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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部 第24章(最終章) 旅立ち 第3回

2010.05.14  *Edit 

 「どうぞ」
 と、理子がコーヒーを淹れて来た。それを見て増山は一端席を
外すと、キッチンからチョコレートを持ってきた。
 「良かったら、コーヒーのお伴にどうぞ」
 「あっ、それ・・・」
 増山が出したチョコレートを見て、理子が戸惑いの表情を浮かべた。
 「何?」
 「だって、それ・・・」
 と言って、増山の顔を見る。
 「どうかしたか?」
 二人の様子を見て、宗次が訊ねた。
 「うん、そのチョコレートなんだけど、先生がヴァレンタインで
女生徒達から貰ったものなの」
 「ほぉ~。そうなのか。先生はイイ男だから、さぞやモテるんだろうなぁ」
 宗次はそう言うと、チョコレートをつまんで口へ入れた。
 「沢山貰ってるんでしょうねぇ。どのくらい貰ったんですか?」
 と素子が言って、矢張りチョコレートを食べた。
 「大した事無いですよ」
 「そんな事ないわよ。ものすごーい数だから。手提げの大きな紙袋に
2つは貰ってるんじゃないですか?」
 それを聞いて、3人は驚いた。
 「そんなに?それじゃぁ、食べるのも大変でしょう。
先生、甘いものは?」
 「僕は甘いもの、好きなんですよ。チョコレートも大好きです。
だから1年経たないうちに、大体全部食べ終わってます」
 「ほぉ~。凄いですね。そんなんで、飽きないんですか?」
 「大丈夫です。でも、少し食べて頂けると助かりますね」
 その言葉に気を良くしたように、理子以外の3人は「美味しい」と
言いながらチョコレートを食べた。
 「あ~あ~。知りませんよ、皆の気持ちでしょうに。
他人にあげるなんて・・・」
 「いいじゃないか。それより、君は今年もくれなかったよなぁ」
 「すみませんでした。受験中だったんだから、仕方ないじゃ
ないですか。チョコレートの事なんて、すっかり忘れてました」
 「ほんと、冷たいと言うか、つれないと言うか・・・」
 増山の言葉を聞いて素子が不思議そうな顔をして言った。
 「あら、先生。紙袋2つ分も貰ってるのに、まだ欲しいんですか?」
 「好きでも無い女から貰った沢山のチョコより、好きな女性から
貰った、たった1つのチョコの方が、遥かに重くて価値が高いんです」
 「まぁ・・・」
 素子は呆れたような顔をした。
 「先生って、こういう事を恥ずかしげもなく、平気で言う人なのよ」
 と、理子が言った。
 「正直者と言って欲しいなぁ」
 とそこへ宗次がいきなり口を挟んで来た。
 「先生は、いい男だから、さぞやモテるでしょうし、女生徒達からも
随分と人気があるようだ。なのに、どうして理子なんでしょう。
理子より美人や可愛い娘は沢山いるでしょうに」
 と、言った。
 「僕は女性にはあまり興味が無いと言うか、騒がれるのが好きじゃ
ないんです。だからモテると言われても、迷惑なだけなんです。
まして女子高生にキャーキャー言われても、相手は教え子だし、
子供ですし」
 「理子も同じでしょう」
 「彼女は他の女子高生達とは違います。どう違うかと訊かれても、
的確にはお答えできないんですが。いつの間にか、僕の心の中に
入ってきて、そのまま住みついてしまいました」
 その言葉に、理子は赤面した。そばにいる優子も恥ずかしそうな
顔をしている。
 「あの先生。一体、いつ、どこで、どんな付き合いをされて
たんでしょう?何回くらいデートと言うか、会ったりしてたんですか?」
 素子の言葉に、増山は考えた。
 「俺達、何回くらい会ったかな?」
 理子に訊くと、理子は真っ赤になって言った。
 「やだ、先生、私に振らないで下さいよ」
 「僕達、そんなに会ってないんですよ。毎日学校で会ってるし。
と言っても、朝と帰りのホームルームと日本史の授業の時に顔を
合わせるだけで、会ってるなんて言えないんですが。僕は土日に
逢いたかったんですが、彼女がいつも断ってくるんですよ。
本当につれなくて。だから、冬休みとか春休みとかに1,2回ずつ
会ったくらいですね」
 それを聞いた素子は驚いた顔をした。
 「それくらいで、結婚を?」
 「そうやって改めて言われると、なんだか凄く簡単に
聞こえますよね。僕の中では、色々な葛藤や心の変遷が
あるんですが・・・。まぁ、正直に言いますと、僕の方が
直情径行なんですよね。いつだって、彼女の方が冷静です。
僕は今まで心から女性を好きになった事が無いので、本気に
なったのは彼女だけなんです。だから、この先も彼女しか
いないと思ったのでプロポーズしたんですが、付き合いだして
間もなかった事もあってか、断られました。まだ高校生だし、
考えられないって。当たり前と言えば当たり前ですよね。
逢っていたのは、僕の家です。付き合う事になって、すぐに
両親に紹介しました。二人の立場上、外でのデートは無理なので、
僕の家まで来て貰って、一緒に過ごしました」
 「ご両親には何て紹介したんですか?」
 「好きな人ができたと。相手は女子高生で、自分の受け持ちの
生徒だけど、本気なんだって言いました」
 「驚かれませんでしたか?反対されたんじゃ?」
 「驚きましたが、反対はしませんでした。お前が本気だと言うなら、
会ってみようって。それで、連れて行ったら気に入ってくれました」
 「何だか、普通じゃ信じられない話しよねぇ」
 「その事に関しては、明後日伺うようなので、当人達から聞いて
みて下さい。『躾のよく行き届いた、いいお嬢さんね』と
母は言ってましたが」
 それを聞いて、素子は気を良くしたような表情をした。
 「それで、ご相談なんですが。僕は当初、28日に入籍をして、
その日から一緒に住もうと予定していたんですが、予想外の事態に
なってしまい、既にこうして入籍前に一緒に暮らす事になって
しまいました。こうなってしまった以上、僕としてはなるべく
早く入籍したいんです。それで、今週の土曜日、20日に
入籍させてもらっても、よろしいでしょうか」
 宗次と素子は顔を見合わせた。
 「私はそれで構わないと思うが、母さんはどう思う」
 と、宗次に言われて、素子は少し考えた。
 「そうですね。先生のおっしゃる通り、もう一緒に暮らしてるんだし、
それならさっさと入籍した方がいいでしょうね。今のままじゃ、
ただの同棲だし」
 「ありがとうございます。良かった」
 増山は嬉しさのあまり、涙ぐんだ。これで、やっと、誰にも
遠慮せずに二人で生きていける。堂々と人前を歩ける。
 「お父さん、お母さん。本当にありがとう」
 理子がそう言った。そして、涙ぐむ増山の肩にそっと手を乗せた。
 「先生も、ありがとう。今までずっと、辛かったでしょ?私の為に、
いっぱい我慢してくれたよね。私、とっても感謝してる」
 理子の言葉は、増山の胸に沁みた。
 「何言ってるんだよ。君の方こそ、辛かっただろうに。
君こそ、よく頑張ったよ」
 二人は手を取り、見つめ合った。万感の思いがそこには
込められていた。これでやっと、晴れて一緒になれるのだ。
こんな嬉しい事は無かった。その二人の喜びが辺りを埋め尽くした。
そこにいた両親と妹は、その喜びに包まれて、今まで感じた事の無い、
暖かいぬくもりを感じたのだった。

