝霧のようなのんびりした学校へ東大出の教師が
赴任して来る事自体が、間違っていると思っていた。朝霧で教鞭を
取っている教師の大半は、中堅どころの大学出身者だ。高偏差値大学
出身者は、大抵が進学校に赴任する事が多い。こんなのんびりした
学校へ赴任してきて、受験校みたいにされてしまう事に抵抗を感じている。
 彼らは自分の能力では、偏差値の高い大学へ進学させる事は
できないと自覚していた。だが朝霧では、それで良いのだと思っている。
そういう校風だ。高偏差値の大学へ進学したければ、進学校へ行けば
いいのだとの意識が強い。
 だから、彼らは自分らの能力に見合った授業をし、朝霧高校の
レベルに見合った大学へ進学させればそれで良い、それ以上の事を
望まれてもできないし、やる気も無いと思っている。公務員として
無難に毎日を送りたいのだった。
 そんな彼らにとっては、雅春は目の上の瘤だ。成果を出して
校長から期待されているのが気に入らない。自分達よりも若い彼が、
東大出と言うことでチヤホヤされているのも不愉快だ。
 だから、今回の事は彼らにとっては好都合な事だった。いなくなって
くれたら、こんなに清々する事は無い。
 雅春自身は、気持ちが落ち着いていた。
 最初の頃は、あまり気にしていなかった噂だが、日に日に酷くなり、
仕舞いには授業に影響が出てくるようになってきて困惑した。
普段から、他人の目や態度は気にならない方だが、学校と言う
閉鎖された環境で、千人近い生徒達の心無い態度の毎日に、自分でも
知らない間に精神的に消耗していた。
 そしてPTA会長からの苦情と、職員室での一部の教師達の
攻撃的な態度に、いつに無く大きく動揺した。確かに、女生徒を
好きになってしまい、どうにも我慢ができなくなって恋愛関係に
陥ってしまった。その事は教師としては望ましい行動では無かった
だろう。だが、だからと言って、何故ここまで酷い事を言われなければ
ならないのか。
 辞職もしくは異動と言う話しを聞いて、雅春は自分達の愛を
全否定されたような思いがしてひどく落ち込んだ。
 帰宅して、理子の笑顔を見ると気持ちが幾らか和らいだ。だが、
どうにも癒されない。全力で仕事をしてきた。期待に応えるよう
頑張って来た。それなのに、こんな仕打ちを受けるとは思いも
寄らなかった。
 風呂に入ったが、気持ちは沈んだままだった。中でゆったり
しようと思ったものの、頭の中には色んな感情が渦巻いて、結局、
休まる事が出来なかった。
 風呂から出ると、リビングのソファに理子がいた。何をするでもなく、
ただ雅春の様子を心配して座っていたようだった。雅春が疲れている
事に気付き、心配そうに自分を見る理子が、無性に欲しくなった。
 それから後は、ただ理子の中に入りたいと言う、その欲望に
突き動かされ、支配された。清らかな理子。何度となく交わっても、
その清らかさを失わない。彼女と交わる事で自分は浄化されるような
思いがする。だから、彼女の中に入りたかった。一刻も早く入りたい。
その思いの強さに、雅春はそれ以外の全ての事を見失った。
 彼女の中に入り、絶頂を迎え、彼女から離れた時、自分が何を
したのかを悟った。何も言わずに起きあがって部屋から出て行った
理子を見て、強い後悔の念が襲ってきた。慌てて彼女を追いかけて、
後ろから抱きしめた。だが、「私に触らないで!」と言われ、
突き飛ばされた時、胸が凍りつくような思いをしたのだった。
 後悔の念に苛(さいな)まれた。何故あんな事をしてしまったのか。
自分でも自分がわからない。理子にしてみれば、これ程悲しい事は
無いだろう。恐ろしい程の孤独が雅春を襲い、絶望感が湧いてきた。
一番大切な人に、一番辛い仕打ちをしてしまった。
 考えてみると、こうなったのも全て自分のせいだ。堪え性の無い
性格だから、在学中の彼女に告白をし、処女を奪い、何度も求めては
困らせて、挙句の果てには相手の人権を無視したセックスを
するような事になったのだ。彼女はまだ未成年の少女だ。自分は
大人であり、しかも教師だ。許されない行為と批判されても当然だ。
 理子は自室へ引きこもったまま、声をかけても出て来ない。
メールを送ってみたが、返事は無かった。雅春は自分を責めた。
自分を責め、自分を否定し、この先の事を思うとたまらなく不安になる。
 どれだけ時間が経っただろう。理子がそばに立っているのに気が付いた。
悲しそうな眼をしていた。悲しいに違いない。自分のした事を思えば
当然の事だ。そして雅春は不安になった。もしかしたら、別れを
告げられるのかもしれない。もしそうだったとしたら、耐えられないと思った。
 だが実際には違った。
 理子は許してくれた。
 事情を知った理子が、『学校を辞めたらいい』と言った時には驚いた。
 理子は怒っていた。そんな理子の言い分を聞いていて、その様子を
見ていて、雅春は自分を取り戻しつつあるのを感じた。理子が自分を
守ろうとしてくれているのが伝わって来た。あんな仕打ちを受けて
ひどく傷つきながら、まだ俺を守ろうとしてくれるのか。
 『私達の愛が穢されたとも思わない』と言った理子の言葉が、
