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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 5.それぞれの想い 07

2010.08.24  *Edit 

 雅春と理子は吉住家に来ていた。母の日だからだ。結婚式後の
挨拶も兼ねている。来る事は前日に電話で知らせてあった。
素っ気ない対応だった。何も気にしていないとも思えるし、気に
しているとも受け取れるので、二人は落ち着かない気持ちで訪問した。
 母は玄関まで出迎にきた。にこやかだ。もう済んだ事と
割り切ってくれたのか。
 雅春から手渡された豪華な花束に、とても喜んだ。
「こんな立派な花束を貰ったのは生まれて初めて。しかも、
イケメンの男性から貰って、凄く嬉しいわ~」
 と、本当に嬉しそうな顔をして言った。
 居間へ行くと、妹の優子がいた。
「先生、お姉ちゃん、いらっしゃーい」
 こちらも嬉しそうな顔をしている。結婚式からまだ6日しか
経っていないのだが、久しぶりな気がした。式の前に来た時よりも、
更に自分の家では無い感覚が強くなっている。
日曜なので父は仕事でいない。
「ところで今日は、理子が運転してきたの?」
「うん。免許取れたからね。先生が一緒だと安心なんだけど、
一人だとどうかなぁ」
「免許取れたなら、大丈夫でしょう?ちゃんと卒業できたって事は、
一人で運転できるからでしょうに」
「それはそうなんだけど・・・」
 母は運転免許を持っていないから、車種や大きさの違いによる
運転の難儀さを推し量る事ができない。仕方が無いと言えばそうだが、
単純なので困る。理子だって、この家のセダンだったら苦労せずに
すぐに一人で運転できるだろう。
「先生、それで理子の家庭教師の件なんですけど、お願いして
構わないんですよね?」
 と、母が雅春に念を押すように言った。
「ええ、勿論です」
 雅春はにこやかに答える。
「車の運転の方はどうでしょう?大丈夫そうですか?」
「それも大丈夫ですよ。本人は自信なさそうな顔をしてますが、
僕が見る限り、この4,5日ですっかりコツを掴んでますし、
ここへの経路は単純ですから心配ないです」
 理子は二人のやり取りに驚いた。そもそも母が車の運転を
心配するとは。口ではああ言いながらも、内心では矢張り
心配だったと言う事か。そして雅春の、理子の運転に太鼓判を
押すような言い様。本当に大丈夫なのだろうか?確かに今日の
運転は思っていたよりも楽ではあったけれど。
 それにしても二人のやり取りはまるで在学中の時の、保護者と
担任のような会話だ。
「受験の方、大丈夫でしょうか?」「大丈夫ですよ」と、言って
いた時と変わらない。受験が車の運転に変わっただけだ。なんだか
可笑しくなってきて理子はプッと笑った。
「何笑ってるの」
 雅春が怪訝そうな顔をした。
「だって・・・」
 と、理子は自分が感じた事を話した。理子の話しを聞いて
雅春はフッと笑った。
「成る程。言われてみればそうかもな。まぁ、君がまだ子供だって
証拠だよ。だからみんなが心配する」
「酷いなぁ~。子供扱いするなんて」
 と、理子はむくれた。そんな二人の会話に、母の素子が
割って入ってきた。
「その子供と結婚されたのは、何処のどなたなんでしょうねぇ」
 素子の言葉に、雅春は驚いた。
「しかも、理子はまだ高校生だと言うのに、在学中に体の関係を
持つなんて、破廉恥な。だから言ったでしょう、男なんてみんな
信用できないんだって」
 と、いきなりの不機嫌モードである。
「お義母さん。その件でしたら、申し訳ありませんでした。確かに
早かったと思います。ただ、最初から本気だった事は信じて下さい」
 素子は雅春に一瞥くれると、理子に向かって言った。
「お母さんは、男に求められて簡単に許すような女に育てたつもりは
無いんだけどね。幾ら好きな相手とは言え、結婚前の、しかもまだ
高校生だって言うのに。結婚したからいいようなものの、そうで
なかったら一体どうするつもりだったの」
 理子は黙って俯いた。
「先生。確か以前、理子が学校を休んだ時に、うちへ見舞いに
来られた事がありましたよね。あの時既に、肉体関係になって
いたんですよね?」
「はい・・・」
「まさか、うちで、見舞いにかこつけて理子といちゃついてたんじゃ、
ないでしょうね?」
 素子が疑いの目で二人を見た。
「いえ。それはありません。あの時は本当に心配で様子を
見に来ただけです」
「あの日の事は、再現ドラマには出てきませんでしたよね?
出せない何かがあの時にあったんじゃないですか?」
 二人はドキリとした。矢張りこの母は鋭い。
