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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 2.新しい風 02

2010.07.24  *Edit 

 必修科目の授業が始まる前の休み時間、2年のクラス委員がやってきた。
「林と増山はいるか?」
 と言いながら教室へ入って来た。田中靖と言う、色黒の小柄で
中肉の男で、何故か態度が大きい。主事から初めて紹介された時から、
ずっとそうだった。2年の女子の方の委員は山田寿美子と言って、
小柄で少し肉付きの良い体型の、目がクリっとした女性で、
明るくてミーハーなタイプだった。
「嫌なヤツが来たわね」
 と、理子の耳元で愛理が囁いた。
 理子は黙って頷くと、田中の許へ赴いた。林もやって来た。
「新歓コンパの詳細が決まったから、全員に知らせてくれ。欠席は
許されないからな。欠席者がいたら、お前らの責任だぞ」
 そう言われて、理子と林は顔を見合わせた。
「ちょっと田中君。それは酷いんじゃないの?」
 と、山田寿美子が言うと、
「煩い。お前は黙ってろ。新入生は歓迎される方なんだから、
出席して当たり前だろう。先輩方が歓迎してくれるんだぞ」
 と、教室のみんなに向かって大声で言った。みんなは
辟易とした顔をした。
 2年のクラス委員は、新入生のガイダンスの時に手伝いに来て
いるので、既に1年生は全員彼の事を知っている。最初から
不親切で横柄だったので、手伝いに来ている意味があるのかと
疑問に思う程だった。
「おい、お前、みんなに理子とか呼ばれてる」
 と、理子に向かって強い口調で声をかけてきた。
「なんでしょうか」
「欠席者がいたら、その数だけ、先輩達と野球拳をして
もらうからな。覚悟しとけよ」
「はぁ?」
 厭らしい笑みを浮かべて言われたセリフに、理子は唖然とした。
 田中の言葉に、クラスの女子達が一斉にブーイングした。
「はぁ?じゃないだろう。欠席者を出すなんて失礼な事をしたら、
償いをしなければ、これから先の大学生活は辛いものになるぞ」
 何てヤツなんだろう。毎年、そうなのだろうか?そう思って
山田寿美子の方を見ると、複雑な笑みを浮かべている。
「去年はな。欠席者は一人も出なかった。だから、こいつは野球拳の
憂き目に遭わずに済んだのさ。まぁ、こいつのなんて誰も見たく
無かっただろうから逆に先輩達はホッとしただろうが」
 田中の言葉に絶句する。理不尽だし、失礼でもある。
「お前が欠席したら、他の女子を指名するからな」
「田中先輩。それって、毎年やってる事なんですか?
今時、信じられません」
 理子がそう言うと、田中は怒りを露わにした。
「先輩に逆らうのか?お前、生意気だぞ」
 険悪な雰囲気の中へ、志水が割り込んで来た。
「まぁまぁ先輩、年下の女子相手に、そう怒らなくても」
 微笑み王子である。最近彼は、女子達の間で、そう呼ばれている。
いつも上品な笑みを浮かべていて、その微笑みが謎めいていて
魅力的だからだ。
「お前は?」
「志水です。さっきから話しを窺ってると、少しばかり理不尽に
思えるんですよね。幾ら先輩達の為とは言え、水商売の女の子
相手じゃあるまいし、野球拳なんて、ねぇ。どんな風にされるのかは
知りませんけど、セクハラになりませんか?最近、そういうの、
世間でも煩いじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「先輩に逆らうのか?」
 志水の上品な物腰と態度に、少し出鼻をくじかれた感じの、
勢いを失った語調だった。
「いえいえ、とんでもない。ただ、去年は無かったとの事ですから、
前回から2年も経ってるわけですよね。その間に社会情勢も著しく
