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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 2.新しい風 04

2010.07.26  *Edit 

「学校の方はどうなの?もう、慣れてきた?」
「はい。お陰さまで。電車通学は初めてなので、最初のうちは疲れ
ましたけど、今は大丈夫です。授業が長くて時々眠くなっちゃいますけど」
「ちゃんと、寝てるの?」
 紫にそう言われて、理子は一瞬間(ま)を置いてから「はい」と答えた。
 その様子を紫は見逃さず、ちらりと弟の方を見た。雅春は澄ました
顔をしていた。理子もそっと雅春の方を窺ったが、いつもと
変わらぬ表情だった。
「これから、あなた達の新居へお邪魔してもいいかしら?」
 紫が突然言った。
 その言葉に、二人は驚いた。
「勿論です」
 理子はすかさず、そう言って雅春を見た。
「当然だよ。姉貴、まだ一度も中へは入った事が無いもんな」
「そうなのよね。仕事が忙しかったからお邪魔する時間が無くて。
でも、取り敢えずひと段落したし。是非、見せて貰いたいわ」
 食事を終えて、二人は紫を連れて帰宅した。
「ちょっと、みんな見せてもらってもいい?」
「はい、どうぞ」
 理子は笑顔でそう言うと、お茶の準備を始めた。
 雅春はそのそばで、理子の動作を見ている。理子がそんな雅春を
見上げると、雅春は優しい微笑みを理子に向けた。その笑顔を見て
理子は幸せな気持ちになる。
「本当にちょっと顔色が悪いな。無理してるんじゃないのか?」
 雅春が優しく言った。そんな雅春に、理子は首を振った。
 本当は、無理をしている。だが、それを言えない理子だった。
何故、言えないのだろう。
 ソファで理子の淹れたお茶を飲みながら、紫が言った。
「マーはここへ越してきてから、朝は何時に家を出てるの?」
「7時過ぎかなぁ~」
「それで帰宅は何時?」
「早い時は6時過ぎだけど、大体7時過ぎだね」
「理子は?」
「私は一時限からの時は8時頃で、二時限の時は9時半頃に家を出ます。
帰宅は5時過ぎかな。」
「そう。思ったより早く帰宅できるのね。だけど、随分と綺麗にして
あるわよね。掃除が凄く行き届いてる感じがするけど、
一体いつやってるの?」
「朝、先生が起きてくる前です」
 紫はその言葉に酷く驚いた。
「マーって、確かいつも6時頃に起きるわよね。あなたは何時に
起きてるの?」
「5時です。受験生になってからの習慣で」
「じゃぁ、その1時間の間に、朝食の支度と掃除までしちゃってるの?」
「掃除はお掃除ロボットがしてくれてるので、拭き掃除だけですから」
「あら、その拭き掃除が大変なんじゃない。窓だって綺麗にしてあるし。
朝5時に起きるって言うけど、何時に寝てるの?帰宅してから寝る
までの時間、あまり無いでしょう?勉強とか他の事もできてる?」
「勉強は、できてます」
「そう。それで就寝時間は?」
「さぁ・・・」
「さぁ、って・・・」
 自分でも何時に寝ているのかわからない。雅春との事が終わって、
いつの間にか寝入っているといった感じだ。
「マー、あなたは何時に寝てるの?」
 紫はきつい顔をして雅春の方を見た。
「俺も、よくわからないけど、多分、12時過ぎじゃないかと」
「そう。じゃぁ、あなたは6時間は寝てるわけね。あなたと同じ時間に
寝てるとしたら、理子は5時間くらいしか寝て無いって事になるわね。
それもきっと、毎日なんでしょ。それじゃぁ、顔色も悪くなるわよ。
どう見たって、疲れが溜まっているって顔よ。あなた、
何とも思わないの?」
 理子は紫の言葉に顔を赤らめた。察しのいい人だと思う。
「何とも思わないって、どういう意味だよ」
 雅春は姉に、憮然とした態度で言った。
「じゃぁ、はっきり言うわ。あなた、毎晩理子を抱いてるんでしょ。
理子は毎朝早起きして、家事をこなして、学校へ行ってるのよ。
帰って来てからも、休む間も無く、食事の支度やその他諸々の仕事を
してるんでしょう?きっと疲れて早く寝たいだろうに、あなたは
遅くまで彼女を拘束して、その睡眠時間を奪ってるんじゃない。
そういう毎日が、一体どれだけ続いているのかしら?このままだと、
理子、倒れちゃうわよ。結婚式を無事に迎えられるのかしら?」
 紫の言葉に、雅春の顔が青ざめた。
「お義姉さん、私大丈夫ですから。朝の電車の中とか休み時間に
寝てますし」
「理子。疲れたら疲れたって言っていいのよ?夜の営みだって、
気が進まない時はそう言わないと。どうしてもっと、
自分を主張しないの?」
 紫の優しさが理子の胸に沁みる。だが理子は何も言えない。
 紫は大きく溜息を吐いた。