雅春の胸に深く突き刺さった。そうだ。理子の言う通りだ。誰が
否定しようとも、目の前にある愛は変わらない。どんなに汚く
罵られようとも、穢す事などできやしない。
 そう気付いた時、再び自分の愚かしさを呪い、後悔した。謝る事しか
できない自分が情けない。そして、そんな自分を許してくれた事に
感謝せずにはいられない。
 再び理子を抱いた。全身全霊で愛した。そして、彼女の深い愛情を
感じながら、今度こそ本当に癒された。もう自分は大丈夫だ。この先、
冷静に戦っていける。そう確信した。
 だから雅春は、職員会議での討論にも冷静でいられた。一部の
批判にも、動じなくなった。そして、校長を始めとする、自分に
味方をしてくれている教師達に感謝した。
 理子が言うには、生徒達の中にも二人に好意的な人間がいるとの
事だった。だが、嵐のような状況下では、ただ傍観しているしか無い。
みんながみんな敵なわけではない。
 雅春は、自ら生徒達に打って出ようと思った。直接関係しているのは、
3年の自分の受け持ちのクラスと補習クラス、選択日本史を履修して
いる生徒と、日本史の授業がある2年生全員だった。
 補習クラスのメンバーは、噂が酷くなってきてから人数が減った。
それでも、参加している生徒はまだ数十人いる。彼らは参加しては
いるものの、明らかに態度が悪かった。雅春はそんな彼らに言った。
「やる気の無いものは来なくていい。自分の将来を本気で考えたら、
くだらない事に時間を費やしている暇は無い筈だ。今年の卒業生は
必死に頑張って、俺についてきてくれた。だから俺も全力で指導した。
その甲斐あって、全員が志望校へ合格した。そこまで頑張れない
者には得られない勝利だ。俺は、必死に喰らいついて来る者へは、
全力で応える。全力でサポートする。勝つか負けるかは自分次第だ。
選ぶのはお前らだ」
 毅然とした態度で雅春にそう言われた生徒達の心が揺れた。実際、
もう5月も終わろうとしている。この数週間、自分達は一体何を
したのだろう?元々、のんびりした校風ではあるが、自分達が
入学した年に雅春が赴任してきて、先輩達の受験への意識が強く
なっていったのを感じていた。
 受験に関しては大した期待を持たずに入学してきた彼らだったが、
今年の卒業生たちの進学先と進学率には驚いた。先輩達も、入学して
きた時には自分達とそう変わらないレベルだった筈だ。それなのに、
多くの高偏差値大学合格者が出た。しかも、その中の一人は
東大に合格した。
 自分達も増山先生のもとで頑張れば、いい大学へ進学できるかも
しれない。そう思って、多くの生徒達が補習クラスへ参加したのだった。
実際、参加してみて手応えを感じた。大変そうではあるが、頑張る
価値があると思った矢先に、先生の結婚相手が今年の卒業生の女生徒で、
しかもそれが東大合格者と聞いて衝撃を受けたのだった。
「先生。先生は本当に、在学中の女生徒と恋愛関係になったんですか?」
 生徒の一人がそう問いかけて来た。雅春は心の中で喝采を上げた。
こうして問いかけて来てくれる事を待っていた。
「なった」
 雅春は正直に答えた。その答えに、教室内がざわめいた。
「それは、東大に合格した人だと聞いたんですが」
「その通りだ」
「どうしてなんですか?先生は女生徒には全く興味無いって
感じだったじゃないですか」
「全く興味は無かったよ。なのに、いつの間にか好きになって
しまっていて、自分でも非常に困った。恋に落ちると愚かになるようだ。
自分のアホさ加減に、自分で呆れていたな。馬鹿だと言われても
反論できない」
 雅春はそう言って笑った。
「彼女が東大を受験するって事で、特別に便宜を図ったり
贔屓したりしたんですか?」
「贔屓はしていないつもりだ。ただ、東大を受験すると言う事は
並大抵の事じゃない。特に、この学校の生徒にとってはな。俺自身、
東大出身だから、東大受験のノウハウを持っている。だから、東大を
受験すると言う彼女に、そのノウハウを伝授した。それを特別な
便宜と言うんだとしたら、そうなのかもしれないが、彼女以外にも
東大受験者がいたら同じ事をした。教師として最善を尽くして
サポートするのは当たり前だからな。他の受験生達にだって、
俺は出来る限りの事をした。彼女だけじゃない」
 雅春の言葉に、生徒達の態度が変わりつつあった。


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~ Comment ~

Re: 頭の中で…>OH林檎様 

OH林檎さん♪

KANの「愛は勝つ」ですね^^ 懐かしいです。

先生でも、激しく動揺する事ってあるのね。
この後も、色々あるのですが。。。。
これ以上はネタバレになるので。
うふふふ……(^m^) ←なんの笑いだろう???

頭の中で… 

i-194かーなーらーずー、最後に愛は勝つーーーi-178とうい歌が流れてきました(笑)
理子に癒されて、冷静を取り戻した先生。
最強です!
どう『終息』するのか、楽しみに拝見させて頂きまっしゅ!!!
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