ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第7章 ぬくもり 第2回

2010.03.05  *Edit 

 「お前の歌は色んな魅力があるな。ピアノの弾き語りの時は、
男の歌ばかりだったろ。カラオケでは女性ボーカルだし、こうして
声楽曲も歌う。どの歌もそれぞれに違う魅力がある。なんだか、
お前そのものって感じだな」
 「そう言ってもらえると嬉しいんですが、なんか恥ずかしく
なっちゃいます」
 「恥ずかしがり屋だもんな」
 こうして、増山と一緒に過ごす時間は、楽しかった。増山は、色んな
理子を発見しては喜んでくれる。褒めてくれる。ときめきと安心感の
両方を与えてくれる人だ。
 楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。理子が書いた感想レポートの話しや、
歴史の話しでは盛り上がった。したくてもずっとできなかった話しだ。


「理子、中間テストは頑張ったな。学年の平均点は一学期に比べると
下がってるのに、お前だけは一学期をキープした。感心してるんだ。
他の先生方も目を見張ってたぞ」
 「何とか頑張りました。さすがに、きつかったです。もっと
頑張らないと。受験勉強の方がちょっと滞ってしまってるので、
今挽回中です」
 「そうだ。お前に渡そうと思ってた参考書や問題集があるんだ」
 増山はそう言うと、書棚の端の方からゴソゴソと紙の手提げ袋を
取り出して持ってきた。中を見ると、ギッシリ入っている。重そうだ。
 「凄い・・・・」
 「俺のお勧めだ。ただ、問題集は、それを早めに一通りやったら、
最新のやつを買え」
 「はい、わかりました」
 「わからない所があったら、聞いてくれ。学校の先生方に聞いてもいい。
教科書じゃなくても聞きに来れば教えてくれる筈だ」
 「はい」
 「あとな。生半可な勉強じゃ難しい大学ではあるが、だからと言って
勉強漬けになるな。この時期じゃないと経験できない事も多い。
遊びからも得るものはたくさんある。それに、メリハリも大事だ。
一日の勉強時間は3~5時間で十分だ。効率良くやる事が大事だからな」
 「私の成績で、その程度の勉強時間で、本当に大丈夫なんでしょうか?」
 「発想の転換を心がけるんだ。文系はまず大丈夫だろう。あとは如何に
理系を克服するかだな。お前の好きな歴史の勉強法を参考にするといい」
 歴史の勉強法か。なる程。既に英語の学習には取り入れている。
如何に工夫して覚えるか、なのだろう。
 「あとは、迷った時には俺に聞け。俺がついてる。俺が合格させてやる」
 増山は力強く言った。理子は、そんな増山を頼もしげに見た。見ると、
つい見惚れてしまう。
 増山の腕が伸びてきて、理子を抱き寄せた。理子の心臓がいきなり
早鐘を打つように激しく鳴った。
 「これからは毎週ここへ来い。俺が家庭教師してやる」
 理子は頭を振った。
 「ダメです。そんなの、贔屓じゃないですか」
 「他の生徒にだって、それぞれ親身に面倒見てるけどな」
 「でも・・・」
 「『でも』じゃないだろう。俺がお前に会いたいんだ。こうして、
お前の存在を体で感じたいしな」
 低い声で『体で感じたい』なんて言われて、胸の動悸が更に
速くなった。顔も体も熱い。
 「先生といたら、お喋りばっかりして、勉強が捗らない気がします」
 「それは甘いな。俺はスパルタだぞ」
 「スパルタなんですか?」
 「そうだ。しっかり言われた通りに勉強しないと、罰を与える」
 「罰?」
 理子は驚いて、増山の腕の中で増山の顔を見上げた。素敵な顔が
近すぎて息が止まりそうな程ドキドキした。
 「そう。野球拳と一緒だな。一枚ずつ、衣服を剥ぐ」
 「ええーっ!」
 増山はニヤリと笑った。
 これはきっと悪い冗談だ。この人はこうやって、私をからかって
楽しんでるんだ。