 3月20日。土曜日。晴れ。
 この日が二人の結婚記念日となった。
 前日、増山は校長と諸星に、その事を報告した。二人はとても
喜んでくれた。そして、その日の職員会議の時に、全職員にその旨を
伝えた。それを聞いた職員達は一様に驚いた。誰もが予想だに
しなかったことだったからだ。中でも石坂は酷くショックを
受けた顔をしていた。非難めいた言葉を囁く者も少なくなかった。
 だが校長は、増山をかばってくれた。彼の努力と苦悩に理解を
示してくれ、増山はその好意を感謝した。相手は女生徒だから、
納得できない者の方が多いだろう。だがそれも仕方が無い。全員の
賛同を得る事は、土台、無理な話だ。僅かでも、理解し応援して
くれる人がいるだけで十分だった。
 理子も、入籍が早まった事と、その経緯を親しい友人達に報告した。
彼らは、是非、祝福に来たいと言うことで、午後から新居にやって
くる事になっている。双方の家族とは、婚姻届を出した後に
昼食会を持つ事になった。
 理子の両親、特に母の素子は、水曜日に増山の両親と面会し、
その人柄に安堵した。社会的に高い立場にありながら、非常に謙虚で
こちらを尊重してくれる事に、流石の素子も感服した。
 「自分達にとって、雅春は自慢の息子です。その息子が選んだ
女性なんですから、反対する理由なんてありません。実際に
お会いしても、理子さんは本当にいいお嬢さんでした。息子が
惚れるのも無理は無い。だから私達は、息子同様、理子さんの事を
可愛がらせて貰いますので、ご安心下さい」
 そう言われて、素子は嬉しかった。その言葉に嘘いつわりを
感じなかったからだ。
 「娘をよろしくお願いします」
 と、頭を下げたのだった。
 
