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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 6.噂 03

2010.08.30  *Edit 

 朝霧高校は荒れていた。
 雅春と理子の噂は尾ひれを付けて拡大し、とうとうPTAの
会長が学校へと乗り込んできたのだった。子供達の噂話は自然と
家庭へと持ち込まれ、それを聞いた保護者達の間でまた噂が広まり、
とうとうPTA会長の所まで届いたのだった。
 これ程の大ごとになると思って無かった教職員達は震撼とした。
校長は困惑している。噂が広まりだした時、放っておけばそのうちに
沈静化すると思っていた。何と言っても、理子は既に卒業しているし、
二人は結婚している。女子に人気のある増山だが、やがて皆も
諦めるだろうと思っていた。
「一体、どういう事なんですか。担任の教師が受け持ちの女生徒と
在学中に恋愛関係になっていたなんて。話しを聞いた時には驚き
ましたよ。自分の耳を疑った。そんな教師がいる学校へ、我が子を
安心して通わせられますか?」
 詰問口調である。
「そうはおっしゃいますが、二人は既に結婚してますし・・・」
「結婚すれば全ては良しとされるんですかっ」
「そう言う訳ではありませんが・・・」
「じゃぁ、どういう訳なんです。聞く所によると、在学中から
肉体関係にあったとか。おまけに、東大へ合格させる為に
付きっきりで勉強してたって言うじゃないですか。公私混同も
いいところだ。そんな人間を採用した校長にも問題はあるんですよ。
そもそも、監督不行き届きでしょう。その先生に倣(なら)って、
他の教師も女生徒に手を出さないとは限らないじゃないですか」
 会長は、捲(まく)し立てるように一気にそう言った。校長は暫く
黙って、相手が落ち着くのを待った。興奮している状態では、
何を言っても通じない。会長の方は、一気に喋って息が上がったのか、
はぁはぁ言った後に、お茶を飲んで一息吐いた。その間合いを
見計らって、校長が静かに言った。
「それで、会長はどうしろとおっしゃりたいのでしょう」
「決まっているでしょう。そういう破廉恥な教師がいては、皆さん、
安心して我が子を学校へは通わせられない。だから、辞職か異動を
させて欲しいんですよ」
 校長は溜息を吐いた。
「会長。どうして噂話だけで、そんな重要な事を要望されるんで
しょう。辞職か異動なんて、彼のこれからの将来にとっても非常に
重要な事です。一人の人間の人生を狂わせかねないんですよ。
そういう事を、そんなに簡単におっしゃらないで下さい」
「それは、身から出た錆と言うものでしょう。私達にしてみれば、
そんな教師の将来よりも、自分達の子供の将来の方がずっと
大事なんですよ。何故校長が、そんな破廉恥な教師を庇うのかが
理解できない」
 会長は憤然とそう言った。
「私が言いたいのはですね。何故、噂話だけで決め付けるのか、
と言うことです。会長は、噂話しか御存じないでしょう。増山先生の
事を何ひとつ御存じない。噂話を鵜呑みになさるんですか。
会長ともあろうお方が」
 校長の言葉に、会長は憮然とした。
「ですが校長。そうおっしゃるなら、どうしてこんなに大ごとに
なってるんでしょうか。子供達の間でも、保護者の間でも、
この噂で持ちきりだ。特に子供達は、この噂の為に、授業にも
差障りが出ているそうじゃないですか。増山先生の授業をまともに
受けない生徒が多いと聞いてますよ。受験の為の補習クラスでも、
同じような現象が出ているとか。この事に関して、
どう対処されるんです?」
 その事に関しては、校長もどう対処すべきか悩んでいる
ところだった。女子は彼を不潔だと言って嫌悪の表情を浮かべ、
男子は性的な事を想像しては喜んでいる節がある。中学生ならまだしも、
高校生にもなってのこの反応には、校長も頭が痛くなってくる。
思っていたよりも彼らは幼稚だ。
「子供達への対処は、今考えている所です。正直な所、私も生徒達の
この反応には驚いているんですよ」
「校長。それは可笑しい。子供達の反応の方が正しい。当たり前だ。
教師と生徒が恋愛した上、結婚なんて、ショックを受けるに
決まってるじゃないですか」
「昔の事だったら、わかります。ですが今は、高校生同士でも
出来ちゃった婚がある時代ですよ。うちの生徒達だって、男女交際は
盛んです。性教育の方にも力を入れて、未婚のうちの妊娠やエイズや
性病の予防を阻止するように、学校でも努力しています。それが
現実なんですよ。それなのに、真剣に愛し合って結婚した二人に
対する不純とも思える噂には、私は辟易としているんです」
 校長は毅然とした態度でそう言った。本当に、生徒達の噂話には
辟易としていた。噂に尾ひれが付くのは常套だが、それにしても、
まるで見て来たような話しぶりであり、内容がえげつない。10代の
少年少女とは思えない。そうやって考えると、最近の苛めが
陰湿なのも解る気がした。
 校長の毅然とした態度と強い口調に、会長は少し怯んだ。
「ですが校長。在学中に恋愛をしていた事は事実なんでしょう。
その事に関してはどうなんです」
「在学中に恋愛していた事は事実です。ですが、恋愛は自由ですから。
人の心は、誰人にも束縛する事も強要する事もできません。二人が
それぞれの立場を弁えないような付き合い方をしていたのなら、
それは問題です。けれど二人は、ちゃんと互いの分を弁えて
