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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 4.愛の前では 07

2010.08.16  *Edit 

 雅春の言葉に、誰も言い返せなかった。
「私は全く後悔してないから」
 と、理子がいきなり言った。その言葉にみんな驚く。
雅春も驚いた。理子の言葉の真意がわからなかった。
「茂木君。先生は何も悪くないから」
 理子に真っすぐ見つめられて茂木はドキリとした。
「お、俺は別に・・・」
 理子の視線に射竦(いすく)められて、茂木はしどろもどろになった。
「わかってる。枝本君も茂木君も、私の事を大切に思ってくれてる
からだって事は。でも、先生の言う事も尤もでしょう?私も最初は
予想外に早かったから戸惑ったけど、でも愛されて嬉しかったし、
本当に嫌だったら、とことん抵抗したしね。もし、先生じゃなくて、
例えば枝本君や茂木君と付き合っていたとしても、好きだったら
同じように許したと思うし。それが同じ高校生なら問題なくて、
先生だから問題だって言うのはおかしな話でしょう?それに、
もし、うまくいかなくて別れていたとしても、それはそれでしょうが
ないじゃない?先生が本気じゃなかったとしても、私は後悔しない。
結局は私自身の問題だから」
「理子ちゃん・・・」
 ゆきは涙ぐんでいた。
「ゆきちゃん、なんで涙ぐんでるの?」
「だって、・・・なんか感動しちゃったんだもん」
 理子は微笑んだ。
「ゆきちゃんは、後悔してる?小泉君との事を」
 理子の言葉にゆきは頭を振った。
「ううん。色々あったけど、後悔してない。ずっと付き合って
いきたかったけど、しょうがないし。あの時の気持ちは大切に
してきたいって思ってるの」
「私も同じよ。結果はどうあれ、自分の責任だから。その時に
そうしたいって思ってした事なんだから、悔やんでもしょうが
ないものね。みんなは先生が大人で、私がまだ子供だと思ってるから、
先生に我慢を強いるような考えになっちゃうんだろうけど、
愛し合う二人にとっては、大人も子供もないの。対等なのよ。
先生は私を大事に思ってくれてるから、私が本当に嫌がる事はしないの。
私が本気で拒絶していたら、先生は無理しなかった筈よ」
 理子の言葉に、雅春は微笑んだ。
「お前ら、俺なんかより理子の方がずっと大人だと思わないか。
再現ドラマでは描き切れて無かったが、俺達はこれで結構、
争ってきたんだよ。俺は初めてとも言える本気の恋に、自分の心を
思うように抑制しきれないでいた。この間の二次会で、俺の過去を
暴露されたからお前らも多少は解ってるとは思うが、俺はずっと
今まで本気で女を好きになった事が無かったし、冷めてたんだ。
だから、理子を好きになって初めて自分が直情的で嫉妬深い男だと
言う事を知った。そんな自分に戸惑い、持て余していたとも言える。
況(ま)して、学校では他人のように振る舞わなきゃならないしな。
理子はまだ高校生の癖に完全なるポーカーフェイスで本当に
知らんぷりだ。全く素振りを見せない。感情の片鱗すら覗かせない。
そして、周りにはいつも、お前らを始めとする男子どもがいる」
「先生の、その辺の気持ちはそれなりにわかりますよ。俺も理子の
ポーカーフェイスに困った口でしたから。彼女の真意は本当に
量りがたいです」
 枝本がそう言った。
「そうなんだ。会話をしていれば、それなりに掴む事ができるが、
ポーカーフェイスで完全に無視されてる状態だからな。俺はモテると
言ったって、誰も相手にしてないが、理子は楽しそうに男どもと
過ごしてるんだからな。それを毎日見せつけられてるんだぞ。
心の中は嫉妬の嵐だったよ。大人げないと思っても、二人に
なった時にはついつい、その愚痴が出てしまう。そうして理子を
怒らせて、最後は俺が屈服するんだ」
「先生が屈服するんですか」
 と、岩崎が驚いた顔をして言った。
「そうだ。お前らだって理子が好きだったんだから、俺の気持ちも
少しはわかるだろう?お前らみたいに、一緒に話せないんだぞ?
見せつけられてるんだぞ?他の男と仲良くしている所を。妬いて
当然だろう?でもそれが原因で理子が怒る。怒って帰ろうとするんだ。
そうされたら、泣いて謝るだろうが」
みんなは雅春に同情した。
「先生、ちょっと大袈裟でしょう。泣きはしなかったじゃないですか」
「心の中で泣いてたんだ」
「先生ずるいな。自分を正当化しようとしてる」
「そうじゃない。事実を語っているだけだ」
 恨みがましい表情でそう言われて、理子は溜息を吐いた。
「お前らなら、解る筈だ。周囲の男どもの感情に鈍感な理子を
彼女に持ってる俺の気持ちが。お前らだって、もし彼女と両思いに
なったなら、すぐにも自分の手の中に入れてしまいたいと言う
気持ちに襲われる筈だ」
 そんな雅春の言葉に、男子達は頷いていた。すっかり丸めこまれてる、
と理子は思った。
「おまけにな。お前らが理子をずっとヴァージンだと思っていた
事からもわかるように、理子は相変わらずだ。まるで何事も
無かったかのようだ。学校へ行けば、それまでと変わらずに、
