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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第6章 色づく時 第3回

2010.03.03  *Edit 

 増山が、軽く体を離した。
 「理子、また俺に顔を見せてくれないか?」
 増山の声が熱く震えていた。
 理子は首を振る。
 「理子―、お前ってヤツは」
 増山はそう言うと、理子の顔に手をやった。そして、その細く
長くて綺麗な指で、理子の顎を自分の方へ向けさせた。増山と目が合った。
眼鏡の奥の瞳はとても優しかった。
 なんて素敵な顔をしてるんだろう。特に瞳はとても魅力的だ。
男の色気を感じる。その瞳に見つめられて、理子は震えた。
とても正気ではいられない気がした。細くて筋の通った高い鼻。
その下にある受け口気味の薄めで小ぶりの唇が僅かに開いていた。
そしてその綺麗な顔が近づいてきた。駄目だ。とても耐えられない。
そう思って目を閉じた時、増山の唇が理子の唇に重なった。
頭が真っ白になった。何も考えられない。唇だけが敏感に増山を感じた。
重なっているのは先生の唇。薄くて柔らかい。軽く唇を吸われ、そっと離れた。


 目を開けると、悩ましい顔がそこにあった。
 「先生・・・」
 理子は震えた。
 増山は再び理子を抱きしめた。
 「先生・・・、これは夢?」
 「夢じゃない。現実だ」
 理子の心臓は早鐘のように高鳴っていた。
 「私、まだ信じられない。だって先生は私にとっては遠い人だったから」
 「なんでだ?いつだってお前のそばにいたのに」
 増山の言葉は優しかった。
 「だって・・・。先生は大人だし、先生だし・・・。それに、沙耶華に、
生徒と恋愛する気はないって、言ったんでしょ?」
 増山は腕を解くと、理子を見た。
 「言った。でもお前は別だ」
 理子は増山の顔を見て、再び胸が締め付けられた。見るほどに胸が
キュンとして息苦しくなってくる。
 「先生はそう言うけど、それは私にはわからない事だから」
 「それはそうだな」
 と増山が笑う。八重歯が覗いた。
 「先生、八重歯があるのね」
 「ああ、子供っぽいだろう?」
 照れくさそうに言った。
 「可愛い」
 理子は赤くなって言った。
 「可愛いか。だけどお前の方がもっと可愛いと思うけどな」
 こういう事を言う時の増山は全く恥じらいも衒(てら)いもないのだった。
 「今日のお前はいつにも増して可愛いと思う。私服だからか。
それとも、頬が赤く色づいているからか・・・。それとも、俺を
愛しているからか」
 理子はカーッと、更に赤く熱くなった。この人は、どうしてこんな事を
平然とした顔で言えるのだろう。
 「ほんとに、・・・可愛いな・・・」
 そう言って、増山は理子の頬に手をやって包み込み、再び唇を重ねた。
理子は緊張した。初めてのキスではない。だが、須田とのキスをまともな
キスと呼べるかどうか怪しい。ただ接触しただけだと思う。こうして、
自分の唇に相手の唇のぬくもりをはっきりと感じてこそ、本当のキスと
言えるのではないか?
 先生の存在そのものを、この唇に感じる。吐息を感じる。体温を感じる。
増山は何度も優しく啄ばむように口づけた。心臓がドクドクと音を立て、
首から耳へかけて、熱い血潮が昇ってくるようだった。
 増山の唇が離れても、理子は暫く固まったままだった。増山はそんな
理子の髪を優しく撫でた。
 「大丈夫か、理子」
 理子は黙って頷いた。予想外の展開だったと言える。
 「そろそろ帰ろう」
 そう言われて腕時計をそっと見ると4時半だった。
 まだ、一緒にいたい。
 そう思っていたら、増山が手を繋いできた。
 「俺の手は振り払わないでくれよ」
 そう言って笑った。倉敷での、枝本と茂木に手を繋がれて振り払った事に
掛けてるのだろう。振り払えるわけがない。
 大きな手だった。その手にしっかり繋がれて、嬉しかった。幸せだった。
 まだ胸がドキドキしている。心臓の鼓動の音が自分の中ではっきりと聞こえる。
 だけど・・・。明日からどうすれば良いのだろう。毎日学校で、どんな顔を
して会えば良いのか。これから先、どんな風に付き合ってゆくのだろう。
 「なぁ、理子」
 「はい」
 「お前、全然、音楽準備室に残らなくなったな。何故なんだ?」
 唐突な質問に、理子はたじろいだ。
