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小説・Bye by Blue<完>
8.迷い道


Bye by Blue 8.迷い道 04

2010.07.02  *Edit 

 立てなくなってから約1週間で、激痛は治まった。とは言っても、
前屈みになったりすると痛いし、寝返りを打つにもかなりの努力と
痛みを要する。それでも医者が言った通りの経過なので、このまま
安静に過ごしていれば、段々と良くなるのだろう。
 睦子は一人考える。
 こんなに会社を休んで大丈夫だろうか?
 主任は大丈夫だからゆっくり休むようにと言ってくれたけれど。
 それに、復帰したとして、一度こんな風に腰を痛めてしまって、
あの職場で今後もずっと勤め続けていける自信が無い。
 そもそも、この先も、ずっとあそこで働き続けるのか。
 未婚の30代の女性は何人もいるし、40代の主婦の社員もいるが、
先の事を考えると漠然とした不安が湧いてくる。
「睦子、男の人がお見舞いに来てるんだけど…」
 母が睦子の部屋へやってきて、訝しそうな顔をして言った。
「結城さん、かな?」
「そう言ってたけど、あげてもいいの?」
「うん」
 母は不審そうな顔をして出て行った。
 睦子は両手をついて、ゆっくりと起き上がった。
起き上がる時が一番辛い。
 ベッドのヘリに座ると、机の引き出しを開けてブラシを取り出し、
軽く髪を梳いた。
「むっちゃん、大丈夫?」
 酷く心配そうな顔をして結城が入って来た。その顔を見ただけで、
満ち足りて来る。
「お母さん、お茶を淹れて来るから」
 と声をかけてきた母に、「どうぞ、おかまいなく」と結城が言った。
2人とも神妙な顔をしている。
「座ってて大丈夫なの?」
 ベッドに座っている睦子の前の床に腰を下ろして結城が言った。
「うん。大丈夫。ずっと寝てるのも疲れるし。大分痛みも引けてきたの」
「今は痛みは?」
「姿勢良く座ってる分には、痛くないんだけど、背中丸めたり、
腰捻ったりとかは駄目。立つ時が辛いかなぁ」
「ねぇ、むっちゃん…」
 結城が急に真面目な顔をした。
「なあに?どうしたの?」
「うん…。お母さんがお茶を持ってきてくれたら、
俺を紹介してくれないかな」
「えっ?だって、名乗ったんでしょ?同じ会社の者だって」
「そうだけど、それだけじゃなくてさ。むっちゃんの口から、
俺の事をその…」
 言いたい事が分かって、睦子は顔が熱くなった。
「幾ら同僚と言っても、男が一人でさ。こうして自宅まで見舞いに
来るのって、やっぱり普通の関係じゃ、無いでしょ?君のお母さんに、
不審そうな目で見られてさ。俺やっぱりちゃんと話しておいた方が
いいと思ったんだ。むっちゃんは、嫌?」
 睦子は首を振ると、「ありがとう」と言った。
「涼の言葉、凄く嬉しい…。涼の方こそ、いいの?」
「当たり前じゃないか。だから、こうして言ってるのに」
 そう話している所へ、ドアがノックされて母が入って来た。
 お茶を置いて「ごゆっくり」と言って去ろうとしている母に
声をかけて引き止める。
「お母さん…。あの、こちら、同じ会社の結城涼さん。
今、あたしが付き合ってる人なの」
 真っ赤な顔の睦子の言葉に、母は「あらっ」と言って、
結城の方へ目をやった。
「あの、結城涼と言います。睦子さんとは同じ売り場で働いていて、
個人的にお付き合いをさせてもらってます」
 結城は膝の上に手を置くと、深々と頭を下げた。
「まぁ、そうなんですか…」
「あのね。この間の台風の時に、彼がわざわざ車で送ってくれたの」
 睦子の言葉に、「まぁ」と母は驚いた。
「あの嵐の中を送ってくれた会社の人って言うのは、この方だったの」
 電車も止まってしまい、一体、娘は無事に帰れるのかと気を
揉んでいた母だったが、無事に帰って来た娘から事情を聞き、
