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小説・Bye by Blue<完>
3.血圧上昇


Bye by Blue 3.血圧上昇 07

2010.06.04  *Edit 

 ゲーセンへの道すがら、それとなく周囲を窺う。
 知った顔が無いかと言う事と、河嶋がその辺に
いないかの確認だった。
 どちらも見かけない。安心する一方で和子の事が心配になる。
 子供ではないのだから、連絡が付かなければ帰るだろう。
付き合っていれば、こういう事もたまにはあるのかもしれない。
けれど、半ば習慣化している事が、何の連絡も無いまま反古に
されると言うのも、恋人同士の間だけに不審なものを
感じざるを得ない。
 周囲をもう一度よく確認してから、睦子は店の中へ入った。
 電子音が一斉に耳に飛び込んで来る。
 入口の周辺はクレーンゲームが並んでいる。真っすぐ進むと
メダルゲームがあり、何人かがそれを囲んでいる。
 レースゲームは左の奥の方だ。そちらへ目をやると誰もいない。
 あれっ?
 まさか、私もすっぽかされた?
 それとも待ちくたびれて帰ってしまったのか…。
 もしかしたら、機械の陰に隠れてしまっているかもしれない。
そう思って念のために、そちらへ向かった。だが、到着してみると、
やっぱり誰もいなかった。
 緊張してドキドキしていたが、急に冷めた。その途端、
煙草の匂いが鼻に衝く。
 松本あかりを思い出した。
 結城を誘う為に、睦子を突き飛ばして出て行った。
 あの後、結城を捉まえて飲みに行ったのだろうか。
 そう思うと、腹が立ってきた。
 ああ、やだ……。
 最近のあたしったら、腹を立ててばかりのような気がする。
 5月の健康診断で、「若年性高血圧」の恐れがあると指摘された。
 自分では全く自覚が無かった。
 薬を飲む程の高さでは無いが、年齢に即さない高さらしい。
下が90で上が140だった。上も高いが、下は特に高くて、
上よりも下の方が心配だと言う。
 そう言われても、さっぱり解らない。
 だが、イライラして怒りっぽいと顕著に感じるのは富樫と
別れてからだ。そう考えると尚更ムカついてくる。
 あたしだって、怒りたくて怒ってる訳じゃない。腹が立つ
ような事ばかりなんだもん。
 和子の様子を見に戻ろうか。
 そう思って踵(きびす)を返そうとしたら、いきなり目を塞がれた。
 えっ?やだ、なに?
 驚愕と共に恐怖心が湧きあがってきて、心臓が凍りつきそうだ。
「だ~れだ?」
 低くて少し掠(かす)れた声が、笑いを含んでいるのを感じる。
 声の主はすぐに分かった。その途端、凍りついた心臓は溶けたが、
今度は一挙に鼓動が速くなった。その急激な変化に自分でも
ついていけなくて、言葉を出せないでいたら、再び、
「だ~れだ?」
 と、訊かれた。そんな結城が憎たらしく思えて来て、
睦子は思わず言った。
「結城涼のバカ」
「こら~、バカとは何だ、バカとは」
 結城は睦子の目の上から手を外すと、睦子の前へと回った。
顔は笑っている。
「だって、いきなり驚くじゃない。心臓が止まるかと思った」
 睦子は膨れる。本当に、そのくらい驚いた。
「それに、折角来たのに、いないんだもん」
 睦子が軽く睨んで言うと、
「バカはどっちよ。俺いたよ、あそこに」
 と、結城が睦子の背後を指差したので、睦子は後ろを振り返った。
「あそこって、どこ?」
「メダルゲームの所!」
 えっ?
 ええーっ?
「うそっ……」
「嘘じゃないよ。あそこ、入口の正面だから、アユちゃんが
来たらすぐわかるだろうと思って、あそこでゲームしてたんだよ。
なのにアユちゃんてば、俺には全然気付かずに、すーっと
素通りしてっちゃうんだからな。呆れたよ」