変わってますし、旧来からの伝統であっても、本当に実行して
大丈夫なものなのかを、僕は心配したまでです。田中先輩は、
3年や4年の委員の先輩達から確認した上でおっしゃってるのかな、
と疑問に思ったんですけど、どうなんです?」
 志水の質問に、田中は答えに詰まり、山田寿美子の方に視線を
送った。それを受けて、寿美子が言った。
「伝統だから、当然だと思って確認取って無いの。志水君の言う事も
最もだから、この件に関しては確認とってからにするわね。取りあえず、
コンパの出欠の確認だけ、お願いするわ」
 そう言って、田中を促して出て行った。
 理子はホッとした。同時に、教室内からも安堵の溜息のような
ものが漏れて来た。誰もが、事の成り行きにほっとしたのだった。
「志水君、ありがとう」
 理子は志水に礼を言った。志水は笑って、「どういたしまして」
と答えた。その後、みんながこの件について話し始めようとしたが、
授業が始まったので、話しは昼休みになった。
「あいつ、本当にイケスカねーな」
 と、クラスの男子の一人が言う。
「先輩って言ったって、1つ上なだけなのにな。なんだよ、
あの態度のでかさ」
「そもそも、野球拳って何?古くせー。本当に今時、コンパで
やってんのかよ」
「そうよ、セクハラもいいとこよね。何で女子だけそんな目に
遭わないといけないの?」
 と、口々に喧々轟々となった。
「理子も、とんだ目に遭わされたわよね。サイテーよ」
「だけど、志水君、カッコ良かったよー」
 と、愛理が気のある笑みを志水に向けた。
「あの野球拳っていうの、あれは田中先輩の独断じゃないのかな」
 志水は愛理の言葉を無視して、そう言った。少し鼻に掛って掠れた
ような、落ち着いた声が本人の雰囲気にマッチしていて魅力的だ。
周囲の女子は目を輝かせて見ている。
「どういう事?」
 と、美香が不審そうに問うた。
「今時、強制的にそんな事を押しつけてやらせてる訳が無いと
思うんだ。だから、あれは一種の脅しと、理子への嫌がらせだよ。
ついでに、本当にそれが出来れば、自分の株も上がるかもしれ
ないって魂胆も潜んでるんじゃないかと思う」
 志水の言葉を聞いて、愛理が「うわっ、サイテー!」と言った。
「だけど、なんで理子に嫌がらせをするのかしら」
 と、美香が言った。理子も同感だった。
「あの人、理子に気が有るんじゃないの?」
 志水に言われて、理子は驚いて皆と顔を見合わせた。
「えー?あの男がーっ?キモ~」
 愛理は思いきり気持ち悪そうな顔をした。
「なんで、そう思うの?」
 理子は志水に訊いた。
「理子への態度とか、色々ね。まぁ、勘だけど」
「だけど、林君も、もう少し何とか言ってくれないと。委員なんだし」
 と、愛理は林を責めるように言った。
「ごめん。相手は先輩だし、何をどう言ったらいいかわからなかったんだ」
 と、林は済まなそうに言った。
「仕方ないわよ。私だって、開いた口が塞がらないって感じだったもの」
 理子はそう言って、林に笑いかけた。林は赤くなる。
「ねぇ、今日は憂さ晴らしに、放課後みんなで繰り出さない?」
 愛理がそう言いだした。愛理の言葉に、そこにいたクラスの
メンバーの多くが賛同した。
 愛理はとても可愛くて、街では頻繁にスカウトの声がかかる。
高校生の時には雑誌の読者モデルをやった経験もある。本人は東大に
入る為、途中で止めたそうだが、止めてからも何度もオファーが
あったそうだ。そういう女の子だから、学内でも人気があり、
しょっちゅうナンパされる。そんな愛理の誘いだから、乗る者も多い。
「理子も行くでしょ?」
「ごめんなさい。私はちょっと・・・」
 食事の支度もあるし、時間は幾らあっても足りないような
状況なので無理だ。
「志水君は?」
「僕も、ちょっと」
 二人の言葉に、愛理はがっかりした顔になった。
