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小説・Bye by Blue<完>
1.はじまり


Bye by Blue 1.はじまり 05

2010.05.21  *Edit 

 河嶋は、睦子が入社した時にはまだ、ただの平従業員に
過ぎなかった。その時は、皆と一緒になってお喋りに興じたり、
ふざけたりして、フレンドリーだった。少しチャランポランな
所もあったが、可愛い顔立ちと愛嬌のある態度が、憎めない
キャラクターだったのだ。
 ところがこの四月、副主任に抜擢されてから途端に態度が変わった。
 これまでは仕事中に皆と一緒になってお喋りしていたのに、
少しでも喋っている女子を見ると、厳しく叱責するようになった。
注意するにしても、言い方と言うものがあるだろう。神経質に、
怒るような注意の仕方に、売り場の女性達は皆、不愉快になった。
「なんなの、あれは。今まで一番お喋りだったくせに」
 と、浜田も佐々木も憤慨した。
 責任のある役職についたのだから、これまでのように皆と一緒に
なってお喋りしたりふざけたり、といった訳にはいかない事はわかる。
 だが、あまりにも極端な変わりように、誰もが反感を持ったのだった。
 結局、女性陣はビールを注文したのは和子だけだった。それに対し、
河嶋は不服そうな顔をしている。自分の思う通りにならなかったのが
気に入らないのだろう。
 全員の飲み物が揃って主任の音頭で乾杯した後は、
和やかな雰囲気になった。
「それにしても、毎日毎日、一体どこから湧いてくるんだろうって
思うくらい、お客さん沢山来ますよね」
 バイトの工藤がそう言った。
 おつまみの枝豆を速いペースで食べながら、浜田が相槌を打った。
「ホントよね。大体店って、土日や祭日は混んでも平日は空いてる
ものよね。買い物へ行くと大抵そうじゃない。なのに、
うちは何なのかしらね?食料品店でもないのに」
 全くである。平日から混んでいて、土日祭日は更に混むのである。
 休日は月始めにシフトを組むのだが、土日祭日でも誰かは休みである。
大抵は一人だが、一人でも頭数が少なくなるのは残されたメンバーに
とっては痛い。それでも交代で休んでいるのだからお互い様だった。
「おいおい、何やってるんだよぉ」
 との声に皆が顔を向けると、和子がビールを口の端からこぼして、
それを呆れ顔で河嶋がおてふきで拭いてやってるところだった。
「全くおめーは子供みたいだなぁ」
 なんだか、とても睦まじい雰囲気だ。
「なんか、河嶋さん、やけに世話焼きですね」
 バイトの工藤がニヤ気顔で言うと、
「だって、彼氏だもんねー」
 と、京子が笑顔で言った。その言葉に、その場にいた全員が驚いた。
「えー?嘘。いつの間に?」
 浜田と佐々木が顔を見合わせた。
 京子の言葉に、河嶋は苦虫を潰したような顔をし、和子は頬を
染めて嬉しそうな顔をした。
「二人、付き合ってたの?」
 バイヤーの友田が大声で言った。
「主任、知ってた?」
 友田の言葉に主任は首を振った。
「俺も初耳。驚いた」
 と、タヌキのような丸い目を更に丸くしていた。
「お前、京子ちゃんに喋ったのか」
 河嶋は怖い顔をして和子に言ったが、和子は意に介した風でも無く、
「うん」と嬉しそうに頷いたのだった。
「いいじゃない。どうせすぐにわかっちゃうんだから」
 京子がそう言った。周囲もそれに同意する。
 みんなは河嶋の怒りを含んだ表情を察してそう言ったが、
肝心な和子はそんな河嶋の感情に気付いているように感じられない。
神経が太いのか、それとも鈍いのか・・・。
「だけど、がっかりだよなぁ。いいなって思ってたのに。今度は
個人的に一緒に飲みたいと思って誘う気でいたのになぁ」
 工藤が残念そうに言った。
「俺だって、そうだよ。恩田さんは、そそるんだよなぁ」
 友田がそう言ったので、みんなは非難の声を上げた。
「友田さん、何言ってるのー?厭らしい」
 潔癖症らしい浜田が思いきり嫌悪感を露わにしてそう言った。
「そうだ、そうだ。妻子持ちの中年男が。ひどいぞー!」
 京子は怒り気味だ。
「まぁまぁ。ほんの、冗談じゃないか」
 主任が笑いながら庇った。友田は苦笑している。多分、
本気と冗談が半々なのだろう。
「だけど、友田さんの言うのも俺わかるよ。何ていうか、妙な
色気があるんだよな、恩田さんは。それに、天然っぽい所が
また良くてさ。かまいたくなるって言うか」
 工藤が2杯目に頼んだ水割りを飲みながらそう言った。
学生なのに、酒が強い。そんな工藤に睨むような目を向けて、
河嶋が言った。
「この際だから言っとくけど。恩田さんは俺の彼女だから。
だから手を出さないでくれよ。そそられるとか、そういう
発言もしないでくれないかな。気分悪くなるから」
 上目づかいに周囲へ視線を飛ばす。
「河嶋君って、案外嫉妬深いのね」
 浜田が突っ込みを入れた。その彼女へも鋭い眼を飛ばしてきた。
 うわっ、こっわぁ~。
 浜田の突っ込みに共感する。
 なんだか、場が白けた。
 僅かの間(ま)の後、其々が隣の人間とボソボソと喋り出した。
全体で喋る雰囲気では無くなったからだ。
 暫くしたら、バイトの工藤が、
「鮎川さんは、彼氏いたんでしたっけ」
 と言った。急に言われて目を丸くする。