 ・・・・・・・。

 返す言葉も無かった。
 何人かがメダルゲームをしている。
 それだけの認識だった。
 その何人かの一人が結城だったとは。
 本当に、バカだ。
「ごめん。全然気付かなかった…」
「いいよ、別に。だけど、遅かったね」
「うん。ごめんね。ロッカーが混んでて」
「女の子は支度に時間がかかるもんな。だけど、来なかったら
どうしようって、さすがにちょっと不安になったかな」
 少しはにかむような笑顔を見せる結城を見て、睦子はキュンとした。
 “来なかったらどうしよう”って、どういう意味なんだろう。
額面通りに受け取っても良いのだろうか。
「じゃぁ、レースやろっか」
 結城は笑顔でそう言うと、ピットへ腰を下ろしたので、
睦子も隣に座った。
「今日はさ。ちょっとノンビリ走らない?」
「えっ?」
 ノンビリって、どういう意味?対戦ゲームだと言うのに。
「最初は初級コースでさ。ウォーミングアップも兼ねて
ノンビリお喋りしながら走ろうよ」
ゲーセンのレースゲームで、ノンビリお喋りしながら走るって?
「リベンジするつもりだったんじゃなかったの?」
 不思議そうに結城の方を見ると、結城はにこやかだ。
「そうだけど、すぐに対戦しちゃうんじゃ、つまんないじゃん。
まずは軽く流そう」
 結城はそう言うと、睦子の返事を待たずにコインを入れて、
一番簡単なコースを選んでしまった。
 まぁ、いいか。ノンビリ流すのも一興か。
 画面がスタートの点滅画面に変わり、フラッグと共にスタートする。
 ついつい習慣で踏み込んでしまったが、結城に
「ノンビリねぇ~」と言われてアクセルを踏む足の力を抜いた。
「この間の屋上での納涼大会だけど、アユちゃんは何でこっちの
テーブルに来なかったの?」
「えっ?何でって、みんなの勢いにはついていけないと言うか。
それに、のんびり花火を見たかったし…」
 何でそんな質問をしてくるんだろう?と疑問に思いながら答えた。
「そっかぁ。そうだよね。俺ももっと花火見たかったなぁ」
 ノンビリ走っていても、最初のコーナーはすぐだった。普段
公道を運転している時のようなノロさで、ゆったりと
ハンドルを切った。
「でも、なんか盛り上がってたじゃない」
「みんなはね」
「楽しく無かったの?」
 いつものように、満面に笑みを浮かべて、真っ白な歯を
これでもかと言うくらいに見せまくっていたじゃないか。
「楽しい事は楽しかったけど、もう少し花火を堪能したかった。
折角の花火大会だったんだし」
「なら、そうすれば良かったじゃない」
「アユちゃんの言い方、ちょっと冷たいなぁ」
 2周目に入った。
「気のせいでしょう」
「そうは言うけどさ。みんなに呼ばれて、売り場の副主任に
誘われて、俺はここにいたいです、なんて言えないじゃん」
 睦子は思わず横目で結城を見た。初級コースでなければ
出来ない芸当だ。
「…向こうへ行きたく無かったの?」
 恐る恐る訊いてみた。
「あんまりね。気が進まなかった。女の子ばっかりだし…。
それに…」
「それに?」
 結城は睦子の問いに答えなかった。
 続く沈黙に疑惑が生じた。
 一体、それに…の後は何なのだろ。とても気になる。
だが、何故か催促できない。
 『それに…』の後の言葉を言わないまま、結城は立ち
上がった。2人でほぼ同時にゴールした後だ。
「あれ?これで終わり?」
 この後、この間の対戦の続きをやるものとばかり思って
いた睦子は拍子抜けした。
「なんか今日は戦う気がしなくて。誘っといてごめんね」
「それはいいけど…」
 じゃぁ、もう帰るのか。つまんないな…。
 そう思っていたら、「他のゲームをやろうよ」との言葉が
頭上から降って来た。
「さっきのメダルゲームでメダルをたくさん稼いだからさ」
 睦子の前にメダルが入ったカゴを突きだした。カゴの中で、
銀色のメダルが誇らしげに輝いているように見えた。
まだ一緒にいれるんだと分かって、嬉しくなった。
「アユちゃんは、レース以外では何が得意?」
 睦子が「シューティング」と答えると、結城はシューティング
コーナーの方へと足を向けた。2人でガンシューティングに
