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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 5.それぞれの想い 09

2010.08.26  *Edit 

「一昨日、お誕生日だったのよね。二日遅れだけど、おめでとう」
 理子は、胸が熱くなった。そして、涙が込み上げて来た。
こんな風に、家族揃って祝って貰うのは初めてだったからだ。
 理子の瞳から零れ落ちる涙を見て、三人は驚いた。
「理子、どうしたの?」
 紫が言った。その言葉に雅春も驚き理子を見た。理子は思いきり
泣いていた。嬉し涙とは思えない程に。
「ご、ごめんなさい。でも、・・・嬉しくて。・・・こんな風に
家族に誕生日を祝って貰った事が無いんです。だから・・・」
 雅春の家族は理子の言葉に驚いた。増山家では、家族の誕生日に
誕生祝いをするのは当たり前だったからだ。毎年、必ず四人の
誕生会をやる。この世に生れて来た事を祝い、その年まで元気に
過ごせた事を感謝する。そして、互いの健康と幸福を願う。
 今年は家族が増えた。理子を家族として迎え入れた最初の行事だ。
理子もきっと喜んでくれるに違いない。三人はそう思っていた。
親の誕生日はともかく、子供の誕生日を祝わない家庭があるとは
思ってもいなかった。経済的事情があっても、一般的な家庭なら
ささやかではあっても祝うものではないのか。
「理子ちゃん・・・」
 博子は理子を抱きしめた。息子から理子の家庭の事を聞いては
いたが、なんて不憫な子なのだろう。人には人の事情がある。
価値観も違う。だが、理子が寂しい思いを抱えて育ってきた事を
痛切に感じるのだった。
 息子が、早く彼女をあの家から解放したいと言っていた言葉を、
今改めて納得した。思いやりのある、優しい娘だ。こんなにもいい子を、
どうして悲しい目に遭わせるのだろう。
「理子ちゃん。喜んで貰えて嬉しいわ。これからは毎年、うちで
お誕生日のお祝いをしましょう?我が家はね。家族の誕生日は
必ずお祝いをする家なの。だから、家族の一員になった理子ちゃんの
誕生祝いをするのは当たり前なのよ」
「お義母さん・・・、ありがとう」
 理子は博子に抱きしめられて、その胸の中で暫く泣いたのだった。

