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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部第24章(最終章) 旅立ち 第2回

2010.05.13  *Edit 

 「お母さんは、私の事が・・・嫌いなの?」
 理子が泣きながら言った。
 「そんなわけ、無いでしょう。お母さんは嫌いな人間とは口もきかない。
何の関心も示さない。娘だから、心配だから、あれこれ口を出すんでしょ。
本当なら、首に縄つけてでも言う事をきかせたいくらいなのを、
我慢してるの。理子の方こそ、お母さんが嫌いなんじゃないの?」
 理子は首を激しく振った。
 「私、子供の時に友達が羨ましかった。余所の家の子供になりたいって
何度も思ったの。だけど、ある時、友達の優しそうなお母さんを見て、
この人が私のお母さんだったら、って想像してみたら、拒絶反応を起こした。
やっぱり、私のお母さんは、お母さんしか考えられない。お母さんの
子供で良かったって。だって、余所のお母さんは優しそうだけど、体裁
ばかりを気にして本当に子供の事を思っているように感じられなかったから」
 そう言いながら、涙が次から次へと溢れてくる。どうしてなんだろう。
 「理子は、親を捨ててもいいほど、先生が好きなの?」
 「ごめんなさい。でも、先生がそうだから。先生は自分の全てを掛けて、
私を愛してくれてる。先生がいなかったら、私は東大どころか国立だって
入れていたかわからない。私を東大へと駆り立ててくれたのは先生だし、
受験までのカリキュラムを作成して導いてくれたのも先生だし、勉強も、
受験のテクニックも教わった。そして、精神的にも支えてくれた。最初、
卒業したら結婚しようって言われた時は、凄く悩んだのよ。だって、
お父さんとお母さんの姿をずっと見て来て、結婚に全く夢を抱いて
いなかったから。今好きだからと言っても、一生、その気持ちが続くとは
限らない。他人と一緒に生活を共にして人生を過ごすなんて、私には
考えられなかった。一生、独身でいるつもりだったのよ。先生の事は
大好きだったけど、私は何より自立したいって思ってたし」
 「じゃぁ、どうして結婚を?」
 「先生を知れば知る程、好きになっていったから。知れば知る程、
信じられる人だと確信が持てたから。そして、知れば知る程、
ずっとそばにいたい、離れたくないって思うようになったから・・・」
 「そうは言ったって、人の心ほど、移ろいやすいものは無いわよ」
 「それはそう思う。そもそも、先生を信じられても、自分の心を
信じられなかったし。でも先生に言われて、今の自分の気持ちに
正直になって、それを大切にしようって思った。先の事を考えて
何もしないで後から後悔したってしょうがないでしょう。
やるだけの事はやって、それでも駄目だったら仕方がない。
諦めもつく。先の事なんて、わからないじゃない。気持ちは変わる
ものだけど、良い方に変わるか悪い方に変わるかは、誰にもわからない。
私は先生にそばにいて欲しい。先生がいない人生なんて、もう考えられない。
それに気付いたから、結婚を決意したの」
 「あんたはまだ若いんだから、この先、もっといい人が現れるかも
しれないじゃない」
 「かも、でしょ。現れない可能性だって同じくらい、あるわよ。
そんな、有るか無いかもわからない可能性の為に、今の愛を捨てるの?」
 「捨てなくたって、何も急がなくても・・・」
 「お母さんは自分が遅かったから、そう言うんでしょ。勿体ないとかって。
でも、お母さんは、お父さんと結婚する前に、お父さんより遥かに
条件のいい縁談があったじゃない。なのに、お父さんを選んだんでしょう?