付き合っていました。噂を鵜呑みにしないで頂きたい」
「校長の口ぶりだと、まるで二人の交際を承知していたような
言いぶりですね」
 その指摘に校長は笑った。
「とんでもない。私は、卒業式の後に増山先生に報告されるまで、
全く知りませんでした。他の先生方も同じですし、生徒達も同じです。
誰一人として、二人が付き合っている事を知らなかったんですよ」
「なんですって?じゃぁ、やっぱり、校長の監督不行き届き
じゃないですか」
 会長は目を剥いてそう言った。
「会長。噂の内容を思い出して下さい。どれも、まるで見て来た
ような言い方だし、内容だ。誰一人として、二人の仲を知らな
かったのに、何故です?そこからして、噂の内容が出鱈目である事が
わかるじゃないですか」
 校長の言葉に、会長は黙った。
「二人の事は、誰も知らなかったし、また思いも寄らない事
だったんです。だから、その分、衝撃も大きかったんだろうと思います。
増山先生が、彼女に付きっきりで勉強を教えたと言う話しですが、
そういう事実は一切ありません。増山先生は、補習クラスの担当として、
忙しい日々を送っていました。とても熱心に生徒達の希望を叶えるべく
頑張ってました。一人の為だけに時間を割くなんて事は不可能な状態
でしたから。それに、実際、今年の進学率と進学先を見ればおかわりに
なるでしょう。あれはみんな、増山先生の功績です」
「確かに、優秀な先生である事はわかります。ですが、矢張り
このような噂が起つには、それだけの理由と言うか、原因が
増山先生にもあるからじゃないんですか。火の無い所に煙は起たない
とも言いますしね」
「人の噂も七十五日とも言いますよ。所詮、噂なんていい加減な
ものです。私が残念に思うのは、子供達の噂を鵜呑みにして、
大騒ぎされている保護者の皆さんの態度ですよ。そんな噂をしている
暇があるなら、勉強に力を入れるように我が子をいなして欲しい
ものです。増山先生の元で勉強すれば、志望校への合格率はグッと
上がる。あの先生は、東大の在学中、敏腕家庭教師として有名だった
人なんですよ。彼が受け持った生徒は、みんな志望大学へ合格できる。
まさに合格率100%の先生で、有名進学塾から引く手あまただった
のを、うちの学校にお願いして来て貰ったんです。そして、彼は期待
通りの成果を上げてくれました。女生徒と恋愛し、結婚という事に
なりましたが、彼自身はとても真面目な青年です。真面目だから
結婚したんです。だから私は増山先生を信用しています。それに
相手の女生徒も、頑張って東大へ入ったんですよ。東大ですよ?
この高校の生徒が。普通なら考えられませんよ。しかも彼女は、
元から特別優秀だったわけじゃない。上位の生徒ではありましたが、
トップクラスだったわけではありません。わが校でトップクラスで
あったって、東大なんて簡単には無理です。そんな生徒が東大に
合格したんです。増山先生のサポートのお陰もありましたが、
本人の努力は並大抵のものじゃない。教師との恋愛に現(うつつ)を
抜かしていては、合格なんてできっこありません。それからしても、
二人の交際が、噂のようなものでなかった事が推し量れるじゃ
ありませんか。保護者の皆さんも、本当にお子さんの将来を
思われるのでしたら、噂に興じてるお子さんを諭して、勉強に
身を入れるよう協力して欲しいものです」
 校長の言葉に、会長は口を噤(つぐ)んだ。暫くの間、黙って
お茶を啜(すす)っていた。校長の言葉に、色々と考える所が
あったのだろう。
「校長のおっしゃる事はわかりました。ただ、生徒達のこの状況を、
どう収めるおつもりですか」
「それについては、先ほども申しました通り、今考えている所です。
どうしたら、生徒達は納得するのか、他の職員達とも協議する
つもりです。ですから、保護者の方々には、お子さんと一緒に
なって騒がないよう、会長の方からおっしゃって頂けないですか。
騒いだ所で、事態は大ごとになるだけで良い事は一つも無いですから」
 校長の言葉に、会長は頷いた。
「確かに、その通りです。大騒ぎになって、外部にまで伝わったら、
学校の評判を落とすことにもなりかねない。そうなったら、結局は
生徒達が損をする。わかりました。PTAの方は、私が押さえましょう」
 会長は、そう言って校長室を後にした。
 校長は取りあえず、ホッとした。だが、考えれば考える程、
頭が痛い。一体、何故こんな事になったのか。相手が理子だと知れた時、
生徒達はショックを受けるであろう事は予想していた。彼が結婚したと
言うだけで、女生徒達は大騒ぎだったのだから、当然だろう。だが、
卑劣とも言える内容の噂が広まるとは、全くの予想外だった。
悪意を持った中傷としか思えない。
 一番胸を痛めているのは、直接生徒達から批難の嵐を浴びている
増山先生だろう。在学中の女生徒と、恋愛関係を結んでしまったのは
確かにまずかっただろう。だが二人は、誰にも知られないように
交際していた。卒業後すぐに結婚せずに、数年経ってからであったなら、
こんな問題も起こらなかったに違いない。
 そうは言っても、男女の間にも時と言うものがある。本人達だって、
互いの立場のせいで、随分と悩んだのだ。そこには、他人には
推し量る事ができない、色んな思いがあったに違いない。
 そんな思いを知る事も、思いやる事もできない人間達が、
善良な二人を追い詰めようとしている。そう思うと、
胸が軋んで来るのだった。
 この事態をどう収拾するか。頭を悩ませる校長だった。