 「どうしてそんな事を聞くんですか?」
 「決まってるだろう。お前と話したいと思ったら、あそこしか
無いじゃないか。俺は吹奏楽の練習が終わる度、今日はいるか、と
思いながらドアを開けていたんだ」
 そうだったのか。先生の気持ちを知れば、それは当然の事かもしれない。
 「すみません。でも、私は先生を好きになっちゃいけないって
思ってたから、故意に避けてたんです」
 「そうか。俺は何も考えて無かったな。これで案外単純なんだ。
お前を好きだと意識はしてなかった。だが、お前と話したいとは思ってたし、
いないとガッカリした。話したい事がたくさん有ったんだ」
 「先生は、罪な人です。みんなには凄く冷たいのに、私には違った。
私は先生の色んな言動をどう受け取って良いのかわからなくて、
いつも動揺してました」
 「すまない。改めて言われてみれば、最初から好きだったんだと思う。
お前には何故か心を許せた。他の人間に対するようにバリアを張る必要が
無かった。それも、無意識だった。自分でもそんな自分によく戸惑っていたんだ」
 増山の心が胸に染みる。指から、手から、想いが伝わってくるような気がした。
 駐車場に到着した。増山が助手席のドアを開けてくれた。理子を乗せると
静かにドアを閉める。そして運転席に乗り込んだ。来る時にはあまり
意識しなかったが、今こうして二人で乗り込むと、密室で有る事に急に
ドキドキしてくるのだった。
 増山は背が高く、手足が長い。シートもかなり後に下がっている。
それでも足は余っている感じがした。その姿に大人の男を感じて、動悸が
激しくなる。そして、私って、子供だな、と改めて思う。
 そう言えば、あの女性の事をいきなり思いだした。増山は彼女じゃないと
言っていたが、あれから会っていない、とも言っていた。結局のところ、
どういう人だったんだろう?気になった。
 「先生」
 「なんだ?」
 「聞きたいことがあるんです」
 「・・・あの女の事か?」
 「どうしてわかったんですか?」
 「なんとなく、な。俺がお前なら気になるからな」
 「じゃぁ、教えてもらえるんですか?」
 「お前が聞きたいなら」
 「聞きたいです」
 「お前はまだウブだから、聞いたらショックを受けるかも知れないぞ」
 増山は少し暗い声でそう言った。
 ショックって、どんな事なのだろう。
 「ショックを受けたとして、だからどうだって言うんですか?」
 その事で、軽蔑したり嫌ったりすると言うのだろうか。
 「やっぱりお前は変わってる。まぁ、いいか・・・。上手く説明するのが
難しいんだが、簡単に言ってしまえば、セフレだ」
 「セフレ?」
 理子は思わず聞き返してしまった。
 「意味、わからないか?」
 「あっ、いえ、わかります」
 「俺、な。自分で言うのも何だが、小さい時からモテ過ぎて、
女にはあまり興味がないんだ」
 「そう言えば、以前、そんな事をおっしゃってましたね」
 「そうだ。それでお前にゲイ呼ばわりされた」
 「だって、そう思うのも当然じゃないですか」
 「まぁ、そうかもしれないが。でも俺も一応、まともな男だから、
普通に性欲くらいはある」
 理子は別の意味でドキドキしてきた。
 「それでも高校生の時は面倒くさくてな。歴史の勉強の方に夢中だったし、
東大を受験することは決めていたから、女の事なんて眼中になかった。
同級生や友人達は殆どが初体験も済ませて、女との関係を満喫してたけどな。
だから俺は、大学に入るまでは童貞だったし、男女交際も未経験だった」
 「それは、珍しいですね。かなり希少じゃないですか?先生のような
タイプだと、きっとそれを聞いても誰も信じないでしょうね」
 「お前は?信じるか?」
 「勿論、信じます」
 「そうか」
 増山は安心したような声を出した。
 外は薄暗く、イルミネーションが美しく瞬いていた。
 「大学に入ったら、受験勉強が無くなった分、暇が出来たし、そろそろ
欲望を吐き出したい気分でもあった。そんな時に、たまたま学内で
知り合った女と付き合うようになった。初体験の相手だ。そこそこ
好意は持っていた。本気にはなれなかったけどな。だが、淡泊な俺に
愛想をつかして、別れていった。その後は、成り行き任せな感じで、
多くの女と付き合ったが、結局、誰にも本気にはなれなかったんだ」
 「そうなんですか。それで・・・?」
 「大学入学以来、女を切らした事は無い。卒業後も、卒業前に
