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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 2.新しい風 07

2010.07.29  *Edit 

 一人で駅まで行き、目についたカフェに入ってみた。いつも、
通学と買い物しか、通った事が無い街なので、まだどこに何が
あるのか、よくわからない。一人席に着き、コーヒーを頼んで、
ぼんやり店の中や外を眺めた。何だか異邦人にでもなったような
気分だった。見知らぬ街、見知らぬ風景、見知らぬ人達・・・。
 理子はバッグから携帯を出した。開くとそこには、雅春がいた。
ずっと、したくても出来なかった、待受け画面である。理子の大好きな、
眼鏡を掛けた綺麗な顔が、理子に向かって微笑んでいる。
 なんだか泣けてくる。どうして、こんな風になってしまったのだろう。
自分でも、あんなに簡単に切れるとは思っていなかった。
一緒にお風呂に入るのは、できれば避けたかった事だったのに、
ついつい、譲歩してしまった。譲歩したのは自分だ。雅春は強要した
訳ではないし、強引だったわけでもない。「諦める」と言ったのに、
情にほだされて了解したのは自分なのだ。
 それなのに、自分は譲歩したのに、何故、先生の方も少しは譲歩
してくれないのかと、勝手に思ってしまった。雅春が、どれだけ
理子を欲しているか、よくわかっている筈なのに。ただ、理子は
疲れていた。たまにはゆっくり休ませて欲しい。その気持ちを冷静に
伝えれば良かったのに、切れてしまったのだった。
 そうして、感情に任せて随分な事を言ってしまったと思う。
尊敬する先生に対して、えらく高飛車な言い方をしてしまった。
とても、目上の人に対する態度ではない。あんな口の利き方をして、
雅春はよく腹が立たないものだ。
 結婚式を一週間後に控えていながら、こんな事をしていて
良いのだろうか。
 携帯が鳴った。雅春からの電話だ。慌てて出る。
「理子、今どこにいる?」
 とても、心配そうな声だ。
「駅の近くの喫茶店です」
「良かったら、これから二人で外で夕飯を食べないか」
「・・・わかりました」
「じゃぁ、今からそこへ行くから、待ってて」
 理子は雅春に店の名前を告げると、携帯を切った。時計を見たら、
もう6時を過ぎていた。いつの間にか、そんなにも時間が過ぎていた。
5分程で雅春はやってきた。入口に雅春の姿を認めて、理子はすぐに
伝票を持ってレジへと進んだ。雅春は優しい顔をしていた。
会計を済まし、二人で外へ出る。雅春は理子の手を繋いだ。
大きくて温かい。胸が熱くなってくる。
「理子、ごめん。君を傷つけるつもりは無かったのに・・・」
 雅春がそう言った。理子は首を振った。
「夕飯って、どこへ行くんですか?」
 理子は明るく、そう言った。その理子の様子に雅春は安堵した
ような顔をした。
「うん。創作料理の穴場の店があるみたいなんだ」
 雅春はそう言うと、大通りから脇道へ入り、何度か角を曲がって
静かな界隈へと足を運んだ。目立たない場所に、ポツンとお洒落な
店があった。中に入ると、そういう場所でありながら、まだ早い
時間であるにも関わらず、7割がた席が埋まっていた。
 落ち着いた雰囲気の店だった。各テーブルの間に工夫して植物が
置かれていて、共通スペースでありながら独立した席のようになっている。
 二人は案内された席に付き、メニューを広げた。色々と豊富だったが、
初めてなので、よくわからない。周囲を窺うと、ジャンルを特定で
きそうにないけれども、とても美味しそうだ。取りあえず、
初回なのでシェフのお勧めコースを注文した。
「先生・・・」
「ん?」
「ごめんなさい。先生に対して、あんな態度をとって」
「いや、いい。そうさせたのは俺なんだから」
「でも、幻滅したんじゃないですか?」
