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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 1.それから 04

2010.07.17  *Edit 

 理子は久しぶりに学校に来て、懐かしく感じた。まだ、卒業して
3週間と少しなのに。夏休みのような長い休みの後の時と比べたら、
どうって事の無い時間なのに、何故こんなにも懐かしく思うのだろう。
この学び舎で再び学ぶ事は無いと判っているからなのだろうか。
 今日は電車とバスを使って来た。雅春が毎日通っている経路である。
距離も時間も大したことは無いが、2回乗り換える事に不便さを感じる。
この先どこへ異動になるかはわからないが、なるべく煩雑な経路では
無い事を祈るばかりだ。
 昨日が終業式だった事もあり、校内は静かだった。運動部の部活の
声だけが響いている。職員玄関で履物を変え、理子は真っすぐに
職員室へと向かった。とても緊張する。
 ふと、足が職員室の手前にある校長室の前で止まった。
ドアをノックしてみたら、中から「どうぞ」と声がかかった。
理子はそっとドアを開き、中を窺うように入室すると、
校長が顔を上げて理子を見て、驚いた。
「おや、君は、吉住さん」
「こんにちは。在学中は大変お世話になりました。今日は、
ご挨拶に伺わせてもらいました」
 理子は、少し緊張した面持ちで丁寧に頭を下げた。
「ああ、そう言えば、そうでしたね。話しは聞いてますよ。
もう、職員室へは?」
「いえ、まだなんです。先に校長先生にご挨拶をと思いまして」
「そうですか。わざわざありがとう。それから東大、合格おめでとう。
本当によく頑張りましたね」
「ありがとうございます。校長先生の励ましや、先生方のバック
アップがあったからです。それから、結婚の事も、色々とご心配や
励ましを頂いて、本当に感謝しています」
 理子の言葉に、校長は顔を和ませた。
「そうだ。結婚の方も、おめでとう。お祝い事が二つも重なりましたね。
しかも、どちらも人生最大の節目です。これから大変でしょうが、
勉学も家庭も、どちらも頑張って、充実した人生を送ってください」
 理子は校長に温かい言葉を貰って、胸が一杯になった。
本当に、優しい校長だ。
「校長先生」
「なんですか?」
「あの、これからも増山をよろしくお願いします。あの人はこれまで
一生懸命頑張ってきました。とても真面目で誠実な人なんです。
私と結婚した事で、色々と風当たりのきつい事もあるかとは思いますが、
どうか・・・」
 理子は言葉に詰まった。校長はそんな理子に優しく声をかけた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私は増山先生を高く買っています。
あの先生が真面目で誠実である事は、私も既によく知っています。
君との事を聞いた時には本当にとても驚きましたが、真剣なのが
伝わってきて逆に安心しました。真剣に人を愛すると言う事は、
とても価値のある事です。単に浮ついた恋愛だったら、
私は許さなかったでしょう。君もまた、増山先生を真剣に
愛しているのだね。こうやって彼を心配して、私に彼の事を
頼んでいる。まだ18の君が。私は二人の事を応援するよ。
だから、安心しなさい」
「ありがとうございます」
 本当に、校長は人格者だと思った。雅春が校長の期待に一生懸命
応えようと思うのも道理だ。この人の許(もと)なら安心だ。
「職員室まで、一緒に行きましょうか。一人だと心細いでしょう」
 校長の言葉に、理子はホッとした。本当に一人で心細かった。
どんな顔をして行けば良いのかわからないし、また、どう声を
かけて良いものやら悩んでいたのだった。
 理子は校長の後に続いた。やはり、ドキドキして緊張する。
校長は職員室に入るなり、
「皆さん、お待ちかねのミセス増山のご登場ですよ」と言った。
 理子はその言葉に赤面したが、校長に促されて職員室へ入った途端、
いつものポーカーフェイスになった。習慣かもしれない。