 そう言えば、工藤がバイトに入って間もない頃、売り場で
「彼氏いるんすか?」と訊ねられた事があり、その時は「いる」と
答えたのだった。
「あたし、見た事があるわよ。何回か来て、外でお昼を一緒に
食べたりしてたもんねぇ」
と、浜田が言った。
「へぇ。そうなんすか。どんな人でした?」
 工藤は興味津々と言った顔だ。
「背が高くて細身で、確か眼鏡をかけてたわよね?真面目そうな
雰囲気だったかな」
何故か浜田と一緒の昼休みの時に限って、富樫はやってきていた。
 ラブな雰囲気では全く無いのに、時々店までやって来るのが
不思議だった。「そこまで来たついで」と言っていたが、一体
何の用事でそこまで来ていたのかは言わないから不明だった。
 富樫は何の予告も無くやってきた。睦子が休みかもしれないなんて
全く考えもしなかったのか。そしてそれは、大抵昼の少し前で、
睦子が昼の時間になるまで近くの喫茶店で待っているのだった。
 普通の恋人同士なら納得な行動かもしれないが、睦子は付き合って
いながらも自分たちを恋人同士だと感じた事は一度も無かった。
でも今こうやって過去の事を思い出してみると、もしかしたら
富樫は睦子ともっと親密な中になりたかったのかもしれない。
体を求めて来たのも、そのせいかもしれなかった。
 だが今頃そんな事を思っても詮無い事だった。
「でもむっちゃん、もう別れちゃったんだよね」
 京子の突然の言葉に、睦子はギョッとした。
「ええぇ~?そうなのぉ?」
 京子の言葉に、浜田は信じられないといった表情をした。
 睦子は、京子を睨みつけた。全く、こいつは暴露屋なのか。
「本当なの?」
 驚いた顔をして浜田が訊いた。睦子は仕方ないといった態で、
「本当です」と答えた。
「そうだったんだ。何度も訪ねてくるから、ラブラブだと思ってたのに」
 浜田の言葉に、睦子は軽く笑った。
 ラブラブだった時なんて、一度も無いのに。
「だけど、京子ちゃん」
 睦子は京子を睨みつけた。
「何で、そういう事をみんなの前で言うかな」
 睨みつけている睦子の視線を何でも無いような顔で受け止めて、
京子はオレンジジュースを飲み干した。そのコップをトンと
テーブルの上に置くと、「いいじゃん、別に」と、笑顔で言う。
「本当の事じゃん。それとも、まだ付き合ってるとかって、
嘘つくつもりだったの?」
 全く悪びれた様子も無く言う京子を見て、睦子は溜息を吐いた。
「別に、嘘をつくつもりはないけどさぁ」
と、睦子が言ったら、その後を継ぐように「そうだよ」と
河嶋が口を挟んだ。
「幾ら本当の事だからって、他人が口にする事じゃないだろ?
お前、出しゃばりなんだよ」
 今日は初めて意見が合ったと、睦子は思った。互いに被害者、
と言えるのだろうか。
 京子は河嶋の言葉に、ムッとした顔をした。
「そうは言うけど、あたしが言わなかったら、恩田さんは
友田さんに誘われてたかもよー」
「そん時は、俺がはっきり言うよ。お前に言われ無くたってな」
 そんな河嶋を、まぁまぁ、と言って和子がなだめた。
「もう、やめなさいよ。折角のお酒がまずくなるじゃない。
石川さんも、これからは、あまり人の事をあれこれ言わないようにね。
こうやってトラブルの元になるんだから」
 浜田が間を取り持つように言った。
「はーい」と京子は言うと、「リンゴジュースのおかわりくださーい」と、
女将に声をかけた。
 また、場の雰囲気が気まずくなってしまった。それをさすがに
悪いと感じたのか、京子が、「ごめんなさーい。もう、口を慎みます」
 と言って、頭を下げた。
 そんな京子に「気にしなくていいよ」と、和子が笑顔で言う。
「さすが、恩田さん。優しいよねぇー」との言葉に、
「いい気になるなよ」
 と、河嶋が睨むように言った。
「もう、いいじゃん。勝手に言われたのは嬉しくないけど、
まぁ、知られて困る事じゃないんだし」
 睦子はそう言って、まだ半分も減っていないサワーに口を付けた。
 睦子はアルコールに弱い。ビール、日本酒、ワインは苦手である。
サワーやカクテルは口当たりが良いから飲めるが、少量で酔うので、
少しずつ時間をかけて飲む。だから、みんなが二杯目を注文する頃に
なっても、まだ一杯目を半分も飲めないでいるのだった。
 「むっちゃん、ありがとう」
 グラスを置いた睦子の腕に、京子が絡みついて来た。全く
調子がいい。調子にのるなよ、と言いたくなってくる。
 「なんで石川さんはアユちゃんの事を“むっちゃん”って
呼んでるの?」
 結城が突然、訊ねて来た。
 それまでは、場のやり取りを黙って聞いているだけで、
存在感が薄かったので、急な質問に睦子は驚いた。
 「だってあたし、新入社員だし、むっちゃんは年上だし、
気安くアユちゃんなんて呼べないもん」
 京子の答えに、結城は目が点と言った様子で唖然とした表情に
なった。その顔をみて、睦子は思わず、クスッと笑った。
京子の答えじゃ、目が点になるのも、無理は無い。
 京子は、3月の終わり頃に研修期間も含めて早期入社した。
 入社した頃は、睦子の事を「鮎川さん」と名字にさん付けで呼んでいた。
 初日の休み時間が睦子と一緒だった事もあり、一番最初に親しくなった。
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