「幻滅なんか、するわけがない。君はいつも、知らないうちに溜め
こんでるんだよな。それで、思わぬ時に切れて爆発する。
そうなる前に、言ってくれればいいのにって思うが、結局のところ、
俺がそうさせない状況を作ってるんだものな。だから、俺が悪いのさ。
君が気にする事は無い」
 そう言う雅春の顔はとても優しい。大人の顔だ。
「俺さ。一つ気付いた事があるんだ」
「何ですか?」
「君は怒ると、言葉づかいが変わって俺より年上みたいになる。
でもって、俺は、そんな君の前では子供みたいになってオロオロ
するんだ。立場が逆転する」
 雅春はそう言って、頬にエクボを作って笑った。
「ごめんなさい」
 理子は赤くなって謝った。
「何で謝るんだよ。君に謝って欲しくて言ってるんじゃない。
教師と生徒、大人と子供、普段はそういう立場の二人が逆転するんだぜ?
こんな面白い事ってないと思わないか」
「先生、もしかして楽しんでるんですか?」
「そうだな。楽しんでるのかな。俺、この立場が逆転してる時って、
実は好きなんだよ。俺って、もしかしたらマゾかもしれない」
 そう言って笑う雅春が、とても可愛いらしく見える。
「先生は、普段はとっても大人っぽくて、ついつい寄り添いたく
なるような雰囲気なのに、その一方で、少年のように
可愛らしかったりしますよね」
「それで、君はどっちが好きなのかな」
「どちらも、好きです。それ以外の色んな顔も、全て」
 そう言う理子に、雅春は微笑んだ。
「俺も、君の色んな顔が好きだ。怒った顔もね」
 二人は、間もなく運ばれてきた料理に舌鼓をうち、楽しい食事の
時間を終えた。そして、店を出て、手を繋いで帰途へと着く。
 二人で夜の街を歩くのは初めてだった。人並みの恋人同士が
する事をこれまで出来なかっただけに、何もかもが新鮮な気がする。
「あと一週間で、結婚式だな」
 雅春の言葉に理子は頷く。
「なんか、変な感じがするよな。もう一緒に住んでるのに、
実感が湧かない」
 二人が共に住み初めてから、もう1カ月半以上経っている。
入籍してからでも1カ月ちょっとだ。慌ただしい日々だったと思う。
「やっぱり、結婚式のような具体的な形が無いと、ピンと来
ないんでしょうか」
「うーん、そうかもな。形も大事なのかもしれないな。だけど、
やっぱりピンと来ないのは、二人とも忙し過ぎるのもあるかもしれない。
日々の生活に追われ過ぎてるような気がするよ。結婚イコール
生活ってのも、つくづく頷ける気がする」
「先生。学校での様子はどうなんですか?新年度になって、
先生が結婚したって事、もうみんな知ってるんでしょう?
大騒ぎだったんじゃないですか?」
 理子の言葉に、雅春は苦笑した。
 今年の受持ちの学年は、昨年度に日本史を教えていた関係で、
殆どの生徒を知っている。3学期のブラバンの練習の時に、
雅春の結婚を知った生徒達から、他の生徒達へとジワジワと噂が
広がり、新学期が始まる頃には多くの生徒が知っていた。
雅春の今年の担任は6組だった。始業式の日に教室へ行き、
挨拶を済ませ、出席を取っている時、ヒソヒソとした生徒達の
声がずっと教室内を支配していた。やがて出席を取り終わった時に、
男子の一人が言った。
「先生、結婚したって本当ですか?」
 生徒の言葉に顔を上げて教室内を見回すと、生徒達はみんな固唾を
飲んで雅春の反応を窺っていた。
「本当だ」
 と、雅春が言うと、教室内は騒然となった。
「どうしてですかー?先生、まだ十分若いのに、何でこんなに
早く結婚したの?」
 と、女子の一人が叫んだ。その叫びに、多くの女子が、
「そうよ、そうよ」と同意した。そして、みんなが雅春に注目した。
答えを求めている。雅春は大きく息を吐いた。
「したいから、した。それだけだ。さぁ、廊下に並んでくれ。
体育館へ行くぞ」
 雅春はそう言うと、さっさと廊下へと出たのだった。
生徒達は渋々と並んだ。
 雅春の結婚は、すぐに全校生徒へと広まった。新二年は、日本史の
