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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 6.噂 01

2010.08.28  *Edit 

 中間テストが終わってから、周囲が徐々に騒がしくなりつつ
あるのを感じた。女生徒達の態度が日々硬化しつつあるように感じる。
男子生徒達はそんな女子達を遠巻きに眺めている様子で、雅春に
対してもどこか距離を置いているように思える。
 朝教室へ行くと、ヒソヒソと生徒達が囁き合っているのに遭遇する。
不穏な印象だ。ニヤついている男子もいる。授業中も同じだった。
最初は少数の生徒だったが、日が経つにつれ徐々に増えて来ている。
雅春はそんな生徒達の態度を不審に思った。
 だがやがて、その理由がわかった。教えてくれたのは諸星だった。
「増山先生。最近、生徒達の様子がおかしいのに気付いてるか?」
 昼食中に、諸星が声を掛けて来た。
「はい。何だか日増しに酷くなってきてるように思うんですが」
「どうやらな。君の相手が理子だと知れたらしい。
それで良く無い噂が広まってる」
 雅春の結婚相手が理子であると知れるのに、そう時間はかかるまい
とは思っていた。特に、結婚式の二次会に部活繋がりで一部の生徒を
呼んだので、覚悟はしていたが、良く無い噂とはどういう事なのか。
「噂は色々だ。他の女子とは毛色の違う理子に興味を持った君が、
無理やり校内で彼女を手籠めにしたとか、東大を受験する事を
武器にした理子の策略に君がはまったとか、君が彼女にだけ特別に
勉強の世話をしたから東大に合格できたんだとか、放課後の誰も
いない教室で頻繁に逢引をしていたとか、とにかくどれも悪意的だ」
 それを聞いた雅春は、大きく溜息を吐いた。そんな風に生徒達が
噂している事に驚いたし、失望感も否めない。雅春は、相手が理子と
知れたら驚かれるだろうとは思っていた。だが、結婚を知った時と
同様、生徒達の方から訊ねて来ると思っていた。雅春に真実を
問いたださないで、勝手な噂を広めるとは思っていなかった。
「どうするよ」
 諸星を見ると、心配そうな顔をしている。
「暫くは、このまま様子を見ます」
 どうすると問われても、今のところ雅春にはどうしようも無い。
正直な所、どうしたら良いのかわからなかった。このまま放っておいて、
事態は沈静化するのか、それとも更に大きくなるのか。
 暫くして、思わぬ訪問者がやってきた。
 半田沙耶華だ。雅春が新任で赴任してきて受け持った生徒で、
在学中は積極的にアプローチをしてきていた。
「先生。聞きましたよ、結婚したって。しかもその相手が、
吉住理子だって」
 沙耶華は目の縁を赤くして、怒った形相でそう言った。
「そうか」
 雅春は素っ気なく言った。
「どういう事なんですか?あたし達には散々冷たくしておいて。
先生言ったじゃないですか。『生徒と恋愛するつもりはない』って。
なのに、なんで理子と?信じられないし、許せない」
 激しい口調で沙耶華は言った。その剣幕に、周囲の教師達は驚き、
様子を窺っていた。その時に職員室にいた生徒達も、みんなが
二人に注目した。
「別に、お前に許して貰わなきゃならない理由は無い」
「なんですって?みんな、先生が好きだったのよ?相手にして
貰えないってわかってても、それでも好きだったのに。なのに先生は
そんなみんなの気持ちを無視して、こそこそ理子なんかと
付き合ってたなんて。生徒と恋愛するつもりは無いと言いながら、
しっかり恋愛してたんじゃない。嘘つき!」
 沙耶華は恐ろしい形相で泣きながらそう言った。そんな沙耶華を見て、
雅春の心は揺れた。どうして、そこまで言われなければならないのだろう。
どうしてそんなに怒るのだろう。雅春には理解できない。
「お前に言った事は本当だ。あの時は本当にそう思っていた。
俺だって最初から生徒と恋愛するつもりなんて、毛頭無かったさ。
自分の気持ちに気付いてからも、相当躊躇った。俺は教師だからな。
でも結局、駄目だった。自分の気持ちに抗(あらが)う事は出来なかった」
 雅春の言葉を聞きながら、沙耶華はボロボロと涙を零(こぼ)していた。
「あたし達は。先生が結婚したって聞いてショックだった。でも、
それはそれで仕方のない事だって思った。だけど、相手が理子だと聞いて、
酷いって思った。元ファンクラブの子たちは、みんな許せないって
言ってる。理子なんて、全く先生には興味無いって顔して、男子達から
ちやほやされてた癖に、陰で先生と付き合ってたんだから、尚さら
許せない!二人してあたし達を欺(あざむ)いてたんだもの」
「増山先生、応接室の方へ行かれたら・・・?」
 と、横から柳沢が言った。周囲の注目を集めている事を気にしてだ。
「いえ。いいです。ここで」
 雅春はそう言った。他人に聞かれてまずい話しだと思っていない。
逆に、聞いていて欲しいくらいだった。
「そうまで言うなら、俺も言わせてもらう」
 雅春は真っすぐ沙耶華を見据えた。その視線に、沙耶華はたじろぐ。
「俺達がお前達に隠さずに、堂々と付き合っていたなら良かったのか?
そうしたら応援でもしてくれたのか?」
「そ、そんな。応援なんかするわけないでしょ」
「そうだろうな。ファンクラブとか言ったって、その中で誰かが
抜きんじたら、リンチでもし兼ねないような関係だったもんな。
