ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・Bye by Blue<完>
8.迷い道


Bye by Blue 8.迷い道 06

2010.07.04  *Edit 

 睦子は窓の外に見える、青い空をベッドの上からボーっと見ていた。
 住宅街の中だから、木々の色の変化はわからない。
けれども空は確実に秋の色だ。
 この1年、夢中になって走って来た。
 やっと、正社員として雇われて、一生懸命に働いた。
その結果が、この姿だ。
 結城からは、あれから何も連絡が無い。
 あの日から1週間が過ぎたが、逢いにも来ないし、メールすら無い。
 矢張り、嫌われてしまったか…。
 元々、ああいうアクティブなタイプの男と自分は合わなかったのだ。
 一緒にいるだけで明るい気持ちになれたが、その反面、
スポーツ好きな彼に対して、一緒に楽しめない負い目みたいな
ものも感じていた。
 病院から貰った冊子を見ると、腰痛治療にはこれと言った
決め手は無いようだった。普段から重たい物を持ち上げる時には
前屈みにはならずに、膝を屈して持ち上げる事だとか、予防の
為には背筋を鍛える事とか、予防体操だとか、そういった
事しか載っていない。
 2週間ちょっと経って、大分痛みは無くなったが、それでも
まだ動きに制限がある。元に戻ったとしても、また痛めるのでは
ないかとの不安が大きい。
 あの職場で働き続ける自信が無い。売り場を変えて貰う事は
できないだろうか。
 でも……。
 他の売り場の事を考える。
 人間関係を思うと、憂鬱な気持ちになってくるのだった。
上手くやっていける自信が無い。
 本当に、どうしよう…?
 大学へ行けなくなってしまった時から、ずっと続いている挫折感。
 今の職場へ就職してから、やっとその沈んだ気持ちが回復傾向に
なったと言うのに、まるで急転直下のように再び元の水底へ沈
んでしまった気がする。
 水底か…。
 だとしたら、あたしは永遠に浮上できない。
 溺れ死ぬだけだ。
 このまま人生に何の希望も見いだせないまま、朽ちていくだけ。
 涙がこぼれてきた。
 やっぱり、あたしは馬鹿だ。どうしようもない。
『むっちゃんは馬鹿じゃないよ。自分を馬鹿だと思う必要なんか、
これっぽっちも無いのに』
 結城の言葉が、ふと思い返された。
 机の上に視線をやる。
 全く手を付けていなかった。
 気が向いたら見てくれと言っていた。
 睦子は手を伸ばして封筒を取ると、中身を出してみた。
 少し厚めの冊子と、書類らしき紙が数枚入っていた。
 冊子を手に取り開いてみる。
 通信教育かぁ……。
 睦子が通っていた大学には無かった。
 耳にした事はあったが、通信教育と聞くと、資格取得の為や趣味の
延長みたいな類のものしか連想できなかった。それが大学まで
通信教育で卒業でき、しかも大学へ行かなければ取得できない
ような資格まで取得できるとは思わなかった。
 そう言えば、高校も通信教育があるんだっけ……。 
 一体、どのくらいの費用がかかるのかと思って学費の欄を見たら、
想像以上に安かった。
 単位の方は、まず単位数相当のレポートを提出してから試験を
受ける。両方合格したら単位取得となる。それからスクーリングが
あった。一定期間、キャンパスへ通って授業を受け、最後に試験を
受ける。勿論、レポート提出も必要だった。
 小学校の教員免許を取得する為には、多くの単位を取得する
必要があり、大変そうだった。自宅学習中心だけに、ただ学校へ
行ってそれなりに勉強すれば単位が取得できる昼間の大学よりも、
逆に大変そうに感じた。しかも、働きながらである。
 仮に、一生懸命頑張って卒業して免許が取得できたとしても、
採用試験に合格しなければ教師として働けない。おまけに、
