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小説・クロスステッチ第2部 <完>
7.終 息 ~ 9.試 練


クロスステッチ 第二部 7.終 息 01 

2010.09.05  *Edit 

 理子はそっとリビングに入った。
 雅春は、ソファの上にいた。自分の膝の上に肘を付き、頭を
抱えていた。目の前のテーブルの上にはウイスキーが入ったコップが
置いてある。氷も何も入っていない。ストレートのようだった。
 理子が近寄ると、その気配に気づいたのか雅春が顔を上げた。
目の縁が微かに赤い。泣いていたのだろうか・・・。
「理子・・・」
 理子の姿を認めて、雅春は驚いた。
 二人は暫く、言葉の無いまま見つめ合った。雅春は打ちひしがれた
様子だ。悲しみに支配されているのがわかる。
 理子はゆきからの電話で、今学校で起こっている事を聞いて驚愕した。
茶道部、合唱部、歴研の後輩達は今でも二人に好意的だそうだが、
それ以外の生徒達の雅春への仕打ちは、余りにも酷い。雅春が
一生懸命指導しているブラバンの生徒達ですら、雅春に批判的な
態度を取っていると聞き、胸が痛んだ。
 先生は、毎日、そんな中にずっといたんだ…。
日に日に疲れを増した様子をしていたのは、そのせいだった。
今日、PTAの会長が苦情を言いに来たらしい。そして、放課後
職員会議があったと。雅春のメールには、今日は特に酷かったとあった。
それらの事を指しているのか。
 雅春が辛い立場に立たされている事はわかった。全部、自分と
結婚したが為だ。相手が私じゃ無かったら、こんな仕打ちは
受けなかった筈だ。
 だけど。
 だけど・・・・。
 それでも理子は悲しくてたまらない。理子に心配をかけまいと
何も話してはくれなかった。その思いはわかるし、理解できる。
だけど、何故あんな事を。自分を見失っていたとしても、あれは酷い。
 それでも理子は思った。このまま先生を放ってはおけない。
学校で苦境に立たされて精神的に参っている上に、理子にしてしまった
行為への後悔の念が、更に雅春を追い込みかねない。
 “俺には君しかいないんだ”
 この言葉が胸に沁みた。
 このまま理子が拒否し続けていたら、この苦境を乗り切る事なんて
出来ないだろう。駄目になってしまいかねない。そんな危惧が
理子の中に湧いた。だから理子は部屋から出て来たのだった。
 理子は雅春の隣に座った。
「先生。お酒を飲んでるのね」
「飲まないと、やっていられない・・・」
 雅春は力無くそう言った。
 理子は立ち上がった。
「理子?」
 雅春がとても不安そうに理子を見上げた。理子は上から
そんな雅春を見下ろすと、優しく微笑んだ。
「お水を取って来る」
 理子はそう言って、キッチンへと向かった。理子が立ち上がった事で、
また理子が外へ出て行くのかと不安に思ったのだろう。理子はコップに
水を淹れて雅春の元へ戻った。
「はい、お水。飲んで少し酔いを醒まして」
 雅春は理子が差し出したコップを手に取りながら、不思議そうな
顔をした。理子の意図がわからないからだろう。だが、差し出された
水を一気に飲んだ。
「どう?少し落ち着いた?」
 テーブルの上にあるウイスキーのボトルは半分程になっていた。
ストレートで、そんなに飲んだのか。普段から強いとは言っても、
短時間にこの量は多過ぎる。
「理子。ごめん。本当に済まない。どう謝っても許して貰え
ないのかもしれないが、俺には謝る事しかできない」
 雅春の言葉に、理子は悲しい顔をした。
「私、凄く傷ついた。どんな事情があるにせよ、一方的にあんな事…。
ただの性の道具として扱われた。ショックだった……」
「理子。君を愛してる。あんな風に君を犯してしまったが、君をただの
性の道具だと思ってやった事じゃない。無性に君が欲しかった。