 午前10時。二人は署名捺印した婚姻届を持って、横浜市青葉区役所を
訪れた。土曜日なので、営業はしていない。専用の受付場所まで行き、
そこへ提出し、無事受理された。
 「おめでとうございます」
 と、言われて、二人揃って「ありがとうございます」と答えた。
手を繋いで外へ出る。
 「なんだか変な感じ。たったこれだけの事なのね」
 「そう。でも、これで、正真正銘、俺達は夫婦になったんだ。
結婚したんだ」
 理子は増山の体に絡みついてきた。
 「もう、これで、どこへでも二人で行けるのね。
人目を憚らなくても、いいのね」
 増山が理子を見ると、理子はとても嬉しそうな顔をしている。
目が輝いていた。
 「そうだ。もう、どこへでも堂々と行ける。君の事を堂々と
紹介できるんだ。こんな嬉しい事はないな」
 初めて女性を愛するようになって、どれだけその喜びを
語りたかった事か。もう、我慢する必要は無い。
 二人は小一時間ほど、周辺の自然公園を散策した。増山は池の前で
立ち止まると、理子を優しく抱きしめた。家族連れの姿が
ちらほら見えるが、カップルはあまりいない。背が高く美しい増山は
人目を引いた。理子は黙って、増山の腕の中でじっとしていた。
増山は暫く理子のぬくもりと香りを満喫した後、彼女を離した。
理子を見る。目が潤んでいた。
 増山は、ポケットから指輪を出した。結婚指輪だ。
この日の為に用意しておいた。
 「理子、左手を出して」
 増山に言われて、理子が左手を出す。微かに震えている。
 その手をそっと取ると、薬指に指輪をした。プラチナのシンプルな
デザインだが、二人の誕生石であるアメジストとエメラルドが
1つずつ、はめ込まれていた。オーダーメイドである。
 「結婚式の時まで待とうかとも思ったんだが、君が俺の妻である
証しを、しっかりと付けておきたかったんだ。そうでないと、
大学へ行き始めたら、また悪い虫でも寄ってくるんじゃないかと、
心配だからね」
 「先生は?先生はしないの?」
 「勿論、するさ。さぁ、はめてくれないか?」
 増山はそう言うと、自分の指輪を出して、理子に渡した。
理子はその指輪をじっと見てから、増山の左手を取り、薬指にはめた。
同じ指輪が二人の指を飾る。二人はともに左手をかざして互いの指に
魅入った。そうして自然と寄り添い、唇を重ね合わせた。
 「なんだか、結婚式の予行演習みたい」
 と、理子が言った。頬を染めている。まだ若い日差しが
理子の顔を輝かせていた。
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~ Comment ~

Re: ごちそうさまでした。>misia2009様 

misia2009さん♪

ホントにステキですよねぇ~(うっとり)

婚約指輪が無かったってのも、あるんですよね。
それも含めて、二人だけのオリジナルの指環をしたいって
先生の深い想いもあり・・・。
熱い男ですね(=^・^=)

ごちそうさまでした。 

いやもうタイトルの通りです。
誕生石をオーダーで入れてくれる男は、滅多にいないでしょう・・・!
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