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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 2.新しい風 05

2010.07.27  *Edit 

「理子、正直に言ってくれないか?今の生活は、理子にとっては
負担が大きいのか?俺との生活を、どう思ってる?」
 理子は黙っていた。どう言ったら良いのかわからない。そもそも、
自分の気持ちが具体的な言葉として浮かんで来ない。できれば、
勘の良い人なんだから察して欲しいと思っている。下手に言葉にして、
感情の行き違いが生じて、無意味に傷つけてしまうのではないか
との不安がある。
 何も言わない理子を、雅春はそっと抱きしめた。そのぬくもりが、
理子の心を温かくする。このぬくもりの中にずっといたいと
思う理子だった。
 やりたい事は沢山ある。本も読みたい。勉強もしたい。
買い物もしたいし、刺繍や編み物もしたいし、ピアノを弾いたり
歌を歌ったり、お茶を点てたり花を育てたりしたい。お城の模型も
組み立てたいし、写真も撮りに行きたい。けれども、この暖かく
優しいぬくもりの中にいると、それら全てよりも、この中に
いたいと思ってしまう。
 雅春の薄い唇を自分の唇に受けた。それだけで戦慄(わなな)く。
 雅春の大きな手が、理子の頬を包んだ。指先が耳たぶの先端に
触れる。それだけで感じてくる。雅春は唇を離して理子を見つめた。
綺麗な顔を間近にして、理子は顔を赤らめる。心臓の鼓動が高鳴って
いるのを感じた。毎日何度も愛されて、とっくに慣れても
いい筈なのに、こうして雅春を間近にし、その吐息を感じるだけで、
ドキドキしてくる理子だった。
「理子・・・。毎日俺に抱かれるのが、辛いのか?」
 雅春が低い声で、そう言った。やるせなさそうな顔と声だ。
そんな雅春を目の前にして、そうだとは言えない。
理子は黙って首を振った。
「理子、遠慮しなくてもいいんだぞ?」
「先生・・・。去年、先生のお宅で桜の下で愛し合ったのを
覚えてますか」
「当たり前だ。忘れるわけが無い」
「あの日、私が言った言葉は?あの時私、受験と言う壁が無かったら、
先生の気の済むまで許してあげたいって言ったように思うんですけど」
「言った。君の言葉に俺は驚いたんだ」
「あの時の気持ち、今も変わってません。そして受験と言う壁が
無くなったんです。だから、先生の気の済むまで、
許してあげたいんです」
「理子・・・」
 雅春は理子を離し、「俺が悪かった」と言った。
「先生?」
「君が好きだ。愛してる。だから、君をやっと得られた事で、
俺は有頂天になり過ぎていた。君の愛に甘え過ぎていたみたいだ。
今それに気が付いた」
 そう言って理子を見つめる雅春は、やるせない表情をしていた。
「先生・・・、私、本当に一日が24時間しかないのが恨めしいです。
先生が大好きだから、先生が気持ち良く幸せに過ごせるように、
お掃除したりお料理したりするのは少しも苦じゃないです。
一日中一緒に、そばにいたいけど、それができないから、先生が
家にいる時間は二人の時間を大切にしたいし、先生を全身で感じたい。
先生の心ゆくまで愛されたい。でも、その一方で、もっと本が
読みたい、勉強がしたい、自分の時間が欲しいとも思っています。
どうしらいいんでしょう?」
 理子は泣きながら、そう言った。本音と言えば、それが本音だ。
ただ、愛だけの為に生きたい気持ちと、自分自身の欲望を
満たしたい気持ち。
 何の為に東大へ入ったのか。もっと勉強をしたかったからだ。
そして、自立したかった。それがやがて、それだけではなく、
雅春と結婚したいと言う目的も加わった。そうして、合格し、
結婚した。やっと叶った二人だけの時間。本当は、それを
一番大切にしたいのだった。
「理子。理子の気持ちはわかったよ。やっぱり、俺の配慮が
足りなかったんだ。少し冷静になって、二人の生活を見直そう」
 雅春はそう言った。
「見直すって?」
 理子が不安そうに訊く。雅春は優しく笑った。
「君が不安に思う事はない。二人にとって、より良くなる為に
見直すんだ。どちらかの為じゃなくて、二人の為に」
 雅春の言葉に、理子は取りあえず安堵した。『二人の為に』
と言う言葉が、胸に響いた。
「まず一つ。これは、俺からの提案なんだけど、君は放課後の
友達との付き合いは、もっと自由にやる事。誘われたら、
なるべく付き合うべきだ」
「それは、嫌です」
 理子はきっぱりと言った。雅春はそれに驚いた。
「どうしてだ。高校時代は、放課後、部活や友人との付き合いを
大切にしてただろう」
「たまには付き合うべきだとは思います。でも、なるべく付き合う
と言うのは嫌です。私は、早く家に帰って、先生に逢いたいんです」
 理子の言葉に、雅春の胸が締め付けられた。何て嬉しい事を
言ってくれるんだろう。雅春も、毎日、一刻も早く帰宅して