君の中に入りたかった。君の中に入って癒されたかったんだ」
「私の意思を無視して?勝手だわ。勝手過ぎる。そんな事をしたら
私が傷つくって思わなかったの?」
「冷静だったならば、当然思ったし、しなかったよ…」
 雅春はボソリとそう言った。
「先生。どうして私に何も言ってくれないの?そんなになるまで
傷ついて、私には何も言わないまま、自分勝手に私を犯したわ。
そうなる前に、どうして言ってくれなかったの?先生の様子が
おかしいって、前から感じてたのよ?」
「理子……。ごめんよ、本当に…」
「先生。私、さっき、ゆきちゃんにメールしたの。先生が何も
教えてくれないから。それで、ゆきちゃんが後輩に問い合わせて、
事情を聞いてくれた。だから私、知ってるのよ?」
 理子の言葉に、雅春は驚いた顔をした後、理子から視線を逸らした。
「ここまで酷くなるとは思って無かったんだ。放っておけば
そのうち飽きると思ってた。どうしても気になるヤツは、
直接訊いてくるだろうとも思ってたのに、誰も何も訊いてはこずに
噂ばかりが拡大していった。しかも、広がる程にその内容は酷くなる。
吐き気がするような内容だよ」
 雅春は吐き出すようにそう言った。そう言って、頭を抱える。
この人がこんなにも落ち込むなんて。いつも冷静で堂々としていた人が。
「先生。この間、沙耶華が先生に文句を言いに来たって聞いたんだけど」
理子の言葉に雅春は顔を上げると、理子の顔を見て笑った。
その笑顔が切ない。
「半田は、わかってくれた。だから心配ない。みんなアイツみたいに
直接俺に訊きに来てくれればいいのに。俺と話して、それでも
解ってくれないなら、それはそれで仕方が無い。だが、勝手な
思い込みでエスカレートしていくのには辟易とする」
「沙耶華が、わかってくれたの?」
 理子は驚いた。あの沙耶華が・・・。
 理子は雅春から沙耶華とのやり取りの詳細を聞いた。それを聞いて、
沙耶華の気持ちを慮るのだった。先生の言う事は確かに正しい。だが、
女の子としての気持ちを思うと、やるせない。やるせないが、
それもまた仕方のない事なのだろう。
「今日、職員会議があったんでしょう?PTAの会長が苦情を
言いに来たとか」
「PTAの会長は、校長の説得で最後にはわかってくれたらしい。
保護者の方は押さえてくれると約束してくれたそうだ」
「校長先生が・・・」
「校長には本当に感謝してる。俺を庇ってくれたんだ。
こんな事になって、校長にしてみれば困惑極まりない状況だろうに。
会長は俺の辞職か異動を求めて来たそうだ。だが、毅然とした
態度で対応してくれた」
 辞職?異動?
 理子はその言葉にショックを受けた。そんな所まで事態は
発展しているのか。
「だが職員会議では、一部の先生達が、辞職まではしなくても、
やっぱり異動した方が良いのではないかと言いだした。俺が異動すれば、
事態は全て収束する。ここまで来てしまったら、それしか
無いんじゃないかって」
 職員会議は荒れた。
 校長は、どうしたら生徒達が納得するのか、事態が沈静化するのか、
それをみんなで協議したいと提案した。PTA会長の件は、こちらの
説得で納得してくれ、生徒達と一緒に保護者が騒がないように
通達してくれる事になったと説明した。
 だが、最初に雅春の辞職か異動を要求された話しを聞くと、
教師の一人が、
「結局はそれが一番早い解決法だし、当人がいなくなれば生徒達も
噂のしようもないでしょう」
 と言い出した。そして、その意見に何人もが同調したのだった。
同調したのは普段から雅春を快く思っていない人間達だった。
 その意見に真っ向から反論したのは諸星だった。
「そんな簡単に言うな。そりゃ、増山先生が異動すれば、事はそれで
終わるだろう。だが、それで本当にいいのか?君が当事者だったら
どうなんだ。こんな事で異動させられて納得できるのか」
「そうはおっしゃいますが、僕は女生徒と恋愛なんてしませんし」
