ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・Bye by Blue<完>
4.接近


Bye by Blue 4.接近 01

2010.06.05  *Edit 

 店の、エスカレーターを乗り降りする場所にだけ、窓がある。
 薄いこげ茶色のフィルムが貼ってあって、開かない窓だ。
 この窓から外を見ると、空は暗い。実際には真っ青な眩しい
空間が広がっているのに、ここから見ると、そんな夏の空なんて
関係なく、一年中、曇り空のように見えるのだった。
 こういう建物の中で働いていると、何だか世間から隔離されて
いるような錯覚を覚える。特にこの服地売り場は、密度の高い
水槽みたいだ。色とりどりの色んな飾りの中で、これまた色んな
種類の魚が、互いにぶつからないように泳ぎまわっている。
 混雑しすぎた水槽は、空気の密度が薄くって、なんだか
とっても息苦しい。温度も上昇している。
 そんな密度を少しでも緩和するように、今日から従業員の
夏休みが始まった。約2カ月に渡って、交代で7連休を取る。
1週間丸々1人いないのである。そして、その1週間の中で、
残されたメンバーが普通の休日を交代で取る為、必ず毎日
2人もしくは3人がいなくなると言う、出勤組には恐ろしい
日々が始まったのだ。
 それを助けるように、学生アルバイトが増えたが、ハードな
仕事に続かない。だから春からずっと来ている工藤には、
感心するのだった。
 忙しい日々から1週間解放されるのは嬉しい事だが、
残りの7週間は、怒涛の日々だ。夏休みだけに、朝から
若いお客さんが大勢押しかけて来る。
 折角の夏休みなんだから、どこかへ遊びに行けばいいのに、
なんで生地なんて買いに来るんだろう?と思うばかりだ。
 今週の休みは京子だった。
 夏休みくらいは、どこかへ行くんだろうと思って訊ねたら、
プールへ行くと言っていた。だが、大体は彼の部屋で過ごす
との答えに、半ば呆れ、半ば感心した。交際3年目に突入した
と言うのに、変わらず熱い関係には、敬服してしまう。
 昼休み、浜田が言った。
「これから2か月、大変よぉ。鮎川さんは今年初めての
経験だろうけど、私は毎年、この時期になると憂鬱になる。
長く休めるのは嬉しい反面、そうで無い日々の辛さときたらね」
 すでに、朝から大忙しである。
 夏休みの京子と、他に和子と主任が休みだった。
「ただ、バイヤーさんが交代で何人か応援に来てくれるの。
だから少しは助かるけど、片づけの方がねぇ」
 そうか。切る方は助かるが、速い分、台が積もるのも速い。
いつもよりも客が多い分、その量も半端じゃないだろう。
それを考えると、有難いけど有難く無いような複雑な思いだ。
 それに、昼の時間帯は更に大忙しだ。休みで人手が少ない上に、
休憩で人がいなくなる。今日はたまたま睦子は浜田と一緒だが、
一人で行く場合も多くなると言う。
「昨日は残念だったねー」
 近くでメンズの島谷が、松本あかりに向かってそう言うのが
聞こえてきた。睦子は思わず耳をそばだてる。
「残念って?」
 あかりの声は不機嫌そうだった。
「聞いたわよ。昨日の帰り、結城さんを誘って断られたって」
 島谷の言葉を聞いて、睦子がそれとなく2人に目をやると、
島谷は愉快そうな笑顔を浮かべていて、あかりは不愉快そうな
顔をしていた。
「誰から聞いたのよ」
「レディースの子。でも、用事があったんだから、
仕方ないんじゃない?」
 愉快そうな顔をしながら、口では慰めるような言葉を
出している。
「あら。結城さんを誘ったの?」
 いきなり浜田が2人の会話に口を挟んだ。睦子は驚いた。
「そうなんですよ~。昨日の帰りに、従業員出口で、帰りがけの
結城さんを捉まえて飲みに誘ったけど、用事があるからって
断られたんですって」
