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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 4.愛の前では 05

2010.08.14  *Edit 

 二人は昼過ぎになって、やっと服を着た。
 いい加減、空腹に耐えられなくなってきていた。午前中一杯を
狂おしい時間で費やした。体力を随分と使った気がする。マラソン
でもしたようだ。流石にエネルギー切れと言った感じだ。
 昼食の支度は雅春がした。理子はまだ完全には戻れないでいた。
心は満たされているが、体はどっぷりと疲れている。それ程、
執拗に愛された。シャワーを浴び、髪を乾かしてソファの上で
ぐったりしていた。何も考えられない。
 キッチンからいい匂いが漂ってくる。雅春の鼻歌が聞こえて来た。
鼻歌を歌っているのなんて、初めての事で新鮮だった。普段の
雅春からは想像ができない。
 やがて、エプロン姿の雅春が両手に皿を持って現れた。素敵な
姿に胸が締め付けられる。鼻歌を歌う雅春も、エプロン姿で料理を
持つ雅春も、理子だけのものだ。誰もこんな雅春を知らない。
そう思うと、優越感が湧いてくる。
「理子、大丈夫か?」
 心配そうに訊ねる雅春に、理子は微笑んで頷いた。
「考えてみたら、留守にするから食材は何も用意してないんだよな。
何を作ろうか迷ったよ」
 言われて食卓に着くと、テーブルの上にはスバゲティが乗っていた。
コンビーフと根菜で炒めたようだ。
 結婚式の為に3日間家を開ける為、生鮮食品は全て使い切っておいた。
あるのは乾物と缶詰に根菜くらいだった。それでも雅春の作った
料理は美味しかった。
「旨いか?」
 と訊かれたので「とっても」と答えると、嬉しそうな顔をした。
「午後は買い物に行かないといけないな。ついでに、理子の運転の
練習もしないとな」
「いいんですか?」
「勿論さ。でないと、早く一人で運転させられないよ、心配で」
「なんだか、凄く傷つきますね。私、教習所では上手いって
言われてたんですよ」
「教習車とスポーツカーは違うんだぞ。車高が低いから、車両感覚を
掴むのに苦労すると思うけどな」
雅春は少し厳しい顔をした。理子はそれが何だか気に入らない。
癪に障る。
 だが、実際、NSXの運転席に座ってみると、確かに教習車とは
全然違った。そもそもボンネットが長いし、車高が低い分余計に
そう感じる。それに、視界も良好な感じがせず、少し恐怖感を
覚えるのだった。
 いつも座っている助手席とはまた違った感覚だ。
「どうだ?違うだろう?」
 雅春の言葉に理子は頷いた。
 エンジンをかける。低くて深い音がした。クラッチを踏んで軽く
足を上げたが、半クラッチの感覚が違うのに戸惑った。
「先生・・・、なんか怖いかも・・・」
「そうだろう?だから言ったじゃないか。とにかく、落ち着いて、
五感を研ぎ澄ますんだ。足から伝わってくる感覚と耳から伝わって
来る感覚を大事にして、丁寧に」
 雅春に言われて、集中した。半クラ状態になるまでに、随分足を
上げる感じがする。教習車の時は、もっと少ない上げで良かった
だけに、中々半クラ状態にならないのを怖く感じる。上げ過ぎたら
エンストだ。何度か繰り返し、なんとか半クラッチの感覚を
掴んでから、発進した。
 ギアチェンジをするが、ギアの感覚も違う。ついつい慌てて、
急いでチェンジする理子に、雅春は「落ち着いて」と何回も繰り返した。
 マンションの駐車場の出入り口は広めなので、あまり神経を
使わずに出れたが、出ると下り坂だ。下り坂はまだ問題無い。
坂下で一端止まり、左右を確認してから右折した。半クラッチは
スムーズに出来たのでホッとする。
 その後、雅春に言われる通りに周辺を走った。大通りは何の
問題も無いが、この辺は起伏が激しくて、何度も坂を上ったり
下がったりするので、坂の途中の信号で捕まった時には、緊張した。
教習所では、坂道発進は得意だった。すぐにサイドブレーキを
使わずに発進できるようになったが、初めての不慣れな車だけに
緊張する。
「半クラの感覚は掴めてるんだから、自信を持って発進するんだ。
もし失敗したら慌てずにブレーキを踏んでサイドを引けば
いいんだから」
 理子はバックミラーを覗いた。後続車がいる。しかも、
かなり車間を詰めていた。
「先生、後の車が結構、車間詰めて来てるんですけど・・・」
 不安げに言う。
「怖がる事は無いさ。エンストしたらすぐにブレーキを踏めば
いいんだ。肝心な事は慌てない事だ。もう、半クラ状態になって
るんだから、そのままですぐにアクセルを踏み込めば問題はない。
俺がそばにいるだろう?」
 雅春にそう言われ、理子は落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせた。
 信号が青に変わった。すぐさまブレーキから右足を外して
アクセルを踏み込みながら、クラッチの上にある左足を上げた。
自分で思っていたよりもスムーズに発進できた。
「上手いじゃないか」
 と、雅春が明るい声で言った。理子は安堵の吐息を吐く。
やれやれである。
 この後、雅春に言われて、あちこちを走った。交通量が比較的
少ない住宅街の坂道で、何度も坂道発進をさせられた。また、
勾配の急な坂でも何度もトライした。しつこいくらい繰り返し
坂道発進をし、理子も自信が付いてきた。そして今度は少しずつ
狭い道へと誘(いざな)われ、右左折の練習をした。車高が低く