結婚は条件だけで選ぶものじゃないって、わかってるでしょう?」
 「お母さんは、自分の結婚を良かったとは思ってないから。だから、
理子にも慎重にって言うのよ」
 「大丈夫。ちゃんと慎重に決めた事だから。後悔しても、誰の
せいにもしない。私の人生だから」
 娘の決意の固さを感じて、母は溜息を吐いた。
 「お母さん。親を捨てるなんて思わないで。お母さんが私を
捨てない限り、私はお母さんの子供よ。先生はとってもいい人よ。
お母さんに、あんな仕打ちを受けながらも、まだ誠意を示そうと
してくれてる。学校でも一生懸命で、先生の受け持ちはみんな志望校へ
合格できたのよ。それを学校でも評価されてる。そして私をとても
大事にしてくれてる。だから私も、あの人を大事にしたいの」
 理子の言葉を受けて、宗次が言った。
 「私が去年、先生と会った時、彼は理子を、命を懸けて守ると言った。
大袈裟のようにも受け取れるが、彼は真剣だった。本当に、彼なら、
命を懸けて理子を守ってくれると思ったんだよ。だから父さんは承認した。
二人は深く愛し合っている。彼ほどの人物は、まずいないと思うぞ」
 母は理子の方を真っすぐに見た。寂しそうな目をしていると、
理子は思った。
 「ごめんなさい、お母さん。私達を許して下さい」
 暫くしてから、母が言った。
 「わかりました。仕方ないわね。こうして一緒に暮らしちゃってるんだし」
 「お母さん・・・。ありがとう・・・・」
 妹の優子が寄ってきて、「良かったね」と言って抱きついてきた。
 「実は、向こうのご両親から連絡があってね。明後日うちへ挨拶に
見えたいって言うんだ。それでお母さんに話したら、その前にお前と
話しをしたいと言い出してね」
 そうだったのか。母も少しは冷静になって、歩み寄ろうと言う
気持ちが湧いてはきたものの、きっかけが無かったのだろう。
増山の両親の挨拶の件が、良いきっかけになったようだ。
 理子は、急いで増山にメールで報告した。返事も間もなくやってきた。
 「3人に、一緒に夕飯を食べていって貰いなさいって。
先生とっても喜んでる。だから、晩ご飯、食べていって」
 「いいのかい?」
 「勿論よ。先生も一緒に食べたいって。本当なら、この間、
みんなで合格祝いしたかったのに、出来なかったんだもの。
折角、来てくれたんだから、いいわよね」
 その前に、お茶、お茶、と言って、理子はキッチンへと向かった。
話しに突然入ったので、まだお茶も出していなかった。
 理子は紅茶を淹れると、昨日焼いたクッキーを出した。
 「もう、すっかり新婚さんって感じだね」
 と、優子が言った。
 「そんな事、無いわよ。あっ、でも、ちょっと洗濯物を取り込んでくる」
 時計は既に3時を回っていた。二人なので少ないから、取りこむのも
すぐに済む。母は洗濯はたまらないとやらない。だから、洗濯する時には
山のようである。干すのも取りこむのも一大事業のようだ。
掃除にしても同じで、1週間に1度しかしない。そのかわり、
やる時には徹底して隅々までやるので、丸一日かかる。そうして、
疲れきってダウンするのだった。手伝わされる方も、非常に疲れる。
 「テレビ、見ていいかな」
 と父が言った。大画面なので、見応えがある。母は洗濯物を
取り込んでいる理子のそばに来て、
 「いい眺めねぇ~」と言った。
 「駅から近くて便利だし、セキュリティもしっかりしてるし、いい所ね」
 「うん。なんか、私には勿体ないって思うんだけどね。貧乏性だから」
 「そう思って当然よ。若いうちから豊かな生活に慣れてると、
いざと言う時に困るわよ」
 「私もそう思う。でも先生はお母さんに似てケチみたいだし、
贅沢な暮らしをするつもりはないって言ってるから、まぁ、
大丈夫なんじゃない?」
 「お母さんをケチだって言うの?」
 「だって、そうじゃない」
 理子は笑った。ケチの癖に、ケチと言われるのが嫌みたいだ。
弟達からも、ケチと言われているのに。

 増山は6時過ぎに帰宅した。理子の家族が来ていると言う事で、
急いで帰って来たのだった。
 「おかえりなさい。この間は、失礼しました」
 と、両親が揃って玄関まで出て来て挨拶したので、増山は恐縮した。
 「いえ、こちらこそ、生意気な事ばかり言って、すみませんでした」
 増山は深く頭を下げた。プライドの高い、あの理子のおかあさんが、
こうして自分から出向いて頭を下げているのだ。その心中を思うと、
自然と頭が下がる。
