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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 4.愛の前では 08

2010.08.17  *Edit 

「先生、学校じゃぁ、俺達に嫉妬してたってさっき言ってましたけど、
今はどうなんですか?理子は大学でもきっと人気者なんじゃないのかな。
心配じゃないですか?」
 理子のピアノに合わせて皆が歌ったり騒いだりしている時、
雅春と二人でソファに残った枝本がそう言った。
「ああ。実はそうなんだ。お前の言う通りさ。俺は心配でしょうがない」
 雅春は枝本の言葉に苦笑した。
「でも理子は結婚してるから」
「そう思うだろう。俺も最初はそう思ってた。だけどさ。
指輪をしてるのに、誰も結婚してるって思わなかったみたいでな。
誰にも言われないって理子が言ってた。だから俺、大学の新歓コンパへ
迎えに行ったのさ」
「ええー?わざわざ?」
 枝本は驚く。
「そう。まぁ、ついでに先生方にも挨拶をしておこうと思ってね。
それに、自分の事を言うのもなんだが、俺を見れば大抵の男は
臆すると思ってな」
 成る程。牽制のつもりか。確かに相手がこの男性じゃ、大抵は
太刀打ちできないと思うだろう。それを狙って行ったのか。
「それで?」
「うん。まぁ、俺の目論見通りな感じではあったんだ。
あったんだが・・・」
 言い澱む雅春を枝本は不思議に思い、先を促した。
「一人、気になる男がいてね」
「気になる男?」
「そう。理子のクラスメイトだ。志水とか言ったかな。不遜な態度で
俺を見てるんで、気になって理子に紹介させたんだが、この俺に
向かって、彼女の事を呼び捨てだ。お前達みたいに、元から
友人だったのとは訳が違う。初対面であり、夫でもある、この俺にだぞ。
『理子とは仲良くさせてもらってます』って言ったんだ。全く
臆する風でもなくな。むしろ、挑戦的な感じがした」
 枝本は驚いた。そんな男が理子のクラスメイトにいるのか。
「そいつって、眼鏡なんですか?」
「いや。眼鏡はかけていない。いつも笑っているような顔をしている。
理子の話しによると『微笑み王子』と学内では言われてるそうだ。
優しげで柔らかい物腰で、話し方もおっとりした感じだ。女生徒に
人気があるらしい」
「眼鏡じゃないなら、心配ないのでは?」
「まぁな。だが、そいつは理子と履修科目が全く同じなんだよ。
だから、毎日、朝からずっと理子と一緒に授業を受けている」
「履修科目が全く同じ?」
「そうだ。驚くだろう。理子の履修科目は俺が全部決めたんだ。
穴ぼこだらけの時間割にならずに、効率の良い時間割になるように
した。しかも、さっさと申し込まないと希望通りに取れない場合も
あるからな。如何に速く見極めるかがポイントになる。俺は経験者
でもあるから当然だが、同じ事を新入生のあいつはやったんだよ。
俺は驚いた」
 枝本も驚いていた。
「他にはどうなんですか?その、…全く同じ人間がいるんでしょうか」
「いや。同じクラスではいない。あいつだけだ」
 雅春は少し厳しい顔をして、枝本に視線を送った。その目を見て、
枝本は雅春の内心を察した。
「俺は、あいつは理子に気が有ると見た。しかも、結婚していると
言う事を全く意に介していない。毎日、一日中彼女と一緒にいるんだ。
理子に惹かれるのも無理は無い。それに、あいつには俺やお前と
同じ匂いがする」
「同じ匂い?」
 雅春の言葉に枝本は驚き、そして疑問に思った。同じ匂いがする
とはどういう事なのか。何故そこに、自分も出てくるのか。
「不思議そうな顔をしているな。上手くは言えない。だが、
敢えて言うとするならば、理子を介して共通した部分を
持っていると言う事かな」
 益々わからない。理子に惹かれると言うだけなら、他にも大勢
いる筈だ。茂木や耕介、岩崎だって同じではないのか。
 雅春は、そんな枝本の心中を見透かしたようにフッと笑った。
「そのうちに、お前にもわかるようになるよ。だが、ひとつだけ
言える事は、何故こんなにも、俺達は理子に惹きつけられるのかって
事だ。理子に惹かれている人間は他にも沢山いる。だが、俺達程、
彼女の虜(とりこ)になっている人間はいない。お前だって、理子は
俺の妻になっているにも関わらず、未だに前と変わらずに彼女が
好きなんだろう?」
 雅春にそう言われて、枝本は胸を射抜かれたようにドキリとした。
「茂木も岩崎も、未だに彼女が好きな事は知っている。だが、
その思いの深さを測るとしたら、お前ほど深い奴はいない。
あいつらは、これからもずっと理子に仄かな思いを寄せながら
見守っていくに違いない。いずれ、別の女性と愛し合うように
