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小説・Bye by Blue<完>
6.サティスファクション


Bye by Blue 6.サティスファクション 06

2010.06.22  *Edit 

「アユちゃん、ちょっとこっち手伝ってくれないかな」
 反物の片づけをしていたら、たまたま傍の台で布を切っていた
結城に声を掛けられて、ドキリとした。
 見ると、台の上に柄物デニムの反物が沢山積んであった。
「2メートル着分で頼むって主任に頼まれたんだけど、一緒に
やってた主任がお昼に行っちゃったんで、一人なんだ」
 睦子は微笑んで、結城の向かい側に立ってハサミを持った。
「むっちゃん、日曜日行くんだろ?」
「えっ?」
 顔を上げると、嬉しそうな笑顔に遭遇した。
「ごめん、あたし……」
 睦子は再び俯いて布を切りだした。
「行かないの?」
 驚いているのが声でわかった。
「うん……」
「どうして?何か用事があるとか?」
「あたし、下手くそだから…」
 2人の会話と、デニムにハサミを通す音が重なる。
 ザーッと言う音と共に、細かい繊維が飛び散る。
 この細かい繊維の飛沫によって、売り場の床はすぐに埃が溜まる。
掃除のおばさんがマメに掃除に来るが、それでも閉店後にみんなで
掃き掃除をすると、かなりの埃の固まりになる。
「そっか…」
 力無く言うその言葉に、睦子は顔を上げて結城を見た。
 つまらなそうな顔をして布を切っている。その顔を見て、
胸が痛くなってきた。
「みんな…、行くのかな」
 睦子の問いかけに、結城は下を向いたまま「多分ね」と答えた。
 ザーッ、ザーッと、布を切る音だけが暫く続いた。黙々と布を
切っているその状況が、重苦しく感じる。
「むっちゃん、ごめんな…」
 いきなりの結城の言葉に睦子は驚いた。
 ごめんな、って何?どういう意味?
 急に不安になる。
「苦手なのに、大勢とテニスしても、楽しくないよな。
俺、単純に、むっちゃんと一緒にテニスが出来ると思って
喜んでたんだ。それが出来ないと知って、凄くガッカリ
しちゃったんだよ。でも考えてみれば、当然だよな。俺がバカだった」
「結城さん…」
 睦子はほっとした。そして、その言葉を嬉しく思った。
「確か、来週の木曜日、俺達休みが一緒だよね。その日にさ。
一緒にテニスしようよ。俺が教えてあげるから」
「休み、…一緒だった?」
 睦子は不思議に思った。同じだったような気がしない。
 首を傾げている睦子に、結城は満面の笑みを向けた。八重歯が光る。
「俺、後から変更したの。むっちゃんと逢いたくて」
 その言葉に、カーッと顔が熱くなってきた。
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。取れたんだから」
 そう言って笑う笑顔が眩しい。蛍光灯の灯りの下なのに。
 全部の反物を切って、たたみ終わった。2人だと早い。
 そこへ、お昼が終わった京子がやってきた。
「着分?」
「そうなの。でも今終わったところ」
「そうなんだ。ところで、今度の日曜日、結城さんは
勿論参加するんでしょ?」
「うん。まぁね……」
 歯切れが悪い。睦子の前だからだろうか。
「石川さんは?」
「あたしは不参加」
「どうして?」
「だって、むっちゃんが行かないから」
「どうしてアユちゃんが行かないからって、石川さんまで行かないの?」
 結城が不思議そうに訊いた。
「だって。多分若い人たちはみんな行くと思うし。その中で
むっちゃんだけ行かなかったら、後で肩身の狭い思いをするでしょ?
あたしも一緒に欠席だったら、少しは風当たりも少ないかなぁと思って」
「京子ちゃん…」
 睦子は驚いた。和子や洵子がいるのに、睦子がいないだけで
『面白くないから』と言う理由が今ひとつ理解できないでいたのだが、
本当の理由はそう言う事だったのか。
「あたしって、優しいでしょ」
 そう言って笑う。そんな京子に、睦子は吹きだした。
 この子のお喋りには辟易だが、結局、憎めない。根が優しい。
それに、睦子を思ってくれている。
「ありがとう、京子ちゃん」
「どういたしまして」
 そんな2人に、「じゃぁ、俺、お昼行くね」と結城が声を掛けて来た。
 睦子は京子と2人で、「行ってらっしゃい」と言って、
見送ったのだった。

 翌週の木曜日。
 睦子は結城と共に、テニスコートにいた。
 9月の始めの頃は残暑が厳しいと思ったが、10月を目の前にして、
涼風が吹きだした。陽射しも幾分衰えて来ている。
 全天候型のテニスコートの1面を2人で独占している。
 全部で8面あるテニス場だったが、どこもグループで楽しんでいた。
「むっちゃん、下手くそとか言ってたけど、上手いじゃない」
 驚いた顔で言われて、睦子の方が驚く。上手いだなんて、
初めて言われた。
 それに、自分でもそれなりに球を返せているのが不思議だった。
ただ、続けて行くうちに、その理由が解って来た。結城が、
睦子の打ちやすい球を送って来るからだ。
 結城は睦子がコートのどこへ打っても、ちゃんと返球してくる。
しかも、睦子があまり動かなくても楽にフォアで打てる場所に。
 大学の体育の授業でやった時には、こんなものじゃ無かった。
凄くハードだった。次から次へと色んな打ち方を教わっては、
すぐに返す事を要求された。態勢が整わないうちに打つから、
どうしてもコントロールが狂う。
 コートの端から端まで走らされては、フォアとバックを
繰り返され、前へ出てボレーをするように言われる。
とにかく、ハードだった。
 睦子は走るのが遅い。瞬発力はある方だと思うが、とにかく
遅いのである。だから試合なんて、とてもじゃないが無理だった。
 結城はフォアとバックを軽く流すと、今度は丁寧にコツを
教えてくれた。ボウリングの時にも感じたが、教えるのがとても上手い。
 最初にラケットのグリップを調節してくれた。そして、
睦子に合った握り方に直された。それだけでも、凄く打ちやすくなった。
苦手なサーブも、まずトスの上げ方をきっちりと教わった。
「むっちゃん、センスあるよ」
 終わった時に、そう言われた。
「えっ?そんな事、言われた事ないよ」
 息切れがする。矢張りテニスは疲れる…。
「むっちゃんさ。スポーツ苦手とは言っても、要領がわかると
出来るじゃない。本当に苦手な人は、要領が解っても出来ないんだよ」
 この間も似たような事を言われたが、そうなのか、と思う反面、
素直に受け止められない部分もあった。
 小学校へ入ってから体育の成績はいつも悪くて、まともに
こなせたことなど無かった。そんな人間の気持ちなんて、
できる人にはわかりっこ無いと思っていた。
 大体、体育教師はみんなスパルタで、頑張れば出来る、
出来ないのは頑張りが足りないからだ、と根性論を
掲げる連中ばかりだった。
 そんな人達と結城は違うけれど、矢張りどこか釈然としない。
「また、やろう」
 と言われて、笑って頷いたものの、心の底から笑えない
自分がいるのだった。


    (6.サティスファクション end
                  7.Squall へ つづく。。。)


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