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小説・Bye by Blue<完>
7.Squall


Bye by Blue 7.Squall 01

2010.06.23  *Edit 

 朝から激しい雨が降っている。風もかなり強くなってきた。
 エスカレーター上の窓から外を見ると、まさに嵐だ。
 台風が接近している。勢力を増しながら。
 最初はゆっくりだった。進路も北上したまま九州を抜ける
予定だった。それがいきなり進路を東に変え、速度も増し、
このままだと関東へ上陸しそうだ。
 朝の予報では、まだ何とも言えない状況だったのが
、時間が経つにつれ、状況が怪しくなってきた。
「何だか、不安ねぇ。大丈夫かしら?」
 万券を数えながら、浜田が言った。
 さすがにこんな日だけにお客は少なかったが、それでも
いない訳ではないのだから驚く。
 店内のBGMに混ざって、時々物凄い風の音が聞こえて
くるので、どうしても恐怖心を煽る。
 午後3時半。
 いきなり店内の電気が消えた。
「きゃぁ~」
 と、女性の何人かが小さな悲鳴を上げた。
 停電だ。
 非常灯だけが見える。真っ暗ではない。
「おーい、みんな、大丈夫かぁ」
 主任の野太い声がフロアに響いた。
「大丈夫でーす」
 と、口々に言う。
 そんな中でさえ、黙々と落ち着いて商品を物色している客が
いるのだから、凄い。しかも、品物をもって、台へやってきて
布を切る事を要求し、停電していてレジが動かないにも関わらず、
レジへ清算しにやってきた。
「済みません。レシートが出せないので領収書でいいですか?」
と訊ねて、お金を貰った。
 店長からの業務連絡が入り、店はすぐさま閉店する事になり、
レジは閉鎖。店内にまだ残っている客は外へ誘導する事となった。
 そうこうしているうちに、電車が止まったとの情報が入って来た。
「ええー?それじゃぁ、帰れないじゃーん」
 京子が顔を怒らせた。
「どうして、こうなる前に帰らせてくれないのぉ?」
「仕方ないわよ。お客さん商売なんだから」
 と、浜田が言った。
「でも、離れてはいるけど川だってあるし、増水して洪水とかに
なったら、どうするの?あたし、やだぁ」
「あそこの川は、今まで氾濫した事ないから、多分大丈夫だよ」
 川に比較的近い場所に住んでいる佐々木昭子がそう言った。
「それにしても、電車が止まったとなると、困ったわね」
 口々にそう話している所へ、アナウンスが流れた。
 お客は全員帰ったので、従業員は食堂に集まるように、
との事だった。
「一体、どうするのかしらね?」
 浜田も不安そうだ。
 従業員達の中で、浜田と睦子と上村遥子の3人だけが、
他の従業員達とは違う鉄道だった。遥子は今日は幸いにも公休だった。
だから浜田と睦子だけだ。2人は隣の駅同士なのだが、
睦子の方が遠い。果たして帰れるのだろうか…。
 店長は全員が食堂に集まった所で、今後の方針を話した。
 それによると、何人かの主任と男子社員の一部が今日は車で出勤
していると言う。彼らが手分けして、方面別に他の社員を家まで送る。
 そうして、皆の帰る方向を聞いて、浜田と睦子の2人だけが
全く別方向だと言う事に気付き、店長は顔色を変えた。
この2人だけが、店から北方向に離れて住んでいた。他の従業員達は、
店を起点に東西に住んでいる。
 浜田と睦子を送って行くとなると、送った男子の帰りが心配だ。
「店長。私の兄が、今日はこの天候で家にいるので、車で迎えに
来れるか聞いてみます。来れるようなら、鮎川さんは私の所から
近い方なので、彼女も一緒に」
 と、浜田が言い出した。
 それを聞いて、店長の顔が明るくなった。
 睦子は不安げに浜田を見る。
「大丈夫よ。多分、来てくれると思うから」
 そう言うと浜田はバックから携帯を出して電話をした。
その様子を周囲は緊張を持って見つめていた。その周囲の空気を
感じた浜田が、立ちあがって食堂を出た。衆目の中での電話に
抵抗を感じたのだろう。
 睦子はふと視線を感じてそちらへ目を向けると、結城だった。
厳しい顔をしている。そして、心配している。いつもは薄い
茶色の瞳が、色濃くなっていた。睦子は軽く微笑んだ。
 心配いらないよ。
 そんな思いを込めて。
 浜田が明るい顔で戻って来た。
「兄が来てくれるそうです」
「そうか!それは良かった」
 店長は安心したように笑顔になった。
 睦子の隣に戻って来た浜田が、
「ちゃんと送ってくから安心して」と睦子に声を掛けた。
「ありがとうございます。でも、大丈夫かな」
「大丈夫よ。近いんだし、気にしなくていいから」
 浜田の言葉を有難く思う。どうなる事かと思った。
「じゃぁ、誰が誰を送って行くか決めよう」
 店長はそう言うと、車で来た男子社員の家の方向と他の社員の
家の方向を照らし合わせて、乗るメンバーを決めて行った。
 結城は今日は車で来ていた。朝出勤する時に、ヤバそうだと
思って車にしたんだと言う。
 車は他に、河嶋と田中と寝具の主任と服地の弓田主任で
合計5台だった。
 徒歩圏内数人と、家族が迎えに来る人間以外が、その5台に
乗り合わせる事となった。
 結城の車に松本あかりが乗ることになって、睦子は少し痛みを感じた。
 あの車に、彼女が乗るんだ…。
 何も乗るのは彼女だけではないのに、痛みを感じている自分を
おかしく思う。
「くれぐれも、気を付けて。送り終わった後、自宅に着いたら
私に連絡を入れて下さい」
 店長はそう言って、次々と彼らを見送った。
 結城が食堂を出る時に、睦子の方を見た。まだ心配そうな顔を
している。そんな結城に睦子は笑って頷いた。
 大丈夫だから。
 それを見て結城も頷き、食堂を出て行った。
 睦子は浜田と共に取り残された。店長も一緒だ。
「店長は、どうされるんですか?」
 浜田が訊ねた。睦子もそれは気になっていた事だった。
「みんなの無事を確認した後で、電車が動き出せば帰りますし、
動かなかったらここに泊まるつもりです」
「泊まるんですか?」
「大丈夫です。こういう時の為に、非常用の寝具も用意してありますし、
寒い冬でも無いですから1晩くらい、平気ですよ」
 それを聞いて、責任者も大変なんだな、とつくづく思った。
まずは、みんなの安全を考えなければならない。自分の事よりも。
 外の様子も気になるし退屈でしょう、と言って店長はラジオを
持ってきてスイッチを入れた。従業員からの連絡にすぐに
対応できるように、音は小さめだ。
 食堂の窓には何のフィルムも貼っていない為、昼間は明るい。
だが既に時刻は夕方に掛ってきていて、台風の厚いネズミ色の雲に
覆われて薄暗い。
 横なぐりの雨が窓に打ち付けている。木々の葉っぱが幾つも
へばり付いている。立ちあがって窓の外を見ると、車は僅かしか
走っておらず、人も少なかった。
 結城は大丈夫だろうか。
 こんな天候の中を、何人もの人間を乗せて運転している。
しかも、全員を送り届けなければならないのだ。
 そして。
 浜田の兄も、ここまで無事に辿り着けるのだろうか……。
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