 そう言って、にやけた。
「諸星先生も女生徒と恋愛結婚されたから、そうやって増山先生を
庇うんでしょうけど、卒業後ならともかく、在学中から恋愛関係に
あったとなっては、批難されても仕方ないんじゃないですか?」
「確かに批難されても仕方は無い。だが何だ!批難なんてものじゃ
ないだろう。あまりにも酷過ぎる。これは一種の苛めだぞ。酷い事を
言って相手を貶(おとし)めて、面白がってる。人として許される
行為じゃない。俺達は教師だぞ。そんな事をしている生徒達を正すのが
俺達の仕事だろう。一緒になって増山先生を追いだしてどうする。
間違ってるぞ、君達は」
 雅春は、諸星の言葉に感謝した。そして、異動を訴える教師達の
言動に傷ついた。考えてみれば、昔から敵は多かった。大体が嫉妬だ。
雅春の望むと望まないとに関わらず、雅春は目立つ。
女にモテるのだって、雅春が望んでいる事では無い。
 大学へ入るまでは、男友達も少なかった。雅春自身、受験勉強も
あったし、人間関係の煩わしさもあって、孤独を愛していた。
 大学へ入ってから自分を取り巻く環境も変わり、周囲の自分への
態度も変わって来た。ひとつには、古川と親しくなった事がある。
彼を通して多くの友人ができた。女に人気の二枚目は、男からしたら
面白い存在ではない。
 だが、実際に付き合って見ると雅春は堅物で偏屈で、そして
ユニークだった。気取った所が無いし、約束は必ず守るし、案外
子供っぽくてチャーミングだ。だから雅春と付き合ってみると、
彼を好きになる。
 そんな仲間達に囲まれた大学生活を送ったせいで、それ以前の
不信に満ちた時間を忘れていた。いつもクールで冷めた目で相手を
観察していたのに、多くの仲間と知り合い、更に理子を知って、
目が曇ってしまったのかもしれないと思うのだった。こんな事で
傷ついている自分を情けないと思った。
「結局、今日の職員会議では結論は出なかったんだ」
 と、雅春は言った。
「一体・・・、みんなはどうしたいのかしら?こうやって酷い噂を
しては授業をまともに受けなくて、そんな事をいつまで続ければ
気が済むのかしら。みんな馬鹿よ。特に三年生なんて受験が迫って
いるって言うのに、こんな事をしてていいの?結局、困るのは
自分達じゃない」
「君の言う通りだよ。一体、あいつらはどうしたいのか。
何を望んでるのか・・・」
「先生・・・。何なら学校を辞めてもいいのよ」
 理子の言葉に、雅春は驚いた。
「理子・・・」
「これだけ傷つけられて、無理して行く必要なんてない。一体、
私達が何をしたって言うのよ。そこまで責められなければならない事を
したって言うの?あの子達には何の迷惑もかけてないじゃない。
幾らショックだからって、悪意を持たれる筋合いは無い。そんな
生徒達の面倒なんて見る必要ないのよ。出て行けと言うのなら、
出て行けばいいのよ」
 理子は言っているうちに興奮してきた。こうして口に出していると、
許せない気持ちが強くなってくるのだった。
「理子。そんなに簡単に辞めるわけにはいかないよ」
「どうして?辞職や異動を迫られてるんでしょ?元々、先生には
公立高校の教師は向かなかったのよ。私立の進学校か進学塾で、
やる気のある生徒達相手に教える方が先生には向いてる。それが嫌なら、
いっそ大学院へ進学して大学へ戻ったら?大学では先生が戻って
来るのを望んでる。教師になってから、先生は全然自分の勉強が
できて無いみたいじゃない。いい機会だから、研究者の道へ
方向転換しましょうよ」
 雅春は理子に微笑んだ。その微笑みは優しかった。
「理子、ありがとう。君の言葉は嬉しいよ。だけど、今辞めたら、
負けになると思わないか?君の事だって散々に言われてるんだぜ?
俺は、俺達の愛を否定され穢されたままで引き下がりたくない」
 理子は雅春の唇に、そっと口づけた。
「理子・・・」
 驚いている雅春に理子は言った。
