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小説・クロスステッチ第2部 <完>
1.それから ~ 3.結婚式


クロスステッチ 第二部 1.それから 02

2010.07.15  *Edit 

「おはようございます」
 職員室へ入ると、雅春の登場に室内の空気が変わった。
普段から親しくしている教諭らはいつもと変わらないが、
それ以外の教師達は、どこか戸惑いがちな雰囲気だった。
 入籍をする報告をした週末から、明けての月曜日。周囲は
どこかぎこちない。雅春に対して、どういう態度を取ったら
良いのかわからないといった雰囲気だ。
 雅春は自分の席に着くと、周囲の先生方に挨拶をした。
同じ3年の教師達は概ね雅春には好意的だ。正確には、理子に
好意的だからなのだが、共に2年から持ちあがって来たメンバーが
多いだけに、皆、雅春のこの2年間の頑張り振りを知っている。
 優れたルックスで女生徒達からの人気は高いが、本人自身は
浮ついた所がなく、真面目で誠実な人柄である事は皆、
周知している。そういう雅春に多くは好感を抱いていた。
理子との件も、最初は驚いたものの、二人の普段の様子を思い出し、
すぐに受け入れられるようになったのだった。
 だが、普段、あまり雅春と接触の無い職員たちは、否定的に
捉えている人間が多い。矢張り、相手が元受け持ちの女生徒と
言う事が、どうしても受け入れがたいようだ。そういう者達が、
集まってヒソヒソ話しをしていた。

 雅春は気にしない。
 自分達の事はよくわかっている。他人が客観的に見れば、
否定される方が当たり前だ。だからこそ、そんな中で理解を
示してくれる人達がいる事を有難く思うばかりだった。

「よぉ!増山先生!入籍おめでとう!理子の味はどうだった」
 諸星が満面に笑みを浮かべて、大笑いしそうな勢いでそう言った。
諸星の言葉に、雅春は机の上に両手を付いて俯いた。
恥ずかしい事を大きな声で平気で言われて、赤面ものだ。
普段冷静な雅春も、さすがに諸星のこの言葉には恥ずかしさを
感じずにはいられない。

「ちょ、ちょっと諸星先生、何を下品な事をおっしゃるんですっ!」
 と、隣の席の柳沢が言った。英語教師で茶道部の顧問でもあるから、
理子の事もよく知っている。雅春と同期の女性教師だ。
若い女性だけに、諸星の言葉は許せないだろう。

「何を気取ってんだ、柳沢先生。おぼこのフリをするんじゃない。
みんな、よく聞けよ。増山先生はな。毎日、好きな女を目の前にしながら、
ずっとやらずに我慢してきたんだ。在学中に手を出したとか
思ってるヤツがいたら、大間違いだぞ。理子を見てもわかるだろう。
どれだけ、増山先生が大事にしてきたか、そして我慢してきたか。
やっと晴れて入籍したんだよ。万々歳じゃないか。
もう、我慢する事もないんだ。積年の想いが叶ったんだよ。
こんな感動的な事があるか!」
 諸星は興奮しながら熱弁した。だが、職員室中に聞こえるような
大声で言われた雅春は、穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。
普段、あまり恥じらいの無い雅春でも、これには閉口だ。
 しかも、確かに大事にはしてきたし、我慢もしたが、理子はとっくに
雅春と結ばれている。複雑な思いが去来するのだった。

 諸星の言葉に、職員室はシーンとした。誰もが、このあけすけな諸星に、
何と言葉を返したら良いのか、わからないのだった。
諸星は、静かな周囲にハタとした。
「おい、君。入籍、したんだよな?」
 急に不安げな声で、諸星は雅春にそう訊いた。
雅春はその言葉に顔を上げた。
「はい。土曜日に二人で役所へ婚姻届を提出してきました」
 雅春ははっきりとそう言うと、周囲にお辞儀をした。
そんな雅春に拍手が湧き、「おめでとう」と言葉が幾つも掛った。
雅春は嬉しくなり、何度も頭を下げた。

