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小説・Bye by Blue<完>
2.鼓動


Bye by Blue 2.鼓動 05

2010.05.27  *Edit 

 えっ?何?
 掴まれている自分の腕を思わず見る。
 右手の肘と手首のちょうど中間に、結城の大きな手があった。
 ヒンヤリとしていたから、握られた瞬間、心臓が止まるかと
思われる程驚いたのだった。だが今は、その止まった心臓が
解放されて、鼓動が加速度的に速くなっているのを感じる。
 腕から結城へ視線を移すと、結城はにこやかな顔をしていた。
 睦子は戸惑った。わけが分からない。
 掴まれたのも分からなければ、離してくれないのも分からない。
「あ、あの・・・?」
 やっと声を出すと、「あっ、ごめん」と言って、手を離された。
ホッとしたが心臓の鼓動は変わらずに速いままだ。
「アユちゃんの腕、意外と細いんだな」
「意外とってどういう意味?太いと思ってたとか?」
 意味が分からないまま、取り敢えず答える。
「太ってるわけじゃないけど、細身でも無いじゃん。だから」
 そう言って歯を見せて笑う。
「あの、それで、何なの?急に掴まれてビックリしたんだけど」
 まだドキドキしている。
「ああ、ごめん。実は、これを渡そうと思って・・・」
 結城はYシャツの胸ポケットから、四角い厚みのある紙を取り出した。
目の前に差し出された物を見ると、ポラロイド写真だった。
結城が写っている。
「えっ?何これ」
「何って、俺の写真。広告の写真を撮る前に、カメラテストで
撮られたヤツなんだ」
 言われてみれば、売り場の服を着ている。だが妙なポージング
ではなく、普通に立って写っていた。
 睦子は、その写真をジッと見つめたまま動けなかった。
どうしたら良いのか分からなかったからだ。
「さぁ」
 と、結城は睦子に突きつけた。睦子は顔を上げて結城を見た。
その睦子に、
「あげるよ」
 と結城は言ったのだった。
「貰う理由がない」
 睦子はそう言った。心臓は前よりも速く動いている。何故、
写真を渡されるのか。さっぱりだ。嬉しいと思う気持ちよりも、
何で?と思う気持ちの方が強い。それでも心臓だけは正直なようだ。
 睦子の言葉に、結城は少しガッカリしたような顔をした。
だが、「しょうがないなぁ」と言った後、その写真を睦子の制服の
ジャンパースカートのポケットへと差し込んだのだった。
「えっ?ちょっと…」
 と驚いて取り出そうとする睦子を無視して、結城はさっさと
立ち去って行った。
 後に残された睦子は茫然とした。
 腕はまだ、ヒンヤリとした結城の掌に掴まれているような
感じがするのだった。
「どうしたの?」
 京子にいきなり声をかけられて、睦子はビクッとした。
「えっ?」
 見られたか?
 驚いている睦子に、
「なんか、ボーっとしてる感じがするんだけど」と京子は言った。
「あぁ、担当してる小物で注文洩れがないかどうか、
急に気になっちゃって」
 睦子はそう言って誤魔化した。どうやら見られていなかったようだ。
「すみません、これお願いします」
 二人の許にお客が反物を差しだした。
「あ、はい。どれくらいですか?」
 慌てて反物を受け取って対応する。
 頼まれた反物を台の上で切っていると、客が後へ並び始めた。
 お客の対応に追われながらも、睦子は自分の制服のポケットが
気になってしょうがない。
 ただの写真である。紙きれに過ぎない。それにも関わらず、
鉄の板でも入っているのではないかと思うほどの存在感だ。
 客は益々増え、目の回るような忙しさに襲われ、夢中に
なって布を切り、1.7(m)×390(円)=633(円)と
計算して伝票に書き、そんな作業を閉店時間まで繰り返す中でも、
矢張りポケットが重い。
 そして、鼓動はずっと平常より速いままだった。
 閉店後、最後にレジを担当した者が、レジを閉める。
他の従業員は、台に積み上げられた布を片づけた後、
フロアの掃き掃除をする。
 反物を片づけている時、結城とぶつかりそうになった。
「おっと~」と、結城は睦子を避けるとニッコリと微笑んだ。
そして脇をすり抜けて行く。まるで何事も無かったかのようだ。
睦子はドキドキしていた。
 そっと、自分のポケットへ目をやる。普通の写真より少しだけ
厚みのあるポラロイドの縁が見えた。それだけで、一層
心臓の鼓動が高まる。
 仕事が終わって着替えた後、睦子はロッカーの中で制服の
ポケットから急いで写真を抜くと、すぐにバッグの中へと
忍び込ませ、素早くバッグの口を閉じた。そして、首をあまり
大きく動かさずに周囲の様子を窺った。みんなお喋りしながら
着替えに夢中だ。睦子はホッとしてバッグを肩に掛けた。
「お先に失礼しまーす」と声を掛けると、そそくさと外へ出た。
いつもなら、のんびりと、京子や和子や、同じ電車に乗る事の
多い浜田と共に出るのだったが、今日は用事でもあるように、
さっさと一人で先に出たのだった。
 足早に駅まで歩き、改札に入ると、ちょうど電車が出る所だった。
慌てて走り乗る。睦子が乗ると同時にドアが閉まった。
一番後ろの車両だ。
 走り出した電車の揺れを感じながら、睦子は前の車両へと
移動した。3つ目の車両の真ん中辺りで立ち止まって、
吊革の前へ立つと、周囲を窺った。知った顔は無い。それを
確認すると、肩から掛けているバッグを下ろし、その口を開けて
中から写真を取り出した。
 結城がニッコリ微笑んでいる。
 どうしてこれを私にくれたんだろう?
 見ているだけで、胸が高鳴る。まるで自分の為だけに
微笑んでいるようだ。
 電車が大きく揺れた。
 慌てて吊革に掴まる。
 掴まった自分の右腕を見て、ある筈が無い結城の手形が
くっきり見えるような気がしたのだった。


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~ Comment ~

Re: おおーーーっと>OH林檎様 

OH林檎さん♪

これからどんどん、動きが増していきます。

だけど、私も、喜んで貰っちゃいますよ。
でもって、写真にチュッチュしちゃいます(=^^=)

面倒くさい女ですね、鮎川は(^^)

おおーーーっと 

きましたねぇ!
動きましたねぇ、結城くん。
しっかし、アユちゃん
「貰う理由がない」
はないよぉーーー(笑)
私ならくれなくても強奪しちゃうけど( ´艸`)
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