「こんにちは。在学中はお世話になりました」
 と、教師達に向かって臆面も無く挨拶した。雅春の顔は
いつものように見ない。
「よう、理子!東大合格と結婚、おめでとう!」
 と、諸星から声がかかった。
「ありがとうございます。今日は折角なので、合格証書を持ってきました」
 理子はそう言うと、鞄の中から合格証書を出し、先生達に渡した。
教師達は感動の目でそれを見ては廻した。
「吉住さん、結婚おめでとう」
 柳沢が言った。
「先生、ありがとうございます」
 理子は礼を言う。
「あっ、指輪、見せてくれない?」
 そう言われたので、手を出した。
「ほらほら、みんな、同じ指輪よ」
 と、嬉々とした顔を周囲の教師達に向けた。多くの教師達が
理子の周囲に群がった。
「おお、本当だ。増山先生と同じだ」
 と、当たり前の事を感動したように言う。
「おめでとう、理子君」
 石坂が声をかけてきた。理子の為に喜びながらも寂しさを拭えない、
そんな表情をしていた。
「君はやっぱり、増山先生が好きだったんだね」
「すみません、隠してて」
 理子の言葉に石坂は首を振った。
「いや、それはしょうがない。当然の事だよ」
 弱弱しげな微笑みを浮かべている。そんな石坂に、諸星が言う。
「石坂先生は、回りくどいから駄目なんだよ。想いがあるなら、
もっとストレートにいかなきゃ。なぁ?理子」
 理子は諸星の言葉に苦笑した。ストレートに来られても、
それはそれで困る。
「諸星先生、それはどういう意味なんですか?」
 と、熊田が訊ねた。
「熊田先生。君も普段飄々としていて、何を考えているか周囲には
わかりにくいから言っておくが、好きなら好きってしっかり
伝えなきゃ駄目って事さ。回りくどい事をしてると、他のヤツに
かっさらわれるんだよ。よく肝に銘じて置きたまえ」
 諸星はそう言うと豪快に笑った。他の教師達は呆気に取られていた。
諸星の言う事はわかるが、相手は女生徒だ。しかも、石坂や諸星は
妻帯者だ。女生徒相手に好きだなんて、許されない事だろう。
 そんな周囲の空気を悟った諸星が言った。
「君達。愛の前では全ては無効だ。全てを無効にしても良い覚悟が
あってこそ、愛を語れるのだ。その覚悟が無いものは、
女生徒相手に愛を語ってはいけない」
 諸星の真面目な言い様に、理子は思わずプッと噴き出してしまった。
「なんだ、理子。なんで笑うんだ」
「だって先生が、真面目な顔して愛について語られるんですもの。
可笑しくて、笑わないではいられないじゃないですか。さすが
国語教師、キザな事をおっしゃるんですね、その顔で」
 そう言って理子がゲラゲラ笑うと、周囲の教師達も一斉に笑いだした。
「おい、コラ!笑うな。それに失礼だろう、その物言いは。
おい、増山先生、どうにかしてくれ」
 諸星が雅春に向かってそう言うと、
「いやぁ~、僕にはどうにも。いつも、そんな調子なんで」
 と雅春が言う。理子は相変わらず、雅春の方を見ない。
「理子お前、いつもそんなに生意気なのか」
「そのようですね」
 と、理子は平然と言う。
「ええーと、確か、一年の時の担任は熊田先生だったな。こいつ、
最初からこんなに生意気だったのか?」
 と、たじたじした様子で熊田に訊いた。熊田はにやけた表情で、
「最初から、そんな感じでしたかねぇ」
 と言った。
「諸星先生が、みんながビックリするような事をおっしゃるからですよ」
 理子はそう言って笑った。
「俺は、真実を語ったまでだぞ。これまで増山先生に大切にされて
きたんだろうが、少し、教育し直してもらった方がいいぞ」
「教育だなんて。私はもう生徒じゃないんですよ~。
結婚したら立場は対等です」
 理子の言葉に職員室内は「おぉ~」とどよめいた。
「おい、増山先生、こんな事を言ってるぞ。いいのか、言わせておいて」
 諸星の言葉に、「いいんですよ」と雅春は平然と言う。
「そうか。じゃぁな、理子。新婚生活はどうだ。楽しいか?」
 にやりと笑う。攻める角度を変えて来たようだ。



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