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小説・Bye by Blue<完>
9.進むべき道


Bye by Blue 9.進むべき道 01

2010.07.05  *Edit 

 街はすっかりクリスマスの装いだ。
 12月に入ってから、めっきり冷え込んで来た。
 短い秋だった。
 睦子は1年の中で秋が一番好きだったが、その秋の1カ月を
丸々家の中で過ごし、物凄く損した気分だった。
 売り場のディスプレイも、クリスマス柄の物や小物で彩られていた。
 赤と緑の反物が目立つ。
 睦子は12月に入ってすぐに職場に復帰した。だが、本調子とは
言えない。そんな睦子を気遣ってくれて、主任は睦子をレジの担当にした。
 服地売り場の人間だけでなく、他の売り場の誰もが、顔を合わす度に
「大丈夫?」と心配そうに尋ねてくれた。
 そんな中で、睦子は結城とだけは極力顔を合わせないようにしていた。
 結局、あれから一度も連絡を取り合っていない。
 愛想を尽かされたんだ。そう思う。
 だが出勤3日目に、結城からメールが来た。
“職場復帰、おめでとう。どうして顔を合わせようとしないの?”
 その言葉を見て、動揺する。
 なんで、今更こんなメールを寄越すの?
 ずっと、なんの連絡もくれなかった癖に……。
 結城の真意がわからない。
 休んでいる間、睦子は泣き暮らしてばかりだった。将来への不安、
不甲斐ない自分自身への怒り、なんの連絡もない結城に対する絶望感。
 全てを失ってしまったような、そんな気持ちに襲われて、
涙を流す毎日だった。
 睦子はメールの返事はしなかった。どうせもうお終いだ。
自分と彼の進む道は分かたれた。
 店内では、依然、結城の争奪戦が繰り広げられていた。
 彼女がいると知った時には、みんながショックを受けたようだが、
河嶋・和子・洵子の例がある。つまり略奪だ。誰も、結城の彼女が
店内の人間だとは思っていないから、身近にいる自分達には
十分チャンスがあると思っているらしい。そういう話しを、
睦子は復帰してから京子や和子から聞いた。
「もうすぐクリスマスでしょう?それまで、何とかってみんな
思ってるみたいだけど、なんかこんな事を言うのもなんだけど、
馬鹿みたいだよね。彼女がいるのにみんなして、躍起になって」
 京子が呆れ顔でそう言った。
「アユちゃんは、今年のクリスマスはどうするの?良かったらさ。
2人で過ごさない?」
 和子がそう言った。
「それはやめておいた方がいいよ~。女2人で過ごすなんてさぁ~」
 と、京子が言った。
「どうして?」
「だって、なんか虚しく無い?どうせなら、誰か男を誘ってさ、
Wで食事するとかの方がいいんじゃない?工藤君と、バイヤーの
中川さんなんかを誘ったら?」
 和子が河嶋と別れた事を知って、バイトの工藤が時々和子を
誘って来るらしい。そう言えば前に、いいなと思っていたと
言っていた事を思い出した。
「どうして、中川さん?」
 中川とは、オジサン友田とは別の会社のバイヤーで、
確か29歳とか言っていた。茹で卵のカラを剥いたような、
ツルリとした感じの色白の男で、少しズングリムックリした印象だ。
大人しそうな雰囲気である。
 今日も午後から応援に来ている。
 一番頻繁に応援に来るのは友田だが、中川はワンシーズンに
1回くらいしか来ない。ただ、睦子が休んでいる間は、頻繁に
来ていて、睦子の事を凄く心配していたと言う。
「あの人、真面目そうだし、悪くないんじゃない?」
 京子にそう言われたが、あまり気が進まない。
 ところが夕方の終業時間が近くなってきた頃、中川がレジにいる
睦子と、そのそばにいた和子に声をかけてきた。
「今日、この後さ。良かったら一緒に飲みに行かない?
鮎川さんの全快祝いって事で」
 白い顔を赤らめている。
「あっ、それ、いいっすね。俺と石川さんも一緒じゃ、まずいですか?」
 そばにいたバイトの工藤が口を入れて来た。
「いや、いいよ。一緒に行こうよ」