「あら、結婚指輪。よく見せて貰えませんか」
 と、柳沢が言った。その言葉に応え、雅春は手をかざす。
 シンプルだが少し捻りの入ったデザインのプラチナのリングの
真ん中に、エメラルドとアメジストが輝いている。
「素敵・・・」
 と、女性教諭達が一様に言った。
「珍しいですね。こんなリングは初めて見ます。もしかして、
オーダーメイドですか?」
「はい。色々迷ったんですが、二人の誕生石を入れてもらいました」
「緑と紫って、ミスマッチな取り合わせだと思ってましたけど、
こうやって見ると、とてもエキゾチックな感じがして素敵ですわね」
 柳沢がうっとりした表情でそう言った。それは雅春も最初に考えた。
二人の誕生石の取り合せを考えた時、色の相性が悪いのではないかと
思ったのだが、宝石もそれぞれに微妙に色合いが異なる。店員の
アドバイスを聞きながら、合いそうな石を選んでみると、
思いのほか良かった。そのお陰で個性的な指輪が出来た。
理子も気に入ってくれた。
「増山先生は指が長くて細いから、そういう指輪もよく似合いますよねぇ」
 と、副担任の斎藤が言った。

「一度、理子にも挨拶に来させろよ。東大合格の報告、
本人からも聞きたいしなぁ」
 諸星の言葉に、雅春は躊躇する。
「来させて、大丈夫なんでしょうか」
「なんだ。結婚したから心配なのか?」
「はい・・・」
 矢張り、批判的な人間もいる中に、彼女を来させるには抵抗があった。
それに、生徒達の手前もある。3年生はいないが、下級生達の反応が
気になる。彼らはまだ知らないが、直に知れ渡るだろう。
「わが校の、栄えある東大合格第一号なんだから、
遠慮することは無いと思うがなぁ」
 諸星の言う通りだ。だが、こうやって考えてみると、理子は雅春と
結婚したばかりに気軽に母校へ遊びに来れなくなったと言えよう。
「生徒達の事が気になるなら、相手が彼女である事を伏せておけば
いいんじゃないですか」
 斎藤が言った。
「先生が結婚された事は、指輪からすぐに知れるでしょうけど、
先生は普段からプライベートの情報は秘密にされてるんですから、
聞かれたからって言う事も無いわけだし、先生ほどのイケメンですから、
以前から彼女はいたのだろうと思うのが自然の流れじゃないですかねぇ」
「そうですよ。まぁ、いつかはわかってしまうかもしれませんが、
当分の間は大丈夫でしょう」
 熊田がニヒルな笑みを片頬に浮かべてそう言った。
 熊田はいつも、笑みを片頬にしか浮かべない。それがニヒルな
感じに見えるのだが、本人はそれを意識しているわけでは無い。
理子は、熊田のこの笑顔が結構好きだと言っていた。一年の時の
担任である。眼鏡はかけていない。年より老けて見えるが
落ち着いた雰囲気で、理子は気に入っていた。
「じゃぁ、終業式の翌日にでも、来させましょうか」
 と、増山は言った。
「そうだな。それがいいな。できれば生徒達がいない方がいいだろう」
 諸星は嬉しそうに言った。

 放課後、雅春がブラバンの部活に出て間もなく、生徒の一人が
雅春の指輪に気付き、隣の生徒に囁いた。そしてそれが、
漣(さざなみ)のように広まった。
 落ち着きが無くなった生徒達の様子に雅春が手を止めて生徒達を
見渡すと、女生徒の一人が言った。
「先生、左手の薬指に、指輪をしてる」
 矢張り気付いたか。女生徒は目ざとい。
「これか。一昨日な。結婚したんだよ」
 雅春は何でも無い事のように、そう言った。だが、反響は凄かった。
驚声が教室内に轟き、驚きのあまり、手にしていた楽器を鳴らす者
までいた。そんな生徒達の様子を雅春は静かに見ていた。やがて、
「先生―、おめでとう!」
 と、何人かの男子達が言い始める中、女生徒達は相当にショックを
受けて泣きだす者までいた。その様を見て雅春は、椅子に座って
溜息を吐く。気持ちはわからないでも無いが、泣きだされても
困るだけだ。そんな雅春の周囲に男子が集まって来た。
「先生、おめでとう!だけど、随分急ですねー」
「お前達にとってはな。俺にとっては、急でもなんでも無いんだけどな」
「予定通りって事なんですかぁ」
「まぁ、そうだな。今月中に入籍すると、前から決めてたからな」
「お相手は、どんな人ですか。先生の相手だからやっぱり、
凄い美人なのかな」
 と、男子達に囃し立てられた。そんな男子のセリフに女子達も
気になるのか、涙を拭きながら集まって来た。
「美人とかって、主観的な問題だからな。どうなんだろうな?」
「それって、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だよ。まぁ、どう取ってくれても構わないが」
 と言って、雅春は笑った。
「さぁ、練習を始めるぞ」
 雅春の言葉に生徒達はまだ色々と訊きたそうな顔をしていたが、
雅春は練習を始めさせたのだった。


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