「寄って貰えば良かったのに」と言っていた。一言お礼を
言いたかったのに気が利かないと娘を責めたのだった。
「その節は、どうもありがとうございました。大変な中を
送って頂いてお礼も申し上げませんで…」
 丁寧な挨拶を受けて、結城は逆にたじろいた。
「とんでもないです。自分が彼女を送りたかったんです。自分の手で
無事に送り届けないと心配でたまらなかったんです」
「まぁ、そうですか。お優しいんですね。これからも、睦子の事を
宜しくお願いしますね」
「はい、こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
 そう言って手をついてお辞儀をする結城に微笑んでいる母を見て、
睦子はホッとした。
「じゃぁ、どうぞごゆっくり」
 笑顔で出て行く母を見送った後、結城は大きな吐息を吐いた。
「緊張したよ~」
「お母さん、多分涼の事を気に入ったみたい」
「本当に?」
「うん。多分ね」
「それなら良かった」
 と、安心したように笑うと、結城は膝立ちして睦子に唇を寄せて来た。
 大きな手が頬に触れて、指先で優しく撫でられた。
 そっと離れた唇からこぼれる吐息が甘く香った。
 睦子を見つめる薄い茶色の瞳に吸い込まれそうだ。
「凄く、心配したよ…」
 睦子は黙って頷いた。
「君がいない売り場は、物足りない。凄く寂しいよ」
「涼…。でも、まだ1週間だよ?夏休みの時と変わらないじゃない」
 結城は再び床に腰を下ろすと、睦子の手を取って握った。
「夏休みの時には、間にデートがあったじゃないか。それに、
1週間だけだし。でも、今回は1カ月だよ。まだ3週間もある。
休みの日には逢いに来るつもりだけど、君のいない職場は味気ないよ」
 結城の言葉が胸に響く。睦子自身、同じ売り場で働いていると
言う事が、どれだけ日々の仕事の活力となっていたか計りしれない。
「むっちゃんがいないと、物足りないって石川さん達も
言って無かった?」
 京子が、「むっちゃんがいないと、つまんなーい」とは言っていた。
「似たような事を京子ちゃんが言ってはいたけど…」
「君の存在は、あそこでは大きいよ。俺、あそこで働くように
なって色々見てきたけど、君はあの売り場では、一種の緩衝材
みたいな役割を果たしてると思うんだ」
「緩衝材?」
「うん。もしくは、潤滑油かな。まとめ役をしているって訳じゃ
ないんだけど、自然とみんなの調整役になっていると言うか」
「それは、買い被りだよ。私、なんにもしてないよ?どっちかって
言うと、怒ってばかりだし。健康診断で若年性高血圧の心配が
あるって言われたの。だから、あまり怒ってばかりいては
いけないんだろうけど、実際には怒ってばっかり」
 睦子の言葉に、結城は笑みをこぼした。
「確かにむっちゃんは、ちょっと怒りん坊かもな。でもそれは、
君が優しくて正義感が強いからだよ。怒ると言ったって、
自分の事よりも人の事の方が多いでしょ」
 そう言ってくれて嬉しいが、矢張り買い被りだと思う。
「そんな事ない。人の事でも怒ってるけど、自分の事の方が多いと思う。
大体、自分の馬鹿さ加減に腹立つばかりだし」
 何度、自分を馬鹿だと思ったかしれない。
 今だって、将来の事を考えると嫌になってくる。できれば考えたく
無いが、こうして家でジッとしていると、考えたく無くても考えて
しまうのだった。
「むっちゃんは馬鹿じゃないよ。自分を馬鹿だと思う必要なんか、
これっぽっちも無いのに」
「ありがとう。でもあたし……」
 睦子は俯いた。
「あたし、さ…。こうやって家にいると、色々と考えちゃうの。
将来の事を」
 睦子の言葉を聞いて、結城がギュッと睦子の手を握りしめて来た。
「わかるよ。俺も同じだから」
 えっ?
「どういう意味?」
 俺も同じって、どういう事?


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