ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・Bye by Blue<完>
1.はじまり


Bye by Blue 1.はじまり 04

2010.05.20  *Edit 

 エスカレーターが4階に着いたので、睦子と京子は結城と別れて
一端ロッカー室へ入った。私物を置いて鍵を掛け、売り場へ入ると
既に店は混雑の様相だ。睦子はこの時間帯、レジの当番なので
レジへ入り、佐々木と交代した。佐々木はこれから浜田と共に
昼休みである。
 レジはまだ比較的空いているが、台の方を見ると客が並んでいる。
混み具合を見て、他の仕事をしている従業員が他の空いている台で
切りだすが、切る量が多くなると今度はその全ての客がレジに
集中するので、一つしか無いレジはてんやわんやとなる。
「こんちわ~」
 陽気な声に顔を上げると、取引のある問屋のバイヤー、友田だった。
「あ、こんにちは」
 睦子は客にお釣りと品物を手渡しながら笑顔を向けた。
 友田は周囲を見渡しながら、「主任は?」と言った。
「主任は食事に行ったところですよ」
「そっか。今日は3便だったか。じゃぁ、向こうで切ってるわ」
 友田はそう言うと、空いている台の方へ向かった。
 助かった。今日はいつもよりも混み出すのが早いようなので、
いてくれると有難い。
 時々こうやって、問屋の人間が応援にやってくる。
「アユちゃん・・・」
 レジの背後で見本生地に付ける値札を書いていた恩田和子が声を
掛けて来た。
「友田さんが来たって事は、今日、飲みに行くのかな?」
 ニンマリとしている。
 問屋の人間が応援に来ると、主任は感謝と友好も兼ねて飲みに
行く事が多い。そしてよく、売り場の者達も連れて行ってくれる。
勿論会計は主任持ちだ。和子はそれを期待している表情だ。
「そうだといいよね」
 睦子も笑って答える。勿論、期待している。
 ねー、ねー、と目の前を反物を持って通り過ぎようとしている
結城に和子が声を掛けた。結城は驚いた顔をして睦子の方を見たが、
睦子は背後の和子の方を顎で指した。
「おおっ!そんな所に・・・」
 と、結城は驚きながら笑顔になる。
「友田さんが来たけど、今日、行くと思う?」
「うーん、どうなんだろうねぇ」
 和子の問いかけに結城は首を捻った。睦子はレジの方が忙しく
なってきたので、そんな二人の会話を聞いているだけだった。
「結城さん、主任が戻ってきたらそれとなく偵察してみてよ」
「いいけど、河嶋さんの方がいいんじゃないの?」
 河嶋とは、この春、副主任になった若い男子社員である。
彼もちょうど今の時間帯、昼休みのようだった。
「河嶋さんと二人でさ。それとなく、飲みに行くような雰囲気へ
持ってくとか・・・」
 睦子は和子の言葉を聞きながら、内心笑っていた。そんなに
飲みに行きたいのか。確かにただで飲めるんだから、
これほど嬉しいことは無いだろうけれど。
 恩田和子は睦子より2歳年下の二十歳で、大きな二重瞼の
眠そうな顔をした可愛い女の子だ。おっとりしていて、ちょっと
天然ボケの所がある。高校卒業と同時に入社してきたので、
睦子にとっては先輩になる。
「わかった。努力してみる」
 結城はそう言って笑うと、二人に向かってウィンクをした。
睦子は唖然とした。結城はそのまま素知らぬ風で反物を
片づける為にその場を立ち去った。
「何今の。見た?」
睦子が和子を振り向くと、和子は笑っていた。
「見たよ~。なんか、結城さんらしいよね」
 結城の行動に、和子は特に驚きはしなかったようだ。確かに
彼女の言う通り、彼らしいと言えば彼らしいのだが、あんな事を
されたのは初めてだ。
 こういう職場は、従業員の男女の比率が著しく偏っている。
女性が圧倒的に多く、男性は少ない。だから、男性従業員は
人気がある。ルックスがちょっとでも良ければ、物凄い人気である。
そして、服地売り場の河嶋と結城は、社内でトップの人気なのである。
 河嶋は睦子と同じ22歳で、スラッとした痩せ形で色が白く、
顎の細い、整った目鼻立ちに少年のような翳りを少しだけ
漂わせたイケメンだった。
 結城はそれとは対照的で、小麦色に焼けた肌、栗色の髪、
色素の薄い瞳、しっかりした顎の線に太めの首、そして背が高くて
逞しい体付き。こちらも整った目鼻立ちでイケメンだ。スポーツ
マンタイプの、男臭い男と言えた。24歳だと言う。
 そして、河嶋は少し神経質な部分があり、また気分に若干ムラが
あって、それが態度に出るタイプなのだが、結城は誰に対しても
愛想が良い。八重歯が尖っていて、笑うとその八重歯がニョッキリと
顔を出し、相手の笑いを誘う。また、日に焼けている為、白い歯が
目立ち、爽やかな印象だ。結城に笑顔を向けられると、普段お堅い
浜田や年配の佐々木まで顔を染めるのである。
 そういう男だから、ウィンクの一つや二つ、当たり前なのかも
しれない。特別な意味も無く、ああいう事が自然とできる男なのに
違いない。驚いた自分が馬鹿だった。
 売り場はやがて、いつものように混雑の様相を示しだした。
昼休みから帰って来た弓田主任と応援の友田の二人が、凄い勢いで