理子はポーカーフェイスで俺を無視している。確かに俺の手の中に
いた筈なのに、まるでそれは俺だけが見た夢だったんじゃないかと
思わせる程、何も変わらない。そんな毎日が数カ月も続くんだ。
俺が休日に逢いたいと訴えても、理子は了解してくれない。俺と
逢ったら流されてしまう。だから逢わない。そう言われて、頭では
理解できても、心は言う事を聞いてくれない。だから久しぶりに会うと、
恨みごとをつい言ってしまう。馬鹿みたいだろう?」
「先生、それは苦労でしたね。まぁ、先生の立場上、仕方なかった
とは思いますが」
 枝本はそう言った。自分なら我慢できたろうか?
「私だって、学校へ行くと他人のような関係に、辛かったんですよ。
私の事をポーカーフェイスって何度もおっしゃいますけど、それは
先生だって同じだったじゃないですか。先生だって感情の片鱗を
全く覗かせなかった。だから私だって、先生との時間は全てフィク
ションだったんじゃないかって、いつも思ってました。いつか目が
覚めて、一人ぼっちになってしまうんじゃないかって、怖かった。
だから、本当はもっと逢いたかったです。逢って確かめたかった。
嘘じゃないんだって。でもそうしたら、どんどん流されてしまい
そうだって思ったから。自分をセーブできなくなるのが目に
見えてたから・・・」
「あたしは、理子ちゃんの気持ちが凄くよくわかる。先生の
言い分もわかるけど、同じ女の子としては、理子ちゃんの方が
辛かったと思う。あたしは結局我慢できなくて、毎週毎週、
小泉君とデートしてたから、余計に理子ちゃんの我慢の辛さがわかるの」
 ゆきは変わらず涙ぐんでいた。
「最上、理子の気持ちを理解してくれて、ありがとうな。俺からも
礼を言うよ。理子の辛さは、俺にもわかってた。ただ俺は男だから。
根本的に女の気持ちを解り切ることが出来ないみたいだ。理子と
付き合うようになって、自分がどれだけ子供なのかが解ったよ。
それに、結局のところ、男はいつまで経っても子供の部分を持ち
合わせていて、女の方が案外大人なんだ。だから、惚れたら最後、
勝てない」
 雅春はそう言って笑った。
「だから、『お前』から『君』に変わったんですか?」
 岩崎が言った。
「そうだ。俺達は学校では教師と生徒だが、二人でいる時は対等だ」
「それって、事故で頭を打って気付いたんですか?」
 ゆきがそう言ったので、みんなは爆笑した。
「最上さん、再現ドラマで理子を演じたんだから、わかっても
いい筈なんじゃない?」
 と、枝本が言った。ゆきは不思議そうな顔をしている。
「理子に怒られて気付いたんでしょ」
 岩崎の指摘に「そうだ」と雅春が答えた。
「え~?どうしてですか?」
 ゆきにはまだ理解できないようだ。
「私はあなたの何なの?」
 と、茂木が高い声を出して言い、
「最愛の女性だ」
 と、枝本が低い声で答えた。
 二人のやり取りに、理子は恥ずかしくて真っ赤になった。
雅春は平然と笑っている。
「え~?それで解ったんですか?」
 ゆきの言葉に、「最上さんって、結構鈍いんだな」と耕作が
ぼそりと言った。
「ええ~?だってぇ・・・」
「まぁ、そこはそこ。愛し合ってるからこそ、通じたって
事なんじゃないのかな」
 岩崎の言葉に、枝本と茂木は「そうだよ」と同意した。ゆきは
何となく納得しきれないような表情で理子を見た。そんなゆきに、
理子は微笑んだ。
「私はね。別に先生に『お前』から『君』に替えて欲しくて
言ったんじゃないのよ。先生は、あんな状態にありながらも私を
守ろうとして私を遠ざけようとした。守ってくれるのは嬉しいけど、
私は守られるだけの存在じゃない。好きな人を守りたいと思う気持ちは、
私も同じなの。ただ愛されるだけの子供じゃないのよ、私は。
満身創痍のような状態で、私に迷惑をかけまいとしている先生に、
腹が立ったの。だから怒ったってわけ。先生は頭のいい人だから、
すぐに私の気持ちをわかってくれた。わかってくれる筈、って
思って言ったんだけどね」
「そう言う訳なんだ」
 と、理子の言葉に継いで雅春が言った。
「俺は理子に怒られて、理子の真意を悟った。それで二人は対等の
立場だって事に気付いたって訳さ。対等だと思ったら、
『お前』とは言えなくなった。これで、わかってくれたかな」
 そう言って雅春はゆきに微笑みかけた。ゆきは赤くなった。
「俺、あのシーンには感動したんだよな~」
 と茂木が言った。
「先生の気持ちもわかったし、理子の気持ちもわかった。互いに
相手を思いやってる事が、あの一件でよくわかったって言うか。
それに、先生は余程理子に惚れてるんだなって事も伝わって来たし」
「あ、それは僕も」
 と岩崎が言った。
「そうか。それをわかってくれる人間がいるだけで、
俺は嬉しいよ。現国の諸星先生が、『愛の前では全ては無効』」って
言ったんだ。上手い事を言うよな。まさに言い得て妙だ」
「愛の前では全ては無効、ですか。そしてそれが先生の気持ち
でもあるわけですね」
「そうだ」
「なんだか、含蓄のある言葉ですね」
 みんなはそれぞれに、その言葉の意味に思いを馳せるのだった。


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