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小説・クロスステッチ第2部 <完>
4.愛の前では ~ 6.噂


クロスステッチ 第二部 4.愛の前では 03

2010.08.12  *Edit 

 駄目だ。自分にはそんな事はできない。どうしても彼女を
欲するならば、まずは自分の身辺を整理してからだ。自由に
なってからでなければ、堂々と彼女を愛する事はできない。
好きだから、愛する存在だからこそ、大切にしたい。傷つける
存在ではなく、守る存在になりたい。
 理子自身は、どうなのだろうか?もし自分が妻帯者だったと
したら、彰子と同じ道を選ぶのだろうか。そして、苦しみながら
愛するのだろうか。
「理子・・・」
 雅春は、まだ戻って来られない理子に呼びかけた。雅春の
呼びかけに理子の瞳の揺れ幅が大きくなった。
 理子は腕を伸ばすと、雅春の首にその腕を回して雅春を自分へと
抱き寄せた。
「先生・・・、どうしよう?」
 小さな掠れ声で理子はそう言った。雅春はそんな理子を
優しく抱きしめた。
「どうかしたか?」
「先生が・・・、好き過ぎて、・・・現実に戻りたくない・・・」
 理子の言葉に驚いて、雅春は理子を見た。
 理子は潤んだ瞳で、やるせないような色を浮かべていた。
「ずっと、こうしていたい。ひとときも、先生のそばを離れたくない。
先生のぬくもりを、ずっと感じていたいの」
 理子は震えながらそう言った。
 雅春は、そんな理子の髪をそっと撫でて、額に軽く口づけをした。
「理子。それは俺も同じ気持ちだよ。だが、だからと言って、
現実に戻らないでいたら、結果的には破滅する事になるだろう?
生きてはいけなくなる」
 雅春の言葉に、理子の瞳が大きく揺れた。
「俺も君を、ひとときも離したくない。ずっと君を感じていたいよ。
姉貴に言われて二日間離れていたが、これまで休日に逢えないで
平気でいられた事が不思議な程、物凄く寂しかった。今朝、
君の姿が見えなくて酷く不安になったのも、君と離れていられなく
なったからだと思う。だがこれからは、こういう寂しさに耐えなきゃ
いけないんだ。離れていたって、俺達はひとつだ。そう思って、
これまで頑張ってきた筈だ。そして結婚した。お互いに
お互いの帰る場所になったんだ」
 理子はジッと雅春を見つめた。その瞳は、現実の光を
取り戻しつつあった。
「先生が好きよ・・・」
 理子は高くて綺麗な声で、そう言った。雅春は笑みを浮かべて頷いた。
「こんなに好きになってしまうなんて・・・。両思いになったのに、
それでも身を焦がす程よ。これが片思いのままだったら、きっと
死ぬほど辛い思いをしていたと思う」
 雅春は、理子の唇に優しくキスした。
「君は、もし俺が妻帯者だったらどうする?妻帯者のまま、
君を愛し、求めたら」
 雅春に問いかけられて、理子は少し沈思した。
「愛の前では全ては無効・・・。あなたが全てを擲(なげう)ってまで
私を愛してはくれなくても、私はきっと、あなたには逆らえなくて、
あなたにどこまでも付いて行くと思う。それが例え破滅への道でも。
最後には捨てられるとしても」
 理子の言葉に、雅春の心は打ち震える。
「理子。そんな恋愛は駄目だ。人を破滅させる恋愛なんか、
するものじゃない」
 真剣な眼差しでそう言う雅春に、理子は笑顔になった。
「もう既に先生のものだし、先生だって私のものなのに、一体いつ、
そんな恋愛をするんです?」
 理子に笑顔でそう言われて、雅春は目をぱちくりさせた。
「先生が妻帯者でなくて、良かった。そして、私を選び愛して
くれた事に感謝してます。それから、全てを擲つ程、私を
愛してくれている事にも」
 優しく微笑んでそう言う理子は、まるで聖女のように清らかで美しい。
今さっきまで快楽の淵に漂っていた女とは思えない。彼女を幾ら
犯しても、彼女はいつまで経っても清らかなままだ。女にはなっても、
清らかさは変わらない。彼女と交わる事で、自分まで浄化されて
いくような気がしてくる。
 不倫と言う、泥沼のような愛欲の中に溺れても、彼女は矢張り
清らかなままなのだろうか。蓮の花のように、泥の中にあっても
染まらず汚されず、泥の中で清らかに美しく咲くのだろうか。
彼女を見ていると、そんな思いが湧いてくる。
「先生は何故、自分が妻帯者だったらどうする?なんて質問を?」
「うん・・・。ふと、彰子を思い出してしまったんだ。俺が彰子を
知った時、ちょうど今の君と同じ年だったからさ。彼女は既に
女として出来あがっていた。入院している時に本人から聞いたんだが、
高校在学中に担任と不倫をしていたそうなんだ」
 雅春は理子の髪を撫でながら、彰子から聞いた事を話した。
「彰子さん、今は古川さんと上手くいってるんですよね?」
「ああ。順調みたいだ」
「良かった。古川さんなら、きっと彰子さんの過去も含めて、
丸ごと大事にしてくれるだろうから・・・」
 理子が安堵の溜息を吐いた。
「古川の事、よくわかるな?」
 雅春の驚いた顔を見て、理子は微笑んだ。
「何となく伝わってくるものがあるんです。面白いけど真面目で誠実。
細かい事に拘らなくて懐が深い・・・。それから、見た目よりもシャイ。
そんな感じがするんですど」
 理子の言葉に雅春は感心した。全くその通りだからだ。
僅かに数度会っただけなのに。
「古川さんだからですよ?誰の事でも解る訳じゃないですから。
古川さんは解りやすいと言うか……。他の人の事は全然解りません」