採用試験には年齢制限があった。
 結城は24歳だ。来春から始めると言っていたが、順調に4年で
卒業しても29歳になる。年齢制限ぎりぎりである。後が無い。
 大学卒業の為の勉強と、採用試験の為の勉強の両方を同時に
こなさなければならない訳だ。
 睦子にしても、普通に大学へ行っていれば来春は卒業の年だ。
その年になって、新たに大学へ入学するのか。そう考えると、
矢張り気乗りしないのだった。
 だが、このままでいいのか?
 そう思う気持ちは強い。
 小学校の先生になる。
 そうなれたら、嬉しいとは思う。
 思うけれども、水が怖い。行き着くところは結局そこだ。
その恐怖を乗り越える事ができずに、この年齢まで来てしまった。
 人に話すと笑われるが、顔を洗うのさえ命懸けな程の思いを
している。バシャバシャと思いきり顔に水を当てられないので、
掌にすくった水を、そっと撫でるようにして当てているのである。
 だからシャワーも頭から浴びれない。顔にかからないように
細心の注意を払っている。どうしてこんなに怖いのだろうと、
自分でも不思議に思う程だ。
 そんな自分を情けなく思う。情けなく思いながらも、
どうしようもできなくてジレンマを覚える。
 浜田と上村遥子が2人揃って見舞いにやってきた。
「アユちゃん、大丈夫?」
 2人とも心配そうな顔をしている。睦子には、こうして来て
くれたのが何より嬉しい。特に遥子と会うのは久しぶりだ。
「遥子さん、浜田さん。わざわざ来てくれて、ありがとう」
「浜田さんから事情を聞いて、ビックリしちゃったわよ。でも、
思っていたよりは元気そうで、少し安心したかな」
 遥子の優しい微笑みを見て、睦子は心が少し癒されるのを感じた。
「本当にね。でも、他人事じゃないわよ。あたしも前から時々
腰痛になる事があるし、あそこの職場は危険よ」
「京子ちゃん達が見舞いに来てくれた時に、仕事上で色々と
改善されたって言ってたけど」
「ああ、あれね。まぁ、確かにいっぺんに沢山の反物を運ばないって
言うのは助かるけど、その分、往復する回数が増えて、それはそれで
ハードよ。万歩計でも付けたいくらい」
 浜田が溜息まじりにそう言った。
「すみません。忙しいのに…」
「何言ってるのよ、そんな体で。大体ね。無理し過ぎるからいけない
のよ、鮎川さんは。もう少しのんびりやってもいいと思うわよ」
 そう言う浜田だって、せかせかと人以上に働いているのを
睦子は知っている。
「ところで、遥子さん、その後はどうなってるんですか?」
 他愛も無い会話の後、睦子は気になっていた事を訊いた。
 遥子は少し寂しそうに微笑んだ後で言った。
「実はね。彼と別れたの。それで、今度、お見合いをしようと思って」
「ええっ?」
 睦子は驚いて遥子を凝視した。
 遥子の変わらぬ笑みを見て、ハッと浜田の存在に気付いた。
「大丈夫よ。浜田さんにも話してあるから」
 睦子の心配に気付いて遥子が発した言葉に、浜田は黙って頷いた。
「彼がね。奥さんと離婚するから結婚して欲しいって言って来たの」
 驚くような内容を、遥子は淡々とした口調で言った。
「そ、それなのに、どうして?どうして別れちゃったの?」
 いけないと解っていながらも受け入れざるを得なかったのに、何故?
 遥子の顔が歪んできたのに気付いた。少し震えている。
「奥さんに…、引導を渡されたのよ。帰る場所を失くしたの」
「それなら、尚更どうして?家庭に居場所が無いって言って来てた
彼を拒否できなかったのに、本当に居場所が無くなってしまった人を
どうして受け入れてあげないの?」
 睦子の言葉に、遥子の瞳から涙がこぼれ落ちた。それを見た睦子は
胸がキリリと痛むのを感じた。
「だ、だって、そんなの…、愛じゃない、じゃない。私を
愛するが為に家庭を捨てて来たのなら、私はどこまででも彼に着いてく。