トライする。
 結城も上手かった。2人で全員の敵を倒してパーフェクトの
文字が出た時、両手を合わせて大喜びした。
「やったー!」
「アユちゃん、凄い!」
 目を剥いて驚いている。
「そうでしょう。エッヘン!」
 腰に両手を当てて、えばりん坊ボーズをする。
 2人はこの後も色んなゲームで遊んで、一通り遊んだ頃に
引き上げる事にした。翌日も仕事である。あまり遅くまで
遊んではいられない。
「この間はさ」
 と結城が突然、クレーンゲームを始めながら話しだした。
「みんなの前で誘って失敗したって思ったんだ。本当は
こうして2人で遊びたかったんだよね」
 えっ?
 結城の言葉に、睦子の心臓の鼓動が速くなってきた。
 結城は見事にぬいぐるみをゲットした。プーさんだった。
「好きでしょ、プーさん」
 そう言って、歯を見せて笑いながら、睦子の方へ差し出した。
睦子はそれを受け取りながら、「どうして?」と訊ねた。
「だってよく、売り場の展示物、プーさんの時には買ってるじゃん」
 売り場では、商品の生地で作られたバッグや巾着、クッション、
エプロン、スカート等を展示してある。生地の切り替えや季節の
変わり目で新しい物に交換し、それまで展示してあった物は
安く売り出すのだった。
 従業員たちは、その中で気に入った物があると事前に予約して
購入している。社員の特典で販売価格より安く買える。睦子も
よく買っていた。中でもプーさん柄の時には、決まって
いち早く予約していた。
 よく知ってるな、と思っていたら、
「アユちゃんのプーさん好きは有名だもんな」
 と言われたので、少しガッカリした。
 それでも、プーさんを取ってくれて嬉しかった。
 もしかして、私の為?
 そんな思いが湧いてきて、ドキドキした。
 2人は並んで店を出て、駅まで歩き出した。
 外はムッとした。
「あっちー。サウナみたいだ」
 風が無くてムシムシしていた。
 通りは明るくて賑やかだった。まだ街が眠るには早い。
その賑やかな通りを、2人は黙って駅へ向かって歩いた。
 暑い空気が纏わり付いてくるようで不快に感じる。
だが胸はときめいている。
 そっと隣を窺うと、結城は明るい顔で何気なく周囲を見ている。
そんな結城の姿を見て、2人で一緒に歩いているのが
不思議に思えてくるのだった。
 見るからにアウトドアな男には、もっと派手な女の方が
似合う。自分じゃ役不足だ。自分自身を貶(おとし)める
わけではないが、少なくとも雰囲気という点では、
自分は不釣り合いだと思う。
 そんな風に思っているうちに駅に着いた。利用する鉄道は別々だ。
「じゃぁ」
 睦子が躊躇(ためら)いがちにそう言うと、
「今日はありがとう。急でごめんね」
 と結城が言った。
「ううん」と首を振る。
「あのさ。…良かったら、今度映画でも観に行かない?」
 突然の、思いも寄らない結城の言葉に、睦子は自分の耳を疑った。
 え?何なの?それって、もしかしてデートのお誘い?
 驚きのあまり二の句も告げない。
 返事もできずに、マジマジと結城の顔を見ると、いつもの笑顔だった。
 2人の周囲を、家路へ向かう人々が急ぎ足で通り過ぎて行く。
その度に風が起きて気持ち良い。その風を何度も感じながら、
睦子は返事をできずにいた。
「駄目?」
 いつまでも答えない睦子に、結城はせつなそうな表情をして
そう訊いた。その顔を見て、一挙に鼓動が速くなる。
「あ、あの……」
 駄目だ。息苦しくなってきた。
 デートに誘われてるの?デートだよね。でも、どうして?
 どうしよう…。行きたいけど、でも…。
 自分の中で感情が渦巻いている。行きたい気持ち、嬉しい気持ち、
でも否定する気持ち…。
 そして、睦子は返事をした。思いとは裏腹の言葉。
「か、考えとくね…」
 睦子はそう返事をすると、「じゃぁ、また明日」と言って
自分の乗る路線の改札の方へと走ったのだった。
 プーさんをしっかりと抱きしめて。

  (3.血圧上昇 end 4.接近 へつづく。。。)


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