付き合い出した女と続いていた。だが、別に好きなわけじゃないんだから、
恋人じゃない。俺は同時に何人もの女と寝る事をしないのは、みんな
知ってるから、そういう関係でも俺を独占してると思ってそれなりに
満足するんだよ、最初のうちはな。俺の方は、セックスすれば、それでいい。
教師になってから、大勢の女子高生に付きまとわれるようになって、
今までよりもストレスが溜まった。普段は、そんなに性欲がある方じゃないから、
女の方から誘われて、しょうがなく抱くようなパタンーンが多かった。だが、
この四月からは違った。俺の方から彼女を呼びだしては、抱いた。だから
向こうも期待したみたいだな。俺自身も、そういう自分に反吐が出て、
罪滅ぼし的に、寝た後に誘われるままデートをした。いつもなら、
終わったらさっさと帰るんだけどな」
 「じゃぁ、あの時は、もう、その、あれの後だったって事ですか?」
 「そうだ」
 「だって、まだ昼間でしたよね」
 理子の声が震えた。あの時の増山を思い出す。女性の方は楽しそうな
顔をしていたが、増山はつまらなそうな顔をしていたように思う。
あの女の人を抱いた後だったんだ・・・。
 「セックスは、夜するものとは限らないんだ」
 増山の言葉に理子は耳まで熱くなった。
 やっぱり大人なんだ、この人は。
 「ショックだろう?」
 増山が言った。
 「お前にまさか目撃されるとはな。枝本から聞いて、俺の方が
ショックだったよ」
 「あの、・・・ショックと言えばそうなのかもしれませんけど、
何て言うか・・・」
 何と言ったら良いのかわからない。理子自身、思った程ショックを
受けてはいないように思える。
 増山は理子の言葉にフッと笑った。
 「最初も言ったが、彼女とはあれ以来会ってない。何度も誘われたが
キッパリ手を切った」
 「あれ以来?どうしてですか?」
 「あの日は、文化祭の翌日だったよな。お前の事が頭から離れなくて、
困った。もう、他の女は抱けないって、あの日に思ったんだ」
 「・・・・」
 理子は何も言えなかった。何を言っていいのかわからなかったのだ。
 もう他の女は抱けない・・・。他の女、イコール理子以外の女。
と言う事は、もう理子以外の女は抱けない、と言う事になる。逆から言えば、
もう理子しか抱けないと言っているように聞こえた。体が熱くなる。
 「せ、先生は、私に好きな人がいるって聞いて、自分は片思いだと
思ったんでしょ?それでも、その、他の女性としようとは思わなかったんですか?」
 「思わない。例え片思いであっても、好きな女がいるのに、他の女を
抱こうとは思わない。第一抱けないさ。お前が俺の心を占領してるんだ。
なのにどうして他の女を抱ける?」
 増山の言葉が理子の心を熱くした。『俺の心を占領してる』なんて
言われて熱くならないわけがない。
 いつか、この人に抱かれる時が来るのだろうか?それは一体、いつの事だろう?
こうして一緒にいるだけでも、心臓が壊れそうなのに。この人に全てを委ね、
全てを知られる日が来たら、私は一体、どうなるのだろう?
 「理子」
 「・・・はい・・・」
 理子の声は消え入りそうだった。
 「俺を軽蔑するか?」
 増山の言葉に理子は驚いた。
 「どうしてですか?」
 「軽蔑しないのか」
 「しません。する理由がないです」
 「本当に?」
 「本当です。私は先生が正直に自分の事を話してくれた事が嬉しいです。
みんな過去の事だし、先生には先生の来し方があるわけで、それは
先生だけのものです。過去があるから今があるわけだし」
 「昔とは言え、女関係の話しを聞いて妬けたりとかしないのか?」
 「しないです・・・ね」
 本当の事だった。何故か妬けない。
「お前って、捌(さば)けてるな」
 増山が感心したように言った。
 「もっと、ショックを受けると思ってましたか?」
 「思ってた」
 「先生って、案外、ウブなんですね」
 理子はそう言って笑った。
 「違うだろう。お前が見かけに寄らず、すれてるってことだろうが」
 増山の言葉にムッとした。
 「私別にすれてなんかいませんよ」
 「いや、すれてるな。それならそれで俺も助かる。安心してお前を抱ける」
 理子は体の奥がキュッとするような感覚を味わった。増山の
言葉に何故か体が反応した。
 「な、何言ってるんですか。やめて下さいよ」
 「このまま、どこかホテルにでも入ろうか」
