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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 5.それぞれの想い 04

2010.08.21  *Edit 

「何階建てなのかしら?」
 と愛理が言った。
「理子の部屋は最上階って話しだったから、部屋番号からすると
12階建てね」
 と美香が言う。ちょっと考えればすぐにわかる事だ。何故こうも、
愛理は頭を使わないのだろう。
「だけど、都心とは違うわね~。見通しがいいもの」
「確かに都心とは違うけど、でも私の住んでいた所よりはずっと
都会よ。駅から近いっていいわね。便利そうだわ」
 そんな二人を尻目に、志水は該当棟のエントランス前にある
部屋番号のボタンを押した。
「はい」
 すぐに、理子の高い声が返って来た。鈴の音のように爽やかだ。
その声に志水の横から、
「私達よ~」
 と、息の合った女子二人の声が上がった。
「どうぞ。一番奥のエレベーターから来て」
 との理子の言葉の後に、すぐに目の前のドアが開いた。
 エントランスの中に入ると、エレベーターが4基あった。言われた
通り、一番奥のエレベーターのボタンを押す。
「なんだかあたし、ドキドキする・・・」
「私もよ」
 横目で見ると、二人は少し顔を赤らめて緊張した面持ちだった。
まるで生まれて初めてのデートに挑む時のような顔をしていると、
志水は思った。矢張り、理子の夫が目的か。
愛理は自分の外見にかなり自信を持っている。小顔で目がぱっちりと
していて、口元は小さめな所が愛らしい。背が高く、手足も長くて、
細いのに胸は大きめでウエストもくびれており、スタイルは抜群だ。
自分の魅力を十分知っていて、それを上手く活用している。
 美香は一見控えめに見えるが、目立たなように自分を主張している。
色白で目元が涼やかな切れ長で大きめだ。口の大きさは普通だが唇は
薄めである。矢張り自分の容姿に自信を持っている事が窺われる。
 その二人から見たら、理子の容姿は平凡だろう。愛理は美香と
理子を自分の引き立て役のように思っている節が見受けられるし、
美香は理子に対して同じように思っていると志水は見ている。
 だが、二人とも理子の魅力を侮っている。同性だからなのだろう。
傍(はた)から見れば、三人三様でそれぞれが魅力的に見えている筈だ。
選ぶのは好みの問題だろう。実際、コンパの時には理子の周囲にも
多くの男子が集まってきていた。最初は派手で目立つ愛理に目が
行くが、やがて理子の魅力に気付くと鞍替えする男も少なく無い筈だ。
 理子が結婚していると知って尻ごみする男もいたが、逆に興味を
持った男も出て来た。だが、その夫を見て、多くの男が引いたに
違いない。その事に関しては、志水にとっては好都合だった。
鬱陶しい邪魔者が消えてくれて助かったと思っている。あの人に
挑もうと思う男はまずいまい。自分くらいのものだろう。
 エレベーターが12階で止まった。一番端だと言っていたので、
迷わずにすぐにわかった。ドアフォンを押すと、間もなく玄関の
ドアが開いた。そこには、可愛いチュニック姿の理子が立っていた。
「いらっしゃーい」
 と、にこやかに出迎えてくれて、志水の心は躍った。
「理子~、来たわよ~」
 愛理が志水を押しのけるようにして、ドアの中へと足を踏み入れた。
美香もそれに続く。志水は呆れた顔をして、最後に入りドアを閉めた。
向かって左側にあるドアから、雅春が姿を現した。その姿を見て、
女子二人は嬉々とした声を上げた。
「こんにちは~。遊びに来ちゃいました」
 二人とも頬を染めて目を輝かせている。
「やぁ、いらっしゃい」
 爽やかな笑顔を3人に向けた。志水の姿を見て、表情も顔色も変わらない。
 3人はリビングに通された。
「あら、広―い」
 愛理が感嘆の声を上げた。志水もその広さに驚いた。
「なんか、凄くない?」
 と、愛理と美香が顔を寄せて囁き合っていた。志水も同感である。
 一体、どのくらいあるのだろう?奥行きも幅もあるリビングだ。
グランドピアノとダイニングテーブルとボードに大きなソファセットが
置いてあっても、まだ余裕の広さだ。壁に掛っているテレビも大きい。
50インチか。おまけに、どの調度品も立派な物だ。マンションの
場所、大きさ、調度品、どれを見ても一介の県立高校の教師の
住まいとは思えない。正直なところ、分不相応に思うのだった。
 勧められたソファは皮張りで、心地良い弾力性を持っていた。
長時間座っていても疲れない硬さだ。
「今、お茶を用意するから、くつろいでて」
 理子はそう言って席を外した。
 3人は窓を背にした4人掛けの方へ、ゆったりと座り、雅春が
向かって左側の二人掛けのソファに座ったのだった。
「すみません。折角の休日に押しかけて来てしまって・・・」
 と、美香が言った。
「いえ、いいんですよ。大学へ入って以来、皆さんの誘いを断って
ばかりだったようだから、せめて休日くらいはね。こうして来て
