ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 6.噂 07

2010.09.03  *Edit 

「ねえ。何しに来たの?」
 牧田は綾子の前にお茶を置きながら訊いた。
「遊びに来たって言いましたけど?」
 ぶっきら棒な言い方だ。
「遊びに来たって・・・」
 牧田にはその言葉の意味が理解できない。小学生の子供同士じゃ
ない。大人の男の部屋へ遊びに来ると言うのは、一体具体的には
何を指しているのか。
「先生、新年度はどうですか?担任になったんですか?」
「副担になった。担任は責任が重いから良かったよ、副担で」
 牧田はホッとしたように言った。本当に、担任なんて重責は
担いたく無かった。
「綾子はどうなの?仕事の方は」
「立ち仕事だから、凄く疲れる。毎日朝からずっと立ちっぱなし
でしょ?もう、足痛いし。覚えなきゃいけない事も多いし」
「何の仕事なの?」
「寝具売り場になったんだ。物が大きいから大変。包むのも大変だし、
紐掛けもあるし」
「へぇ。それは大変だね。お金も扱うのかな」
「いずれはね。今はまだ、他の仕事を覚えさせられてる。
接客態度とかも厳しくて、毎朝朝礼で挨拶の練習するの。一人が
前へ出て言って、それをみんなで大声で復唱するの」
「それで今日は?休みなんだよね?」
 牧田は、スーパーで働いている彼女が土曜日にやってきた事を
不思議に思った。
「休みに決まってるじゃん。週休二日って決まってるから。
月始めにシフト組んで休みを決めるの。私は運良く水曜と土曜に
休みが取れたんだ」
 牧田も学生の時にスーパーでアルバイトをした事があるので、
休みのシフトを組む事は知っている。
「何か、不景気なのもあるんだろうけど、社員って凄く少なくて、
従業員の殆どがパートとアルバイトなのには驚いた。だから、
パートやアルバイトが帰った後が、すっごい忙しくて」
 そんな仕事の愚痴を言いに、ここまでやって来たのだろうか。
牧田はぼんやりと彼女の喋るに任せていた。真面目には聞いて
いられない。そもそも興味が無い。彼女の仕事も彼女にも。
 適当に相槌を打っているうちに時間が経ち、綾子が立ち上がった。
「じゃぁ先生、あたし帰るね」
 その言葉にホッとした。だが靴を履いて玄関を出る時に、
「また来るね~」と言った事に、牧田は重い気持ちになった。
 そして、その言葉の通り、綾子は翌週もやって来たのだった。
「先生、こんにちは~」
 と言って、また上がりこんで来た。牧田はウンザリした気分に
なった。やって来る理由がわからない。上がりこんでも、一人で
お喋りしていくだけだ。もしかして、自分に何か期待して
いるのだろうか?
「また散らかってる」
 綾子はそう言うと、部屋の片づけを始めた。だが、片づけると
言っても、散らばっている物を適当にまとめて部屋の隅へ
追いやるだけだった。
「なぁ。お前、一体、何しに来るんだよ」
 牧田は言った。
「何しにって、遊びに来てるだけだけど。いいじゃないですか、
遊びに来るくらい。あたしもう生徒じゃないんだし」
 牧田はそれに対して、どう答えたらいいのかわからない。
「ところで先生。増山先生が結婚したって本当?」
「えっ?うん・・・、そうだけど」
「あたし、驚いちゃった。何でも春休み中に結婚したんだってね」
「君も増山先生のファンだったの?」
 増山の人気は物凄い。熱狂的である。彼は牧田の一年先輩になる
わけだが、赴任してきた時には驚いた。第一印象は、
場違いな人だな、だった。
「ファンって程じゃないけど、イケメンだもんね。それなりに
いいとは思ってたけど。だけど在校生達、それを知って
凄かったんじゃない?」
「そうみたいだな。でもまぁ、今は落ち着いてきてるかな。なんせ、
