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小説・Bye by Blue<完>
9.進むべき道


Bye by Blue 9.進むべき道 02

2010.07.06  *Edit 

「アユ……」
 呼ばれて驚いて振り向くと、富樫だった。軽く手を挙げている。
 驚きのあまり、凍りつく。
 半年振りだ。
 どうして富樫がここにいる。別れた筈なのに。
 驚いて固まっている睦子に、富樫が近寄って来た。
「久しぶり」
 軽く微笑んでいる。睦子はそんな彼を黙って見ているだけだった。
言葉が何も出て来ない。
「お昼、まだだよな?」
 富樫の口調は昔のままだ。別れる前に、時々こうやって来ていた時と
何ら変わっていない。しかも、いつも何故かタイミングがいい。
「これからなの…」
 睦子も、以前と同じように答えた。
「じゃぁ、一緒にお昼に行かない?」
 そのセリフも以前と同じだ。
 睦子はいつも通りに黙って頷くと、富樫が先に立って歩き出した。
その後をついて行く。
 富樫は細いスラッとした体にライダースーツを纏っていた。
冬にバイクに乗る時は、いつもその格好だ。
 2人はいつもの喫茶店に入って、いつもの席に座った。一番奥の
窓際だ。何故か、2人で来る時にはここが空いていて、ここに座る。
今日も同じだった。
 半年振りだと言うのに、どうしてこうも、何もかもが一緒なのだろう。
不思議だ。
 席に着くと、ウェターが水を持ってきた。二人して同じものを注文する。
ブレンドコーヒーとサンドイッチ。何も変わらない。
「久しぶり。元気だった?」
 富樫の問いかけに、睦子は頷いた。
 一体、これは何なのだろう。
 もしかして、これは1年前?
 この1年は全て夢だったのだろうか。
 本当はあたしは、まだあの店に勤め始めて2カ月しか経っていない
のかもしれない。そう思う程、以前と何も変わらない情景なのだった。
「俺さ。就職が決まったんだ」
「えっ?就職?」
 その言葉に、一気に現実に時間が引き戻された気がした。
「うん。教職に就くことになった」
 普段から、どちらかと言えば暗い雰囲気の富樫が珍しく明るい
顔をして微笑んでいる。
 教職?この人が?
 睦子は驚いた。
「教職って、どういう事?採用試験に合格したの?」
「いや、私立の高校にコネが有ってさ。そこに決まった」
 そうか。成る程。
 コネがある人はいいな。羨ましい。
「良かったね。就職難なのに決まって」
 睦子は運ばれてきたコーヒーに口を付けた。
「ああ。本当にラッキーだった」
 富樫はコーヒーに砂糖を2杯入れて掻きまわしてから口を付けると、
サンドイッチを手に取って食べ始めた。
「それを報告に来たの?」
 睦子は胡散臭そうに富樫を見た。
 現実に引き戻されると、つくづくこのシチュエーションが
信じられない。一体、何しにやってきたのだろう。自分から
逢うのをやめようと言ってきた癖に。
 睦子の言葉を受けて、富樫はサンドイッチを飲み込んだ後、
手に付いたパン屑を払うと言った。
「俺さ。お前と別れてからの半年間の間、何となく物足りない
気持ちでさ。自分でもどうしてなのか、分からなかった。だけど、
時間が経てば経つほど、何故かお前の事ばかり思い出してさ…」
 睦子が大学から居なくなった時、何故か空虚な感じがしたと言う。
そして1年後に思わぬ再会をし、探し物が見つかったような、
そんな気がしたと富樫は言った。
「だからさ。俺、お前と逢ってたんだ。だけど俺達、何度も逢ってるのに、
何だか知らないけど、しっくりこなかったよな。互いにどこか
距離があると言うか、遠慮があったのかな」
 一体、こいつは何を言ってるのだろう。
 どうして今更、こんな話しをするのか。
「半年離れてみてさ。気付いたって言うか。別れ際にあんな事を
言ったけど、本当は、ただ一緒にいるだけでも、癒されて
たんだなって……。だからさ。もし良ければ、もう一度
やり直せないかなってさ……」
 あまりの言葉に唖然としていたら、いきなり背後から
低いハスキーな声が聞こえて来た。
「何言ってんだよ、お前はっ!」
 驚いて声のする方を見上げたら、結城だった。