「私は何を言われても平気だから。どんなに酷い事を言われても、
平気。言いたい人には言わせておけばいい。だけど、先生がそんな
穢い中でもがいて戦ってるのは辛い。私の為に傷ついてるのを
見るのが辛いの。ねぇ、先生。逃げるが勝ちって言葉もあるじゃない。
今辞めたからって、負ける事だとは私は思わない。私達の愛が
穢されたとも思わない。否定したい人は否定すればいい。
私はそんなの、屁でも無いわ」
 雅春の腕が伸びて来て、理子を抱き寄せ強く抱きしめた。
「理子。本当にさっきはごめん。愛する君を傷つけてしまった。
あんな事をするつもりは全く無かったのに。俺を許してくれ。
許すと言ってくれないか?そうでないと俺は、これからどうしたら
いいかわからない」
 理子を抱く雅春の体が震えている。雅春の想いが震えと共に
伝わってくるようだ。理子もやるせない気持ちになってくる。
 誰にも替え難い、大切な人。自分にとって、この世で最も大切な人。
だからこそ、傷ついた。でも、失えない。失いたくない。
「先生・・・。私はもうとっくに許してるわ。許してるから、
ここにいるのよ」
 理子の言葉に雅春は腕を解くと、理子の額に自分の額を付けた。
「本当に?」
 声が甘く切ない。
「本当に・・・」
 と、理子が言い終わると同時に、雅春の唇が理子の唇に重なった。
 理子を求めて止まないキスだった。全てを呑みこんでしまうような、
狂おしいキスに、理子の気持ちも高まってゆく。雅春は両手で理子の
頬を包み込んだ。大きな手に包まれて興奮する。どうしてこんな事で
興奮するのだろう。その手が耳の上を滑るようにして、髪の中に
差し込まれた。親指が耳の上に掛り、耳を弄(まさぐ)る。
ひどく感じるのだった。
 唇は塞がれたままだ。雅春の吐息と唾液が流れ込んできて、
理子を官能の世界へと導きだす。耳に有った手と指が下がって来た。
すべすべした指先が首筋を這う。首元まで行ったり来たりするその動きに、
理子は敏感に反応した。
 雅春は唇を外すと言った。
「理子・・・、君が欲しい。今度こそ本当に」
 雅春の全身から、理子を欲する焔(ほむら)が起ちあがっているのを
感じる。瞳は妖しく揺れている。理子は頬を染めて、黙って頷いた。
それを見た雅春は理子を抱きあげて寝室へ入った。そして、
優しくベッドに横たえた。
 雅春はそっと理子の上に乗ると、腕を伸ばし髪を撫でた。
理子を見つめる目は、妖しい目から優しい目に変わっていた。
「愛してる。心の底から。だから俺は、君にした事をとても
後悔してるんだ。君は俺にとっては穢れの無い女神であり、
傷一つない透明の、この上も無く美しい宝玉なんだ。その大切な君を、
俺は自ら傷つけてしまった・・・」
 理子は、髪を撫でる雅春の手を取った。
「宝玉の傷は、研磨しないと取れないし、研磨する程小さくなるけど、
人の傷は治るものよ。人間には再生力がある。私の傷は、
あなたの愛でしか治らない。治してくれる?」
 雅春の瞳に涙が滲んだ。
「先生、お願い。私を愛して。優しく、そして激しく」
 その晩二人は、何度となく深い淵へと落ちたのだった。


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~ Comment ~

Re: 良かった(涙)>OH林檎様 

OH林檎さん♪

お待たせしました。
やっと、続きと言ったところでございます。

子供の先生を、もっと子供の筈の理子がイイ子イイ子
した感じですかね?www
窮地に立たされているのを知って尚、突っぱねる事は
できないようでございます。

良かった(涙) 

とりあえず、仲直りできて良かった(ウルウル)
学校のことは気になるけど、2人がしっかりしてれば大丈夫ですよね。
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