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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第5章 古都 第4回

2010.02.28  *Edit 

とうとう、現実を拒否して非現実の恋の道を選んでしまった。
 部屋に戻ると理子はそう思った。あの時、自分を庇うように両手を
広げた増山の後で、理子は自分が好きなのはやっぱり増山しか
いないと思ったのだった。もうこれは、どうしようもない。自分の
心なのに止められない。しかも、告白したくてもできない。
したら嫌われるに決まっている。ただ思い続けるだけの、
見込みの無い恋。考えただけで泣けてくる。
 誰にも言えない。常にポーカーフェイスで隠し続けなければならない。
少なくとも卒業するまでは。唯一望みがあるとすれば、卒業してからだろう。
石坂先生の所のように。東大に合格すれば、先生もきっと喜んでくれるだろう。
その後も先輩として、何かと相談に乗ってくれると思われる。チャンスが
あるとしたら、その時だけだ。
 部屋のドアがノックされた。
 「理子ちゃん、あたし」
 ゆきだった。理子はドアを開けた。
 「理子ちゃん、大丈夫?」
 ゆきは心配そうな顔をしていた。


 「ごめんね。いきなり先に走って帰ってきちゃって」
 「ううん。あの二人には驚いたよね。困ったでしょう。無理無いよ」
 二人はベッドに腰を下ろした。
 「理子ちゃんはさぁ、枝本君の事を好きなわけじゃないの?」
 「好きだけど・・・」
 「好きだけど?」
 「他に好きな人がいる事に気づいちゃったんだ」
 「ええー?それって、あたしの知ってる人?」
 理子は少し考えて、頭を振った。
 「それ以上は、聞かないで。私の片思いだから」
 「そっか・・・」
 ゆきは悲しそうな顔をした。理子が悲しそうに見えたからだ。
 「あたしさ、枝本君に理子ちゃんの事で時々相談を受けてたの。
理子ちゃんも満更じゃないと思ってたから色々アドバイスしちゃって
たんだけど、良くなかったみたいだね。ごめんね」
 枝本がゆきに相談していたと聞いて驚いた。はっきりと告白されては
いないが、これまでの行動を見れば、その気持ちは推測できたろう。
ただ理子は、そういう行動から相手の気持ちを推測して、結論づけるのが
嫌いだった。人の気持ちほど不確かなものはない。勝手にそう思い込んで、
後でしっぺ返しを喰らうのではないかと不安になるのだった。
結局は臆病なのだ。
 増山にしても同じことだ。増山の色んな行動から、色んな事が推測できる。
だがどれも一つの可能性に過ぎない。結論づける事はできないのだ。
でも、もう走り出してしまった。止められない。
 「ゆきちゃんは悪くないよ。私がゆきちゃんでも、同じ事をしたと思うし。
だから気にしないで」
 「理子ちゃんの恋、実るといいね」
 「ありがとう」
 理子はゆきを見て笑った。
 翌朝、理子はいつも通りに二人に接した。二人の事は好きだ。
だから気まずい関係になりたくなかった。理子のいつも通りの様子に、
二人は一応安心したのだった。どうやら嫌われてはいないようだ。
 倉敷の2日目も無事に過ぎた。船は乗り降りの時に揺れたので
怖かったが、我慢した。
 3日目、京都へ向かう途中で姫路城に寄った。ここが、歴好きの
理子達の最大の楽しみだった。大きくて広い。外敵を防ぐ為にあらゆる
仕掛けがなされており、天守閣へも簡単には行けない。ハードな道乗りだ。
ここは山登りよろしく、個人のペースで登閣することにした。
 城には本当に心惹かれる。姫路城は時代劇で江戸城としてよく
登場する城だ。実際の江戸城とは趣は違う。400年もの間、本当によく
残っていてくれたと思う。維新の時に多くの城が廃城になり、取り壊された。
残った城も戦争で燃えたものもある。天守閣のある城で昔のまま現存して
いるのは、僅かに12しかなく、その他は復興、復元されたものなのである。
姫路城は、昔のまま現存している貴重な城で、その規模からしても最大である。
世界遺産になるのも当然かと思われる。
まさに、圧巻だった。感動した。本丸は6階建てなので、最上階の天守閣まで
登るのは一苦労だが、その景観は素晴らしい。
 素晴らしい姫路城を後にして、一行は京都に向かった。到着したのは夕方だ。
見学は翌日になる。京都では、京都国際ホテルが宿泊先だった。二条城を
目の前にした、日本庭園のあるホテルだ。江戸時代には旧福井藩邸のあった
場所であり、平安時代には堀川天皇の里内裏があった場所でもある。
 初日の倉敷の夜から、増山とはメールのやり取りもしていないし、
集合時くらいしか顔を合わせていなかった。この状況を辛く感じる。
先生の顔をもっと見たい。先生ともっと話したい。そういう欲求が
以前よりも高まってしまっていた。