 見知らぬ男の突然の言葉に、富樫は目を剥いて驚いていた。
「あんた、誰?なんなの?」
 怪訝そうな顔をして、目を剥いたままそう言った。
「俺は、むっちゃんの彼氏」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないよ。鮎川睦子の彼氏だって言ってるんだよ」
 結城はそう言うと、睦子の隣に腰掛けて来た。
 富樫は驚いた顔を睦子の方へ向けて来た。
「こいつの言ってる事、ホント?」
「こいつ、とは何だよ。失礼なヤツだな」
 結城の口調には怒りが感じられた。
「失礼なヤツはそっちだろう?勝手に割り込んできて」
 富樫が下から睨むように結城へ視線を飛ばした。
「オタクが勝手な事を抜かしてるからじゃないか。別れ際に
酷い事を言って、どれだけ彼女が傷ついたと思ってるんだ。
それを今更、何だよ。勝手だろうが」
「別に、あんたがどう思おうと、関係ないよ。これは、
俺とアユの問題なんだから。横から口を出すなよ」
 結城はドンッと、テーブルを叩いた。コップの水が僅かだが
テーブルに飛んだ。
「関係ないじゃない。さっきも言ったろう?彼女は今は、俺と
付き合ってるんだ。もう、オタクの出る幕じゃないんだよ。
さっさと帰れよ」
 富樫は結城を睨みつけると、睦子の方を見た。
「アユ……」
 返事を促す富樫に、睦子はハッキリと言った。
「ごめん。あたしはもう、その気ないから。それにあたしも、
富樫君と一緒にいても楽しく無かった。だからもう、
逢うつもりないから」
 富樫は黙って睦子を暫く見つめた後、目を伏せて立ち上がった。
「わかった。ごめんな。酷い事を言って傷つけて。
今度こそ本当にサヨナラだな」
 富樫はそう言って伝票を持つとレジへと向かい、支払いを済ませて
店の外へと出て行った。その後ろ姿を見送って、睦子はホッと
息を吐いた。これで本当に終わった。
「むっちゃん…」
 呼ばれて見上げる。
 一カ月ぶりにまともに見る結城の顔だった。職場復帰しても、
ずっと見ないで来た顔を久しぶりに見て、想いが込み上げて
くるのを感じる。
「どうしてここに?」
 いきなりの登場に、心臓が止まる程驚いた。この人にはいつも
驚かされてばかりだ。
「君があの男と話しているのを見て、何だかただならぬ物を
感じたんだ。それで、そばにいた浜田さんに訊いたら、浜田さんは
ビックリした顔をして前彼だと教えてくれた」
 結城は、2人が連れ立って階段を降りて行くのを見て、後を付けた。
何故今頃になって、前彼がやってきたのか。気が気じゃ無かった。
 線路沿いの喫茶店へ2人が入ったのを見て、結城もそっと中に入った。
入口にある観葉植物に身を隠して、そっと中を窺うと、一番奥の
窓際に2人が座っているのを発見した。幸い、睦子はこちらに
背を向けている。
 そして、その隣の席が空いている事を確認して、
結城は睦子と背中合わせの席へと着いたのだった。
「また、後を付けて来たんだ…」
「君の事が気になったから。でも、来て良かったよ。
今頃あんな事を言うなんて」
 まだ怒り口調の結城に、思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう。お陰ではっきり断れた。…じゃあ、あたし、行くね」
 睦子がそう言って立ち上がると、結城は睦子の両二の腕を
掴んで再び座らせた。
「駄目だ、まだ行っちゃ」
「どうして?」
「話したいんだ。君と」
 茶色の瞳が真剣に見つめている。
「もうすぐ…、休憩時間、終わるよ」
 声が震える。
「じゃあ、今日の帰りに逢わないか?」
 睦子は首を振った。
「どうしてだよ?」
 睦子は震えながら言った。
「あたし達、…もう終わりだと思う。だから…」
 睦子を掴む手に力が入った。
「何言ってるんだよ。勝手な事を言わないでくれよ。
俺は終わらせたつもりはないぞ」
 腕が痛い…。
「だって、…だって、ずっと連絡くれなかったじゃない。会社を
辞める事だって、あたしには何も言ってくれてなかったじゃない。
そっちこそ、勝手じゃない」
「ごめん。だから、その件について、ちゃんと話したいんだ。
君は話し合いもしないまま、勝手に終わらせるつもりなのか?」
 涙がこぼれそうになった。
 だが、周囲の視線に気づいて、睦子は堪(こら)えた。
「痛いから、手を離して…」
 睦子の言葉に、結城はハッとして掴んでいた手を離した。
「もう時間だから」
 睦子は立ち上がった。
「むっちゃん、今日、逢おう。いつもの店で、俺待ってるから」
 切なげな表情を見て、睦子の胸が痛んだ。だが睦子は、
返事をしないまま一人先に店を出たのだった。

 目尻に滲んで来る涙を押さえながら、息を整え、
気持ちを整えて店に入った。
 売り場に戻ると、浜田が寄って来た。
「さっき、前彼が来てたでしょ。結城さんが追いかけて
行ったみたいだけど…」
「何か、また付き合いたいみたいな事を言ってきたんで、
断ったから大丈夫です」
 睦子が笑ってそう言うと、浜田は安心したように、
「そう。良かった」と言った。睦子は、こんな風に心配して
くれている浜田に感謝の気持ちが湧いてくるのだった。
 だけど、あたし達の事を知ったら、この人はどう思うだろう。
 あたしを馬鹿だと思うだろうか。
 きっと思うに違いない。
 結城は話し合いたいと言っていたが、一体何を
話し合うと言うのだろう。
 どうせ駄目なら、話し合うのなんて無駄じゃないか。
互いに更に嫌な思いをしかねない。
 辞めたら、それきりだ。二度と逢う事も無いだろう。
それで終わりにすればいい。
 刻々と時間が過ぎて行く。
 終業時間が迫って来る。
 あたしは、行かない。
 睦子はそう決めた。


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