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小説・Bye by Blue<完>
7.Squall


Bye by Blue 7.Squall 03

2010.06.25  *Edit 

 こんなにも視界が悪いとは思わなかった。
 ワイパーを最速にしても、打ち付ける雨が視界を妨げる。
こんな中を運転して4人の人間を送って戻って来たのかと思うと、
どれだけ大変だったかと想像に難くない。しかも、もう外は暗かった。
助手席にいる睦子は恐怖を感じた。
 風で車が煽られる。道路も軽く冠水している。
「結城さん。ありがとう…」
「結城さんじゃなくて、涼だよ」
 結城の声は優しかった。
「…私の為に戻ってきてくれて、凄く嬉しかったけど、
でもこれじゃぁ、涼が帰るのが大変そう。それが私心配…」
「大丈夫。帰りは無理しないから。男だし、どこか
安全そうな所で泊まっちゃえばいいし」
「ねぇ、涼?」
「なぁに?」
 睦子は呼びかけておいて、躊躇した。
 結城に従って駐車場まで降りて来て、助手席のドアを開けた時、
安物のオーデコロンの匂いが鼻に衝いた。匂いは微かだったが、
助手席に座って、そっとシートに鼻をつけると匂った。
 この匂いを知っている。
 松本あかりがいつも付けているコロンの匂いだ。
フローラル系の甘い香り。
 安いコロンだから、匂いが消えるのは早い。殆ど消えてはいるが、
睦子は鼻が利く方だ。しかも、雨と埃の匂いが充満した駐車場だけに、
匂いの違いが明確だった。
 匂いが消えるのが早いコロンなのに匂ったと言う事は、
松本あかりが最後に降りたのではないか。座っていたのは、
この助手席だ。
 二人きりになったんだ。彼女と…。
 あー、あたしったら、何を馬鹿な事を。
 仕方ないじゃないか。
 何も彼女だけを送ったわけじゃないし、誰かが最後になって
2人きりになるんだ。
 ただ、それが松本あかりだった、と言うだけの事じゃないか。
「むっちゃん?どうしたの?」
「ううん。何でもないの」
 車は県道を北に向かって走っている。車の量は少ないが、
視界が不良な事と路面の水でスピードは出せない。時々風で
ハンドルが取られる。風雨は一向に衰える様子を見せなかった。
「むっちゃんはさ。どこの大学に行ってたの?」
「えっ?どうしたの?突然に」
 まさに唐突な質問だった。
「うん…。聞いちゃ悪かったかな」
「悪くは無いけど、聞かれても恥ずかしくて言えない程の馬鹿大学…」
「馬鹿大学って…」
 睦子は思わず溜息をつく。
 第一志望の大学に落ち、第二志望の大学にも落ち、第三志望の
大学にも落ち、滑り止めで受けた大学だけ合格した。
 浪人させてくれなかったので、仕方なくそこへ入学した。
 この就職難。浪人なんかしたら女だけに一層不利だと親に言われた。
 だけど、いくら現役とは言ったって、こんな低レベルの大学で
就職に役立つんだろうか。そもそも、行き出したはいいが、
その内容には失望した。
 それでも、最初のうちはそれなりに楽しかった。大学生活は
高校とは違って新鮮だった。彼氏もすぐにできて充実していたと
言える。だが前期を終え、後期に入ってから全てが色褪せて来た。
 学ぶ事に目的を見いだせない。授業の内容に魅力を感じない。
卒業後の進むべき道も、方向性すら掴めない。ただ生きて、
仕方なく学校へ通う毎日。それすらも辛くなってきた。
やがて通う事ができなくなり、2年の前期の殆どを欠席し、中退した。
「根性無しなのよ、あたしって」
 睦子は自分を嘲笑うように言った。
「ガッカリ、した?」
 黙っている結城に睦子は言った。
「まさか。そんな事でガッカリなんてしないよ。
俺だって似たようなもんだし」
「そんな事、ないでしょ?」
 睦子の言葉に結城は笑った。シニカルな感じがして、
睦子は戸惑った。
「俺もさ。むっちゃんと一緒。大学を中退したの」
「ええ~?結城さんが?」
 睦子は驚いた。大卒だと思っていた。
「むっちゃんの方こそ、ガッカリしたんじゃないの?」
 声が幾分暗く感じるのは気のせいだろうか。それとも
嵐の中で緊迫しているからか。
「ガッカリなんてしない。驚いたけど」
「本当に?今時、男で大学を出て無いなんて、考えられなくない?
もうそれだけで、女の子からすると対象外になっちゃうんじゃないの?」
 睦子は結城の言葉に驚いた。
 いつだって明るくて前向きな印象だったのに、こんな事を言うなんて。
 自信に満ち溢れているように見えたが、その心の内は違ったと言う事か。
 大学を中退した事がコンプレックスになっているのだろうか。
睦子と同じように。
「他の子の事は知らないけど、私は違うから。大体、自分自身からして
中退したって言うのに、他人の事をとやかく言えないし」
「じゃぁ、中退して無かったら?君自身、大卒だった場合、
中退した男なんて眼中にも入らないって事にならない?」
 どうして、そんなに気にするのだろう。過去にその事で
傷ついたりしてきたのだろうか。
「あたし、大卒じゃないからわからない。それに、もしそ
うだったとしても、関係無いと思う。相手次第じゃないのかな」
 その時、車がいきなりストップした。
「えっ?何?どうしたの?」
「駄目だ、むっちゃん。この先へは進めそうもない」
 結城の言葉に前へ目を凝らすと、道は下り坂になっていて、
坂の下が完全に冠水していた。そこへ入ったら水没しかねない。
「脇道へ入りましょう」
「いや、この辺は脇へ入っても高低差がかなりあるから、危険だよ」
「じゃぁ、どうするの?」
 睦子の言葉に結城は暫く考えてから言った。
「少し前に、ファミレスがあったよね。建物の下が駐車場になってた。
あそこへ批難しよう」
 結城は車をUターンさせた。後続車はいなかった。ラジオの情報では、
ちょうど、上陸してきたようだ。それなら、暫く待てば通り過ぎる。
 ファミレスは営業していなかった。駐車場の上に店舗がある為、
雨避けになる。しかも幸いな事に、風向きが建物の反対だった為、
風除けにもなった。
 少なくとも台風が通り過ぎるまでは、家へは帰れそうにないが、
取り敢えず暴風雨から解放されてホッとした。
「やっぱり良かったよ。君を送ってきて」
 結城はシートベルトを外すと、睦子を抱き寄せた。
「どうして?」
 抱きしめられて鼓動が速まる。
「こんな状況じゃ、浜田さんの車も途中で困ってる筈だ。あの人達は
兄妹だからいいけど、君は違う。心細い思いをするに違いない」
「結城さん…」
「だから、結城さんじゃなくて、涼だろう?」
「ごめんなさい…」
 自分を抱きしめる結城の温もりが心強い。
 逞しくて、優しい人。
 あたしを、守ってくれる…。
 結城は軽く腕を緩めると、睦子の顔を上に向けて唇を重ねて来た。
「むっちゃん…、睦子…」
 唇が外れて、熱い吐息がかかる。
「俺が、好き?」
「うん…。好き。とっても…」
 顔が熱い。胸も熱い。
 結城は再び唇を合わせた。
 手がシャツの上から上半身を這った後、たくし上げられて
中へと入って来た。シャツの裾がスカートの外にこぼれた。



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