例え地獄に堕ちるとしても。だけど、実際は違った。帰る場所が
あった時には、離婚して私と結婚するなんて微塵も考えて無かった。
彼はただ、居場所が欲しいだけ。自分が安心できる居場所が。
前にアユちゃんが言った通りなのよ。愛じゃなかったのよ。
それに、気付いたの。だから…」
 声も無く、肩を震わせて泣く遥子を見て、睦子は咽(むせ)び泣いた。
 行き場所を失った男と結婚しても、確かに遥子が幸せに
なれるようには思えない。彼にとっては遥子の幸せよりも、
まずは自分の幸せなんだ。だから、そうと気づいて別れて
良かったのだ。けれども、悲しい。
 2人が泣いているそばで、浜田は大きく溜息をついた。
「悲しいのは分かるけど、これ以上泣かない方がいいと思うわよ。
上村さんはよく決心したと思う。いつまでも引きずりたくないから
お見合いするんでしょ?ほら、もう、泣かないの」
 浜田の言葉に、2人はそれぞれに涙を拭った。
 そうだ。浜田さんの言う通りだ。悲しいけれど、あの男と
いつまでも続いている方が、ずっと悲しい事なんだ。
これで良かったんだ。睦子はそう思い直す事にした。
「私も、お見合いしようかな……」
 突然、浜田がそう言い出して、睦子は驚いた。遥子も
びっくりした顔をしている。
「えっ?どうしてですか?」
 驚く2人の顔を見て、困ったように浜田は笑う。
「だってさ。あの職場じゃぁ、先が見えてるじゃない。いつまでも
独りでいてもね。山口さんも煩いしさ」
「まさか、生物の先生と会うつもりなんじゃ?」
「ははは、やめて、それは無いから。間違っても、あの人の
お兄さんと会うつもりはありません」
 きっぱりとした口調で言われて、取り敢えずホッとした。
睦子がホッとするのも可笑しな話しなのだが、どうにも
他人事のような気がしない。
「出会いなんて、早々無いものね。…私はさ。元々、特別結婚願望
なんて無いのよね。縁が有ればするし、無ければそれはそれで
良しって思ってるの。でもウチも山口さんの所と同じで、兄貴も
独りもんだから親がね。煩いのよね、やっぱり」
「そう言うものなんですか?やっぱり…」
「鮎川さんはまだ若いから、親御さんから結婚を催促される事は
無いでしょうけど、25を過ぎたら、言われるかもよ」
 男でも、いつまでも独りでいると言われるくらいだから、
女なら尚更だ。女の方が、年齢がいく程、機会が減る。
だから親は尚更心配する。
「結婚しなくても一人でやっていける経済的基盤がしっかりした
仕事をしているならともかく、たかが知れてるものね、あそこじゃ。
それに、やっぱり家族を持たないで一生一人でいるのは寂しい
ものだって親から散々言われ続けてさ。最初は反発してたけど、
年々身に沁みて来ると言うか…。こんな事を言うの、なんか
年よりじみた気がして嫌なんだけど」
 経済的基盤がしっかりした仕事、か。
 睦子も将来結婚するかどうかは、まだわからない。
 浜田と一緒で、縁があればするし、無ければそれはそれで
構わないと思っていた。そして、それとは別として、仕事は
仕事としてこの先どうするのかと思い悩む。
『君は、戦う前に諦めるのか』
 いつも笑顔の結城が、怖い顔をしてそう言った。
 ゲーセンでのリベンジを誘ってきた時にも、
『勝負する前から投げ出すなんて、アユちゃんらしくないな』
 と彼は言った。
 あたしらしくない。
 その言葉が胸に突き刺さったまま抜けない。
 今までずっと逃げて来た。
 これからもずっと、逃げ続けるのか。
 一生…?



     (8.迷い道 end  9.進むべき道 へ つづく。。)


blogram投票ボタン ←ヨロシクお願いします。

スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。