なっても、初恋の相手を大事にするような感覚で理子を見守って
いくだろう。だが、お前は違う」
 枝本は雅春の視線を受けて、思わず俯いた。
「お前はこの先、他の女を愛せるようになるのだろうか・・・」
 雅春の言葉に、枝本は目を瞑った。自分の中で避け続けて
来た真実だった。
「お前も俺も、彼女の衛星だ。理子と言う恒星から離れる事が
できずに周り続けるしかない。それと同じものを、あいつにも
感じるんだ」
 雅春はどこか寂しそうに言うのだった。
「そうですか。それなら、そいつには要注意ですね」
 枝本はそう言った。
 理子の衛星。ずっと離れられずに周り続けるしかない。その言葉が
胸に突き刺さる。まさに言い得て妙だ。そして、同じような人間が、
理子のそばに登場したのか。しかも、毎日ずっと一緒だと言う。
それなら雅春が気になるのも当たり前だろう。
「すまないな。こんな話しをして」
 そう言われて雅春を見たら、悲しそうな顔をしている。
「先生のその表情は、僕への感情ですか?それとも理子を慮ってですか?」
 枝本に言われて雅春は顔を正面に向けた。
「自分でもわからない。お前に対しては、最初は嫉妬の感情しか
無かった。だが、段々とそれも変わって来た。理子にとって特別な
存在であるだけでなく、俺にとっても、なんだか特別な存在に
なってしまったような気がするんだ。多分、お前の理子への想いが
そうさせたんだと思う。お前の気持ちを思うと、俺は複雑な
気持ちになってくるんだ」
「そうですか。先生にそう言われるのは、嫌じゃないですね。
それに、そう思われるなら、理子を幸せにしてやって下さい。
彼女を得られないのなら、その幸せを願うしかないですから。
そうすれば、俺もいつかは誰か別の女性を愛するようになれますよ。
時間はかかるとは思いますが」
 枝本はそう言って微笑んだ。それを見て雅春は安堵したような
顔になった。
「それにしても、その男の件は心配ですね」
「ああ。大胆不敵な感じだ。後輩に時々様子を見てくれるよう
頼んではあるんだが、4年だからな。本郷と駒場で離れてる。
今は大学院の入試の準備で忙しいし」
「そうですか。確かにそれでは心許ない感じですね」
「そうなんだ。大胆不敵な奴だから、油断はできない」
「理子は何て言ってるんです?」
 雅春は笑った。
「理子には、あいつの事は詳しく訊いていない。第一、鈍感だからな、
理子は。話す事で逆に意識されるのも、嫌だし。それに
『先生の考え過ぎです』と言われ兼ねない。でもって、
『また嫉妬ですか?』と機嫌を損ねられるのも困るし」
雅春が本当に困ったような顔をして言うので、枝本は可笑しく
なって笑った。
「先生、随分と弱気なんですね。何だかすっかり理子の尻に
敷かれてませんか?」
「尻に敷かれているわけじゃない。ただ、惚れた弱みと言うか、
彼女の機嫌を損ねるのが嫌なだけだ。理子が怒りだしたら、
本当に俺は折れるしか手が無い。普段は、どちらかと言えば、
俺の方がリードしている。彼女は俺に、凄く良く尽くしてくれるんだ。
だが、理子がひとたび怒りだすと、立場が逆転する。彼女の方が
優位に立つ。俺は、彼女を失いたくない思いに支配されて、
折れるしかなくなるんだ。そんな時、卑屈になってる自分を
感じる時があるよ」
雅春の言葉に、枝本は信じられない思いになる。この先生が、
理子には勝てないんだ。そう思うと、とても不思議だ。
「でも先生。再現ドラマじゃ、先生は結構、激情家で、頻繁に
怒っていたようじゃないですか」
「そうなんだ。でも、それも昔の話しさ。俺は正直者だから
自分の感情を押し殺すのが苦手なんだ。とは言っても、そうで
ある事に気付いたのは理子と付き合うようになってからだ。
理子は、お母さんに小さい時からずっと一方的に怒られ続けて
来たせいか、怒られる事に臆病だ。だから、俺が怒る度に傷ついてた。
傷ついて、そして最後はキレるんだ。キレると、その場から逃げたがる。
出て行こうとする。俺は、それが耐えられない。何度もそういう事を
繰り返しているうちに、俺は彼女がキレないように気を使うように
なった気がするよ」
「彼女に出て行かれるのが、そんなに怖いんですか?」
「ああ。自分でも不思議な程に。付き詰めて考えると、結局は
自分のエゴなのかもしれない。彼女を手放したく無いんだ。やっと
手に入れた宝物って感じだ。宝物だと思えば、手放したく無いと
思うのも解るだろう?」
「確かに」
 きっと、枝本が雅春でも同じように思っただろう。自分は、
宝物と気付く前に手放してしまい、それを後悔している。
「彼女を怒らせて出て行かれてしまったら、俺は途方に暮れる。
戻って来て貰う為に、あらゆる努力を惜しまないだろう。だが、
それでも帰ってきてくれるかどうかは判らない。それを考えると、
