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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第5章 古都 第2回

2010.02.26  *Edit 

 翌朝、ホームルームで増山を見た時、再び胸が痛んだ。何故
こんなに痛むのか。教師なんて元々遠い存在ではないか。先生も罪な人だ。
彼女がいるならいるで、最初からそう言えばいいのに。そうすれば、
みんな夢中にはならなかっただろう。ファンクラブだって
できなかったかもしれない。騒がれるのを迷惑そうにしていながら、
恋人がいることを隠しているなんて。
 瞼の裏に二人の姿が焼き付いて離れない。救いなのは、増山が
笑っていなかったことだ。
 美声での出欠が始まった。女子はみんなウットリしている。
出欠の後、今日のロングホームルームで修学旅行のグループ作りを
するので、各自話し合っておく事と言われた。男子のみ、女子のみ、
男女混合、好きなようで構わないが、最低でも4,5人以上のグループに
なるように、との事だった。そして、礼をした後、耕介と理子が呼ばれた。
 何の用だろう。二学期に入って以来、こうやって二人して呼びつけ
られることが多かった。その度に理子の胸は高鳴った。クラスの
用事を耕介と一緒に言いつかるだけなのに。
 増山は廊下で待っていた。


 「今日のグループ作りの事なんだが・・・」
 今回のグループは生徒の好きなように任せる事になったが、そのせいで、
どのグループにも入れないで孤立する生徒が出るのではないか、との
危惧だった。理子が見たところでは、そういう生徒はいなさそうに
思えたので、そう言った。
 「それならいいんだが。それで、一応、お前ら二人、クラス委員として
根回しと言うか、その辺に気を配って事前に調整しておいてくれないか」
 増山の話しはそれだけだった。
 「そうそう。修学旅行のグループだけど、枝本から聞いてるかぁ?」
 と耕介が話しかけてきた。
 「うん、聞いた。耕介も一緒だってね。よろしくね」
 「いいのか?一緒でも」
 意外な事を言う。
 「なんで?いけない理由が無いじゃん」
 「そうだけど、やっぱり女子は女子同士の方がいいのかと思って」
 「うーん、そんなことないよ。それに、今回は歴史的にも興味の多い街へ
行くじゃない。何かと話しが弾みそうなメンバーじゃない?」
 「そう言ってくれると有難い」
 何故か耕介は赤くなっていた。

 昼休み、昼食の後に枝本は職員室へと向かった。歴研創部の
申請書を増山の所へ持っていく為だ。
 職員室へ入ると、増山の周辺には何人もの女子がたむろしていた。
 いつもこんな風に女子に囲まれているのだろうか。そうだとしたら、
それはそれで大変そうだ。
 「先生、ちょっといいですか?」
 と枝本は増山を囲む女子の輪の外から声をかけた。
 「ああ」
 増山はそう言うと、取り巻きの女子達を追い払うように手を
振った。女子達はブーイングしながら去って行ったが、職員室の
入口でたむろしている。
 「いっつも、こうなんですか?」
 「そうなんだ。鬱陶しくてしょうがない」
 本当に嫌そうな表情だった。
 「ところで、何だ?」
 「実は、歴史研究会の部を作りたいと思いまして」
 「歴史研究会?今さらか」
 何故か理子と同じ事を言う。
 「今さらって・・・」
 「今さらだろう。もう2年も半分しかない。半年後には3年になって、
受験勉強も厳しさを増す。そんな事をしてる暇があるのか?」
 真っ当な考えなのかもしれない。普通は誰でもそう思うのだろう。
 「だからこそ、じゃないですか。好きな歴史について、仲間と
語り合う。その充実した時間を持つことで、学生生活ももっと
張り合いが出ると思うんですよ」
 「お前の言いたい事もわからないではないが」