「いや。あいつは見た目通りの人間じゃない。だが、あの見た目で
女からは人気が無い。なのに、君はあいつの本質を見抜いてる。
凄いと思うよ」
「先生のお友達だから、何となく解るんです。そうで無かったら、
私にも解らないです」
「何故、俺の友達だから解るんだ?」
「先生と同じ匂いがすると言うか。共通した部分を感じるんです」
「俺とあいつが?」
 理子は頷いた。雅春は驚く。古川とは対照的だと、
よく言われてきたからだ。
「先生と古川さんは、全然似て無いですよ。タイプが全く違うと
思います。でも、根底の部分で共通したものを持っていると言うか。
だからお互いに惹かれるんじゃないかと思うんですけど」
 成る程。根底の部分で共通しているか。そう指摘されれば、
そうかもしれない。人間として共通したふれあう部分が無いと、
親しくなれないのかもしれない。
「人を好きになってしまったら、条件なんて関係ないんですよ。
例え相手が結婚していようと、受け入れて貰えるなら、喜んで
そこへ身を投じてしまうものです。彰子さんは、最初は躊躇ったと
思います。憧れの段階だったんでしょうし。でも、相手から情熱的に
何度も求められたら、拒むことなんて無理です。相手が求めるまま、
どんどん落ちて行ってしまう。それでも、ちゃんと東大に合格
してるんだから、彰子さんって凄い人ですね」
「俺も、彼女から話しを聞いた時、そんな事がありながら東大へ
入った彼女を凄いと思った。彼女は俺との時に既にかなり
経験豊富だったから、余計にな」
「私だったら、とてもじゃないけど無理ですね。東大どころか、
大学受験そのものも失敗してるかも。元々、出来る方じゃないですから」
雅春は理子を見た。
「東大はともかく、受験に失敗するという事は無いんじゃないのか?」
 理子は頭を振った。
「私は駄目です。行く所まで行ってしまったら、流されてしまいます。
私は元々、自分に甘い人間なんです。きっと愛欲に溺れて、
何も手に付かなくなる」
「君が?」
 雅春は理子の言葉に驚いた。流されそうで流されないのが彼女だと
思っていたし、今でもそう思っている。
 理子は雅春の方を見た。珍しく鋭い目をしている。
「先生が私を誤解している事は、知っています」
 理子の言葉に、雅春は衝撃を受けた。俺が彼女を誤解している?
一体、何をどう誤解していると言うのか。
「行く所まで行ったら流される。流されたら戻っては来れない。
自分で自分がわかっているから、そうなる前にいつも手を打ってるんです。
いつだって、楽な方、楽な方へと行こうとする傾向にあるんです、私は」
 雅春が、自分の事を流されそうで流されない女と思っている事は
知っている。雅春との事で、何度も流されそうになりながら踏み留
まって来たからだろう。だが、踏み留まれたのも、流されまいと抵抗し、
二人きりで逢うのを避けて来たからだ。
 もし、雅春が望む通りに逢っていたら、早い段階で確実に
流されていただろう。そうなっていたら、とても勉強なんて手に
付かない。毎週逢って交わっていた、親友のゆきと同じ道を
辿ったに違いない。そうなったら、もう戻っては来れない。
卒業したら、そのまま結婚して毎日雅春の帰りを待つだけの女に
なる事を厭わなかっただろう。
「自分がそういう人間なんだと言う事を、私はよくわかってるんです。
だから、ずっと先生を拒んで来たんです。私が彰子さんだったら、
先生の言葉を信じて、卒業後に結婚する事を夢見て、勉強なんて
全くしなかったと思います。だから本当は、私なんかより
彰子さんの方がずっと強い女性ですよ」
 雅春は、理子が流されまいと、ずっと努力していた事は知っていた。
雅春からすれば、既にその段階でそう出来る事自体が、
強い事だと思っている。
「もし、それで捨てられたら、君はどうなるの?」
「脱け殻になると思います。自分を取り戻すまでに、何年も
かかるでしょうね」
「君は本当は、弱くて脆いと言う事なんだね」
「そうです」
 そう言う理子を、雅春は優しく抱き寄せた。
「そう言えば君は、これまでにも、何度かそういう事を言っていたね。
だけど、自分の事を知っていて、ちゃんと予防線を張れるって
事だけでも、俺は凄いと思うけどな。多くの人間は、それが
出来ないから簡単に行く所まで行ってしまう」
 理子は、雅春がそう言ってくれて嬉しかった。
「君はさ。親子関係で色々な思いをしてきてる。普通だったら、
非行に走っていてもおかしくない。反抗して小さな諍(いさか)いを
何度も起こしてはいても、自暴自棄になったりしなかったのは、
堕ちるのは簡単だが、堕ちてから這い上がるのは至難の業じゃないと
言う事を、君は知っているから耐えて来たんだと、俺は思っていた。
君は、そういう人間だと言う事を、俺は随分前から知っていた」
「先生・・・」
 理子が驚いて雅春を見ると、雅春はとても優しい目をしていた。
「君が、流されまいとして必死に、俺と逢わないでいる事を
選択している事だって、ちゃんとわかってたさ。わかってはいたが、
心が付いて行かなくて、何度も無理を言って君を困らせてしまった。
だが、もしそれで君が俺ともっと頻繁に逢って、流されそうに
なったとしたら、今度は逆に俺の方が歯止めをしていたと思う。
そうしたら、君の方が、今度は恨みごとを言ったりするんだろうな。
それで結局、喧嘩になるんだ」
 そう言って雅春は笑った。


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