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小説・Bye by Blue<完>
8.迷い道


Bye by Blue 8.迷い道 03

2010.07.01  *Edit 


 翌朝の事だった。
 いつもの時間に目が覚めて、ベッドから起きあがろうとしたら、
何だかいつになく腰が痛い。
 あ~、昨日のせいかな。凄かったもんな…。
 昨日の大量買いの後、ああ腰が痛い、と思ったものの、
今の職場で働きだしてからはよくある事なので、気にしていなかった。
 なんせ、毎日、重たい反物を運んでいる。
 少々せっかちな性格も相まって、ノンビリと片づけるのは性に
合わないものだから、いつでもテキパキと、サッサと片づける。
だから人より多く運んでいると思う。
 日曜日などの特に忙しい日は、腰が痛くなる事がある。昨日は
大量に10メートル物を切ったから、当然と言えば当然だ。
帰りも腰が重かったし、寝る時にも鈍痛を感じていた。
 やんなっちゃうな……。
 なんとか起き上がり、身支度するが、どうにも腰が定まらない気がした。
歩くのがしんどい。変だな、と思いながら階段を降りるが、
なんだかズキズキしてくる。
 覚束ない足取りでダイニングへ入って来た娘を見た母が、
「どうしたの?」と目を剥いた。
「うん。なんか、腰が痛くてスタスタ歩けないと言うか…」
 睦子は「よっこらしょ」、との言葉が口から出て来るんじゃないかと
思われるように、食卓の椅子に座った。
座るのに「よっこらしょ」も可笑しいのだが。
「大丈夫?」
 母親が心配そうな顔をしている。
「うん。多分ね」
 と言ったものの、腰の痛みが増して来るのを感じる。
本当に大丈夫なのだろうか。
 食事が終わって立ち上がった。
 あっ!
 動けない…。
 睦子は立ったまま固まった。
「どうしたの?何、突っ立ったままでいるの?」
「う、動けないの…。腰が…」
 腰が痛い。
 それに、ただ痛いだけじゃない。腰がズレて重心が定まらない、
そんな感じがする。重心が定まらないから、足が動かせない。
 ああ、どうしよう……?
「お母さん、…手を貸してくれない?」
 睦子の言葉に、母が傍へやってきて手を出した。その手に掴まって、
何とか足を出す事ができた。
 駄目だ。こんなんじゃ、会社へ行けない。
「病院、行った方がいいわね」
 母は車の免許を持っていないので、タクシーを呼んでくれた。
 母とタクシーの運転手の手を借りて乗り降りし、病院で診察を受けた。
 レントゲンを撮り、長い事待たされた。その間に、会社に電話を掛ける。
 整形外科って、凄く混んでるんだな。
 驚く程である。
 病院は混んでいるというイメージを持っていたが、その混み具合は
半端じゃ無かった。待っている間も辛い。背筋を伸ばして座って
いないと耐えられない程の痛みを感じる。
 9時頃に行ったのに、結果を聞く為に呼ばれたのは13時近かった。
「椎間板症ですね」
 と医者は言った。
「椎間板には、腰椎と言う骨と骨の間にあるクッションの役割が
あるんですが、これが何らかの負荷によって圧迫されて神経を
刺激しているんです。悪化するとヘルニアになる危険性がありますが、
あなたの場合は大丈夫です」
 医者がレントゲンの一部分を指示した。骨と骨の間が
狭くなっている部分だ。
「前屈みになると、強い痛みがあると思います。暫くは安静に
して下さい。今のような、何もしていなくても痛む状況は、
1週間くらいで改善されると思いますが、仕事は1カ月程は
休まれた方がいいでしょう」
 1カ月も休むのか。
 腰にコルセットを巻かれて、痛み止めの薬を処方された。
安静にしているしか方法は無いと言う。
 日常生活の注意事項や、腰痛予防の方法などが書かれた薄い
冊子を貰って帰宅した。
 暗澹たる思いになってくる。
 会社に電話をして事情を話すと、1カ月の休みが取れた。