 2人の会話に戸惑っていると、和子が、
「行こうよう、アユちゃん」
 と、同意を求めて来た。そして、睦子が返事をするまえに、
「よし、決定!」と決められてしまった。
 まぁ、いいか。断る理由も特に無いし。2人きりで行くわけじゃない。
みんな一緒だもん。
 そう思って行ったものの、ちっとも楽しく無かった。
 何故か、和子と京子は工藤と3人で盛り上がり、睦子は3人の話しに
入れなくて黙々と食べ、飲んでいた。そんな睦子に中川がしきりに
話しかけてくるのだが、面白くない。
 どこに住んでるの?とか、休みの日は何をしてるの?とか、
だからどうしたと言い返したくなってくる。こういう、メリハリが
無いと言うか、はっきりしない男は好きじゃない。
 ふと、富樫の事が思い出された。
『お前と居ても楽しくない』
 今の自分も、中川に対して同じように思っている。
 あまりにつまらなくて、同じセリフを言いそうになる。
 こういう事なのか。
 富樫君も、あたしと一緒の時、こんな風につまらなかったのか…。
 一生懸命に盛り上げようとしている中川が滑稽に見えた。
そして、過去の自分も滑稽に思えてきた。
 一緒に居てもつまらない女なのに、富樫君はずっと付き合って
くれてたんだ。あたしなんか、中川さんに対して、二度とごめんと
思ってるのに。それなのに彼は、1年近くも付き合ってくれたんだ。
 最後に言われた言葉に、あまりにも傷ついて、富樫を酷い男だと
思ってきたが、こうやって考えてみると優しい男だったのかもしれない。
我慢の限界を超えて、あんな言葉を発してしまったのかもしれない。
「むっちゃん。あたし、先に帰るね」
 バックを持った京子が睦子にそう言った。
「えっ?どうして?」
 いきなりで驚く。
「このあと、彼と約束してるんだ」
 えっ?それなら、どうして今日、一緒に飲みにきたのだろう。
「なんか、恩田さんと工藤君、いい感じ。むっちゃんも頑張ってね」
 京子はそう耳打ちすると、店を出て行った。
 取り残された睦子は唖然とした。
 和子と工藤の方を見ると、確かにいい雰囲気だ。2人で顔を
寄せ合って、楽しそうに話している。
「あの2人、いい感じだね」
 中川がそう言いながら、睦子の方へ体を寄せて来た。睦子は思わず
反対側へ体を移動する。
 もしかして、計られた?
 睦子は腕に奇妙な感覚がして目をやると、中川が睦子の腕を
人差し指でなぞっていた。ギョッとして腕を引いて立ち上がった。
「あたし、帰るね」
「えー、アユちゃん、帰っちゃうの?」
 和子が驚いて引き止めたが、睦子は「悪いけど、もう帰る。ごめんね」
と言うと、席を立った。そんな睦子を中川が追いかけてきた。
「どうしたの、アユちゃん」
 睦子は黙ってレジで自分の分の清算を済ませると、店を出た。
 外は賑やかだった。
 師走である。忘年会シーズンとクリスマスが重なって、大賑わいだ。
人混みを掻き分けるようにして、睦子は駅までの道を急いだ。
「アユちゃん、待ってよー」
 中川が追いついて来た。
「どうしたの?いきなり…」
 中川はそう言いながら、睦子の肩を抱いて来た。
「ちょっと!何するのよっ」
 睦子は自分の肩を抱く中川を跳ね除けた。中川はそんな睦子を
驚いた目をして見ている。
「あたしは皆と一緒に飲みに来たのよ?あなたと飲みに来たわけじゃ
ないんだから。勝手に勘違いして、ベタベタしてこないでくれる?」
 自分が恐ろしい形相をしているのが分かる。腹が立ってしょうがない。
「おーおー、痴話げんかですかぁ~」
 通りがかりの酔っ払いにそう声をかけられて、怒りに拍車がかかった。
 睦子はプイッと顔を背けると、一目散に駅まで駆けたのだった。
 だが、途中でばてた。
 腰が、痛い……。
 そうだ、あたし、腰を痛めてたんだ…。
 馬鹿な事をしてしまった。思いきり走ってしまった。
 なんであたし、こんな事をしてるんだろう。
 自己嫌悪に陥る。
 何も見いだせないまま、年が暮れてゆく。
 その前にクリスマスがあった。ひとりぼっちのクリスマスが……。

