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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 1.それから 05

2010.07.18  *Edit 

「新婚生活は忙しいです」
 理子は顔色も変えずにそう言った。
「忙しいって言うのは、どういう事だ?」
「戸籍や住所が変わったので、あちこちへ変更届けを出しに行ったり、
勉強や家事に追われて大変です。受験勉強から解放された事くらい
でしょうか、嬉しいのは」
「おいおい、増山先生との二人の時間はどうなんだ。折角一緒に
なれたんだから、さぞや楽しいだろうよ」
 横から柳沢が「諸星先生・・・」と軽くいなすが、諸星は気にしない。
他の教師達の様子をそれとなく窺うと、みんな顔色は変えないながらも
興味津々といった顔をしているのが理子にはわかった。
「楽しいですよ。でも、結婚したからと言って、いつも一緒に
いられるわけじゃないし、つまらないですよね~」
 と、普通に答えた。
「夜の生活はどうなんだ」
「諸星先生、本当にストレートな人ですね」
 理子に笑顔でそう言われて、諸星の方が僅かに顔を赤らめた。
「諸星先生、そんな事を若い女の子に訊くなんて、幾らなんでも
デリカシーが無さ過ぎです」
 柳沢が頬を染めてそう言った。確かに、相手が理子ではなくても、
そういう事をあけすけに訊くものではないだろう。
しかも、大勢の教師達の前で。
「諸星先生にデリカシーが無いのは、既に承知してますから、
私は全然平気ですよ。なんせ、ご自分でご自分の事をジジイと
おっしゃるくらいですし、恥じらいと言う恥じらいの全てを、
落としてきちゃってるんじゃないですか?」
「お前、何て事を言うんだ」
 諸星が目を剥いてそう言った。理子はそんな諸星を笑って仰ぐ。
そのピュアな笑顔に諸星はたじろぐのだった。
「君さ」
 と、突然、地理の川上が口を挟んで来た。30代で、スラッとした
長身で細身の人気の教師だが、妻帯者である。
「増山先生と恋愛しながら、よく東大受かったよね」
 表情は普通だったが、言葉に何となく刺を感じた。
「すみません。私、あまり頭が良くないので、先生のおっしゃりたい
事がよくわからないんですけど」
 川上は片頬に笑みを微かに浮かべて言った。
「受験勉強で忙しくて、増山先生と恋愛してる暇なんて無かっただろうに、
一体いつ会ってたのかと思ってね」
「会うだけなら、毎日会ってましたよ」
 そう言って、にっこりと笑う。
「それだけなら、他の生徒と変わらないじゃないか」
「そうですね。それ以外では、たまーにお休みの日にお会いしてました」
「それで、個人授業をしてもらってたってわけなのか」
 にやりと笑う。その笑顔が妙にいやらしく感じた。普段は清潔そうな
イメージだけに、理子は意外な一面を見せられたような思いがした。
「個人授業って、なんですか?どういった事を個人授業って
おっしゃるんでしょうか」
 理子は顔色も変えずに、真っすぐに相手を見つめて言った。
「そ、それは色々だよ。卒業したらすぐに結婚する事を決めた
くらいだから、濃密な時間だったんじゃないの?」
「先生、随分と曖昧な表現をされるんですね。結婚を決意するに
至るまでの過程は、人それぞれだと思いますよ。二人でどんな時間を過
ごしたかは、二人だけのものですから、大切に胸の奥に仕舞っておきたい
です。ただ、決め手は『愛の前では全ては無効』って事でしょうか」
 理子はそう言うと、頬を少し赤らめて笑った。
「おいおい、俺のお株を奪うなよ。お前、どういう意味かわかって
言ってるのか?」
 諸星が慌ててそう言った。川上はまだ皮肉そうな笑みを浮かべている。
「諸星先生、すみません。先生の名ゼリフ頂いちゃいました。だって、
核心を突いてる言葉なんですもの。先生はいつも鋭いですよね。
要するに、自分で言うのも恥ずかしいですけど、それだけの覚悟で
愛されたら、こちらも同じだけ愛さずにはいられない、と言う事です。
それが結婚の決め手です」
 柳沢が頬を染めて、溜息を吐いた。
「あなた、凄いわね」
 感心した目を向けられた。
「そんな事はありませんけど・・・」
 理子は柳沢に微笑みかけた。この先生にはお世話になった。
面倒見の良い、知的で優しい女性だ。一見すると冷めているように
見えるが、案外、熱い人である事を理子は知っている。
「増山先生が羨ましいよ」
 と、石坂が本当に羨ましそうに言った。
「やっぱり、イイ男は羨ましい」
 と、諸星が言った。その言葉に理子は思わず笑う。
「皆さん、多分誤解されてると思いますけど、増山先生が眼鏡を
かけてなかったら、私、好きになっていたかどうか、わからないん
ですよ?別にイケメン好きなわけじゃないですから」
「おい、それはどういう事だ?そんな事を言って、大丈夫なのか?」
 諸星は驚き、尚且つ心配そうな顔をした。
「私、眼鏡フェチなんです。好きになる人は眼鏡ばかりなんですよね。
こうして職員室を見回してみると、先生方って意外と眼鏡の人が
いないんですね」
 理子は、今更ながらに、教師達に眼鏡がいない事に気付いた。
現国の丸山と物理の牧田くらいだ。どうりで今まで教師に胸が
ときめかなかったわけだ。
「おい、俺は?」
 と、諸星に言われて、そちらへ目をやると、銀縁の眼鏡をかけていた。
「先生、それ、老眼鏡ですよね?」
「老眼でも、眼鏡は眼鏡だ」
「そう言えば、授業中に時々かけてらっしゃいますよね。だから、
時々、諸星先生を素敵!って思ったのかも」
「ほ、本当か?」
 嬉しそうな顔をしているのが、可笑しかった。
「はい。先生、眼鏡、お似合いですよね」
「そうか。よしよし。それなら、これまでの無礼を許してやろう」
 その言葉に、笑いが起こった。場の空気が知らずに明るくなっていた。
「ところで、新居はどこなんだ」
 と諸星に訊かれた。
「田園都市線の青葉台です。宜しかったら、遊びに来て下さい」
「えっ?いいのか?」
「勿論ですよ」
 理子の言葉に諸星は目の色を変えた。とても嬉しそうな顔をしている。
「お前一人で勝手に決められないだろう」
「じゃぁ、あちらにも訊かれてみてはどうですか?諸星先生に限らず、
他の先生方もどうぞ、遠慮なくお越し下さい。外で飲まれるより、
うちへ来て頂いた方が、私も寂しくないし」
「おい、増山先生、理子はこう言ってるが、いいのかい、お邪魔しても」
「この状況で、嫌だとは言えないじゃないですか。是非どうぞ」
 と、雅春は笑って答えた。
 こうして早速この日、教師達は二人の新居へ来る事になったのだった。


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