どうにも不安になってくる。だから、キレる前に手を打たざるを得ない」
「先生は、もっと自信家だと思ってました」
「愛の前では全ては無効さ。これまでは、愛を欲した事なんて
無かったからな。だから考える事も無かったし、当然気を使う事も無い。
愛なんて無かったんだから。俺にとっては、全ては初めての事だから。
だから余計に、思い悩み気を使うのかもしれない。自分でも、もっと
自信家だと思ってたよ。全てが愛の前で打ち砕かれてしまったような
気がする」
「何だか、先生が哀れな気がしてきました」
 枝本の言葉に雅春は笑った。
「そう。俺は哀れな男なのさ」
「俺が思うに、もう少し自然に構えてもいいんじゃないんですかね」
「自然に構えるとは?」
「その時の感情や成り行きに任せると言う事です」
「それなら、俺も最初はそうしてた。だが、結局、そうすると
喧嘩に発展する。理子は喧嘩を嫌う。だから、その原因を作った
俺を批難する」
「それで理子が出て行くんだったら、出て行かせればいいじゃないですか」
「ここに住み始めた頃にな。一度だけあるんだ。感情的になって、
理子が外へ出て行った事が」
「えっ?そうなんですか?」
「ああ。理子は頭を冷やす為と言って外へ出たんだが、それで俺は、
物凄い後悔の念に襲われた。随分と自分を責めたよ。そして、
こんな思いはもうしたくないって思ったんだ。折角の二人の時間を、
そんな事で費やすのは辛い。折角、一緒になれたのに」
 過ぎた事なのに、まるで今起きている事でもあるように、雅春は
打ちひしがれた様子だ。そんな雅春を見て、愛によって人は強くもなり、
弱くもなるのだと枝本は思うのだった。
「先生、しっかりして下さいよ。先生の気持ちもわからないでは
無いですが、自信に溢れた先生の方が、俺は好きだなぁ。理子だって
多分、そうなんじゃないかな」
 枝本の言葉に、雅春は少し明るい顔をした。
「そうだな。すっかり情けない男になったと自分でも感じるんだ。
少し自分を見失っているのかもしれない。結婚式の前に2日間、
互いに実家へ帰ったんだが、たった2日逢えないでいるだけで、
今までに経験した事の無い程の寂寥感を覚えた。それが未だに
少し尾を引いてるみたいだ。互いに離れがたい存在になっている事に
改めて気付かされた」
 そう言う雅春の瞳に、深い想いが漂っているのを感じた。
「俺は、再現ドラマで二人の過程を知って感動しました。否定しても
しきれない想いが溢れて付き合うようになった過程よりも、付き合う
ようになってからの過程の方が凄かった。何だかんだとやり合っても、
結局は前より想いが深まってるじゃないですか。それから考えると、
やり合う事を避けて通るのは良い事とは思えないです。互いに
離れがたい存在になったのだって、そういう過程があったから
じゃないですか」
 枝本の言葉に、雅春は頷いた。
「お前の言う通りだな。俺が理子と付き合いだした最初の頃に、
彼女に言った言葉とも似てる。喧嘩を避けたがる彼女に、俺は
似たような事を言ったんだ。ただ、彼女の逃げたがる習性には困っている」
「状況によると思いますけど、一時的な事だと思いますよ。
二次会の時と言い、今日と言い、先生を批難するような発言が
出ると理子は物凄く先生を庇うじゃないですか。先生は彼女に深く
愛されてる。だから一時の感情で彼女が先生から離れて行く訳が無い」
 雅春の胸が熱くなった。枝本の言う通りだ。過去の事で雅春を
責めるような言動が出た時の理子の言葉と態度には、とても感動した。
深く愛されている事を実感した。雅春の過去の女関係に嫉妬心を
抱かないのは捌けている性格が多分だと思っていたが、それだけでは
無い事がよくわかった。雅春の心のうちをよく理解してくれている。
こんなにもわかっていてくれたのかと驚いた。
 雅春は、過去の経緯を全て理子に話してあるが、細かい心の
変遷や思いを語って聞かせた事は無かった。自分自身ですら、
言葉では定義できない感情がある。そう言った雅春の内面を、
理子は付き合って行く中で理解してきたのだろう。聡明で敏感だから、
はっきり言わなくても察してくれる事が多い。だがそれも、深い
愛情があるからに違いない。その証拠に、他の男達の感情には鈍感だ。
 彼女が時々キレるのは、これはもう仕方の無い事なのかもしれない。
それも自然な感情の発露として受け止めるしかないのだろう。
こんなにも愛されているのに、何を恐れているのか。
「お前の言う通りだな」
 雅春はそう言って爽やかな笑みを浮かべた。


      4.愛の前では 了 5.それぞれの想い へつづく。


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