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小説・Bye by Blue<完>
1.はじまり


Bye by Blue 1.はじまり 02

2010.05.18  *Edit 

 翌日、実際にその売り場で働いてみて驚愕した。
信じられない程の盛況ぶりだったからだ。睦子は知らなかったのだ。
ここの生地は種類が豊富な上に価格が驚く程安い為、
周辺から多くの客がやってくると言う事を。
 おまけに、周辺には幾つもの高校があって、そこの生徒達が
行事の度に安い布を大量に買いに来るのである。
 勤めだした初日、最初は生地を切る練習をさせられた。職場で
使っているのはステンレス製のよく切れる裁ちバサミだった。
ジョキジョキと丁寧に切っていては間に合わない程の客数なので、
布目に沿って、スーッと動かして切るやり方を教えられ、曲がらず
真っすぐ切れるよう、何度も練習した。だが客足がどんどん
増えて来て、そんな練習をしている時間も無くなり、切り終わった
反物の片づけをさせられた。
 安いから、一人の客が幾つもの反物を抱えて並んで待っている。
台では従業員が客の言う長さに布を次々と切っては畳み、
メーター数と金額を書いた伝票と一緒に渡して行く。客は長蛇の
列なので、片づける間もなく次々と切って行く為、台の上は
切り終わった反物がどんどん増えていくのだ。
 睦子は、その積まれた反物を所定の位置へ戻すよう指示された。
まだ来たばかりだから、どの反物がどの場所なのかわからないまま、
必死で片づけた。
 従業員は他に何人もいて、その時の状況に応じて、片づける方に
回ったり、切る方に回ったりするが、並んでいる客が多いと、
他の空いている台で切り始める。そうすると、片づける人間が減り、
台の上は反物の山と化して行くのである。
 今日の午前中もそんな感じだった。
 大体、波があって、開店30分後から混みだし、昼にかけてが
ピークである。午後1時を過ぎる頃に、この波は一端引ける。
それから3時くらい迄はゆったりしているので、その間に売り場の
整理整頓や品出しなどをする。夕方になると、また客足が増えて来て、
午後5時前後に再びピークがやってくる。
 ここへ勤め出して9カ月経ったが、毎日こんな調子である。
睦子には、服地売り場がどうしてこんなに混むのか未だに
理解できない。初日は忙しさに驚き、また目の回るような忙しさ故に
一日があっと言う間に過ぎ、ヘトヘトになって帰宅した。
体が馴れるのに1週間かかった。元々メンズ売り場で
働いていたから立ち仕事には慣れていたが、物凄い疲労度だ。
どう考えても重労働である。
 だからなのか。続かない人間が多いようだ。睦子が入社してからの
半年の間に、3人もの人間が入ってきては辞めた。他の売り場と
給料は変わらない。だから服地売り場に配属された人間は不満に
思うのだろう。睦子も同じように思う。
こんな重労働だとは思わなかった。
「洵ちゃんに、可哀想って言われたんだよ。同じ条件で入ったのに」
 と京子は言った。
「洵ちゃん」とは、京子と同期の木村洵子の事である。
彼女は1階のレディース売り場に配属されている。
「まぁね。そう思うのも当然だよ。下じゃ、普通に品出しして、
服を畳んで売ってるだけだもん。私達みたいに、重たいものを
一日中運ぶなんて事無いからね」
 反物は重い。
 暇な売り場なら、大した事は無いだろう。移動距離が他の
売り場より長いくらいだと思う。だが、ここの服地は、
安い為にお客さんが一人で幾つもの反物を抱えて持って来る。
アッと言う間に台は一杯になってしまう。だから、1つずつ
片づけていたのでは埒が明かない。
 一人で幾つもの反物を抱えて元の場所まで持って行かねば
ならない。そして、それが何往復も繰り返されるのである。
しかも、安い反物ほど、巻きが長くて太いので重たいのである。
1メートル100円の反物は長くて太いロール状になっていて、
これを多くの人が何本も抱えて持って来る。
 帆布なんかは、地厚、巻き太で物凄く重い。重くて棚から
出せないお客に頼まれて、渾身の力を込めて引きぬく事もある。
5キロの米袋とタメを張るのでは無いか。
 今は馴れたが、最初の頃は、5メートル、10メートルと
お客に言われて仰天したものである。布なんて、手芸用なら僅かだし、
スカートやブラウスを作るにしたって、そんなに長くは必要ない。
一体、何に使うのだろうと思うばかりである。1メーター物差しで
10メーター計って切った後、一体こんな長いのを、どうやって
畳んだらいいのだろうと途方に暮れていたら、お客さんが
教えてくれた。屏風畳みである。屏風のように畳んで行くのである。
 新人で、忙し過ぎて先輩達から教わる前の事だった。
忙し過ぎて教えてる時間すら無かったのだ。だが、これだけ
長いと屏風畳みでも畳むのは大変だし、しかも重いので腕や
肩は凝るし、何と言っても一日中重たい物を運ぶので腰に来るのだった。
「うちの売り場だけ、特別手当とかあれば良いのにね。
そうすれば、少しは離職率下がるかもって気がしない?」
 京子がご飯を口の中でモゴモゴさせながら言った。