 「そんな事をされたら、私きっと泣いちゃいます」
 「大丈夫。俺はもう、理子の涙には馴れた。剥かれて泣く理子を
見るのも、オツだ」
 目が笑っている。やはり完全に、おちょくられている。
 「そうですか。それじゃぁやっぱり、安心してここへは
来れませんね。自宅で勉強しないと」
 理子はそう言うと、にっこりと笑った。
 「そんな事を言うヤツは、今ここで罰を与える」
 増山は真面目な顔をしてそう言った。
 「えっ?」
 理子が驚いた顔をすると、
 「お前、今の自分の状況がわかってないよな。お前は今、
俺の腕の中なんだぞ」
 そう言われて、胸がキューンとした。
 そうなのだ。さっきからずっと、抱きしめられたままなのだ。
 理子を抱く増山の腕の力が強まった。理子はドキっとした。
 「この、減らず口め」
 そう言うと、増山は顔を寄せて来て理子に口づけした。
 息苦しくなるほど激しくて、理子の胸は高鳴り、そして戸惑った。
激しく吸われ、唇が少し開いた。そこへ増山の舌が入り込んできた。
理子はビクッと震えた。増山の舌は理子の下唇の中側を舐め、下の前歯を
横方向になぞった。歯に増山の舌の感触を感じた。不思議な感覚だった。
それに何故か、体全体に刺激を感じる。なぞられているのは歯なのに。
そのうち舌は去り、下唇を強く噛まれた。
 理子は声にならない声が出た。痛いのに、感じた。増山は何度も理子の
下唇を噛んで弄ぶ。理子は段々我慢できなくなってきて、手で増山を
押し離そうとしたが、増山の腕は緩まなかった。
 再び、唇が重なり合う。いつ終わるのだろう。長いキスだ。
 体が熱い。頭もぼーっとする。気絶しそうだ。
 やっと増山の唇が離れた時、理子は唇が痺れているのに気付いた。
 「理子」
 頭上から優しくて熱い声が呼ぶ。
 目をそっと開いたら、熱い目が自分を見つめていた。
 「唇が赤くなって、色っぽい」
 増山はそう言って微笑んだ。
 理子はそれに対して言い返そうと口を開きかけたが止めた。何か
言ったら、またされそうな気がしたからだ。もう、これ以上は
耐えられない。逃げてしまいそうだ。
 黙って俯く。
 「顔をよく見せてくれないかな」
 そう言われたので、素直に従った。本当は恥ずかしくて従いたく
なかったのだが。
 「珍しく素直だな」
 そう言って増山は笑った。
 「先生・・・、そろそろ私を解放してくれませんか」
 理子の声は掠れていた。
 「いやだ。もっとこうしていたい」
 声に熱を帯びているように感じられた。
 「じゃぁ、力を緩めて下さい。息苦しくて窒息しちゃいます」
 理子にそう言われて、増山は慌てて腕を緩めた。
「ごめん、ちょっと強く抱きしめ過ぎた。それに、この態勢は
ちょっと辛いよな」
 増山はそう言うと、椅子に座って理子を自分の膝の上に横座りさせた。
 「せ、先生?」
 理子は慌てた。
 「本当はこのまま抱っこして、ベッドへ連れていきたいんだけどな」
 理子は体が熱くなった。これまでずっと、遠くからそっと
気付かれないように見ていた人が、こんなにも近くにいる。体が触れて、
抱きしめられて・・・。両思いになったのは嬉しいけれど、一挙に
縮まった距離に戸惑いを覚え、体が震える。
 おまけに、ベッドへ連れていきたい、なんて言われて、どうしたら
良いのか混乱するばかりだ。そんな理子に増山は再びキスをした。
今度のキスは甘かった。
 増山は理子の頭を撫で始めた。それが理子には心地良かった。
頭を撫でられるのは好きだ。深い安心感を与えてくれる。子供の時に
親に頭を撫でられた記憶がない。抱きしめられた記憶もない。
そもそも、褒められた事さえ無かった。甘えさせてもらった記憶もない。
物心ついた頃から、理子自身も甘えた事が無かった。自分から甘えたら、
「甘えるんじゃない」と拒絶されそうなものを感じていたからだ。
 この人には甘えられるだろうか?甘えてもいいのだろうか?