「あー、男って、本当にいいわよね。結婚したって、結婚前と全然
変わらず、マイペースでやってるんだもの。でもって、妻の苦労も
知らずに、毎日のように妻を抱いて。結婚なんて、男の楽しみの為に
あるようなものじゃない」
 と、辛辣な言葉を口にした。
「姉貴、それは酷い言い様(よう)じゃないか?」
「あら、そうかしら?事実じゃないの?…理子。大学に入って、
新しい友達もできたんでしょ?帰りにお茶しましょうって誘われる
でしょう。でも、その様子じゃ、一度も一緒にお茶して
ないんじゃない?」
 理子は答えられない。紫の言う通りだが、雅春の前でそれを
肯定できない。
 雅春はそんな理子を見て、段々と自分に対して否定的な気持ちが
湧いてくるのを感じた。結婚してから、毎日理子と一緒に暮らせる
事が嬉しくて、毎日理子を抱ける事を至上の歓びのように感じてきた。
 朝起きたら、理子が作ってくれた美味しい朝食があり、
可愛い笑顔で寝覚めのキスをしてくれる。そうして、愛情こもった
お弁当を持たせてくれて、寂しそうな表情を少し顔に浮かべて
見送ってくれる。
 帰宅すると笑顔の理子が待っていて、温かくて美味しい夕食を
出してくれ、会話を楽しみながら食事をする。部屋はいつも清潔で
気持ちが良く、服もアイロンが掛っていて着心地が良い。
 トイレもバスルームも、玄関も、各部屋のドアさえも、いつも綺麗だ。
床もピカピカで、裸足で歩くのが好きな雅春にとっては気持ちが良い。
毎日、快適に生活できている。だがよくよく考えてみれば、
それだけの事を理子は毎日こなしているという事だ。専業主婦なら
いざ知らず、一日の時間を学校に拘束されている。
「理子は、実家にいた時も、何やかやと家事のお手伝いをしてたんで
しょうけど、それでも、結婚してからの方が大変なんじゃないの?
お手伝いは所詮お手伝いだもの。洗濯や掃除を毎日していたわけじゃ
ないでしょ。食事の支度だって、そうだわ。私は、自分が今結婚
したとしたら、毎日きちんと家事をこなすなんて考えれらないわ。
食事は手抜きでしょうし、洗濯は全部、全自動で乾燥までして
もらって、掃除は週末ね」
 紫の言葉に、雅春は理子の大変さを改めて知った思いがした。
いや、本当はわかっていたのに、見て見ぬふりをしてきたのかも
しれない。自分の快適さの為に。
「お義姉さん。私、家事は別に苦痛じゃありません。先生の為に
美味しいものを作るのは嬉しいし、綺麗好きな先生がいつも快適に
暮らせる為にお掃除するのも、気持ち良く清潔な衣服を来て貰う為の
洗濯も逆に楽しいくらいです。それに自分だって、同じように
快適な気分でいたいですしね。ただ、一日が24時間しか無いのは、
ちょっと辛いかなとは思いますけど・・・」
 紫は理子の言葉に、呆れたような顔をした。
「理子。そうは言うけど、あなたは主婦になる為に大変な受験勉強を
してきたの?何の為に東大に入ったの?そんなんで、しっかり
勉強できるの?」
「慣れてくれば、時間ももう少し作れるとは思いますけど・・・」
 理子が自信なげにそう言った。
「マー。理子はこう言ってるけど、あなたはどう思う?自分が
学生だった時の生活を思い出してごらんなさいよ。勉強の時間や
友達との付き合い、通学時間はあなたの方が長かったけれど、
それでもあなたが学生の時には、早く帰ってくる事なんて、
あまり無かったわよね?」
 姉の言う通りだった。自分の学生時代を思い出すと、理子は
それに更に家事が加わっている事になる。その為に、友人達との
付き合いを犠牲にしている。自分は何の為に彼女に東大を勧めたのか。
ただ自分と結婚する為だけでは無かった筈だ。
「ごめん。あまりに自分の事ばかり考えていたみたいだ」
 と、雅春は言った。その言葉に理子は微笑む。
「お義姉さん、あまり先生を責めないで下さい。私がやりたくて
やってる事なんですから。先生の為に、してあげたいんです」
「その気持ちは、わかるわよ。でも、もう少し手を抜いても
いいんじゃないの?完璧にやろうと頑張り過ぎてるんじゃないの?」
「そうでもないですよ。時間には限りがありますから、自分なりに
工夫してやっています。ただ・・・」
 理子が少し頬を染めて、恥ずかしそうにした。その姿に、紫は察した。
「マー。あなた、平日は控えた方がいいわ。理子は疲れてるのに、
そのせいで、尚更、寝る時間が減るんじゃない」
 姉の言葉に理子を見た。そうなのか。そのせいなのか。
「とにかく、二人でよく話し合った方がいいと思うわ。理子ばっかり
負担が重いようじゃ、これから先、大変でしょう?」
「わかったよ」
 雅春は、姉が帰った後、理子と二人で話し合った。


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