授業で雅春の指輪にすぐに気付いたし、女生徒達の噂の伝播力の凄さは、
雅春自身、これまでの人生で既に経験済みだ。
 だが、女子高生達のパワーは凄かった。大学時代は、彼女がいれば
積極的にアプローチしてくる事は無かった。勿論、何かとコミュニ
ケーションを図ろうとはしていたようだが、雅春はいつも男友達と
一緒だし、くだらない用件には一切答えず相手にしない。だから
多くは積極的に関わってはこなかった。
 それと言うのも、そこで嫌われてしまったら、雅春が彼女と別れた
時の次の彼女になれる確率がグッと下がるからだった。雅春が彼女と
別れたと知ると、女子達の争奪戦となる。ある意味、早い者勝ちな
部分があった。それは、雅春が面倒くさがったからだ。だが、
しつこい事で覚えられてしまったら、一番先に申し込めても断られる。
雅春はしつこい女が嫌いだ。
 幾ら早い者勝ちとは言っても、しつこい女、生理的に好きになれ
ない女だったら、すぐに断る。断られたら、何度食い下がっても
絶対に駄目だった。だから、大学では、有る程度、節度のような
物が保たれていた。それに、女子大生ともなると、矢張りそれなりに
大人なのか、暗黙の了解みたいな物もあり、弁えていたんだな、
と、今になって思う。
 だが、女子高生は違うようだ。あっと言う間に広がったのは予測
通りだったが、その後の事態は想定外だった。2年と3年の女子が、
引っ切り無しに押しかけて来ては、根掘り葉掘りと、相手の事や、
いつ結婚したのかとか、住まいはどこだとか、訊いてくる。この辺は
まだ想定内だ。赴任してきた時から、プライベートの事を根ほり
葉ほり訊かれ続けて来たからだ。
 困ったのは、文句を言いに来る女生徒の多い事だった。しかも、
その言い様が酷い。まるで雅春に騙されたような言い方をする。
「先生を信じてたのに、結婚するなんて酷い」と言われた時には
閉口した。この三週間のうちに、どれだけの数の苦情を受けただろうか。
 そして、その一方で、早々と事実を受け入れた女生徒の一部が、
雅春が結婚した事を無視するかのように、以前と変わらぬアプ
ローチに出て来たのだった。既婚であっても構わない。好きな
ものは好きなんだと、はっきり言う者もあった。開き直った
としか思えない。
 アプローチには徹底して冷たい雅春だが、進路指導担当の為、
そういう相手だからと言って、普段から無視するわけにもいかない。
そこが教師として辛いところだった。特に受持ちの生徒に対しては
責任がある。
 教師の仕事は教科指導以外の雑務が非常に多い。休み時間は、
大体がそれに追われる。だから、女生徒達が押しかけてくると
仕事が滞るので迷惑だった。下手すると、帰る時間が遅くなって
しまう。一刻でも早く帰りたい雅春にとっては、尚更だ。
 だから、家に帰って理子の笑顔を見、手作りの料理を食べ、会話をし、
その体に触れて一体化する事は、雅春にとっては最大の癒しなのだった。
だが、理子が言う通り、家での時間もあまり無いのも事実だ。



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~ Comment ~

Re: こういうの好きです~>misia2009様 

misia2009さん♪

私も、同じくこういうの好きです(^^)

なんか、いいですよね~。
年下の女の子なのに、立場逆転しちゃって、
大人の先生がオロオロするのって。
こういう時に、逆ギレしない男、大好きe-266

こういうの好きです~ 

「君は怒ると、言葉づかいが変わって俺より年上みたいになる。
でもって、俺は、そんな君の前では子供みたいになってオロオロ
するんだ。立場が逆転する」

目が微笑んでしまいました♪
そして女子高生パワー、納得(笑
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