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~ Comment ~

Re: やはりモデルが>misia2009様 

misia2009さん♪

ステキな校長先生でした。
在学中に色々とお世話になり、包容力のある優しい方でした。
人間って本当に色々です。
私の小説に出て来る登場人物達の多くは現実の人をモデルに
して描いてます。
こんな人、いるんだ~って思うような個性的な方々ばかりで。
人との出会いって大切ですね。
色んな出会いや色んな出来事が、全て現在の糧になっている、と
この年になって、つくづく思います。
若い時には、なかなか気づけないのですが。

生徒達は、ね。仕方ないですねぇ。良くも悪くもショッキングな
ニュースだし。噂話が好きなのは高校生だけに限った事でもないし。^^

やはりモデルが 

ほぼ100%理想の教師像に近いものの、おっしゃることに現実味があって、第一部のころから不思議な存在感を放っていらした校長先生。
出会いがnarinariさんの財産になっているのですね。

生徒は……新学期始まったばかりですからね……受験が視野に入ってると目つきも変わるんでしょうが。

Re: ほんとうに>OH林檎様 

OH林檎さん♪

> 人格者ですねぇ、校長先生は。
> こんな上司の下だったら、
> 身を粉にして働きたいと思うだろうなぁ。
全くです。
やっぱり、人と人の関係ですよね。
この人の為なら、と思わせてくれる人のもとで
働きたいものです。
この校長先生は、実は私の高校時代の校長が
モデルになっています。
本当に、人格者の素晴らしい校長でした。
もろ管理職って校長が多い中で、良い校長や副校長も
いるにはいるんですよね。


> 早く平和が訪れることを祈ってます。
そうですね。
普段クールな先生ですが、今回はちょっとヘタれます。
そのせいで……。
あとは、ヒ・ミ・ツ^^

ほんとうに 

人格者ですねぇ、校長先生は。
こんな上司の下だったら、
身を粉にして働きたいと思うだろうなぁ。
早く平和が訪れることを祈ってます。
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