 増山はどこへ行っても目立っていた。必ず現地の女性たちの目を引いた。
こっそり接触を図るのは無理だろう。何だか、早く帰って、またいつもの
生活に戻りたくなってきた。本が読みたい。ピアノを弾きたい。歌を歌いたい。
先生と色んな話をしたい。全部ここでは出来ないことだった。
 そう言えば、「バビロンの夕陽」の感想レポートを出したまま、その感想を
先生から聞いていなかった。あの本について、もっと色々な事を話したい。
 理子は夕食の後、ホテルの日本庭園を散策した。とても綺麗な庭だった。
目の前の二条城はライトアップされていて美しい。
 池の前でぼんやりしていたら、枝本に声を掛けられた。
 「どうして、ここに?」
 理子は不思議に思った。
 「ごめん。理子の姿が見えたから、どこへ行くのかと付いて来たんだ」
 「そう」
 理子は素っ気なくそう言うと、再び池を見た。
 「理子、この前はごめん。勝手に断りも無く手を繋いだから、
あんなことになってしまって」
 「ううん」
 理子は首を振った。
 「俺、改めて言う。理子が好きだ」
 その言葉に理子は振り向いた。
 「でも私、他に好きな人が」
 「わかってる。でも、言わずにはいられないんだ。自分の気持ちを
隠しておけない」
 それに対して、理子は何て答えたらいいのかわからなかった。
 「ごめんなさい。それから、ありがとう」
 それしか言えない。
 「一つ聞きたいんだけど」
 「なにかな」
 「理子の好きな人って、同じ学校の生徒?」
 「ううん。相手は高校生じゃないの」
 「えっ?じゃぁ、大学生?」
 「ううん。・・・社会人。大人なの。だから、片思いなんだ」
 理子は寂しそうに言った。
 「告白は?」
 「しない。彼女がいるし」
 「それでも好きなの?諦められないの?」
 理子は枝本を見た。
 「考えてみたら、枝本君の時と同じだね。あの時も、枝本君には
彼女がいたのに、わかっていて尚、好きだった。諦められなかった」
 そうだ。諦めないでいたら、叶ってしまった。だから、今が絶望的であっても、未来の事はわからない。
 「いつから好きなの?」
 「わからない。気づいたのは最近かな」
 「そっか。理子は昔から一途な所があるもんな。だけど、俺も、
理子に好きな人がいるとわかっても、好きであることに変わりは無いから。
理子の気が変わるのを待ってるよ」
 「本当にごめんね。その人がいなかったら、きっと枝本君を好きに
なってたと思う。だって、好きな気持ちのままサヨナラしちゃったんだもん。
枝本君が転校してきた時には、胸がキュンとしたんだよ」
 そう。今だって、まだ好きな気持ちはある。自分の心持次第で、
枝本と付き合う事も可能だ。増山の事を強制的に思い切って、無理やり
枝本の方へ意識を向ける事はできる。最初は辛いだろうが、
その内に枝本をもっと好きになって、増山の事を完全にふっ切ることが
できるのではないかと思う。だがもう、走り出してしまった。
自分の心に嘘をつきたく無かった。
 「そう言ってくれて嬉しいよ。告白したけど、これからも
これまでのように付き合ってくれるよな」
 「うん、勿論。色々ありがとう」
 枝本は笑って手を上げると、ホテルの方へと戻って行った。
 もっと早くに告白されていたら、どうだったろう。付き合っただろうか。
考えてみたがわからなかった。ただ、去年の春から同じ高校だったら、
きっと枝本と付き合っていただろう。そこへ増山が現れたら?やっぱり、
自分の心は増山に奪われてしまうのだろうか。
 「理子・・・・」
 池の向こう側の茂みから、自分を呼ぶ声が聞こえた。鼻にかかった、
少し低めの美声。この声は。
 薄暗闇の中に、ぼんやりとした人影が現れた。
 「先生・・・!」
 理子は心臓が止まりそうなほど、驚いた。
 「すまない。女子共が煩いから落ち着きたくて、こっそりここまで
来て池を見てた。そこへお前がやってきた。声を掛けようとしたら、
枝本が来たのが見えたんで、隠れたんだ」
 薄暗くて増山の顔が良く見えない。表情が読めない。どんな顔で
喋っているのか。理子のそばには灯篭があるので、増山からは理子の顔が
良く見えるだろう。なんだか恥ずかしくなってきて、いたたまれない。
 「あの、・・・もしかして話を・・・」
 「悪い。聞いてしまった」
 増山の言葉に理子はショックを受けた。誰にも聞かれたく
なかったのに。増山には特に。
 「理子。こっちへ来ないか?」
 増山の声が優しかった。そんな声で言われると行きたくなる。
行って縋りつきたくなる。
 「この状態じゃ、話が遠い。おまけに誰かが来たら怪しまれる」
 先生は、どうしてそんな事を言うの?私はただの受け持ちの
生徒なのに。生徒と恋愛する気はないって沙耶華に言ったんでしょ?
だから皆に冷たいんでしょ。なのに、どうして?
 聞きたくて聞けない言葉を理子は呑み込んだ。
 「理子、こっちへ来るんだ」
