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小説・Bye by Blue<完>
8.迷い道


Bye by Blue 8.迷い道 02

2010.06.30  *Edit 

 結城は睦子の驚く顔を見て、優しく頷いた。
「あの人、やたらと俺と松本さんをくっつけようとするんだよ。
何だかよく分からないけど、どうにも断りにくい状況にいつも
なってるんだ。このままじゃ、進退極りそうな状況に追い込まれ
かねないし。今日も帰り際に、誘われたんだよ。みんなで飲みに行こうって」
「えっ?そうなの?」
「うん。みんなの中には、当然、松本さんもいる。だから俺、
この際だからはっきり言った方がいいと思ったんだ」
 はっきり言わないと、いつまでも誘われ続ける。いつもいつも
断ってばかり、と言う訳にもいかないだろう。だから言った。
「俺、この後彼女と約束してるんで、って言ったんだ。意味が
分からないって顔をされたから、今付き合ってる彼女がいるって言った」
 その言葉に、胸が締め付けられた。
「あ、あたし…、みんなが『あの2人は怪しい』って言うのを聞いて、
胸が痛かった。凄く仲睦まじい雰囲気だって、みんな言うんだもの。
あたし、不安で…」
「ごめん…」
 結城は睦子を抱きしめた。
「浜田さんに言われたんだ。一体、どうなってるの?って。
むっちゃんが、凄く不安そうだって。まさか、河嶋さんと同じ事を
するんじゃないでしょうね、って」
 仕事中、たまたま2人きりになった時に浜田が言った。
「鮎川さん、凄く不安そうよ。あなたと松本さんの事で。一体、
どうなってるのよ。まさか、河嶋さんみたいに二股かけたり
してるんじゃないでしょうね」
 浜田にそう言われて、結城は驚いた。
 元々、人の噂には無頓着な方だった。しかも噂は女子の間では
相当なものだが、男子の間ではあまり話題にならない。
 河嶋の件に関しては、和子と同じ売り場と言う事もあって、
弓田主任が河嶋に忠告していた。あまりにも大ごとになって
しまったからだ。
 だが、結城と松本の噂に関しては、あまり自分の耳には
入ってきていなかった。自分的には、今までと変わっていない。
今までと同じように、休み時間に周囲に寄って来る女の子たちと、
今まで通りに普通に話している。
 その中で、松本あかりが特に親しげに寄ってきて、何かと誘って
来るが、その度に断っている。それだけなのに、噂になっていると
聞いて、結城にとっては寝耳に水に近かった。
「俺、全然知らなかったんだよ、そんなに噂になってたなんて。
君が、そんなに不安な気持ちになってるなんて。ほんとにごめんよ」
 睦子は結城の腕の中で首を振った。
「俺が好きなのは、むっちゃんだけだから。俺にはむっちゃんしか
いないんだ。だから、俺を信じてくれないか?」
 胸が熱くなった。
「本当に?」
「本当だよ。君だけだ」
「信じて、いいのね?」
「当たり前だろ?俺を信じてくれ」
「わかった。…信じる……。信じてるから…」
 震える睦子の唇に、熱い唇が重なった。
 甘く切ない想いが、胸いっぱいに広がるのだった。