ついつい反抗したり天の邪鬼になったりして、素直になれなかったり
するけれど。理子が男の強引な面に惹かれるのは、自ら行動
できないからなのではないだろうか。
 増山の唇が離れた。理子を見つめる。理子はその瞳を戦慄(わなな)き
ながら受け止めた。
 増山が頭を撫でていた手で、理子の髪先を握り、自分の
鼻へと持ってゆき嗅いだ。
 「いい匂いがする・・・」
 理子はカーッとなった。それだけの行為に、何故こんなにも
体が熱くなるのか。
 「せ、先生。重くないですか?そろそろ足、厳しいんじゃ?」
 「そうだな~。お前、意外と重たいもんな」
 と言って笑う。
 「酷い人ですね」
 「はははっ、まぁ、そういう事だから、このままベッドへ
運んでもいいか?」
 爽やかな笑顔で、そんな事を言うのか。
 「ベッドへ運ばれる理由が無いです」
 「おっ、また減らず口が出て来たな」
 そう言われて理子は思わず身構えた。
 「しょうがないな。お前はまだウブだもんな。今日は諦めるか」
 そう言って、増山は理子を下ろした。
 理子はホッとした。やっと楽に呼吸ができる。
 「先生、私そろそろ帰らないと・・・」
 「理子、お前案外冷静だな。俺はまだ帰したくないんだけどな」
 「先生。私が毎週ここへ来たら、結局のところ集中して勉強できないです」
 「男女の愛を勉強できる」
 真面目な顔をして言われたので、理子の体は熱くなった。増山の言葉に
体が感じている。目の前にいる人は大人の男だ。子供の理子は、
それを受け止めきれないでいる。
 「先生。私、先生のような大人の男性と今まで付き合った事がないので、
どうしたらいいかわかりません。正直なところ、怖いです・・・」
 理子の言葉に、増山は少なからず衝撃を受けた。増山自身、まともに
女性を好きになった経験が無い事もあって、自分の気持ちがストレートに
出てしまう事に時々戸惑っていた。相手が自分と同世代なら問題は
ないのだろうが、六つも下の女子高生なのだ。
 「ごめん。すまなかったな。俺もちょっと調子に乗り過ぎた」
 増山は理子の手を取って、握りしめた。それだけで理子は赤くなる。
 「すぐに赤くなるんだな。初(うい)やつめ」
 「初やつって、それってまるで時代劇みたいじゃないですか」
 「だって、お前は理子姫だから」
 「もう。理子姫はやめて下さいって言ったのに」
 「いいじゃないか、たまには。髪が長いせいもあるのかな。
姫と言われるのは」
 「じゃぁ、私は先生を殿とお呼びしましょうか?」
 「殿、か。それもいいかもな。そうすると、歴研の連中は家臣だな」
 そう言って、楽しそうに笑った。
 『歴研の連中は家臣』の言葉に、理子も思わず噴き出した。
 「だけど俺が殿なら、お前は俺の言う事に何でも従わないと
いけなくなるぞ」
 悪ふざけの笑顔になっている。
 「じゃぁ、殿とはお呼びしません」
 そう笑顔で返す。
 「生意気なやっちゃ」
 増山と一緒にいると楽しい。時々見せる、大人の男に対する畏れも感じるが。
 「さて。本当にそろそろ帰さないといけないな」
 増山はそう言うと立ち上がった。いざ帰るとなると、寂しい。
このままずっと、一緒にいたい。明日からまた、ただの担任と教え子に
戻らなければならないのかと思うと、辛い。
 二人は自然と手を繋いで部屋を出た。増山のぬくもりを感じる。
心が温まる。
 「お邪魔しました」
 理子は家族に丁寧にお礼の挨拶をした。
 「あら、もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていってもいいのよ」
 母の博子が言った。
 「彼女のうち、結構厳しいから」
 増山がそう言った。
 「そう。躾のしっかりしたご家庭なのね。だからこんなにしっかりした
お嬢さんなんだわ」
 そう言って、優しく微笑んだ。理子は照れる。
 「また、是非遊びに来てちょうだいね。私達は大歓迎だから。マーの
下にもう一人女の子が欲しかったんだけど、生憎出来なかったのよ。
紫も妹が欲しいって言ってたわよねぇ」
 「そうなのよ。弟なんて、つまらないんだもの」
 と言って笑う。
 「ねぇ、理子って呼んでもいいかしら?」
 紫は優しく言った。
 「はい」
 理子は明るく返事した。綺麗な姉だった。はきはきしていて、とても
憧れる。理子もこういう姉がずっと欲しいと思っていた。
 「じゃぁ理子。マーに何か悪さされて困ったら、いつでも私に
言ってちょうだい。私がマーの毒牙からあなたを守ってあげる」
 「おいおい、姉さん。やめてくれよ、そんな事言うのはー」
 姉弟のやり取りを、理子は微笑ましく眺めた。いい姉弟だな。