前が長いので、狭い道での右左折には神経を使う。だが理子は、
既に車両の感覚を掴んでいたので、数回で楽に出来るようになった。
その後、幅寄せやバックを練習し、やっと、買い物場所である
スーパーマーケットへと向かったのだった。スーパーの駐車場で
車庫入れをする。広い駐車場だったので楽勝だ。教習所でも、
車庫入れは得意だった。
 車を降りた時、疲れがドッと出て来る感じがした。かなり神経を
使ったみたいだ。
「先生、車の運転がこんなに疲れるものとは思ってませんでした」
 理子は雅春の腕にしがみついて、そう言った。
「でかい車だからな。でも君は、教習所の先生から褒められたのも
伊達では無かったな。この数時間で、ほぼ掴んだじゃないか。
感心したよ」
 優しい顔でそう言われて、嬉しくなる。
「でも、まだ暫くは一人じゃ不安です・・・」
 そう言う理子を、雅春は抱き寄せる。
「暫くは俺がそばに乗ってるよ。でもすぐに自信を持てるようになる。
君なら大丈夫。車好きの君の事だ。じきに運転するのが楽しく
なるんじゃないかな」
 買い物を済ませて、再び理子の運転でマンションへと帰った。
もう随分馴れた気がした。マンション内の駐車場でも楽に車庫
入れが出来て、ホッとした。
「お疲れ様。君は本当にセンスがいい」
 雅春はそう言うと、理子の頭に口づけた。理子はドキンと胸が
高鳴った。頬を染めて雅春を見上げると、優しく微笑む素敵な顔が
そこにあった。場所は駐車場である。周囲には誰もいなかったが、
外である事には変わりは無い。
 理子は慌てて目を逸らすと、トランクを開けて荷物を取り出した。
雅春がすぐに傍に来て、「俺が持つよ」とその荷物を取り上げた。
 本当に、一緒に居るとドキドキする人だ。理子は荷物を持つ
雅春の隣に並んで歩いた。買い物中にも思ったが、雅春と並んで
歩いていると、昨日の結婚式を思いだして頬が火照って来る。
 在学中は、いつも遠くから気付かれないように見ているだけで、
一緒に並んで歩いたのは数える程しか無い。そのせいか、未だに
こうして並んで歩く事を新鮮に感じるし、胸がときめく。既に
全てを知っていると言っても過言ではない仲なのに。
 部屋へ入り、買ったものを所定の場所にしまったところで、
取り敢えずお茶にした。神経が疲れている感じなので、カモミールティ
を淹れる。リンゴのような甘い香りがするが、勿論味はリンゴでも
ないし、甘くも無い。この香りを嗅ぎながら飲むと、
心が落ち着いてくる。
「何だか、ゆったりした気分になってくる」
 と、雅春が感想を述べた。
「カモミールにはリラックス作用や鎮静作用があるんですよ。
神経系に効果ありです」
「ふう~ん。よく知ってるな」
「ハーブ、アロマ、オーガニック系は詳しい方です。好きなので」
「だから、スパイスとかも凝ってるんだな」
 雅春が感心したように言った。
 理子は普段の料理にふんだんにハーブやスパイスをブレンドして
利用している。シンプルな料理でありながらとても美味しいのは、
それらを工夫しているからだ。
「ハーブは元々薬草ですから。太古からの人の知恵の結集みたいな
ものです。飲むだけでは無くて、塗ったり傷口に直接湿布したり。
有効成分だけを抽出するようになったのが、アロマオイルですし。
フランスでは東洋の漢方薬のように、医者が薬として処方して
ますからね。日本では雑貨扱いですけど」
「えっ?雑貨扱いなの?」
「そうなんです。薬効のある物質なのに。日本では香りを楽しむ程度
ですからね。でも抽出液ですから。濃度めちゃくちゃ高いわけで、
本当は取り扱いは要注意なんです」
「そう言えば、我が家も時々、いい匂いがするよね。芳香剤なのかと
最初思ったけど、どこにもそれらしい物は無いし。あれって、
もしかしてそうなの?」
 雅春は、家へ帰って来ると、時々とても良い匂いがほんのりと
漂っているのを感じていた。その匂いは日によって違う。甘い感じの
時もあれば、柑橘系のような時もあるし、爽やかな時もある。
そして、それは入浴の時にも感じていた。
 最初は芳香剤なのかと思ったが、それにしては花の匂いを嗅いで
いるような、自然な感じだった。それに、芳香剤らしき物はどこにも
見当たらない。日によっても香りが違うから不思議だった。
「あれは、アロマオイルです。そのもの自体は濃度が濃いから匂いも
きついので、薄めて使うんです。自然の匂いであっても、きついと
頭痛や吐き気を催しますから、微かに香るように調整してます」
「日によって、匂いが違う気がするんだけど」
「その日の体調や気分によって変えてるんですけど、先生の学校の
スケジュールも参考にしてるんですよ」
 理子はそう言って笑った。
「俺のスケジュール?」
「はい。日本史の授業がある日とか、補習クラスの授業がある日とか、
会議とか出張とか研修とか、色々あるじゃないですか。それに
合わせて疲労度も違うでしょうからね」
 理子の言葉に、雅春は驚いた。自分の仕事の内容まで把握して、
それに応じて香らせるアロマを選んでいるのか。そう言えば、
よく考えてみれば食事の内容も考慮されてるような気がしてきた。
自分がその時に何となく欲しているタイプの料理が出て来る。
「君、凄く気を使ってくれてるんだね」
 雅春はしみじみとそう言った。雅春の言葉に理子は頬を染めて、
「そんな事はないですよ」と言った。


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