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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロッステッチ 第二部 3.結婚式 03

2010.08.04  *Edit 

 結婚式当日。
 穏やかに晴れた、青空の綺麗な朝だった。爽やかな陽気だ。
今日も理子は変わらず5時起きだ。昨夜は隣の部屋の優子が
やってきて、「一緒に寝たい」と言うので、一緒に寝た。
 吉住家は、理子が中学へ入学する時に増築した。その前は
平屋だった。その平屋の時に、姉妹は同じ部屋で寝起きしていた。
だから、一緒に寝るのはそれ以来だ。6年ぶりになる。
 理子が東大受験を決めて、勉強に時間を費やすようになる前は、
一緒に買い物へ行ったり、ゲームをして遊んだりして、共に時間を
費やしていた。仲の良い姉妹だから、これからも助け合っていく
つもりだが、これまでのように共に過ごす時間は、激減する。
そう考えると、少し寂しい気がした。
 理子にとっての優子は、とろくさい妹だ。だから、放っておけない。
いつもどこか抜けていて、ドジばかり踏む。気は強いのだが、
他人には気を遣って内向的だ。だが優しい子だから、友達は多い。
そう言う点では、理子の方が孤高かもしれない。
 二人は寝ながら、子供の時の話しをした。いつも怒りの感情の
渦の中で、肩を寄せ合うようにして育ってきた二人。喧嘩もよくしたが、
矢張り、妹がいてくれて良かったと思う。この家で、子供が自分
だけだったなら、どんなにか孤独に感じただろう。生きている事を
空しく思ったかもしれない。人間不信に陥っていたかもしれない。
そうならずに済んだのは、妹の存在があったからだと思った。
「優ちゃん。色々とありがとう。お姉ちゃん、優ちゃんがいて
くれたから、寂しく思わないで済んだ。優ちゃんを羨ましく
思う事は度々あったけど、憎く思ったり妬ましく思ったりした事は
一度もないからね」
「お姉ちゃん、あたしこそ、色々ありがとう。お姉ちゃんが
あたしの面倒をよく見てくれて、本当はいつも嬉しかったんだ」
 妹は、ずっと姉の姿を見て来て、何度となく同情した。自分よりも
しっかり者で頭の良い姉を羨ましく思ってきたが、いつも母と
やり合っている姉への母の仕打ちは行き過ぎだと思っていた。
自分は、二人の確執を見て来たからこそ、上手く立ちまわって
来れたと思っている。姉は、自分の風除けになってくれていた。
 大抵は、口ごたえをする姉に対して、これでもかと言うくらいの
仕打ちをする母だったが、虫の居所が悪いと、何の非も無い優子へも
八つ当たりをする。姉はそんな時、いつも優子を庇ってくれた。
これからは、もう、自分を庇ってくれる人はいないんだ、と思うと、
先行きに不安を感じる優子だった。
「優ちゃん。お姉ちゃんは結婚しても、姉妹は姉妹だからね。
困った事があれば、いつでも助けを求めて来ていいんだよ。
お母さんは、優ちゃんには多分、お姉ちゃんほど辛く当たる事は
無いと思うけど、辛い時はいつでも頼ってきて。一人じゃ無いんだからね」
 一人では無い。それはとても重要な事だ。 
「うん。ありがとう。そうする」
 二人はそう言って、手を取り合って眠った。
 いつもの時間に起床して、隣に眠る妹を見た。一緒に寝ていた時は、
小学校低学年で、まだ小さい子供だった。体の方の成長も遅くて
小柄だったが、今ではもう理子よりも背が高くなっている。
それでも、寝顔はまだ幼い。
 そっと着替えて階下へと行き、庭へ出た。空は明るくなっていて、
気持ちの良い朝だ。天気が良くて良かった。植物に水をやり、軽く
運動をしてから中へ入り、朝食の支度を始めた。家を出るのは8時だ。
いつも朝の遅い家族も、今日ばかりは早く起きてくるだろう。
 披露宴は13時からなので、朝はしっかり食べておかないと大変だ。
