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小説・Bye by Blue<完>
6.サティスファクション


Bye by Blue 6.サティスファクション 02

2010.06.18  *Edit 

 結城の言葉が、何故か深く睦子の心に突き刺さった。
「彼の事は、わからない。一体、何を考えていたのか。
どんな風に思っていたのか。ただ分かるのは、いつだって
楽しそうじゃなかったって事だけ」
「むっちゃん…」
「もう、彼の事は訊かないで?思い出したくない。思い出すと
ブルーな気分になってきちゃうから」
 話していてつくづく思うのだ。
 あたしだって、楽しくなかった。それなのに、どうして
逢ってたんだろう?わざわざ上永谷まで電車に乗ってまでして。
そして最後に深く傷ついた。本当にあたしって馬鹿だ。
「わかった。もう言わないよ。嫌な気持ちにさせちゃって悪かった」
「ううん」
 睦子は笑った。
 富樫の車の中の空気は、いつもどこかどんよりとしていたような
気がする。だが、この車の中は違う。爽やかで、そして暖かい。
 車は少しずつでも動いていて、確実にレース場に近づいている。
「凄い人出なのねぇ~」
 やっと駐車場に到着した時、想像以上の人の多さに睦子は仰天した。
「まだ少し早いからここへ停めれたし、人の数もこの程度だけど、
これからもっと増えてく筈だよ」
 もう少し遅かったら、もっと遠い駐車場へ停める事に
なっただろうと結城が言った。
「遠い駐車場?」
「そう。臨時駐車場が幾つかあるんだけど、遠いんだ。ピストン
バスが出てるけど、なんせ道路が渋滞しているから、そこからまた
時間がかかるんだよ。歩くと3、40分かかるしね。
だから、ラッキーだった」
「へぇ~、そうなんだ。結城さん、詳しいね。何度か来てるの?」
「うん。友達とね」
 そう言う結城は、中の様子にも詳しくて、睦子は結城に
あちこちへと案内された。
レース場の広さと人の多さに圧倒される。
あちこちと見て回っているだけでも、十分楽しい。
 サーキットの陽気は、午前中のうちは、まだ若干涼しかった。
富士山の麓だからだろうか。
天気が良くて富士がとても美しい。車の中からもずっと見えていて、
睦子は結城とお喋りしながらも、その優美で壮大な姿に見惚れていた。
富士山の印象は、眺める位置によって違う。静岡側から見ると
優美な感じがするし、山梨側から見ると、雄々しく見える。
睦子はどちらも好きだった。
レースクィーンの綺麗なお姉さん達が、沢山立っていた。
露出度の高いセクシーな姿をしている。コスプレっぽい衣装の
女性もいた。彼女達の写真を撮っている男性も沢山いた。
睦子は車を目にする度に目を輝かせた。レースカーは見ただけでも
ワクワクしてくる。
「むっちゃん!」
 呼ばれて振り向くと、結城が携帯を向けていた。どうやら
写真を撮るらしい。睦子はレースクィーンを気取ってポーズを
取ってみた。それを見て結城が爆笑しながらシャッターを切った。
レースの時間が近くなったので、自分達の座席につく。陽射しが
眩しく、暑かった。だが、コースを見渡した時、興奮した。
気持ちが昂ってくるのを感じる。
「むっちゃん。レースが始まる前に、ちょっと2ショットで
写真を撮ろうよ」
 結城はそう言うと携帯を開き、睦子の肩を抱き寄せた。
 ドキンといきなり心臓が鳴った。
 結城が携帯を目の前に掲げた。身長差があるせいか、
すぐには画面に納まらない。
 高さや角度を調節して、やっと2人の顔が画面に納まったのを
見て、睦子は赤い顔をしている自分に恥ずかしくなった。
「もう一回撮るね。むっちゃん、もっと笑ってよ」
「えっ?でもなんだか恥ずかしい…」
「なんでよ」
「なんでって……」
 結城は再び携帯を構えると、睦子を抱く手に力をいれて、
前よりも引き寄せたのだった。
「ほら。カメラの中の俺に向かってさ。笑ってよ。楽しそうに」
 そう言われると、そうしないと悪いような気がしてくる。
 カメラの中の結城は笑っていた。その笑顔に向かって、
睦子は言われた通りに笑ってみた。
 その瞬間、シャッター音が鳴った。
「うん。凄く良く撮れてる。ほらっ」
 結城が差し出した画像は確かに綺麗に撮れていた。
カップル然としている。
「今、むっちゃんの携帯に送るから」
 結城はそう言って、メールに添付してきた。
 着信音が鳴ったので確認した。たかが写真にドキドキしている
自分が可愛くなってくる。
「さぁ、レースが始まるよ」
 結城に促されて、気持ちが切り替わる。
 土曜日なので、予選だ。決勝のように一斉に走るのでは無く、
順番に1台ずつ走ってタイムを競う。走る回数はタイムによる。
タイムが良い程、走る回数は増える。
 実際に観る走りは、テレビで観るよりも遥かに速くて凄かった。
特に、音が凄い。効果的にスピーカーで調節しているが、
それでも生の迫力は凄かった。
 野球の時にも感じたが、こういうものは生が一番面白いんだな、
と改めて思った。迫力も凄いし、会場内の雰囲気も凄い。大勢の
人間が一斉に上げる歓声は、全てを呑み込む程の大きさだ。
現実の全てを忘れて、それに熱中し没頭し興奮する。
 睦子は、隣にいる結城の存在も、デート中だと言う事も全て
忘れて、ただの観客の中の一人としてそこに立っていた。