 「それで、先生に是非顧問をお願いしたいんです」
 「俺にか」
 増山は驚いた。
 「吹奏楽部の顧問をされてる事は知ってます。掛け持ちで大変だとは
思いますが、先生しかいないんですよ」
 枝本の言葉を聞いて、増山は溜息を吐いた。
 「歴史なら、世界史の永島先生もいるじゃないか」
 「あの先生ではダメです。みんなが納得しません」
 「みんなって」
 増山にそう言われて、名簿を渡した。15人の名前がそこにあった。
 「随分、いるんだな」
 「部に必要な、15人を集めました。だから、お願いします。
みんな増山先生じゃないと嫌だって言うんですよ」
 増山は微かに笑うと、「口が上手いな」と言って、暫く考えていた。
 「そうまで言うなら、一応、引き受けるかな。校長へは俺が承認して
申請しておくよ。もう、来週が修学旅行だから、結果が出るのは
それが終わってからになると思う」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
 枝本はお辞儀をした。
 「ところで先生」
 「なんだ?」
 「昨日、横浜にいましたよね」
 枝本の言葉に、増山はひどく驚いた顔をした。
 「なんで知ってる?」
 「見たんですよ、横浜で。女の人と一緒でした。腕組んで」
 「そうか。お前も来ていたのか」
 「はい。理子も一緒に」
 「理子?」
 「吉住さんです」
 増山は大きな溜息をついた。
 「他の誰かに喋ったか?」
 「いいえ」
 「じゃぁ、頼むから他言しないでくれ。お前らの事だから、
喋らないとは思うが」
 「どうしてです?あんな風に付きまとわれて迷惑してるなら、
いっそ言った方が、ああいうの減ると思うんだけどな~」
 「なるほど。そういう考えもあるな。だが、知ったら知ったで、
また煩く詮索してくるに決まっている」
 「そういうもんですか?」
 「そういうもんだ。もう、子供の時からだから慣れてる。
冷たくして放っておくに限る」
 そうか。なるほど。確かにこのルックスじゃ、ずっと
モテ続けてきたのだろう。
 枝本は一礼すると、職員室を後にした。枝本が出るのと同時に、
女子達が再び増山を取り巻いた。
 本当に、あれじゃぁ、大変だ。
 自分の教室へ戻った枝本は、職員室での事を理子に話した。
 「誰にも言わないでくれって言ってた」
 「ふぅ~ん」
 理子の反応は素っ気ない。まるで興味が無いようだ。
 「それより、歴研できるといいよね」
 そう言って笑った。その顔が可愛かった。
 その笑顔を見て、昨日の事を思い出す。楽しかった。だが、手を
繋げなかったことだけは残念だった。こういう時の女の子の心境が
わからない。枝本は昨日帰宅してから、最上ゆきに電話をして、
意見を求めたのだった。
 「ああ見えて理子ちゃんって、結構、恥ずかしがり屋だから」
 とゆきは言った。
 ゆきが言うには、前の3年の彼と付き合っている時も、熱々な
雰囲気じゃなかったし、どうも理子は淡泊らしい。手も一度も繋がずに
終わったと言う。それを聞いて、枝本は不思議な感じがした。昔、理子と
初めて外で会った時、握手したことを思い出したからだ。
 あの時は確か、枝本の方から手を出して、理子が応じた形だった。
理子が顔を赤くしていたのを思いだす。とても嫌そうには見えなかった。
握手とはまた違うものなのか。
 案外、「手を繋いでもいい?」なんて聞いたからダメだったのかも
しれない。自然な感じで繋いでしまえば良かったのだ。そうしたら、
理子も拒まなかっただろう。失敗したと反省した。
 修学旅行、この時に何とかもう少し、仲を進展させたいと枝本は思うのだった。

 修学旅行の日。朝、8:00に新横浜に集合だった。
 理子は駅で最寄駅が同じである、枝本、小泉、ゆき、美輝と待ち合わせた。
駅には朝霧の生徒が大勢いた。みんな興奮している。
 新横浜に着くと既に教師達は来ていて、出席簿をチェックしている。
