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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 5.それぞれの想い 08

2010.08.25  *Edit 

「ごめん。優ちゃんの言う通りよ。折角ここから解放されたのに、
毎週ここへ来なきゃならないなんて。今からとっても気が重いし、
先生にも申し訳無く思う」
 理子はそう言って、悲しそうな顔をして雅春を見た。
「理子。そんなに気に病むな。さすがの俺も、結婚を餌にしたと
言われた事にはショックを受けたが、でもまぁ、しょうがない。
教師としての分別が足りなかった俺が悪いんだから。済んだ事を
いつまでも言われるのは嫌だが、俺が謝る事で収まるなら、
幾らでも謝るよ。姉貴が言った通り身から出た錆だからな」
 雅春はそう言って笑った。
 雅春はそう言うが、理子はやるせない。毎週ここへ呼びつける癖に、
どうして気まずくなるような事を言うのだろう。これでは先生が
可哀そうだ。先生に嫌な思いをさせたくない。悲しい気持ちに
なってくるのだった。
 自分の価値観を他人にも押し付けて、それと違うと激しく非難する。
赤の他人には、そんな事はしない。本当なら、家族や身内こそ、
最も大事にするべき存在なのではないのか。
「理子。本当に心配するな。君は君のすべき事をすればいい。
こうして結婚できた事を感謝しよう。一番望む事をさせてくれたんだから、
小言の一つや二つ、どうって事はない」
「一つや二つで済むならいいんですけど。この先、どれだけ
傷つけられるか、知りませんよ?」
「はははっ、大丈夫だよ。俺は君と違って大人だから」
「もう。すぐ子供扱いするんだから。後が怖いですよ」
 理子の言葉に雅春はエクボを浮かべて笑った。それを見て
理子の胸はキュンとなる。
「お姉ちゃん・・・」
 優子が話しかけて来た。
「ああ、ごめんね」
「ううん。実はこれを渡そうと思って・・・」
 優子がリボンの付いた紙袋を差し出した。
「これって・・・」
「二日遅れだけど、誕生日のプレゼント。東大の合格と結婚の
お祝いも兼ねて」
 理子はその言葉に驚いて優子を見た。優子は照れくさそうに
笑っている。
「あ、ありがとう。開けてみてもいい?」
「うん、勿論」
 理子は袋を開けて中身を取り出した。中に入っていたのは、
ソフトレザーで出来た小ぶりのポーチだった。薄緑色で、理子の
好きな薔薇の花の模様が彫りこんである。
「おばあちゃんに頼んで、一緒に作って貰ったの」
「えっ?おばあちゃんと?」
 理子と優子の祖母はクラフト作家だ。20年前に趣味で始めた
クラフト細工だったが、元々手先が器用でセンスがある為、
あっと言う間に上達し、個展を開催したら顧客が付くようになり、
今では頼まれて教室も開いている。
 理子と優子は長期の休みに祖父母の家へ遊びに行くたびに、
祖母からクラフト細工を習って、毎年小物を作って来た。
「高校を卒業して、そろそろお化粧とかもするようになるんでしょ?
だからお化粧道具を入れるポーチはどうかと思って、おばあちゃんに
手伝って貰ったんだ」
「優ちゃん、ありがとう!」
 理子は感激した。不器用な妹が自分の為に一生懸命作ってくれたのか
と思うと、本当に嬉しく思うのだった。
「一昨日ね。先生から誕生日のプレゼントに口紅を貰ったの。だから、
ちょうど良かった。早速、使わせてもらうね」
 理子は頬を染めて、そう言った。
「理子、良かったな」
 雅春も感激している。じゃが芋の皮を剥くのですら苦労しているのに、
よくこれだけの物を作ったと、感心した。
 二人はそれから優子の勉強の具合と今後の事を決めた後、吉住家を
後にして増山家へと向かった。途中で花屋により、今度は理子の
選んだ花で花束を作って貰った。増山の母はフラワーアレンジメントの
先生でもあるので、選ぶのに緊張した。
「先生のお宅へ伺うのは、先生の引っ越しの時以来ですね」