 増山の語調が強くなった。
 「来い!」
 その強い言葉に、理子は逆らえなくて、増山の所へ行った。
 「まったく、お前には苦労する」
 そばへ来た理子に、増山は苦笑しながら言った。
 理子の方は抱きつかないように我慢するので精いっぱいだった。
 増山は、話が遠いと言って理子をそばへ呼びつけながら何も
言わなかった。黙って、理子を見ている。耐えられなくて
理子の方から言葉を発した。
 「あの、先生。初日の倉敷の夜の件、助けてくれてありがとうございました」
 「ああ。あれか。あの後、枝本と茂木から詳しい話を聞いた。
呆れたよ。あの二人には。だけどお前、もてるな」
 「もてるって・・・」
 「おまけに、二人ともお前好みの眼鏡じゃないか。
何も逃げなくてもいいだろうに」
 増山の言葉に理子はショックを受けた。そうか。この先生にとって、
結局私はその程度のものなんだ。
 「この間も、さっきも、好きな人がいるって言ってたな。しかも
相手は大人で片思い。悪い事は言わないから、諦めろ」
 増山の言葉に理子は怒りを覚えた。
 「なんで先生にそこまで言われなきゃならないんですか?」
 理子の強い語調に、増山はたじろいだ。
 「彼女がいるなら、女子高生のお前なんて眼中に無いだろう。
辛い思いをするだけだ」
 増山が目を逸らして、そう言った。
 「余計なお世話です。そんな、追い打ちをかけるような事を
言わないで下さい」
 泣きたくなってくる。当の本人からこんな事を言われるとは。
「失礼します」
 理子はもう、これ以上一緒にいるのが耐えられなくて、
その場を離れようとした。
 「待ってくれ!」
 だが、増山が理子の手首を掴んで、それを止めた。理子は驚いた。
 増山がそのまま腕を引いて、理子を引き寄せた。理子は危うく
増山の胸にぶつかりそうになった。胸の動悸が一挙に速くなった。
 「すまなかった。こんな話をする為に、お前をここへ呼んだんじゃない」
 増山は理子の手を離すと、そう言った。理子は俯いた。だが、増山は、
 「理子。俺の方を見てくれないか。お前の顔をもっとよく見せて欲しい」
 と言った。その言葉に理子の胸は締め付けられた。
 どうして?
 乱れる心を抑えながら、平静を装った。
 「だめだめ、そんなにじっくり人様に見せるような顔じゃないから」
 理子は高鳴る胸の鼓動を鎮めるように、わざとおちゃらけて言った。
それに半分は本気だ。美しい人に晒せるような顔ではない。
 「ケチるなよ。俺が見たいって、言ってるんだ。素直に
見せた方が身の為だぞ」
 この人って、結局のところ、強引だ。
 「私は見せたくないです。素直に従った方が身の為ですよ」
 理子も負けていない。と言うか、つい対抗してしまうのだった。
 増山は大きく息をついた。
 「お前、本当に生意気だな。いいか、これは担任命令だ。
俺の方を見るんだ」
 「担任だからって、それは横暴じゃないですか?そんな権利
ないと思いますけど」
理子はあくまでも突っぱねる。
 「あまり減らず口をたたくな。その口を塞ぎたくなる」
 えっ?
 その言葉に、理子は思わず増山を見てしまった。
 「やっと、見てくれた」
 増山はそう言うと、優しい目で理子を見つめた。
 理子は、その視線から目を離す事ができなかった。
二人は黙ったまま、長い間見つめあった。
 端正な顔立ち、長い首、こんなに近くで正面から正視するのは
初めてだ。自分の胸の鼓動の音で、耳がおかしくなるのではないかと
思った。増山は一体、何を考えているんだろう。
 増山の視線が理子を離した時、理子はほっとした。
 「悪かった。だが、これでようやくわかったよ」
 増山は伏せ目勝ちに、僅かに笑いながら言った。
 先生は一体何を言っているのだろう。
 「お前はもう、部屋へ帰れ。引き止めて、済まなかった」
 理子は不審に思ったが、従う事にした。
 「先生・・・」
 「んっ?」
 「おやすみなさい」
 「ああ、おやすみ」
 増山が優しく笑った。

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~ Comment ~

Re: またまたお邪魔しています>いき♂様 

いき♂さん♪

どうもありがとうございます。
ひたすら感謝なのでございます。

先生への想いを選択した理子ですが。
私だったら、密かに先生を想いつつも、
枝本君と付き合っちゃうかもぉ~~(^_^;)

不埒な女でございます。

また、御拝読&コメントを頂けたら、
後生感謝し続けます。<m(__)m>
(ちと、大袈裟だったか…(^_^;)

またまたお邪魔しています 

ここまで読みました^^
もつれる関係、理子姫の選択。
読んでいてドキドキしましたw

また、続きを拝読します。
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