増山は背が高いし、存在感があるので、何処に居るのかすぐにわかった。
その姿を確認しただけで、ドキドキした。各自、自己申告した後、自分の
クラスに並ぶ事になっている。理子達は、増山の所へ行き、申告した。
 「ああ、吉住は残って出席の手伝いをしてくれ」
 増山は名簿へ目を落としたまま、そう言った。
 「わかりました」
 夏以来、事務的なやり取りばかりだ。文化祭の後のあのメールには
ドキっとしたけれど。
 もうずっと、「吉住」としか呼ばれていない。
 理子自身、二人きりになるのを避けているのだから、当たり前なのだが、
それを寂しいと思う自分がいた。矛盾している。でも、仕方ないじゃないか。
恋人だっている人なのに。
 枝本の時のように、彼女がいても好きである事はやめられない、なんて
わけにはいかない。住む世界が違いすぎる。どんなに思ったところで
交わる事は無い。
 ただ見ているだけで幸せでいられるのなら、それでもいい。だが、
きっと、幸せよりも辛いだろう。今だって、胸が苦しいのだから。
 私は馬鹿だ。
 先生を好きになるなんて。
 最早(もはや)理子は自分の気持ちを自覚していた。先週の振替休日の日、
先生と彼女が腕を絡めている姿を見た時に、悟ったのだ。胸が潰れる
思いだった。そうして、今もこうしてそばにいるだけで心が震えてくる。
 次々と生徒達がやってきては、自己申告していく。
 耕介がやってきた。
 「おそーい」
 委員なんだから、こうして手伝わされるのは予測できたろうに。
それとも、わかってるからわざとゆっくり来たのか?
 「悪い、悪い、寝坊しちまって・・・」
 と、頭を掻いた。
 「しょうもないなぁ」
 「耕介はクラスの連中をきっちり整列させてくれないか。
申告だけして、ちゃんと並ばない奴がいるみたいだから。それと、
申告忘れがいないかも確認してくれ」
 と、増山が言った。
 先生も大変だ。新卒だから初めての経験だろう。少々、
荷が重いのではないか。
 出席の手伝いと言っても、あまりやる事がない。
 理子は増山のそばに立っているだけだった。何をどうしたら
良いのか、今ひとつわからないし、増山からも支持が無い。
手持無沙汰で、居たたまれない気がしてきた。
 「先生、おはよー!」
 と、きゃぴきゃぴした女子の一団がやってきた。
 「名前を言え、名前を」
 と増山は無愛想に返す。
 「先生ったら、相変わらずイケズー」
 と、甘えた声を出す。
 うわー、キモ。キャバ嬢みたい・・・。
 増山がこういうのを最も嫌っている事を、いい加減、悟れば
いいのにといつも思う。中には悟った女子もいる。増山は、媚を
売る人間を嫌う。逆に真面目で一生懸命頑張っている人間を評価している。
だから、好かれたかったら勉強なり頑張る事だ。それを悟って、
勉強に力を入れだした女子も増えてきたが、まだ、こういう
脳天気なのがいるのだった。
 「しょうがない。吉住、こいつらの名前を言ってくれ」
 増山は出席簿を見たまま言った。先生も徹底している。
 理子は彼女らと目を合わせた。
 「ほらー、あんた達がいつまでも言わないからー」
 理子は自分で言うように促した。
 「先生って、ほんと意地悪よねー」
 と、一人が不満げに言った。
 「そんなの、わかってるじゃん。いいから名前を言いなよー」
 理子に言われて、仕方なく、無愛想に名前を言うのだった。
 彼女らがブーブー言いながら列の方へ行くのを見送った後、
理子は増山に、
 「先生、お願いだから私に振らないで下さい。あんな事でも、
下手すると私がとばっちりを受けかねないんですから」
 と言った。
 「わかった。すまなかった。だけど、お前も俺を意地悪だと
思ってるのか?」
 こんな時に、なんでそんな事を聞いてくる。しかも視線は
名簿の上だ。なんだか妙に腹が立った。
 「思ってたら、どうなんです?」
 そう理子が言ったところで、再びクラスの人間がやってきた。