 誰も休みがいない日の朝の朝礼で、主任が言った。
「非常に残念ですが、結城君が今月一杯で退職する事になりました」
 ええーっ?と全員がどよめいた。
 突然の話しに、睦子はショックだった。
 何も聞いていない。
 辞めると言うのもショックだし、事前に本人から何も言われて
いないという事はもっとショックだった。
 どうして?
 やっぱり、あたしはもう……。
 涙が込み上げて来て、睦子は慌てて感情を立てなおした。
 朝礼終了後、みんなが一斉に結城を囲んだ。
「何で辞めるの?」、「辞めてその後どうするの?」と
しきりに質問している。
 睦子はそんな皆から離れて、一人トイレへと駆けこんだ。
 個室に入って鍵を閉めた途端、涙が溢れて来た。
 なんで?
 どうして? 
 その気持ちだけで胸がいっぱいだ。
 やっぱりあたしたち、もう終わったんだ……。
 睦子は涙を拭った。もうすぐ開店だ。いつまでも泣いていられない。
それに、泣いたと悟られたくなかった。
 忘れよう。
 もう、その存在を気にするのはやめよう。どうせ、いなくなる人なんだ。
もう、いないと思えばいい。
 睦子は冷静になってきた自分を自覚すると、トイレから出て
売り場へ戻った。売り場はまだ騒がしかったが、睦子は一人で
黙々と仕事にかかった。
 結城が辞めると言う話しが店内にもあっと言う間に広がり、
他の売り場の女子社員が引っ切り無しにやってきて結城の周りに
群がっていた。けれど睦子は気にしない。一切、結城の方は
見ない事にしていた。
「結城さんがいなくなったら、この職場も大変よね。貴重な男手なのに…」
 一緒にレジに入っている浜田がそう声をかけてきた。
「そうですね」と睦子は答えた。
「退職後はどうするのか訊いたら『秘密』って笑って誤魔化されたけど、
鮎川さんは知ってるのよね?」
 浜田の言葉に、睦子は笑った。
「本人が秘密って言ってるのなら、私は知っていたとしても
言えませんよ?」
「そうよね。鮎川さんは普段から口が堅いものね」
 浜田はそう言って納得してくれたようなので、睦子はホッとした。
余計な詮索をされたくなかった。
 その日一日、店内は結城の退職の件で落ち着かなかった。
 女子社員達が頻繁にやってきて、その事で結城の仕事が捗らなくても、
主任は見過ごしていた。
 こんな毎日が、彼が退職する日まで続くのだろうか。
 最後の日は、きっともっと大騒ぎになるに違いない。
 気にしないようにしていても、こんな風に終わってしまうのかと
思うと、哀しみが込み上げてくる。考えないようにしているのに、
ふとした瞬間に思いがよぎる。
 ああ、やだな…。
 ふと、シフト表に目が行った。
 あれっ?
 嘘、なんで?
 睦子は、自分の休日が変更になっている事に気付いた。
自分で変更した覚えは無い。
 25日のクリスマスの日に、睦子と結城の名前が入っていたのだった。
 一体、どういう事?
 なんで、睦子の知らない間に休みが変更してあるのだろう。
しかも、結城と同じ日に。
 まさか?
 まさか、結城が変更したとか?
 でも、そんな事ないよね。結城が自分の休みを変更したならともかく、
睦子の休みを勝手に変更する事なんて出来る訳がないだろう。
 主任に訊いてみようか。
 そう思いながら、なかなか訊けないでいた。


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