お前達が許せないのは、お前達を欺いていたからじゃなくて、
自分達の同級生だからだろ。相手が理子じゃなくて、ファンクラブの
中の誰かだったとしても、お前らは同じように許せないんだろが」
 雅春の言葉に、沙耶華は悔しそうな顔をして睨んだ。
「そうよ。先生の言う通りよ。そんなの、当たり前じゃない。
先生は教師だし大人だから、あたし達を相手にしないのも、
悔しいけど納得できた。だから、その相手があたし達と同じ
女子高生だったなんて、許せないのよ。生徒と恋愛する気は
ないって言ったから諦める事もできたのに、こんなんじゃ
納得できるわけないじゃない」
「お前らは、根本から間違ってるな。俺は俺のものであって、
誰のものでも無い。悪いが、みんなのものでも無いんだ。俺が
誰を好きになって恋愛しようが結婚しようが、誰かに断ったり
納得してもらったりしなきゃならない理由なんて無い。許せないと
思うのは勝手だが、それで責められる謂われは無いんだ」
 雅春は冷たい目で、きっぱりと言った。
「じゃぁ、あたし達の気持ちは、どうでもいいって事なんですか」
「何で俺が、お前らの気持ちを考えなきゃならないんだ?お前は、
自分が恋愛する時に、自分に想いを寄せてくれている男達の事を
考えて躊躇するのか?お前には沢山の男のファンがいるのは知ってるぞ」
 雅春の言葉に、沙耶華は窮した。返す言葉がない。沙耶華自身も、
自分に近づいてくる男達に対し、興味の無い者に対しては冷たく
あしらっている。
「だ、だけど、なんで理子なの?どうして?」
 沙耶華は切なげな顔をした。それを見て、雅春は優しく微笑んだ。
「人を好きになるのに、理由なんて無い。気付いたら、いつの間にか
好きになっていた。否定しても否定しても、駄目だった。それだけだ」
「先生、優しい目をしてる。そんな先生の顔を見るの、初めて。
いつも、冷たい、氷のような目で見られてたのに」
「俺も、人を好きになってから変わったんだよ。お前らは、俺が
教師になって最初に受け持った生徒達だから、他の生徒達よりも
思い入れがある。俺は元々女嫌いだから、女子達には冷たく
当たってたが、受け持ちの生徒としての愛情はあったんだぞ」
 雅春の言葉に、沙耶華は僅かに頬を染めた。
「先生。あたし、やっぱり先生は冷たくて良かったんだって、
今思う。だって、先生に優しくされたらグラってきちゃう。
その気が無いのに優しくされたら、きっと辛くなるばかり
だったと思うから」
 雅春は笑った。
「そうだろう?俺は最初からそうとわかってたからな。だから、
冷たくしてたんだ。俺はもう、ずっと昔からそうやって、
自分と周囲をガードしてきた。相手の事を思うなら、
余計な情けは無用なんだよ」
「そうですね。でも、あたし達は随分と傷ついたけど」
「お前、随分泣いたな。俺ははっきり言って驚いた。どうして
教師相手に、そこまで思えるのか。なんでもっと現実の、
身近な相手を選ばないのか。不毛だとは思わないのか?」
「じゃぁ、理子はどうなんですか?理子だって同じでしょ」
 沙耶華は少し強い口調で言った。
「あいつは、違うよ。お前らみたいに、自分の気持ちを前面に出して
俺を求めては来なかった。逆にあいつは、俺を避けて目の前の相手を
選ぼうとしていた。俺を好きになったって、所詮は教師。非現実的、
辛くなるだけと思ってた。それでも自分の気持ちに抗えなくて、
片思いであっても自分の気持ちを大事にしようとしてたんだ」
「それは、性格の問題じゃないんですか?理子は積極的にア
プローチするタイプじゃなかっただけなんでしょう?」
「そうだな。だが俺は、積極的にアプローチしてくるタイプは
好きじゃないんだ」
 沙耶華はその言葉に打ちのめされるような思いがした。
「でも、アプローチしなかったら、気付いて貰えないじゃないですか」
「それはそうだ。でも俺は駄目なんだからしょうがない。
なるようにしてなった結果なんだよ、これは」
 物凄い剣幕でやってきた沙耶華だったが、すっかり大人しく
なっていた。まるで毒気が抜けたようだ。事が沈静化したと
見てとった周囲は、それぞれの場所へと戻って行った。
「半田。お前の家庭の事は、俺も知ってる。担任だったからな。
親に恵まれなかったと思うしかない。親には親の事情がある。
いつまでも親への思いに縛られずに、自分を大事にするんだ。
幸せを掴むのは自分なんだぞ。人から与えられるものじゃない。
自分で掴むものなんだ」
「先生・・・」
 沙耶華は寂しそうな目をして雅春を見た。
 沙耶華も理子と同じだ。子供が自然に求める親の愛を十分に
受ける事ができずに育った子供だ。理子の場合は過干渉だが、
沙耶華の場合は放任だ。親は自分達の仕事に精一杯で、子供の事は
放ったらかしだった。そして、互いに仕事が第一の為に夫婦仲も
あまり良く無い。だから沙耶華は寂しくて、親から得られぬ愛情を
他人に求めてしまう。
「先生って、本当は優しい人だったんですね」
「そうなんだ。だが、好きになられると困るから優しくできないんだよ」
 雅春の言葉に、沙耶華はプッと噴き出した。
「あ~、理子がほんっとに羨ましい。憎ったらしいくらいだわ。
じゃぁ、先生、お幸せに!」
 沙耶華はそう言って、去って行った。
 雅春はその後姿を見送りながら、ホッとした。

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