「無いよりはあった方がまだね。でも、かなり貰わないと、
割に合わない気がするけどね」
 睦子はそう言ったが、何も付かない今の状況でも、浜田と
佐々木は長くここに勤めている。佐々木などはもう50歳なだけに、
足腰は大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
 食事の後、二人は外へ出た。近くのファーストフード店に入って
コーヒーを飲みながらお喋りする。社員食堂でも出来るが、
個人的なお喋りを楽しむ時はみんな外へ出るのである。
天気が悪い時はロッカーだったりする。
「むっちゃんって、胸が大きくて気持ちいいよね~」
 と、京子が腕を絡めてベッタリ体を密着させてきた。京子の
胸は小さめだ。全体的に骨っぽい体付きである。だが、その
小さい胸は結構、柔らかい。何故そんな事を知っているのかと
言えば、京子が睦子の手を取って触らせた事があるからである。
「京子ちゃんの、えっち」
 と、睦子は笑いながら言った。
「だってぇ~。あたし、むっちゃんの事が好きなんだもん。
勿論、彼の次だけど。むっちゃんになら、えっちな事をされても
いいかな~って思ってるんだよ」
 頬を染めてそんな事を言う。
「なんで、あたしが京子ちゃんにえっちな事をしないといけないのよ」
「ええ~?あたしの事、嫌い~?」
 と、甘えて更にすり寄ってくるのだった。だが睦子は、
そんな彼女が好きである。可愛いと思うのだった。
 ファーストフード店に到着し、飲み物を買って2階の窓際の席へ
並んで座った。そこでも京子は体を寄せて来る。
「むっちゃん、彼氏とどうなったの?」
 アイスティーのストローを口に含みながら、京子が言った。
「うん。この間、別れたばっかり」
 平然と言う睦子に京子は驚いた。
「えー?なんでぇ?」
「なんでって言われてもねぇ。元々成り行きで付き合ってたような
ものだし。一緒に居ても楽しく無いって言われたんだよね、彼に。
それは私も感じてたからさ」
 睦子は、大学の時に同じクラスだった富樫と言う男と
付き合っていた。付き合い出したのは大学をやめてからである。
 睦子は2年の前期で大学をやめた。
 その後、職が定まらず、遊んでいる訳にもいかないので
アルバイトの連続だった。バイトをしながら求人誌や求人広告を
見ては面接へ行くのだが、決まらない。新卒でもなかなか
就職できないご時世だけに、中退者には更に厳しかった。
 富樫と再会したのは、面接に言って断られた帰りだった。
面接先が、たまたま富樫の家の近くだった為、駅でばったり
会ったのである。
 大学へ通っている時、睦子は別の男子と付き合っていた。だが、
富樫のどことなく大人っぽい雰囲気に憧れていて、在学中、
富樫の家へ遊びに行った事もある。富樫は2浪していたので、
2歳年上だったから大人っぽいと感じたのも当たり前だったのかもしれない。
 睦子は大学へ入学してすぐに、隣の席の男子と意気投合して
交際を始めるようになったのだが、後から富樫に心惹かれるように
なった。睦子は彼氏と数カ月後には別れたが、富樫の方は母校の
文化祭へ行った際に、4歳下の女子高生と付き合うように
なったので、結局、睦子は富樫とは友人のままで終わった。
 再会した時、富樫は例の女子高生とは終わっていた。
二人は近くのファミレスで食事をしながら近況を語り合い、
その日、富樫は車で睦子を家まで送ってくれた。そして、
別れ際にキスをしてきたのである。それから二人の交際が始まった。
「何それー。一緒にいても楽しく無いって酷いじゃん」
 京子は憤慨しながらストローでアイスティーの氷をガシガシした。
 先週の事である。
 富樫はいつものように睦子を車で家まで送り、
別れ際に言ったのである。
「俺達、もう逢うの止めない?俺、悪いけどお前と居ても
楽しく無いんだよな」
 ショックだった。だが、そんな気持ちは隠して、
「わかった。じゃぁ」と言って車を降りたのだった。
互いに、「今までありがとう」とかの言葉も無く、それきりだ。
 睦子は自分の部屋へ入ってドアを閉めた時、涙が急に込み上げて
来て、堪え切れずに泣いた。大粒の涙が次々に溢れて来る。
特別好きだったわけじゃない。在学中は憧れていたが、
実際に付き合ってみると、特にどうと言う事も無かった。
一緒に居て楽しく無いって富樫が感じていたように、
睦子も同じように感じていた。
 それでも、呼び出せば大抵はすぐに来てくれるし、
頻繁にメールや電話のやり取りはするし、ドライブ中心の
デートではあるが必ず家まで送ってくれる。ラブな雰囲気では
無い不思議な関係ではあったが、こんな風に終わるとは
思っていなかった。
 多分、どちらかに好きな人ができた時にサヨナラするんだろうと、
漠然とだが思っていた。一緒に居て楽しく無いからと言って、
はっきりそう言うなんて。別れるにしたって、もっと別の言い方が
あっても良かったんじゃないか。同じように思ってはいても、
はっきりそう言われると矢張り傷つく。これが、睦子の方から
同じように言って別れを切り出したのだとしたら、
富樫は憤慨しないのだろうか。
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