そう思って、理子はボリュームのある朝食を準備した。皆は6時半に
起きて来た。父は家から支度をしていくが、母と妹は式場の方で
着付けと化粧をしてくれる事になっているので、特別に装って
出る必要は無く、その分、楽だった。
「今日の主役だって言うのに、朝食の準備か」
 と、父が言った。
「だって、結局、一番先に起きるのは私だから。まぁ、これが
最後の朝食なんで」
 理子はそう言って笑った。この先は、ここへ来ても泊まる事は
まず無いだろう。
「お姉ちゃん、緊張はしないの?」
「うーん。ちょっとだけ」
 家族揃って朝食を食べるのは、旅行の時くらいしかない。
「毎朝、どんな朝食を作ってるの?」
 妹が訊いた。
「どんなって言われてもねぇ。こことそんなに変わらないと思うよ。
ホームベーカリーを買って貰ったから、焼きたてのパンが多いかな」
「ホームベーカリーがあるの?」
「うん。この間来た時に、気付かなかった?縦長の炊飯器みたいなの。
あれ、結構優れ物。思っていたより美味しいんで、はまってるんだ」
「それはいいなぁ。お父さんにも今度食べさせてくれよ」
 宗次は和食党でありながら、パンは割と好きだった。ただ、気が
向いた時しか食べないし、母はパン好きな方ではないので、
吉住家ではパンは常備されていない。
「相変わらず早起きしてるの?受験は終わったのに」
 と母が言った。
「うん。もう習慣になっちゃって、目が覚めちゃうの」
「でもこれからは通学時間もかかるし、今までみたいに早く
寝れないんじゃないの?」
「まぁね。でも基本的には夜更かしはしないし、若いから
少しくらいは平気」
「結婚すると、自分自身の自由な時間なんて、あんまり
無いんじゃない?」
「それは、仕方ないでしょ。自由な時間が欲しいなら、
結婚なんてしない事よ」
「あら、結婚した人の口からそんな言葉を聞くとは思って無かった」
 晴れの日だと言うのに、喧嘩を売りたいのかと思う程、
不愉快になってくる。
「でも事実じゃない。自由でいたかったら一人でいるしかないのよ」
 理子は、ずっとそのつもりでいた。早くここから出て自由に
なりたかったからだ。誰にも縛られずに自由気ままに生きて
いけたらと何度思ったかしれない。雅春と出会い、愛し、愛される
ようになってから、その気持ちは変わった。
「なのに理子は結婚したのよね」
 母が理子を真っすぐに見据える。
「そうよ。私は自分で選んだの。自由でない方をね」
 理子はそう言って、笑った。何の後悔も無い。
「それでいいのね?」
「勿論よ」
「お母さんは、理子にはもっと自由に生きて貰いたかった」
 母が意外な言葉を口にして、理子は驚いた。散々、人を束縛し、
自分の考えを押し付けてきた人が、そんな事を言うなんて。
「お母さんは、学校は出たけれど、これと言ってやりたい事は
無かったし、結婚して一生懸命子育てをしてきたけれど、本当は
もっと社会で活躍したかったのよ。理子はそこそこ勉強はできるし、
活動的だし、プロモーターになりたいとか言ってたし。だから大学へ
行って一生懸命勉強して、男に頼らなくても一人で生きていける
だけの力を付けて頑張って欲しかった」
 素子は、専業主婦を否定しているわけではない。だが、元々他人で
ある夫婦の絆の脆さを思う時、社会的に自立できる力を持たない主婦は、
別れたいと思っても簡単に別れる事はできない。自分の夫は稼ぎは
少ないが人は好い。だが、結婚して豹変する男だっているし、
最初は良くても、挫折して家族に迷惑をかける男もいる。
 死別と言う事もある。人生、何が有るかわからない。理子には、
男に頼っているだけの女になって欲しく無かったし、家庭に縛られる
よりも、自由に自分の人生を生きて欲しいと思っていたのだった。
 確かに雅春は良くできた男だと思う。若いのにしっかりしているし、
頭も良い。思いやりもあるし、理子を深く愛しているのも伝わってくる。