「心配いらないから、ゆっくり休むように」と主任に言われて、
取り敢えずホッとしたが、先の事を思うと気持ちは浮かない。
「まずは、治すことに専念しなさい」
 母がそう言った。
 それもそうだ。とは言っても、特別な治療法があるわけでも
ないのだから、ただただ安静にしているしかない。
 夜、結城から電話がかかってきた。
「むっちゃん、どうしたの?大丈夫?」
「うん…。昨日の大量のが響いちゃったみたい。立つのがやっとなの…」
「立てないの?」
 とても、驚いた声で聞かれた。
「全く立てないってわけじゃなくて、立つのに物凄い時間と
工夫が要るって言うか」
 姿勢を少し変えるだけでも、激痛が走る。寝返りさえ、打つのに
苦労する。殆ど横向きで寝ているのだが、ずっと同じ姿勢でいるのも、
腰以外の筋肉が疲れて来るので辛いのだった。
「俺、凄く心配だ…」
 涼の少し掠れめの低い声が睦子の耳に心地良く響き、心に沁みて来る。
こうして自分の事を心配してくれる人がいる事が、凄く嬉しい。
「ありがとう。でも、腰が痛いってだけだから。時間が経てば
良くなるから大丈夫」
「ここのところ、また忙しくて残業が続くみたいなんだ。
だから休みの日に行くから」
「でも、遠いのに…」
「何言ってるんだよ。遠くなんかないよ。それに、俺が逢いたいんだよ。
君の顔を見たいんだ」
 胸が熱くなる。
「ありがとう…」
 電話を切った後も、心は温かかった。彼の優しい声が耳に直接響いて、
幸せだった。
 結城とは、普段あまり電話では話さない。メールも、そんなに
頻繁ではない。それを寂しいと思った事は一度も無かった。
 松本あかりとの噂で胸を痛めていた時でさえ、少ないささやかな
やり取りを不満には思わなかった。ささやかではあっても、
数が少なくても、それだけで十分癒されたし満たされた。あんなに
不安で一杯だった時でさえ、物足りないと思わなかった。
 これだけ?とか、これしか来ないとか思うのでは無く、
メールをくれた、それだけで十分嬉しいと感じた。
 2日後に京子と和子が見舞いに来た。会社の帰りだった。
「2人ともありがとう。遠いのに…」
 睦子はまだ寝た状態だった。
「ううん、大丈夫だよ。それより、本当に災難だったよね。
忙しかったのもあったけど、一人であんなに大量に切ったんだもん。
腰を痛めるのも当然だよ」
 京子が半ば興奮したような口調で言った。
「会社の方はどう?どんな様子?」
 一人欠けて、さぞや忙しくて大変だろう。
「アユちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。夏休みの時程じゃないから」
 それでもまだ、文化祭を控えた学校が幾つかあるだろう。
考えてみると、睦子は去年の10月初旬から勤め出した。
暮れにかけて、ずっと忙しかった記憶がある。
「ごめんね。みんなに迷惑かけて」
「何言ってるの。しょうがないじゃん。むっちゃんのせいじゃないよ。
それより、みんなも気を付けないとって言ってる。じゃないと、
むっちゃんの二の舞になりかねないもん」
 職場では、反物を片づける際、どんなに片づける量が多くても
一度に持つのは2つまでと決められたと言う。
「もっと早くにそうしてくれてたら良かったのにね。あと、むっちゃんが
受けた大量買いの時も、一人でやらないように、って事になった」
 確かに、もっと早くに従業員の負担を考えて対処してくれてたら
良かったのにと思った。
 でも、他の人も同じような事になる前に手を打ってくれて
良かったとも思う。
 その後、他愛もないお喋りをして2人は帰って行った。
 他愛もないお喋りは、いつも昼休みや終業後に飲みに行った時に
3人で喋る内容と変わらない。けれど、休んでいる自分にとっては、
何故か遠い話しのように感じるのだった。
まだ3日しか休んでいないのに…。


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