どうやら、これで最後みたいだ。
 「よし、じゃぁ悪いが、耕介の所へ行って確認してきてくれないか?」
 理子はそれに従った。解放されてホッとする。息がつまりそうだった。
 6組の場所へ行くと、それなりに列ができていて、先頭に耕介がいた。
 「おお、理子。終わったのか」
 「最終確認をしてくれだって」
 二人で確認して、しっかりチェックできたので、理子は耕介に
報告に行ってくれるよう頼んだ。なんだかもう、行きたくなかったのだ。
また変なことでも聞かれたら受け答えに窮する。
 先生の言動にいちいち自分も反応してしまう。先生の言動の意図が
わからない。意味不明な事ばかりだ。理子はそれにいちいち動揺し
振り回されてしまうのが嫌だった。
 全員揃ったクラスから新幹線に乗り込んだ。
 座席はグループ単位だったが、理子達のグループは7人だったので、
女子は右側の3人席に、男子は通路を挟んで隣の2人席を向き合わせに
して座った。理子と耕介はいつ用事を言いつけられるかわからないので、
通路側に座った。
 道中は長いが、中学生の時のように、車中でレクリエーションなどは
なかった。岡山へは凡そ四時間で到着する。そこから山陽本線で
倉敷まで行く。約10分強と、岡山からは近い。
 其々が座席に落ち着いた頃、あちこちで記念撮影が始まり、
理子達のグループもみんなで写真を撮った。
 列車が動き出して30分もした頃、茂木に声を掛けられた。
 「理子、良かったら小泉と席を代わってやってくれない?」
 理子の隣にはゆきが座っていた。
 いいよ、と頷いて席を立った。小泉は窓側に座っていたので、
茂木が立って小泉を出し、茂木が窓側に座り、理子はその隣に座った。
目の前が耕介で左前が枝本である。なんだか男子の中で一人って
いうのも変な気分だ。
 「いいねぇ~、女の子が一人いるだけで、雰囲気が違うよ」
 と、茂木が言った。
 「私なんかで良かったのかな?」
 「何をおっしゃる、理子姫」
 茂木の言葉に仰天した。
 「理子姫ぇ~?」
 枝本は笑っていた。
 「こいつさぁー」
 と、耕介が続けた。
 新しくできる歴研に、女子は3人しかない。理子とゆきと美輝なのだが、
その3人を、歴研の三姫と呼ぼうと勝手に茂木が決めたらしい。
 「何それー?やめてよ、恥ずかしいじゃない」
 理子は赤面した。
 「まぁ、いいじゃない。歴研の仲間内だけだし。男ばっかで
潤いも楽しみもないからね。余興だと思って」
 と、枝本が笑って言った。
 余興って。それでも恥ずかしい事には変わりはない。
 大体、姫なんてガラじゃない。中学の時には言葉づかいが悪くて
男みたいだったから、男おんなと言われたりしていたくらいなのに。
 こいつらは、そんな私を知らないから姫なんて言うんだ。枝本だって、
そんな理子を知らない。理子が男おんなと呼ばれる程、男の子みたいに
なったのは彼がいなくなってからだから。
 「だけど、今度の修学旅行は楽しみだな。中学の時に京都は行ってるから
かぶるけど、それでも見どころ満載だもんな」
 憤慨している理子を置いて、話しが別方向へと進んだ。
 「理子はやっぱり、壬生だろ」
 言われて頷く。新撰組の屯所が有った所である。
 「まぁね。あと、幕末とは関係ないけど、三間堂も興味ある」
 京都も御所を始めとして、見どころ満載だ。本当は奈良もじっくり
見たかった。中学の修学旅行では奈良は法隆寺を見たくらいだった。
聖徳太子好きな理子は再び法隆寺を見たいと思っているし、
また飛鳥地方もじっくりと見学したかったのだ。
 でも今回の最大の見どころは、矢張り姫路城だろう。白鷺城とも
呼ばれる、白亜の美しい城郭は素晴らしい。理子は、趣味で姫路城の
プラモデルを完成させて部屋に飾ってある。それほど好きだった。

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