結婚するしないは本人の自由だから。生徒達がどうこう言う
権利は無いし」
「それはそうだけど、あそこまで人気があると大変よね」
「まぁね。その点俺は呑気でいいよ」
 牧田は冴えない男だった。背は高くガッチリした体つきだが、
地味な顔立ちで黒ぶちの眼鏡を掛けている。顔にはニキビの痕が
幾らか残っている。髭が濃く、どんなに深剃りのシェーバーを
使っても、剃り痕がはっきりと青く残る。髭が濃い事は中学の
時からコンプレックスを持っていて、常に気にしてきちんと
剃っているが、それ以外の身だしなみに関しては無頓着で
ファッションにも全く興味が無い。
 女の子にモテた事など一度も無い。告白された事も無かった。
初体験の相手は風俗嬢で、大学へ入学してから間もなく、サークルの
先輩に連れられて行ったのだった。そんな牧田だが、冴えない風貌で
ありながら面食いだ。モテないからと言って、女なら誰でも良いとは
思わない。こんな自分にだって選ぶ権利はあると思っていた。
 目の前の女は全くタイプではない。もし、鈴木三人娘のうちの誰か
一人を選ばないと殺されると言うような事態に陥ったとしたら、
選ぶのは富美子だろう。宮古は子供みたいで、あんな女は抱けない。
罪悪感さえ感じる。三人の中では富美子がマシだ。
「先生、見るからにモテなさそうだもんね」
 余計な御世話だ。お前には言われたくない。そう思うが、
口に出しては言えない。
「増山先生の結婚相手って、どんな人だか知ってる?」
 綾子の問いに、どきりとした。
 職員は既にみんな知っている。増山が先月入籍する際にみんなに
報告したからだ。それを聞いた時、牧田も他の人間と同じように驚いた。
 あの増山先生が、まさか受け持ちの女生徒と結婚するとは夢にも
思っていなかった。あれだけ人気があって、女生徒に囲まれて
いない時なんて無いんじゃないかと思うほど、いつも取り巻きが
いたが、本人はそれを非常に迷惑がっていて冷たい態度で接していた。
 ルックスがルックスだし、あの人気だからプレボーイのように
勘違いされやすいが、本人はいたって真面目で堅物なのは、
ちょっと付き合えばすぐにわかる。
 だから、結婚自体が驚きだったし、その相手が女生徒と聞いた時には
卒倒するかと思った程だ。そして、その女生徒が、東大に合格した
吉住理子だと聞いて驚きは倍増した。
 東大受験の為の指導をしているうちに惹かれたのだろうか。
牧田はそう思った。そして、卒業の打ち上げの時に話題に上った
彼女の事を思い出した。村田が好きだった女子だ。だが、綾子は
ボロクソに評していた。
 理子の事は、毎日のように職員室へ通って来ていたから見知っては
いた。だが、担当学年が違う為、それ以上の事は知らない。言葉を
交わした事も無い。ただ、見た限りでは、賢そうで清廉で、
清らかな可愛い花のような印象を受ける。
 綾子が『男好きがする』と言ったが、それはあながち嘘とは言えない
かもしれない。目を引く程の美人ではないが、顔立ちは整っていて
魅力的だと思う。
 あの子なら、増山先生が惹かれたのも解る気がした。
 終業式後に本人が挨拶に来て、そこで初めて彼女が話すのを聞いた。
聡明な印象を受けた。ただ勉強が出来るだけでは無く、受け答えが
しっかりしていて、切り返しが早い。他の先生方とのやり取りに、
物怖じもせず堂々と返答している姿を見て、感心した。牧田が
理子から受けた印象は、綾子が言ったものとは大分違っていたのだった。
 その彼女が、増山の妻になった事はまだ公にはされていない。
ゴールデンウィークに挙式と披露宴があるらしく、それまでは
緘口令が敷かれていた。だから、綾子に問われても答える事はできない。
「僕は知らないね」
 と、牧田は素っ気なく言った。
「そっかぁ。あの先生って、自分の事を全然話さないもんね」