 理子は増山に連れられて、増山家を後にした。増山の車で近くまで
送ってもらう。
 「学校では、お互いポーカーフェイスだな・・・」
 車に乗り込み暫く走ってから、増山がそう言った。
 「この一週間。お前って本当にポーカーフェイスだったよな。
俺、感心したけど、寂しくもあった」
 「そんな事を言われても、しょうがないじゃないですか。それに
先生だって、ポーカーフェイスでしたよ」
 「まぁな」
 案外、子供っぽい人だ。今日一日一緒にいて、理子はそう思った。
だが、それが突然、大人の男に変貌したりするので、正直なところ
気が抜けない。何度体が熱くなった事か・・・。
 「お前、枝本とは昔から知り合いなのか?」
 増山が突然、そんな質問をしてきた。
 「えっ?どうしてですか?」
 枝本との過去の経緯はゆきにしか話していない。
 「いや、枝本が転校してきた日、二人して驚いてる様子だったからな」
 見てたのか。確かに枝本の隣にいたのだから、理子の様子の変化には
気づいたろう。敏感な人だ。
 「枝本君は、元彼です」
 理子はそう答えた。
 「元彼?だって、あいつは名古屋にいたって・・・。そう言えば、
京都での夜、枝本との会話で理解できないのがあったな。
『あの時と一緒』とかなんとか・・・・」
 「先生。彼は名古屋へ転勤する前は南中にいたんですよ。
そして、その前は東中に・・・」
 「東中・・・?お前の出身中学か。じゃぁ、その時に?」
 「そうです。中1の一年間、彼は東中にいたんです。そして
私は彼と同じクラスでした」
 理子は、その時の二人の事を話した。彼女がいたのに、ずっと
好きだった事。その彼女と別れた後、理子と急接近して仲良くなった事。
疑心暗鬼で互いに思いを伝えあったのが終業式の日だった事。そして
学校が別々になってから別れに至るまでの事。
 「そうか。そういう事があったのか」
 「先生がいなかったら、多分私は枝本君の告白を喜んで
受け入れたでしょうね」
 「やっぱりお前って、眼鏡フェチなんだな」
 と、予想外の言葉が返ってきた。
 「なんで、そういうセリフが出てくるんです?」
 「いや、だって、そう思ったからさ。こう言ってはなんだが、茂木に
対してだって、実は満更でも無かったんじゃないか?」
 理子は黙った。鋭いところを突いている。
 「それに、耕介と凄く親しいが、あれが眼鏡をかけていたら、
案外好きになってたんじゃないのか?」
 「や、やめて下さいよ。そんな事はありません」
 と言ったが、頭の中で耕介に眼鏡を掛けさせて想像したら、
わからなくなってきた。
 「怪しいな。自信ないだろう」
 「で、でも!初恋の相手は眼鏡じゃなかったです」
 「初恋?枝本じゃないのか」
 「枝本君との事は中1ですよ。それが初恋なんて遅くないですか?」
 「わからない」
 「先生はまともな恋をした事が無いんでしたものね」
 と理子がわざと意地悪っぽく笑って言った。
 「ちっ、お前も結構、意地悪いな。運転中じゃなきゃ、
お仕置きしてるのにな」
 「おおっ、クワバラクワバラ。運転中で良かった」
 「お前、調子に乗るなよー」
 と言って、増山は長い腕を伸ばして理子の頭を小突いた。
 「痛いなぁ・・・、もう」
 「調子に乗るからだ。それで、初恋っていつなんだ?」
 「小学校一年生の時です」
 理子は小突かれた場所を撫でながら言った。
 「それって、早くないかぁ?」
 「そうですか?初恋って、幼稚園とか小学校低学年とか、その辺が
妥当なんじゃないですか?」
 「そんな小さい時の事なんて、恋じゃないだろう。憧れの類じゃないのか」
 「でも凄く好きでしたけど」
 何故か初恋の話しは恥ずかしい気持ちがしない。
 「相手は誰だ?まさか先生とか言うんじゃないだろうな」
 「クラスメイトです。友(とも)親(ちか)君って言います」
 「名前まで覚えてるのか」
 「そりゃぁ、初恋の相手ですから。考えてみれば、私の恋って
みんな叶ってますね」
 「って、もしかして、その初恋も叶ったって事か?」
 「そうなんです。告白したら、『僕も理子が好き』って言われました」
 なんだか思いだして逆上(のぼ)せて来た。懐かしい思い出だ。
 「お前、自分から告白したのか」
 増山は驚いていた。確かに、言われてみれば自分でも驚く。今の
自分なら、絶対にあり得ない。でもあの時の方がずっと内向的だった筈だ。
なのに、どうしてなんだろう。

スポンサーサイト


*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。