「今日は、楽しかった?」
 帰りの車の中で結城が言った。
「うん。とっても!だけどちょっと、疲れちゃった、かな…?」
「そうだよね。暑い中、あちこち観て遊んだし。人も凄かったし。
おまけに凄い興奮してたもんな?」
「やぁねぇ。からかわないでよ」
 太陽が沈み始めて、斜めに飛び込んで来るオレンジの光が眩しい。
 結城は車を北に向けて走り出した。
「あれ?どっちに行くの?」
 来た時と反対の方角へ行く事に気付いた睦子は不審に
思って質問した。
「東名の渋滞が凄いから、山中湖経由で中央自動車道を使って
帰ろうと思うんだ」
 かなりの遠回りだ。東へ直線で行ける所を、北上して
東へ走り、再び南下するのである。だが、この渋滞を考えると、
その方が速そうだ。
「今日は土曜日だから、多分山中湖の方が道は空いてると思うんだ」
「どうして?」
「来たついでに泊まって行く人間が多いと思う。土曜だから。
これが日曜だったら、殆どが帰るんだろうけどね」
 なるほど。言われてみればそうかもしれない。
「俺、何度か来てるから、いい山道を知ってるんだ。
そこを通れば大分早いよ」
「何度か来てるって言うのは、サーキット以外でも来てるって事?」
「うん。友達とキャンプとかね」
 キャンプかぁ。
 そうだよね。こういう車に乗ってるんだし、見るからに
アウトドア大好きって感じだし。
「むっちゃんは、キャンプとかはしないの?」
「うん。中学の林間学校くらいしか経験ない。友達もそういう
友達いなかったし」
「そうなんだ。女の子だから、そういう機会無いよね」
 夕暮れの山の中を、車は走って行く。国道が物凄く混んで
いた事もあって、スイスイ走っているのが嘘みたいに思えてくる。
走っているのはこの車だけでは無かったが、それでも物凄く空いていた。
 車内にはイージーリスニングが流れていた。それがとても
心地良い。心も体もリラックスしてくる感じがした。
「むっちゃん、ちょっと眠いんじゃない?少し寝ててもいいよ?」
 確かに少し眠かった。朝早かった上に、暑い中で長時間歩き回り、
レース中も立ったままで興奮していた。疲れをはっきりと感じていた。
「でも、それじゃぁ結城さんが退屈じゃない?」
「大丈夫。俺は馴れてるから。少し休んだ方がいいよ。明日仕事だし」
「ありがとう。じゃぁ、ちょっとだけ……」
 睦子はそう言うと、目を瞑った。普段、乗り物の中で眠る事は
滅多にない。どんなに疲れていても神経が昂って寝れない。
だが今はとても眠いと感じる。目を瞑った途端、意識が闇へと
吸い込まれていくのを感じた。



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