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小説・Bye by Blue<完>
8.迷い道


Bye by Blue 8.迷い道 01

2010.06.29  *Edit 

 10月末日をもって、上村遥子は退職して行った。
 本社との繋がりが深い主任クラスは退職の事情を知っているが、
他の社員は知らない。だから突然の遥子の退職に、みんなが驚いていた。
 優しくて聞き上手な彼女は、多くの従業員達から好かれていた。
だから誰もがその退職を嘆いたのだった。
 最後の日には、多くの花束やプレゼントを貰い、
惜しまれて去って行った。
 遥子の代わりに来たポップ描きは、21歳の女の子だった。
今年の春、デザインの専門学校を卒業したばかりだと言う。
久保メグミと言った。
 ほっそりとして、黒目勝ちな瞳がクリっとした、可愛らしい子だ。
主任を始め、多くの男子従業員が相好を崩し、鼻の下を伸ばした。
 余所の売り場の男子社員が、「アイドルみたいな子だよな」と、
目を輝かせて話しているのを聞いた。
 この間、木村洵子と正式に付き合いだしたばかりの河嶋も、
ポップへ行くと長居をして、なかなか戻って来ない。
「何やってるのよ、忙しいのにっ!」
 と、浜田はしょっちゅう腹を立てていた。
 そんな河嶋とメグミに対して、洵子は嫉妬し、それを河嶋にこぼした。
それに対し、「勘違いするなよ。嫉妬深い女は好きじゃない」
と、言ったらしい。
 ただ単に、男の習性として、可愛い女の子についつい鼻の下を
伸ばしているだけなのかもしれないが、言い方ってものがあるだろう。
 つくづく、河嶋と言う男は、相手の立場や気持ちを
考えない奴なんだなと実感する。
「むっちゃん、今日仕事が終わったらさ。あの居酒屋に行かない?」
 売り場の朝礼が終わって、レジの準備をしている所へ結城が
やってきた。はにかんだ笑顔を向けて来る結城を見て、ドキリとした。
「えっ?」
 と、驚いて思わず周囲に視線を飛ばす。
「大丈夫だよ。そばに誰もいないから」
 結城が少し小声でそう言った。
「残業は?大丈夫なの?」
「うん。少し落ち着いたし。もしあっても、今日は定時であがるよ。
だから待ってる」
 結城はそれだけ言うと、去って行った。
 台風の日から1カ月。
 2人きりで逢うのはあれ以来だ。
 売り場で時々他愛も無い言葉を交わす程度だった。
 メールはそれなりにやりとりしているが、その内容はごく普通だ。
会社での噂話や河嶋達の事は全く話題に上らない。
“今日の仕事はハードだった”とか、
“今月は休みが合わなくてガッカリだ”とか、その程度だ。
それでも、メールが来るのは嬉しい。
 疑心暗鬼になりながらも、売り場で顔を合わす時の優しい瞳や
メールでのやり取りが、今の睦子にとっては唯一の慰めだった。
 いつもと変わらぬ忙しい1日を終えて、睦子は人目を憚(はばか)って、
あの居酒屋へと向かった。途中、結城の携帯へ電話をしたら、
もう向こうに到着していると言う。
 やっぱり、男子は早い。何と言っても着替える手間もないわけだし。
 入口で名前を告げて、席へ案内される。
 引き戸を引いた向こうには、懐かしい笑顔が待っていた。
 そう。懐かしい。こんな笑顔は職場では見ていない。
 この笑顔に遭遇して、睦子の心は一挙に明るくなるのだった。
 でも……。
 この笑顔は、あたしだけのものなんだろうか。
 ふと、そんな疑問が湧いてくる。
 睦子は、あかりと一緒にいる結城を、目の当たりにしていない。
連れ立って休憩へと出て行く姿しか見ていない。撮影の時にも、
何だか2人の姿を見るのが怖くて、バックヤードへ入っても、
敢えて目を向けないようにしている。
 飲み物と料理を注文した後、結城はテーブルの上にある
睦子の手を握った。
「むっちゃん。逢いたかった…」
 そう言って、大きな手が睦子の手の存在を確かめるように
摩(さす)っている。何だか恥ずかしくて、睦子は赤くなった。
「なかなか休みが合わないね」
 その言葉に頷く。
「その分、こうして帰りに逢いたかったんだけど、残業続きで
忙しくて。ごめんね」
 睦子は首を振った。
 そして、躊躇っていた言葉を思い切って口にした。
「この間、河嶋さんや松本さん達と飲みに行ったって聞いたんだけど…」
「ああ、…ごめん」
 結城の顔が僅かに曇った。
「ごめんって、どういう意味?」
 謝る事自体を訝しく思う。
「君以外の女の子と飲みに行った事。でも、主任も一緒だったんだよ」
「主任も?」
「うん。仕事が終わって外に出たら、木村さんと松本さんが待ってた。
と言うか、木村さんが河嶋さんを待っていて、松本さんは
その付き添いだって言ってたけどね」
 それで、一緒に飲みに行こうと誘われた。その時にそばにいた
主任が、「俺も一緒に行きたいけど、いいかな」と言ったら、
河嶋達3人は「勿論来て下さいよ」と言ったので、結城は
断りきれなくなったと言う。
 そうかぁ。
 主任が一緒だったのか…。
 結城が腰を上げて、睦子の隣に座り込んできた。
 えっ?なに?
 いきなりの事で、睦子は慌てた。結城は驚いている睦子の
肩を抱いて引き寄せた。
「むっちゃん。何か最近、社内が騒々しいけど、俺が好きなのは
むっちゃんだけだから」
「あたし……」
 突然の事に言葉が出て来ない。
「河嶋さんと恩田さんが駄目になって、むっちゃんも随分と
傷ついてるでしょ。むっちゃん、優しいから。それに仲良くしてた
上村さんも辞めちゃったし。俺は俺で、何か松本さんと噂になってるし…」
 睦子は、ずっと我慢していた感情が溢れて来るのを感じた。
「涼は…、どうして誰にでも優しいの?どうしていつも、
…女の子達に囲まれて楽しそうに、笑ってるの…?」
 体が震える。
 堰き止めていた涙が溢れてきた。
「むっちゃん、もしかして妬いてる?」
 優しい瞳に心配そうな表情を僅かに浮かべていた。
「ごめんなさい…。でもあたし…」
 言葉の代わりに、涙が溢れる。
 結城はポケットからチェック柄のハンカチを出すと、
睦子の涙を拭った。
「俺の方こそ、ごめん。俺さ。こう見えて、結構臆病者なんだよ。
人にどう思われるのか、気にしちゃうタイプなんだ。それに、
なるべく人と争いたく無い。だから、ついつい笑顔になる。
笑ってるだけで、随分と争いを回避できるからさ」
 長い間に培われてきた、結城なりの処世術なのだと言う。
「だけど俺、今日河嶋さんにはっきり言ってきた。彼女がいる、って」
「えっ?」
 驚いて思わず結城の顔を見た。


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