 楽しい食事が終わった後、理子は紫に化粧の仕方を教わっていた。
年ごろの娘二人が、鏡の前で楽しそうにしていた。
 その間、雅春は両親と今日の吉住家での出来事を話していた。
「まさか、結婚を餌に理子の体を奪ったと言われるとは
思ってもみなかったよ」
 雅人も博子も、雅春の話しに驚いていた。披露宴が終わった後、
理子の両親とはにこやかに団欒した。再現ドラマの事に関しても、
申し訳無いと頭を下げたら、済んだ事だからと機嫌良く答えてくれた。
勿論、祝いの席だったから、と言えるかもしれないが、
それにしても今更である。
 二人は息子がどれだけ彼女を深く愛し、大切に思っているかを
よく知っている。教師と教え子と言う立場の問題はあるが、互いの
想いこそが一番大切だろう。確かに少し早すぎたと言えるが、
それも真剣だったからこそだ。それに今は結婚して幸せの中にいる。
それなのに、わざわざ過ぎた事を持ち出して不愉快な思いをさせるとは。
 突然の、若すぎる娘の結婚に未だ納得しきれないでいるのは
理解できないでもない。だからこそ、息子は誠意と真心を示している。
その思いやりを何故汲んではくれないのか。雅人と博子はそう思った。
 それに、今日は母の日だ。二人はそれを祝う為にわざわざ出向いた。
祝いに来た者に鞭打つような仕打ちをするとは。
「でも理子が俺を庇ってくれた」
「理子ちゃんが?」
「先生の誠意を踏みにじるような事をいったりしたりするなら、
もうここへは来ないってね。嬉しかった」
「そう。それだけあなたが大事だって事よ」
「理子はさ。卒業後に学校へ来た時に、校長に俺の事を宜しく
頼むって言ったんだ。自分と結婚したせいで周囲の風当たりが
強くなるだろうからって。校長も驚いてたよ。俺もそれを
聞いて感激したんだ」
「そうだったの。理子ちゃんは本当に優しい子ね。きっとね。
あの子にとっては、マーが全てなのよ。親御さんに深い愛情を
示して貰えなかったから、余計にマーの存在は大きい筈よ。
こちらが愛する以上の深い想いをあの子は返して来るのね、きっと」
 母の言葉が胸に沁みる。本当にその通りだと思う。
「あなたはしっかり、彼女を支えてあげないとね。寂しい思いを
させちゃ駄目よ」
「うん。わかってる」
 合格発表の日に、初めて理子の苦悩を目の当たりにしたが、
あれは序の口に過ぎなかったのだと雅春は思った。今日のような
言葉の暴力に、理子はずっと晒されて耐え続けてきたのだろう。
そして、足音を忍ばせていきなり部屋へやってくる無言の重圧。
 マンションまでやってきて結婚を許してくれたから、親子の
関係も和解し、互いに少しは解り合えたのだと思っていたのだが、
それは甘い考えだったようだ。これからも、こうして事あるごとに
何か言われ続けていかなければならないのだろうか。
そう考えると気が重くなってくる。
「雅春。どこまでも誠意を尽くす事だ。もしかしたら、一生
通じないかもしれない。だが、それしかないだろう?大事な
彼女の親御さんなんだから」
「父さん・・・」
 父の言葉に雅春は頷いた。父の言う通りだ。自分にできる事は
それしかない。自分のできる事をするしかないのだ。
「ありがとう。本当に、父さんと母さんには感謝してる。今日も、
まさか誕生祝いの支度をしてるとは思って無かった。俺も嬉しかった」
「私達にとっては、当たり前の事よ。理子ちゃんはうちの子に
なったんだから。まさか、あんなに感激されるとは思って
ませんでしたけどね」
 博子はそう言って笑った。
「今日もさ。妹の優子ちゃんが誕生祝いをくれただけさ。
小言はくれても、祝いの言葉すら無かった。でもまさか、
それがいつもの事だったとはな」
 雅春は憮然として言った。
「しょうがないでしょ。各家庭の事情や考え方があるんだから。
きっと、お母さん自身も、祝ってくれる家庭じゃなかったのかも
しれないわよ。それが当たり前だと思っていれば、子供が寂しいと
訴えても解らないんじゃないかしら」
「そうか。確かにそうかもしれない。あの人は愛情の示し方が
わからないんじゃないかなって、前から思ってたんだ。本人はあれで、
自分なりの愛情表現をしてるんだと思う。理子はお母さんに
抱きしめて貰った記憶が無いって言ってた。なんだか、寂しいな」
 雅春の言葉を聞いて、両親も胸が締め付けられる思いがした。
愛情はあるのに、相手に通じるように示せない母親と、受け取れずに
寂しい思いをしている娘。この先もずっと、平行線のまま
交わる事は無いのだろうか。
「私が抱きしめたら、理子ちゃんは思いきりしがみついてきたわ。
本当のお母さんだったら良かったのにね」
「母さん。確かにそうかもしれないけど、理子は凄く喜んでるから。
母さんの気持ち、理子にはちゃんと伝わってるから」
「わかってるわ。私はあの子が好きよ。最初、あなたのお母さんって
事で緊張してたけど、あなたのお母さんではなくて、私自身に好意を
持ってくれたのがすぐにわかったの。嬉しかったわ。私もあの子に
好意を持ったから。私達、あなたがいなかったら仲良しの友達に
なっていたと思うわ。だから余計に、あの子には幸せになって
欲しいって思うのよ。だからマー。泣かせたら駄目よ。
母さんが承知しないわよ」
 雅春は母の言葉に、深く感謝した。そして、深く尊敬するのだった。


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