生地を切っているので、今度はレジが大混雑だった。こういう時、
大混雑ではあってもレジ担当で良かったと思う。
 主任と応援バイヤーは切るのが手早い。だから切る方専門に
回っている。そうなると、女子従業員は片付け専門に回る事になる。
重労働だ。本当なら片づける仕事こそ、力のある男性にやって
貰いたいのだが、矢張り早く切る方がどうしても優先になってしまう。
 睦子は忙しくレジ仕事をしながら、目の端に映る京子達の姿に
(ごめんね・・・)と思いつつも、安堵している自分を感じた。
でも仕方あるまい。今日はたまたま、そういうめぐり合わせだったと
言うだけだ。別の日には逆転している。
 一通りお客が捌けて、少し手すきになった頃、
「お~い!今日は飲みに行くぞぉ~」と、主任が声を張り上げた。
その声を聞いて、みんな狂喜する。
「俺もいいんでしょうかね?」
夕方から来ている、学生アルバイトの工藤浩一が訊いて来た。
「いいんじゃない?大丈夫だよ、ついてきちゃえば」と、
和子が言った。睦子もそう思う。ついてきてしまえば、
追い返す事はしないだろう。
 それからの売り場は、俄かに浮足立った。みんな明るい顔を
して仕事をしている。特に閉店後の後片付けの時に顕著に表れた。
いつもよりもテキパキとこなして、一分一秒でも早く終わらそうと
言うのが目に見えていた。
 全ての仕事が終わり、全員が店の外へ出た時、時刻は7時を少し
回ったところだった。いつもよりも遥かに早い時間だ。
 外はムシムシしていた。まだ梅雨時だ。今日は一日、雨は降らな
かったようだが、妙に蒸し暑い。「こんな日はビールが最高だよね」と、
和子が笑って言った。彼女は眠そうな顔をして、どちらかと言うと
アルコールが強そうには見えないのだが、ここにいる女性従業員の
中では一番強かった。
 纏わり付くような空気の中を、一同は主任と友田を先頭に、
行きつけの店へと歩き出した。
 友田主任が飲む時は、駅の裏の方にある、小粋な女将が
やっている小料理へ皆を連れて行く。若い者たちが普段飲む時は、
大抵、チェーン店の居酒屋なので、こういう小料理屋は敷居が高い。
だが、暖かい雰囲気にはみんな惹かれるものがあって、だから
主任に連れて行って貰えるのを喜んでいる。
 総勢10名である。この人数だけで店はほぼ満席になる。
行く時は平日が多いので、店の方では大歓迎である。
 それにしても、主任は太っ腹だと思う。頻繁に行くわけではない。
頻度からすると月に1回程度か。それでも、みんなの分まで奢ると
言うのだから、これだけの人数だけに相当な金額になるに違いない。
 おまけに普段でも、棚卸の時や、忙しくて多くの人間が残業を
している時などに、みんなの夕飯を、近くのファーストフード店から
主任持ちで買ってきてくれたりするのだった。
 独身ではない。確か、小さな子供が一人いると聞いている。
大丈夫なのだろうか?
「こんばんはぁ~」
と、声を掛けながら主任が中へ入ると、中から「いらっしゃーい」と
明るい声が聞こえて来た。
 女将は五十がらみの小柄な女性だ。化粧が少し濃いが気さくな
雰囲気で馴染みやすい。
 カウンターには大皿に盛られた料理がいくつも並べられていて、
どれも美味しそうだった。煮物、焼き物、揚げ物と、バラエティに
富んでいる。
 主任と友田はカウンターに座り、他の皆は思い思いに席についた。
狭い店なので、テーブルが違っても遠い感じがしない。
「鮎川さんは何飲む?」
 目の前に座っている浜田雪子に聞かれた。
「浜田さんは?」
「あたし、どうしようかしら・・・」
 メニューを見て悩んでいる。
 居酒屋チェーン店と違って、飲み物の種類は多くない。悩む程
無いのだが、少なければ少ないなりに、また悩む。
「まずビールだよ!ビール!」
と、河嶋祐一が言った。
 ここへ来ると、いつも彼はそう言う。
 主任や友田はいつも焼酎を飲む。だが若い男達はビールの方が
好きなようだ。結城もバイトの工藤も、そろってビールに賛同した。
 睦子は眉をひそめる。彼女はビールが苦手である。ひと口、
ふた口くらいしか飲めない。
「ごめん。あたしはビールはパス。レモンサワーにしてくれないかな」
 睦子の言葉に、「またかよ」と、河嶋は口を尖らせた。
「いいじゃない。ビール、好きじゃないんだから」
「まったく、アユちゃんは、そういう所が協調性無いよな。
こういう時は、最初はビールって決まってんだよ」
 むかついた。一体誰がそんな事を決めたのか。
「まぁ、いいじゃないか。俺達だって焼酎だし、京子ちゃんは
未成年だからジュースなんだし・・・」
 少し険悪な雰囲気になったのを感じたのか、主任が間を取り持った。
 だが、今に始まった事じゃない。毎度毎度、こうなのである。
だから余計に腹が立つ。
 副主任と言う立場なんだから、もう少し職場の人間関係が円滑に
いくように気を使っても良いのではないか。どうしてこう、
いちいち波風が立つような事を言うのだろう。

blogram投票ボタン


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。