 翌日。
 結城に彼女がいると言う噂が、あっと言う間に広がった。
 河嶋から木村洵子と松本あかりに伝わり、洵子が他の従業員へ
話したのが広がったようだ。昼休みには殆どの社員が知ると言う、
何とも早い伝播力だった。
「やっぱり、彼女いたんだね」
 和子がのんびりした口調で言った。最近やっと、元に戻りつつある。
「なんかビックリ~。だって、松本さんといい雰囲気だったじゃん」
「うん。でも、後から考えてみると、適当に相手してたって
感じもするんだよね」
 結城の昼の便に合わせて、同じ便を取っていた松本あかりだったが、
彼女がいると知っても尚、昼に誘いに来たのだった。だが結城は
「悪いけど、先に行っててくれる?」と、一緒に食堂に行く事を
やんわりとだが断った。
 何の気なしに、その様子を見ていた睦子は、心のおもりが軽く
なってゆくのを感じるのだった。そして、そんな睦子の視線を
感じたのか、結城が睦子の方を見た。
 視線が重なった。
 微かに微笑まれて顔が熱くなった。
 睦子も微かに笑みを返した。
 とても嬉しい。
 もう、あかりの事で気をもむ必要は無い。
 彼を信じよう。
 あたしだけだと言ってくれた彼を。
「ちょっと、すみません…」
 声を掛けられて振り向くと、中高年の女性だった。お客だ。
「はい。何でしょう?」
「ちょっとね。布を切って欲しいんですけど、いいかしら?」
「はい」
 と返事をしたものの、女性は反物を手にしていない。
「こっちへ来てくれる?」
 そう言われて後を着いて行くと、台の上に沢山の反物が置いてあった。
「全部、10メートルずつ、頂けるかしら」
「全部って、これらを全部ですか?」
 一体、幾つ置いてあるのだろう。110センチ幅のデニム系の
安い布が20以上は有りそうだ。
「まだ、これで全部じゃないのよ。選んで持って来るから、
どんどん切って下さいね」
 女性はそう言うと、新たな布を物色に行った。
 睦子は反物を手に取って10メートル計ると切りだした。
 大変な作業だった。10メートル切っては畳む。デニム系と
言っても安い薄手タイプではあるが、それでも10メートルとも
なると重たい。それを屏風畳みにしては、次の布を計って切っては畳み、
をひたすら繰り返した。
 切っているそばから、女性は新しい反物を持って来る。
 そんな状況に気付いた浜田が応援に来てくれたが、売り場全体が
混みだして、結局は睦子一人になった。
 食事から帰って来た結城が、驚いた顔をしてそばへやってきた。
「どうしたの、これ?」
「うん…」
 睦子は布にハサミをいれながら、事情を話した。
「ちょっと俺、主任に話して来るよ」
「えっ?」
 睦子は結城が何故そんな事を言うのか解らなかった。
「どうして主任に?」
「だって、こんなに大量に切らせて、本当に買ってくのかな?
どうやって持って帰るの」
 そう言われれば、そうだ。
 来ているのは少し年配の婦人だった。
 既に、どれだけ切っただろう。ざっと見ても20以上はある。
1メートル290円の反物ばかりだが、既に5万円分以上の布を
切っている事になる。大した金額だ。
「ちょっと行って来る」
 結城はそう言って、バックヤードの中へと姿を消した。
 婦人はまだ布を台へと持ってきていた。
「10メートル無いものは、要りませんから」
「はい…」
 1センチ足りなくても要らないと言う。それはそれで迷惑な話しだ。
また巻き直さなくてはならない。大抵の反物には、残量が分かる
紙紐が布と一緒に巻かれている。それを見ればどのくらい残っているか
一目瞭然なのだが、反物メーカーによっては、付いて無い物もある。
 主任が結城と共にやってきた。
「お客様。ちょっと、お話しを伺いたいのですが、よろしいですか?」
 主任は睦子に、暫くの間、布を切るのを止めるように言うと、
客を少し離れた空いている場所へと連れて行って話しだした。
 睦子はひとまず息を吐いた。
 なんだか、疲れた。
「大変だったね。俺片づけるよ。切った反物はこっちでいいのかな?」
「あ、ありがとう。助かる」
 結城が片づけようと、切り終わった反物を持ったら、主任と
話していた客が大慌てで走って来た。
「駄目よ、片づけちゃ。まだ布選びが終わってないんだから、
戻しちゃったら、切り終わったものか分からずに、また持って
来ちゃうかもしれないじゃないの」
 その言葉に仰天した。
 まだ、持って来るつもりなのか。
 結局、このお客は教会関係の人間だと言う事が分かり、施設の
催事その他諸々で大量に必要だと言う事で、全てを現金で支払い、
切った布は宅配便で送って欲しいと頼まれた。
 冷やかしではなく、れっきとしたお客だったので、大量に購入されて
万々歳だが、切るのも、畳むのも、ダンボールを用意して詰めるのも、
大変だった。
 あ~、なんだか腰が痛いかも……。
 勿論、肩や腕も痛かった。
「お疲れ様。大変だったね、アユちゃん」
 主任もみんなも労(ねぎら)ってくれたが、つくづく、
ここは大変だな、と身に沁みたのだった。


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