「そうみたいだね」
「先生はどうなの?彼女いるの?」
 綾子が卓袱台の上から身を乗り出してきた。牧田は思わず引いた。
「いるわけないよ。見ればわかるじゃないか」
「そうだよね」
 と、言った綾子はクスリと笑った。その笑いが牧田の癇に障った。
なんだか馬鹿にされてるように感じたからだ。ちょっとからかって
やろうと思った。
「だからさ。俺、飢えてるよ。危険だぞ」
 牧田はそう言って、上目遣いに綾子を見た。綾子は顔を赤くした。
 へぇ~。スレてそうだけど、案外ウブなのか。
 と思ったが、その思いをすぐに撤回した。
 綾子は「キスくらいならいいよ」と言って、目を瞑って唇を
突き出してきたのだった。
 その行為に、牧田は嫌悪感を抱いた。なんて娘なんだろう。
この女は、一体どこまで知ってるのだろうか?キスもセックスも
既に知ってるのか?
 ギャル系では無いし、イケイケタイプにも見えない。見た目は
地味だし、18歳らしい溌剌とした若さが発する魅力も感じない。
だが、だからと言って男を知っているようにも見えない。女臭い癖に、
男をその気にさせる色気の発散がまるで無い。
 狭い部屋で彼女と二人きりでいても、間違っても抱きたいとは
思わないのだった。
 牧田は気持ちを落ち着かせると、綾子にデコピンをした。
「ばーか!冗談に決まってるだろう。本気にするな」
 誰がお前なんかにキスするか、と心の中では言っている。
「え~、そうなのぉ?ガッカリ~。先生、もしかして臆病者?」
 綾子はそう言って、馬鹿にするような笑みを浮かべた。牧田は
また腹がたってきた。こいつは一体、何を考えているのだろう。
矢張り、深い関係になる事を期待しているのだろうか?そう思うと、
背筋が寒くなってくるのだった。
 もう、来ないで欲しい。
 牧田は切にそう願った。
 だが、その後も綾子は来続けた。はっきり断れない自分がもどかしい。
 ゴールデンウィーク中は、牧田はのんびりできた。綾子はスーパー
勤めだから、掻き入れ時のこの時期は休めない。こんな時まで
押しかけて来られたら溜まらないと思っていた。だが、連休が明け、
中間テストが終わった翌日の土曜日に綾子はまたやって来た。
牧田はガッカリした。
 どうしたら良いのだろう。本当ははっきりと言いたいのだが、
元生徒だけに冷たく突っぱねるのには抵抗がある。それができる
増山先生が羨ましい。普段から優柔不断の自分が嫌いだった。
 綾子はいつも通りにずかずかと上がってきてから言った。
「先生は、増山先生の結婚披露宴に行った?」
「えっ?」
 牧田は綾子の言葉に驚いた。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

Re: うーーーーーーーーん>OH林檎様 

OH林檎さん♪

> 先が読めないっっ!
スミマセン、変な章で……。
前半の、二人の続きが知りたいのに、
何で、訳の分からない人たちの話が
延々続いているのでしょうね(^_^;)
ちょっと、この人たちの話、長すぎですよね。
書いて久しいので、今更ながらに長過ぎたかもと
反省しております。<m(__)m>


> 早く、明日になれーーーい!!!
ご尤もな事で。
明日が、この章の最終回でございます。
はぁ、やっと、こいつらから解放されるのか。
明後日からは、時間軸が元に戻って、お話が
先へ進みますので、まだもう暫くのご辛抱を(^_^;)

だけど、私も桃ちゃんのお話を読むたびに、
同じように「早く、明日になれー!」と叫んでおりますのよ^^

うーーーーーーーーん 

先が読めないっっ!
早く、明日になれーーーい!!!
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。