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小説・Bye by Blue<完>
2.鼓動


Bye by Blue 2.鼓動 04

2010.05.26  *Edit 

 その言葉に、睦子は驚いた。
 既婚者?・・・じゃぁ、不倫?
「驚いたでしょ」
 何も言えない睦子に、遥子はそう言った。睦子は黙って頷いた。
 遥子は、今の店舗へ転勤してくる前は、本社にいた。その本社で
働いている時に知り合ったのだった。知り合った時、彼は既に
結婚していた。そうと知っていたのに、好きになって
しまったのだった。
「彼はね。組合の委員長をやってるの。凄く行動的な人でね。
男らしくて優しい人。結婚してるのわかってたから、ただ
想っているだけだったんだけど、彼から告白されてね。
いけないとわかってたのに、受け入れてしまって、以来ずっと
続いてるってわけなの」
 そう言って笑う遥子の顔が、ひどく寂しそうで、
睦子は切なくなった。
「転勤の話しがあった時、彼、反対したんだけど、私はいい機会だと
思ったの。これで彼と少し距離が置けたら、二人の関係も少しは
変わるかなって。でも、変わらなかった。相変わらず、
彼は私の所に通って来る・・・」
 遥子は遠い目を窓の外へ向けた。
 なんだか、胸が痛くなってくる。
「彼を、愛してるの?」
 遥子は窓の外を見たまま、頷いた。
「彼は?彼は離婚しないの?」
 遥子は驚いたように振り向いた。そして再び寂しそうに笑う。
「離婚はできないって言ってた」
「そ、そんなの、酷いじゃない!どうして?」
「彼は婿養子なの。子供も3人もいるし、責任があるから」
「そんなの、おかしい。理由になんない。それならどうして
遥子さんと別れないの?」
 睦子は感情が昂って来るのを感じた。
「遥子さんはこのままで平気なの?」
「アユちゃん・・・。私もね。このままじゃいけないって
思ったから、転勤の話を進んで受けたの。距離を置きたかったの」
「それなのに、彼はそんな遥子さんの気持ちを無視して
通って来るんだ」
「寂しいんだって。家庭に居場所が無いって言ってた」
 この人から受ける印象は、最初からずっと儚げで寂しそう
だった。その理由が、今やっと分かった気がした。
 行動的で男らしくて優しい人?
 どこが?
 組合の委員長だか何だか知らないけど、家庭を持ちながら他の
女の処へ逃げ込む男の、一体どこが男らしくて優しい人なんだ。
「あたしには、わからない。寂しいって何?遥子さんに癒されて
家庭へ戻っていくんでしょ?でも遥子さんは?遥子さんの
寂しさはどうなるの?どうしてもっと遥子さんの事を
考えてくれないの?」
「アユちゃん。そんな風に思ってくれて、ありがとう。
でも私も悪いのよ。結局、彼を受け入れてしまうんだから」
「そんなの、しょうがないよ。遥子さんは悪く無い。
悪いのは男の方だよ」
 好きな人に必要とされて、激しく求められて、
拒める女がいるんだろうか。
 男の方はいい。妻で満たされなくても子供がいる。
一人ぼっちじゃない。でも、遥子さんは一人ぼっちだ。
愛する女を一人ぼっちにさせている事に胸が痛まないのだろうか。
罪の意識を覚えないのだろうか。覚えていても、止められないのか。
自分が癒されたいが為に、愛する女を傷つけ、孤独の淵へと
追いやるのか。そんなのはエゴだ。愛なんかじゃない。
「アユちゃん。彼の事を、そんなに悪く言わないで」
 睦子はその言葉に、胸苦しさを覚えた。そして、涙がこぼれた。
 遥子さんは、彼を愛してる。
 だから、彼のどんな行為も赦している。
 どんなに寂しくても、彼を愛する事を止められないんだ・・・。
 だけどいつか、その孤独に押し潰されてしまいやしないだろうか。
「アユちゃん・・・」
 遥子の手が睦子の肩に触れた。
「ごめんなさい・・・。でも、あたし・・・」
 悲しくてたまらない。自分の事じゃないのに。
「アユちゃん。ありがとう。ほんとに、ありがとう」
 睦子は遥子に抱きしめられた。
 いい匂いがする。優しい匂い。そして、哀しい女の匂い。
 睦子を抱きしめる遥子の体も震えていた。
 泣いている・・・。
 この人が、幸せになれる日はやって来るのだろうか。
 幸せになって欲しい。
 壊れそうな儚い笑顔ではなく、春の陽射しのような、
暖かくて満ち足りた笑顔を見たい。
 この人が大好きだから。
 睦子は柔らかい遥子の胸の上で、切にそう思うのだった。