理子の顔を見たい思いに駆られている。
「そうか。わかったよ。なるべく付き合う事と言うのは撤回する。
付き合うか否かは君の判断に任せる。ただ、俺に遠慮して、
毎回断るのは止めてくれ。友達との付き合いも大切だ。人間として
成長する為には、人の中で揉まれる事も必要なんだ。俺だって、
君の顔を見たくて一刻も早く帰りたいと毎日思ってるが、そうも
いかない時もある。お互い、そういう時でも臨機応変に対応して
いくようにしよう。これからは、ずっと一緒なんだから」
 理子は雅春の言葉に頷いた。
「夕飯の事は、心配しなくていい。メールをくれれば、自分で
やって食べるから」
「でも、それって侘びしくないですか?一人で食事をさせるの、
私悲しいです」
 理子の言葉に雅春は微笑んだ。
「侘びしくは無い。寂しいけどな」
「私だって、時には友達と一緒にお茶したりご飯食べたりしたいって
思います。だけど、何が一番悲しいかって、先生に一人でお食事させる
事なんです。それが一番嫌だから、今までずっと断ってきたんです」
 理子の言葉に、その愛情に、雅春は嬉しくなる。
「君は、ご両親の姿をずっと見て来たから、そう思うんだろう。
家族団欒の食事が好きだもんな。うちへ来た時は、いつもみんなと
食卓を囲んでる時に幸せそうな顔をしてた」
 雅春はそう言うと、理子の頬に手をやった。理子はほんのりと
顔を染める。それがとても愛おしい。
「じゃぁ、こうしよう。前もってわかってる場合は、俺も誰かを
誘って外で食べてくる。当日、予定が入ったら、必ずメールをする事。
そしたら俺も、誰かと食べるか、誰もいなかったら実家で食べさせて
貰ってくるよ。お茶くらいだったら、夕飯の時刻には間に合うだろう?
まぁ、多少遅くなっても俺は別に構わないし」
「いいんですか?それで」
「勿論だ。君は俺に遠慮し過ぎだ。俺を大切に思ってくれて、
物凄―く嬉しいけど、あまり気を遣わせてばかりいるのも、
俺からすると申し訳なく思えてくる。君が俺だったら、どう思う?
嬉しく思う反面、悪いと思うだろう?」
 そう言われれば、そう思う。
「だけど、実家で食べさせて貰うっていうのには、ちょっと
抵抗あるかも・・・」
「なんで。気にする事はないさ。お袋は君が学校へ行きながら
家事もする事を結婚前から心配してたんだ。なんなら、家事は
自分に任せてくれないか、って言ってたんだぜ」
「えっ?」
 理子は驚いた。
「だって本来なら、君はまだ結婚するような年齢じゃない。普通なら
学生生活だけを満喫していればいいだけなんだからな。だけど俺は、
二人の生活を干渉されたく無かったんだ。君だって来て貰ったら
気を使うだろう。お袋は、君がお母さんから今までして貰って
来なかったんだから、自分が変わりにしてあげたい、なんて
言ってたけどな。だから、少しくらいは甘えたっていいのさ。
その方が喜ぶんだから」
 理子の胸は熱くなった。そこまで思ってくれてるのか。
他人の自分に。嫁なのに。
「それから家事だけど、そっちも、もっと手を抜いていいんだぞ。
俺の為にする事は苦じゃないと言ってるが、それでも大変な事には
変わらないだろう?洗濯なんて、二人だけで少ないんだから、
毎日必ずやる事もないし、アイロン掛けだって、毎日きちんと
やる事は無い。時間のある時にまとめてやれば済む事だ。拭き掃除も、
窓なんて週末に俺と一緒にやった方が楽だろう。俺はでかいから、
窓掃除にはぴったりだ」
 確かに背が高いから、大きな窓の掃除は、手伝ってもらった方が
楽だと思う。
「広いのもやっぱり考えものか。君のお母さんの言った通り、
掃除が大変なんだな。考えてみると、短時間で君はよく隅々まで
行き届いてやってるんだから感心するよ。一度、君の朝の様子を
見てみたいものだな」
 雅春の言葉に理子は笑った。
「とても恥ずかしくてお見せできません。効率重視なので、凄いですよ。
両手両足をフルに活用してますから」
「えっ?」
 雅春はとても不思議そうな顔をした。
「それって、全く想像できないんだけど、どんな格好なの?」
「だから、お見せできませんって。あと、動き速いですよ。倍速の
ビデオを見てる感じでしょうか」
 理子の言葉に、雅春は笑った。
「やっぱり、見てみたいな~。早起きして、こっそり見ようかな」
「あっ、駄目。止めて下さい」
 雅春はふふん、と笑った。いたずらっぽい笑みを浮かべている。
「とにかく、のんびりやってよ。一生の事なんだし。今は大学だけど、
卒業したら働くわけだし。これから先もずっと続けていかなきゃ
ならない事なんだから、頑張り過ぎない事。君に倒れられでもしたら、
それこそ俺は困るよ」
「わかりました。頑張り過ぎないようにします」
「さて。じゃぁ、最後の問題だな。最大の難問、エッチの事。
どうするかなぁ」
 雅春の言葉に、理子は赤くなった。確かに最大の難問だ。


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