「そんな事はありません。あのドラマに出て無い事は他にも
沢山あります。全部をドラマ化していたら、一日はかかって
しまうでしょう。あれはダイジェストみたいなものです」
 雅春は冷静な顔でそう言った。実際、その通りでもあるからだ。
「そうですか。じゃぁ、その件はそういう事にしておきましょうか。
それで理子。あんたは結婚を餌にされて、許したって事なの?」
 その言葉に、雅春はショックを受けた。幾らなんでもあまりの
言い方だ。素子の気持ちも言い分もわからないでは無い。だが、
餌と言うのは酷い。
「お母さん。お母さんは何が言いたいの?私達に喧嘩を売りたいの?
そうであるならば、私、家庭教師の件は引き受けないわよ。だって、
喧嘩をする為にここへ来るんじゃないんだから。気まずい思いを
させられれば、先生だって来づらいでしょう?折角、先生が快く
引き受けてくれてるのに、その誠意を踏みにじるような事を言ったり
したりするなら、ここへは来れない」
 理子は怒りを含んだ顔ではっきりと母に言った。
「それから。許したのは、愛してるからよ。結婚を餌になんて
されてない。結婚するからって言われて求められていたなら、
何が何でも拒否したわよ。先生はそんな事をする人じゃない。
深く愛されてるのがわかったからよ」
 素子は大きく溜息を吐くと、
「あんたは、いつも先生の味方なのね」
 と言った。
「当たり前でしょう?先生は私の大事な人よ。それに結婚したんだから、
もう家族でしょう?守るのが当たり前じゃない。私だって同じように
先生に大事にされてるし守られてるんだもの」
 理子の言葉に素子は軽く息を吐いた。
「先生。私は別に喧嘩を売りたくて言ってるわけじゃありませんよ。
ただ、先生の事も理子の事も信じてました。だから、裏切られたっ
て思いが強いんですよ」
「申し訳ありませんでした」
 雅春は畳に平伏した。結婚を餌にしたと言われた事には心外
極まりないが、親の気持ちを思えば、そう言われても仕方が
無いのかもしれない。何と言っても、理子はまだ17歳の
少女だったのだから。
「お母さん。信じてたって言うけど、先生が見舞いに来た時、
ドアを全開にさせてたわよね?最初から疑ってかかってたから
じゃないの?お母さんは誰も信じやしないのに、そうやって
『信じてた』なんて狡いと思うわ」
「理子、やめなさい」
 雅春は理子をいなした。これでは本当に喧嘩になってしまう。
「お母さん、本当に申し訳ありませんでした。全て僕が悪かったんです。
分別が無さ過ぎていたと思います。ただ、もう過ぎてしまった事です。
こうして謝る事しか僕にはできません。理子を愛する気持ちは、
これまでもこれからも変わりません。愛する理子のご両親と姉妹
ですから、当然大事にさせて貰います。だから、もう、許して
貰えないでしょうか。これから長いお付き合いになるわけですし、
気まずくなりたくありません」
「わかりました。確かに済んだ事にいつまでもこだわって、この先の
関係が悪くなるのは私も望んでません。この話しは、
これで終わりにしましょう」
「ありがとうございます」
 雅春は再び深く頭を下げた。
「じゃぁ、お姉ちゃんと先生、早速勉強を見て貰えないかな」
 優子が明るい声で言った。
「そうね。これからの学習計画とかをまずはたててもらわないと
いけないものね」
 優子の言葉に母が同意したので、理子と雅春は2階の優子の
部屋へと移動した。部屋へ入った途端、優子が言った。
「散々だったね」
 優子の言葉に、雅春は微笑んだ。この義妹は、二人をあの場から
抜け出させる為に、声を掛けてくれたのだった。優しい妹だ。
「お母さんは堅物だから。今時、あそこまで煩い母親って、
そうそういないよね。お姉ちゃんは、それをもろに受けてるから
可哀そう・・・」
 優子は悲しそうな顔をしていた。
「先生も、とんだ災難でしたね。本当にもう過ぎた事で、
今更あれこれ言ったってしょうがないのに、相手の事なんて
お構いなしに、自分の感情を吐き出したい人だから。それで家族は
いつも傷つけられてる。でも本人は自分が一番傷ついてるって
思ってるから始末に負えないんです」
 雅春は、冷静によく見てるんだな、と感心した。理子も冷静な
タイプだが、理子は母親の事となると感情的になる。優子は、
そんな姉と母の確執を冷静に見て受け止めてきたのだろう。
「優ちゃん、ありがとう。優ちゃんのお陰よ」
「でもお姉ちゃん。あたしがいなかったら、ここへ来る事も
無かったのにね。本当は来たくないんでしょ?折角ここから
解放されたのにね」
 妹の言葉に、姉は寂しそうな顔をした。


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