 新聞の折り込み広告。
 この広告に掲載される商品を身に付けて写っているのは、
広告専用モデルである。
 この、広告制作にあたり、不景気故に経費削減と言う名目で、
専用モデルの使用を止めて、社員にやらせようと言うことになり、
そのモデルに、男子社員と女子社員が1名ずつ選ばれた。
 結城涼とレディース売り場の松本あかりだ。
 そのニュースに、社内は揺れた。
「何でも撮影も、ここで行われるんだって。4階の服地の
バックヤードの一部らしいよ」
 恩田和子がそう言った。副主任の河嶋から聞いたのだろう。
「本当なの?」
 と、浜田が傍にいた結城に訊ねた。
 結城は照れたような笑みを浮かべて、「そうみたいですね」と答えた。
 いくら経費削減とは言え、売り場の従業員にモデルを
やらせるとは、驚きだ。特に服地売り場の面々は、貴重な戦力を
失う事になる。広告は毎週入るのだから、撮影の機会も少なくは
無いだろう。迷惑この上ない。
「一体店長は、何を考えてるのかしら」
 浜田は頬を膨らませた。
「だけど、なんで松本さんが選ばれたんだろうね」
 休憩時間に入ったトイレで、他の売り場の女子社員二人が話していた。
「島谷さんの方が、ずっと美人なのに」
 話しているのは元川と言う寝具売り場の女子社員で、もう一人は
島谷だった。島谷はメンズ売り場担当である。
「ねぇ、そう思わない?」
 手を洗っている睦子に同意を求めて来た。いきなりそんな風に
同意を求められても、返答に困る。睦子は普段、彼女達とは
あまり交流が無い。売り場が違うと言う事もあるが、生理的に
合わないと感じている。それは向こうも同じようで、だから
挨拶程度の付き合いである。
「そんな事聞かれても、よくわからないかな。美人とかって
主観の問題でしょ。誰が選んだのか知らないけど、選ぶ人の
好みだったんじゃないの?」
「好みねぇ」
 と言って島谷が笑った。
 睦子は「じゃぁ」と言って、トイレから出た。何だか嫌な気分だ。
 実際のところ、睦子も、松本あかりより島谷由梨絵の方が
美人だと思っている。睦子は松本あかりはあまり好きじゃない。
背が少し高めでスタイルは良いと思うが、顔は取りたてて
美人とは思えないし、そもそも、三白眼的な目つきが苦手だった。
眼が細いとか小さい訳ではないのだが、瞳そのものが小さめな為、
上目づかいのような目つきになる事が多い。ちょっと藪睨みしている
マネキンのような、怖い感じがする。
 広告とは言っても、ブティックやブランドの広告じゃなく、
庶民的な家庭向けの店の広告である。その広告で起用するモデルの
タイプだとは思えない。個性的過ぎるのだ。
 そう考えると、やっぱり、何故彼女が選ばれたのかと疑問に思う。
それに、こういう女性ばかりの職場でこういう事をするのは、争いの
種になるのではないか。少しでも容姿に自信のある女子の間では
喧々轟々になるだろう。
 その予兆を何となく感じさせながら、撮影はすぐに始まった。
「ねぇ、ちょっと見に行かない?」
 休憩時間とちょうど重なっていたので、京子の誘いに乗って
見に行った。
 服地売り場のバックヤードの片隅だから、すぐに見に行ける。
 売り場とバックの境の扉を開けて中へ入ると、いつもは薄暗い
場所の一角が酷く明るくて、すぐに撮影場所が分かった。
 スクリーンをバックに、妙なポーズをした結城がニッコリと
笑っていた。周囲にはライトが幾つも立てられ、レフ板を当てられて
いる。その傍で、松本あかりが立ってその様子を眺めていた。
売り場の服を着ている。
 スタッフはカメラマンが一人、レフ板持ちが一人、スタイリストの
ような人間が一人の、三人だけだった。
 店長が撮影の様子を見守り、メンズとレディースの主任が、
撮影用の商品を持って右往左往している。
 そして、他にも何人かの従業員が見学していた。多分、睦子達と
同じように休憩時間を利用して来ているのだろう。
 結城の撮影が終わると、あかりが今度はスクリーンの前に立ち、
言われた通りにポージングしだした。結城は衝立ての後に入り、
メンズの主任に渡された服に着替えているようだ。
 そうやって、結城とあかりが交互に撮影している様子を見て、
「面白い」と京子は笑った。確かに面白いかもしれない。こんな
現場を見る事は、そうそう無いだろう。モデルの方は大変そうだ。
 適当な時間で売り場へ引き上げた。コーヒーを飲みたかったのに、
見ていたせいで飲み損ねてしまった。
 夕方、撮影が終わった結城が売り場へ戻ってきた。
「なんか、へとへと・・・」
 そう言う結城に、売り場のみんなは「でも面白かったわよ」と
言った。みんな、バックヤードへ反物を取りに行く度に様子を
見ていたようで、口々に愉快そうに言うのだった。
「へとへとでも、仕事はちゃんとやっておくれよ」
 と、年配社員の佐々木昭子が言った。いつも黙々と仕事を
しているが、さっぱりしたユニークな人だった。
「そうだよ。モデルなんて、大して体を使わないんだから、
どうってことないだろ?」
 河嶋がそう言うと、結城は苦笑いした。
「確かに、ここのような重労働じゃないけど、妙なポージングを
要求されて、何枚も同じ写真を撮るもんだから、その格好を
維持してるのが結構、辛くて」
 その言葉を聞いて、睦子は思わずプププッと笑った。
 睦子が見に行った時も、妙な格好をしていたのを思い出したからだ。
 台の上に片足を乗せて、前屈み的に膝の上へ両手を着き、
上半身だけカメラの方へ捻って、顎を引き気味にし、にっこりと
笑っていた。その格好を、随分と長い間、維持させられていたっけ。
同じ格好のまま身動き出来ないと言うのも、確かに辛い物があるだろう。
「見た見たー!変な格好して撮ってたよね。すっごい面白かった。
ねぇ?むっちゃん?」
 京子の言葉に、睦子は笑って頷いた。そして、その時の結城の
ポージングを真似して見せると、そこに居たみんなが大爆笑した。
腹を抱えて笑いだした。結城だけが、顔を赤くして、
居たたまれないような表情をしていた。
 ひとしきり皆で沸いた後、客が目立ってきたので其々の持ち場へと
戻った。その時、睦子はいきなり腕を掴まれてビックリした。
振り返ると、結城だった。



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