生活も安定している。だが、それでも素子は納得しきれないでいた。
航海で言えば、やっと碇を上げて船出すると言うような時期なのに、
安定した港に再び碇を下ろし、せいぜいが近海を小舟でちょこちょこと
出るくらいに過ぎない人生を選んでしまったと思っている。
 大学を卒業し、社会に揉まれた上での選択なら、それはそれで
仕方が無い。だが、まだ船出もしていない。世間の何も知らないまま、
自分の人生を狭めてしまった。この先、もっと羽ばたきたいと
思った時、結婚が枷になって自由に選択できないのではないかと、
素子は心配している。
 早すぎる選択だと、思わずにはいられないのだった。だから、
ついつい、何かと厭味や皮肉を言ってしまう。愛する男と結婚し、
幸せそうに喜んでいる娘と、一緒に喜べない。結婚こそが女の幸せとは
思っていない素子にとっては、こんなに早く結婚してしまう娘を
残念に思えてしょうがないのだった。
「結婚式の当日に、こんな事を言って悪いとは思うけど、お母さんの
気持ちも少しは汲んで欲しくてね。親は多かれ少なかれ、自分の
出来なかった事を子供に夢見るものなのよ」
 理子は母の気持ちを聞いて、少し胸が痛んだ。親には親の思いが
ある。子供からしたら、親のエゴだと思うが、子供を産み、育てる
と言う事を考えると、自分はまだ経験していないが、
推測することはできる。
自分も子供が産まれたら、自分なりの思いを抱いて子育てを
するのだろう。その思いは、必ずしも子供の意に沿ったものとは
限らないし、逆に意に沿わない方が当たり前なのかもしれない。
それでも、親は一生懸命に子供を育てる。
「お母さん。お母さんの気持ちを言ってくれて有難う。それを聞いて、
胸が痛むけど、でも、愛されてるんだなって実感も湧いてくる。
子供の為を思うからこそ、転ばぬ先の杖のような心配をするんだよね。
ただ、どう転んだって、自分の人生だから。自分で悩んで困って
苦しんで、それでも自分自身の力で生きて行かなきゃならないと
思うんだ。それに、社会的自立なら、結婚しても、自分でそうできる
力をちゃんと付けるつもりだから、心配しないで。卒業したら当然、
働くつもりよ」
「子供はどうするの?女は子供ができたら働けなくなる」
「それは、追々、二人で考えるから。自分の人生なんだから、
自分で考えて自分で選択する。後悔しないようにね。でも、
後悔するような事になっても、それはそれで自分が悪いんだから
しょうがない」
「そうだね。ただ、子供は卒業するまでは作らないようにしないと。
学生時代は、勉強する事が仕事のようなものだから。子供が出来たら、
大学へ通うのは大変になるし、留年する事になるかもしれない。
そうしたら、その後の就職にも影響が出る」
「わかってるって」
 理子は心配性の母に笑顔を向けた。
「さぁ、もうそろそろ出かけないと」
 理子は立ちあがった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>水聖様 

水聖さん♪

コメントありがとうございます。

親には親の思いってのが、あるようですね、やっぱり。
この二人は、親子でありながら、違い過ぎるんですよ。
モノの見方感じ方が全然違うんです。
だから、互いに相手の気持ちが理解できないようで、
どうしても摩擦が生じてしまうのだと思います。

でも、親子で反目してるのも悲しいですよね。
分かりあえる日が来て欲しいものです。

NoTitle 

お母さんもちゃんと理子ちゃんのことを考えて愛してくれていたんですよね。でも、なかなか伝わらなかったという。
親子関係というのも難しいものですね。
理子ちゃんとお母さんと先生、みんなが分かり合えるようになってほしいです。
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