 その言葉を聞いて、理子はいきなり泣き出した。増山は慌てた。東名を
出て、一般道を走っていたので、増山は安全そうな路肩に車を止めた。
 「理子、ごめん」
 そう言って、理子の肩を抱き寄せようとしたが、理子は拒否した。
それでも増山は理子を抱き寄せた。
 「お前が俺を茶化すからだぞ。冗談に決まってるじゃないか。お前を
からかって、楽しんだだけだ」
 「先生の、意地悪・・・」
 理子は増山の腕の中でそう言った。
 「そんなの、とっくにわかってるだろ」
 「・・・そうでした」
 増山の声は、低くて、少し鼻にかかった感じがとてもセクシーだ。
ラジオの美声のDJのようで、その声で言われると、大人の男を感じて
冗談とは思えなくなる。本当に迫られたようで、ドギマギして、
仕舞いには怖くなった。
 「理子。ウブだからって恥じる事はないんだぞ」
 「ウブって・・・、違いますよ。私別にウブなんかじゃありません」
 理子は鼻声で訴えた。
 「俺から見たら十分ウブだが。・・・キスだって初めてなんだろう?」
 「残念でした。先生がショック受けると思って黙ってましたが、
キスなんて経験済みです」
 理子は増山の腕の中で答えた。増山は理子を抱きしめたままだ。
 「そうか。いつ、誰と?」
 「知りたいですか?」
 「決まってるだろ?お前の全てが知りたい」
 その言葉に胸がキュンとした。なんだかこのシチュエーションって、
危険じゃないか?物凄く怪しい雰囲気に変わりつつあるような気がした。
第一、理子は増山の腕の中なのだ。理子の頬は増山の胸に密着している。
体もだ。増山の心臓の音が聞こえる。そのリズムは少し速いように思えた。
 それに、この声。
 急に理子は震えた。自分の置かれている状況に気がついて、いきなり怖くなったのだ。
 「何を震えている?」
 増山が魅力的な低音で優しく訊いてきた。理子は頭を振った。
 「教えてくれないか?キスの相手を」
 「す、須田先輩とです」
 「ああ、例の元生徒会長か。なるほど。じゃぁ、高一の時って事か」
 震える理子に、増山は言った。
 「それで、何回くらいした?それから、その後、須田以外とはしてないのか?」
 「須田先輩以外とは、してません・・・。回数は、一回だけです」
 増山はゲンコで、理子の頭を軽く小突いた。
 「痛っ!」
 「馬鹿め。それでウブじゃないだと?見栄っ張りなんだな。そんなに
見栄を張るなら、俺が教えてやる」
 増山はそう言うと、理子の顔を上げて、口づけた。それはとても長い
口づけだった。唇は何度も吸われ、そのうち、増山の舌が理子の唇の上を這った。
両腕は、理子の体をしっかりと抱きしめたままだ。理子は身動きが取れない。
増山の吐息が何度も漏れて理子の顔にかかる。理子は頭の中が真っ白になった。
そして、震えた。
 増山は唇を離し、抱きしめていた腕を緩めると、
 「なんで震えてる?」
 と尋ねた。
 「だって・・・」
 理子の声は切なげだった。増山はその声に衝動を覚えた。まずい。
このままだと、本当にホテルに連れ込みかねない。
 増山は理子の髪を撫でた。
 「ごめんな。俺もむきになり過ぎた。あまりに急な展開だよな。俺は
理子が好きだから、大事にしたい。でも、好きだから、いつ獣になるか
わからない。自信がないんだ」
 理子はまともに増山の顔を見れなかった。こんなにも熱い人だったとは。
普段のクールな姿からは想像もつかない。
 「ひとつだけ、言っておきたいことがある。俺がお前を求めるのは、
お前が好きだからだ。性欲を満たす為の対象なんかじゃない。女を
抱きたいなら、幾らでもいる。女子高生だって同じだ。だけど、もう
他の女を抱きたいとは思わない。抱きたいと思うのは、お前だからだ。
お前が好きだからだ」
 こんなにストレートに言われると、嬉しいけれど、矢張り怖い。大人の
男性に、女として求められている。でも自分はまだ高校生。しかも、
本格的な恋愛をした事が無い。全てが初めてなのだ。そう思うと、
つくづく自分は子供なんだと思う。とっくに初体験も済ませて、男女交際を
謳歌している同級生はたくさんいるのに。
 「さぁ、もう帰ろう。遅くなると、親御さんが心配するだろうから」
 増山はそう言うと、理子を助手席に優しく押しやると、シートベルトを
締めて車を出した。

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