貰って大歓迎ですよ」
「高校では中間テストがあったばかりで、テストの採点で忙しいと
理子から聞きましたが、大丈夫なんですか?」
「毎年の事だからね。大丈夫」
 その時、「せんせーい!」と、理子の呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと、失礼」
 雅春は立ちあがると、キッチンと思(おぼ)しき場所へ入って行った。
 雅春がいなくなった途端、愛理と美香は「はぁ~っ」と
大きく息を吐いた。
「すっごい、イイ男よね。そばにいると緊張してくる」
「へぇ。君ほどモテる女が、そんなに緊張するとはね」
「あら、するわよ。だって、あれ程の男と遭遇した事無いもの。
それなりにイイ男はいたけれど、あの人はダントツだと思う。
それに、あの声。低くて素敵ね~。美香だって、そう思うでしょう?」
「ええ。でも私の場合、田舎だからイイ男自体、あまりいなかったわ。
だから、免疫が全然無いのよね。上京してきたらイイ男が結構
多いんで驚いちゃったくらい。何て言うか、みんな垢抜けてるわよね。
ファッション誌とか買って男の子達も色々と研究してたけど、
やっぱり全然違うわ」
 美香の言葉に、志水はクスリと笑った。
「上村さん。そうは言うけど、都会の男だって多くは地方出身者だよ。
上京してきた時は、みんな一緒さ。それに、都会で見るから数段
良く見えるって事もあるし。君なんかは、地方から出て来たばかり
なのに、既に十分垢ぬけてるし魅力的じゃないか」
「あら・・・」
 志水の言葉に、美香は頬に手を当てて顔を赤らめた。
「志水君がそんな事を言うなんて珍しいと言うか、初めて聞いた」
 愛理が不機嫌そうな顔をして言った。
「そんな事って、どんな事?」
「女の子を褒めた事よ」
「僕は別に褒めてなんていないよ。本当の事を言ったまでさ。
それとも、魅力的な女の子は自分だけだとか、思ってるのかな」
「そ、そんな事は、無いわよ」
 愛理が美香に嫉妬した事は十分にわかっている。いつも自分には
冷たい志水だが、他の女子に対しても冷たい態度だ。それなのに、
美香を魅力的だと言った事に腹を立てたのだろう。すぐに顔や
態度に出る愛理は苛めがいがある。志水は自信満々の相手を見ると、
その鼻をへし折ってやりたくなる衝動に駆られるのだった。
「ごめん、お待たせー」
 と、理子がやってきた。カップを乗せたトレイを持っている。
その後に、ポットとお菓子を乗せたトレイを持った雅春がいた。
「あら理子、旦那さんに手伝わせたの?」
 と、愛理が言った。
「だって、大変だったんだもの。数が多いし、ちょっと重たいし」
 理子はカップに紅茶を注いでは、客人の前へと置いていく。そして、
夫の前へ置き、最後に自分の前へ置いた。彼女は何故か雅春の隣には
座らずに、もう一方の二人掛けのソファに座ったのだった。
「そう言えば、さっき『先生』って呼んでなかった?」
 美香が訊いた。
「呼んでた、呼んでた。いつも『先生』って呼んでるの?」
「うん。だって、最初からそうだから」
「でも、もう卒業した上に結婚したんだし、何か変じゃない?」
「そう言われても・・・。ずっとそう呼んできたから、今更って
感じなのよね。何ていうか、『先生』って言う名前になっちゃってる
ような気がする・・・」
 そういう理子の言葉に、雅春は苦笑していた。
「旦那さんは、どうなんですか?他人行儀な感じがして嫌だとか、
思わないんですか?」
「うーん・・・、僕も何て言うか馴れてしまっていると言うか。
やっぱり彼女が言う通り、最初からそう呼ばれてきたからね。逆に、
名前とかで呼ばれたら妙に気恥かしい感じがするかなぁ。だから、
『先生』の方が自然って感じだね」
「案外、そう呼ばれる方が好きだったりするんじゃないですか?」
 と、志水が言った。
「どうして、そう思う?」
 雅春は顔色ひとつ変えないが、僅かながらその目に鋭さを感じた。
「いつまでも、理子とは教師と生徒でいたいとか。そういう力関係を
保っていたいんじゃないかな、って思ったんですけど」
 志水の言葉に、雅春は笑った。
「そうだな。君の考えは半ば当たっている。力関係を保っていたい
とは微塵も思ってはいないが、教師と生徒として始まった事もあって、
『先生』と彼女から呼ばれると、いつまでも慕われているような
気がして気分はいいんだ。今後も尊敬される先生として恥ずかしく
無いように頑張らないと、って気にもなるしね」
「じゃぁ、私達も『先生』って呼んでもいいですか?」
 愛理が頬を染めながら言った。
「君達の先生ではないのになぁ。まぁ、別に構わないけど」
 その言葉に、愛理と美香は手を取り合って喜んだ。その様子を見て、
志水は馬鹿馬鹿しいと思った。そっと理子の様子を窺うと、こちらは
全く意に介した様子も無く、平然としていた。自分の夫を前にして
嬉々としている彼女達に対して、特別な感情を抱いてはいないようだ。
不愉快に思わないのだろうか。


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