 と、島谷が答えた。あかりは隣で不機嫌そうだ。睨みを
きかしたマネキンが、更に怖い顔をして自分を睨んでいるような
気がして、睦子は怖くなった。
 睦子を突き飛ばして慌てて出て行ったあかりは、結城と会えた。
だけど、断られた。『用事がある』と言われて。その用事とは、
睦子とのゲーセンだ。
「それは残念だったわね。一緒にモデル仕事もして、
仲良さそうなのに」
 浜田のその言葉に気を良くしたのか、あかりの顔が
少しだけ緩んだ。
「一緒にモデルしてるから、仲良さそうに見えるだけですよ。
結城さんって、結構八方美人じゃないですか」
 笑顔でそう言う島谷をあかりは睨みつけた。
「確かにねぇ。誰に対しても感じは良いわよね」
 浜田が同意した。
「そうですよ。それにライバル多いしね」
 睨むあかりに島谷は笑いかける。あの怖い顔に睨みつけ
られても笑顔を見せている島谷を凄いと思った。
逆にこの人の方が怖いかもしれない…。
「結城さんは彼女いないのかしら?」
 浜田の言葉に、あかりがハッとしたような顔で浜田の方を見た。
「モデルを始めた頃に訊いたんですけど、いないって言ってました」
 きっぱりとした口調だ。
「へぇ~。イイ男なのにねぇ」
 不思議そうに首を傾(かし)げる浜田に、
「イイ男だってフリーの時くらいありますよ」と、
あかりがつっけんどんに言う。
「それで、島谷さんも狙ってるの?」
 大胆な質問をする、と睦子は驚いた。島谷一人ならまだしも、
あかりの前だ。
 あかりがネコ科の動物が獲物を狙った時に瞳を収縮させるのと
似たような鋭い目つきになったのを睦子は見た。
「あたしは…」
 と一瞬あかりの方を見た後で、「違います」と島谷は言った。
 島谷の答えに「あら、そうなの?」と浜田は目を見開いて
驚いていた。
 あー、何だか化かしあいを見てるみたいだ。
 島谷は本当の事を言っているのだろうか。あかりの手前、
違うと言ったのではないか。そう思う一方で、あの余裕を見ると、
本人が言う通り結城狙いではないような気もする。ただ、
断られたあかりを可哀想に思っていないのは確実だろう。
 悔しがっているあかりを気味が良さそうに笑っているとしか
思えない態度だ。モデルの件で矢張り良く思っていないのかも
しれない。この2人は、モデルの一件がある前までは、かなり
仲が良かった。だが今は、以前のような親密さを感じられない。
「まぁ、頑張って」
 浜田はそう言うと席を立った。睦子もそれに合わせて立ち上がった。
 横に並ぶと、「怖いわねぇ~」と浜田が言った。睦子は頷く。
「あたしが結城さんだったら、あの二人はパスするわ」
「どうしてですか?綺麗どころなのに」
 睦子の言葉に、浜田は笑った。呆れたような目を睦子の方へ向けて。
「幾ら綺麗だからって、あの子たちのどこに魅力がある?
性格、悪いわよ、あの二人は」
 その言葉には同感だ。
 だが、男にそれが判るのだろうか。女は男の前では猫をかぶる。
 これまでだって、大抵、そういう女に騙されて、美しい花に
吸い寄せられる蝶やミツバチのような男たちを見て来た。
そして、そういう光景に妬む女達の姿も。
 ルックスが優れている女の子に対しては、
「顔はいいけど性格は悪いのに」と言い、ルックスが落ちる
女の子に対しては、「あんな子のどこがいいの?」と陰で噂する。
 今の店内の様相も、まさにそんな感じだ。少ない男子の
争奪戦である。睦子はそんな争奪戦に参加するのが嫌だった。
そうまでして、手に入れたいとは思わない。
だが、結城の事は気になる。
「結城さんは、どんな女の子がタイプなのかしらねぇ」
 睦子もそれが気になるのだった。


blogram投票ボタン ←ヨロシクお願いします。

スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。