 理子が運転しながら助手席の雅春に向かって言った。
「そうだな。まぁ、色々と忙しかったんだからしょうがない。今日は
訪ねて来てくれると聞いて、凄く喜んでる」
 雅春の言葉に理子の胸は温かくなる。実際、増山家へ到着すると、
家族揃って玄関まで出迎えてくれた。それも皆、とても嬉しそうな表情だ。
「いらっしゃい。よく来てくれたわね」
 理子はそう言う義母に、持参した花束を差し出した。
「お義母さん、母の日のプレゼントです。いつも本当にお世話になって、
ありがとうござます。これからも、よろしくお願いします」
「あらまぁ。なんて綺麗なのかしら」
 曇りの全くない、明るい表情で、とても喜んでくれているのが
よくわかって、理子は嬉しかった。
 博子は大きめのガラスの花瓶に、理子から貰った花をザックリと
入れた。花束の雰囲気を壊さないように、殆ど手を加えなかった。
「理子ちゃんが選んでくれたんでしょ?」
「はい」
「とても素敵よ。あなたの大らかで明るくて優しい性格がよく
現れてるわ」
 博子にそう言われて、理子は頬を染めた。
「理子は、凄く気を使って選んでたよ。母さんの職業を考えて、
緊張してた。そんなの気にする人じゃないって言ったんだけどね」
 雅春が言った。息子の言葉に母は笑った。
「そうね。だけど、理子ちゃんの真心はちゃんと伝わってきてるわ。
だから、とても嬉しいの。本当に、ありがとう」
「いえ。あの、それと、これを・・・・」
 理子は頬を染めながら、鞄の中からひとつの小さな包みを出した。
「初めてお会いした時から、ずっと良くして頂いてとても感謝してます。
言葉では言い現せない程です」
 博子は理子から包みを手渡されて驚いた。
「開けてみても、いいかしら?」
「はい。是非、ご覧になって下さい」
 理子にそう言われて、博子は包みを開け出した。他の家族も
その手元に注目した。包みが解けると、中から細長い箱が出て来た。
中を開けるとそこには帯締めが入っていた。薄い綺麗な水色の
組紐で出来ていた。
「私が作ったんです。どうでしょうか?」
 理子の言葉に、一同は驚いた。
「まぁ。あなたがわざわざ・・・。何かと忙しかったでしょうに、
こんな立派な物を・・・。ありがとう。凄く嬉しいわ。こんな、
嬉しい事って無いわ」
「気に入って貰えたんでしょうか?」
 まだ不安げにしている理子に、博子は満面の笑みで「勿論よ」と言った。
 雅春も驚いていた。一体、いつ作っていたのだろう?合格発表の日から、
怒涛のような日々だった。一緒に住み始めてからも、理子は忙しい
日々だった筈だ。理子が作った帯締めを見ると、かなり細かい
組紐だ。手が込んでいる。受験の時の雅春への編み物と言い、
理子には本当に感心する。
「理子、凄い器用なのね。マーの手袋、見たわよ。私には
出来ない芸当だわ」
 と、紫が言った。理子は恥ずかしげに頬を染めている。
その姿が可愛らしい。
「そろそろ食堂へ行かないか」
 父の雅人がそう言った。その言葉に、博子と紫はハッとしたような
顔をして、雅春と理子を促した。
「まだちょっと早いけど、お夕飯にしない?」
 博子の言葉に、雅春と理子は顔を見合わせた。確かにまだ早い。
4時である。驚いて何となく躊躇している二人を押しやるように、
家族は二人を食堂へと誘(いざな)った。
 そして、食堂へ入って理子は驚いた。
 食卓の上は所狭しと御馳走で一杯だった。中央には大きな
デコレーションケーキが乗っている。そしてそのケーキの上には、
“誕生日おめでとう”と書かれたチョコレートのプレートが乗っていた。
 理子は茫然とした。信じられない思いだ。思わず隣の雅春を見上げた。
雅春も知らなかったようで驚いている。だが、理子の驚いた視線を
浴びると、優しく微笑んだ。
「お誕生日、おめでとう!」
 両親と義姉の3人はそう言って、クラッカーを鳴らした。


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