「美香は?」
「私は、オーケーよ」
 美香の言葉にやっと笑顔を見せる愛理だった。
「だけど理子、いつも付き合い悪いぞ!たまには付き合いなさい」
 と、愛理に言われた。
 入学してすぐに親しくなったが、放課後のお茶の誘いに一度も
付き合った事が無い。だからそう言われても仕方が無い。理子も
そうしたいのは山々なのだが、現状では無理だった。
「ごめん、そのうちに」
 理子は済まなそうに手を合わせて謝った。
「増山さんは、彼氏とのデートで忙しいんじゃないの?」
 と、クラスメイトの男子の一人が言った。
「だからって、女友達との付き合いを大切にしないのは、良くないよ」
 と、愛理がストレートに言う。全く、愛理の言う通りだと思う。
「人には人の都合ってものがあるんだから、そこまで言うのは
どうかと思うよ」
 と、美香が愛理を諭した。美香の言う事も尤もだろう。
 午後の授業が始まるので、理子は二人と別れた。志水を始め、
同じ授業を履修している他の何人かの男子と共に教室を移動したが、
全ての授業で一緒のせいか、志水はいつも当然の如く理子の隣にいる。
「理子、僕もたまには君とお茶したいな」
 席についた途端、志水がそう言った。その言葉に理子は驚いた。
「でも私・・・」
 “結婚してるの”と言おうとした言葉を遮るように志水が言った。
「彼氏がいるのは、わかってるよ。指輪をしてるし。だから、
そういう意味じゃなくて、君とはもっと色々と話してみたいと言うか。
歴史の事で。君とは考え方とか価値観や感性に多くの共通した部分を
感じるんだ。話しが合うのは、君も同感だろう?授業の合間じゃ、
たいして話せないし、昼休みは大勢で話してるし、そうなると、
突っ込んだ会話をする機会がないじゃない。もっと、色々意見を
戦わせてみたいんだよね」
 志水の言葉には、理子も同感だった。志水の言う通り、二人は
話しが合う。興味を持つ時代が互いに違うのに、志水と話していると
共感する部分が多く、また新しい発見が有ったりと、何かと刺激される。
「確かにそういう点では、私ももっと色々と話したいとは
思うんだけど、何ぶんと忙しくて・・・」
「じゃぁ、途中まで一緒に帰らない?その間だけでも、
話せるじゃないないか」
 志水の提案に、理子は成る程と思った。
「それは、構わないけど、志水君はどっち方面なの?」
「君、渋谷から田園都市線に乗ってるよね。僕も同じなんだ」
 志水が笑顔でそう言った。
「どうして知ってるの?」
「帰る時に、僕より前の電車に乗る君を見た事があるんだよ」
「そうだったんだ」
「僕は世田谷に住んでる。二子玉(にこたま)に」
 二子玉とは二子玉川(ふたごたまがわ)の略である。
「私はもうちょっと先」
 理子は敢えて、自分の降車駅は言わなかった。
「じゃぁ、ちょうどいいじゃない。一緒に帰ろうよ。それなら、
随分と話しができそうだし」
 志水が嬉しそうにそう言った。だが理子は、少し複雑な思いだった。
確かに志水と色々話せるのは嬉しいが、毎日ずっと授業で一緒なのに、
帰りまで一緒と言う事を考えると、矢張り少し抵抗を感じる。
 毎日、同じ男子と長い時間を一緒に過ごす。夫の雅春とは僅かしか
一緒に過ごせないのに。こんな事を、高校の時に思った事は無かった。
2年の時には耕介と、3年の時には岩崎と、前後の席で仲良く
楽しく一日を過ごしていたわけだが、その事に抵抗を感じた事など
少しも無かった。雅春に嫉妬されても、逆に嫉妬される事を迷惑に
ったくらいだ。
 なのに、何故、志水相手に、こんなにも抵抗を感じるのだろう。
自分でもよくわからなかった。
 こうして二人はこの日から、毎日一緒に帰途に
着くようになったのだった。


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