 「随分広くて立派なお部屋で、びっくりしました」
 理子の母、素子は、とても上機嫌でそう言った。明るくて優しい顔を
している。その顔しか知らなければ、あんなに気性の激しい女性とは、
誰も思わないだろう。心をかき乱す事さえ無ければ、これがこの女性の
本来の姿なのかもしれない。如来や菩薩のような、上品で優しい顔だ。
 「あっ、先生。お邪魔してます。とても素敵なピアノに、
びっくりしました」
 妹の優子が、増山を見てそう言った。
 理子の妹は可愛い顔をしていた。色が白く面長で、奥二重の
黒目勝ちな瞳は切れ長で、睫毛は濃くて長い。髪は細くて、
コーヒーブラウンのような黒に近いブラウン系の色をしていて、
長く伸ばしているのを二つに結んでいた。前髪は眉の上で切り揃えて
ある。色白な所と勝気そうな目元は母親似だが、それ以外は父親似だ。
体型は細身で、手足が細長い。
 パッと見ると姉妹には見えない。印象がまるで違う。だがよく見ると、
全く違う筈の目元が似ていると感じるから不思議だ。勝気な妹と
おっとりした姉といった感じだ。客観的に見るならば、妹の方が
美人だろう。だが、女性としての魅力は姉の方にある。妹はまだ
中2だからなのかもしれないが、優子は一本気でわかりやすいタイプで、
理子は複雑で捉えどころが無い。それが見た目からもわかるのだった。
 「もっと高いピアノを選んでくれても良かったのに、
理子は謙虚なもんだから」
 「とんでもないです。これ、凄くいいですよ。お姉ちゃんが羨ましいです」
 「いつでも来たい時に来て、弾いてもいいんだよ」
 「ありがとうございます・・・」
 勝気そうな見た目と違い、喋り方はおっとりしている。
ハキハキしている姉とは違った。見た目と中身にギャップがあるのは
姉妹の共通点か。
 理子は夕飯に、ロールキャベツを作っていた。その他に、
ポテトサラダとキノコのスープ、オレンジのジュレが食卓に並んでいた。
一緒に住み始めてまだ日が浅いが、理子の料理には舌を巻く。
感激したのは、増山の好みを母から聞いて、色々工夫をして
くれている事だ。基本の料理は、出汁や味付けを増山家の
味にしてくれている。その上で、理子なりのオリジナリティや工夫がある。
 その事について、自分の好みは無いのか訊ねたら、先生と
ほぼ同じだから問題ないと言う。確かに、全ての料理が増山家の
味を再現しているわけではない。基本を押さえつつ、理子なりの
味があって、それが旨いので、毎日理子の料理を食べるのが楽しみだ。
 「どうですか、理子の料理は?」
 と、宗次に訊ねられた。
 「凄く美味しいので、毎日感動しています」
 「そうですか。それは良かった。料理上手だから、その点は
いつ嫁に出しても心配ないんだよな」
 「私があまりやらないからね。でも、そのお陰で上手になったのよね」
 と、素子が笑って言った。
 「お母さんが、教えられたんですか?」
 「いいえ。私も教わってないし。うちは、教わるんじゃなくて、
見て覚えろって家系なんですよ」
 増山が理子を見ると、理子は笑って頷いた。
 「包丁の持ち方ひとつ、教わってませんのよ。おほほほ・・・」
 と理子が言うので、思わず笑ってしまった。その後で、
優子の方を見たら、
 「私は、全く料理できません。野菜の皮むきも苦手なんです」
 と、遠慮勝ちに言った。
 「理子がいなくなったんだから、優子も少しは覚えないとね。
将来困るわよ」
 「でも私、全然、料理のセンス無いし・・・。お姉ちゃんと
違ってとろ臭いから・・・」
 「少しずつ覚えればいいじゃない。まずは慣れる事だよ。
皮むきなんて、慣れだよ、慣れ」
 と、理子が言った。
 「お姉ちゃん、早いよね。じゃが芋なんか私が1つ剥いてる間に、
5個くらい剥いちゃってるんだもん」
 それは確かに凄い。
 「優子が遅いだけでしょう」
 と、素子が言った。
 「僕は、理子が早すぎるんだろうと思いますよ。段取りがいいのか、
作るのが早いですよね」
 「私は、その段取りが駄目なんです。同時に色々な事ができないんで・・・」
 成る程。だから、とろ臭いとか言われてしまうのだろう。
 「一つの事に集中して丁寧にやる事も大事な事だよ。人には向き
不向きがあるんだから、そんなに悲観しなくても大丈夫さ」
 と、増山は言った。
 「さすが、教師。言う事が違いますね」
 と、理子が茶化す。
 「君ねぇ。自分の妹の事じゃないか。君こそ、もっと励まして
やったらどうなんだ?」
 「そうおっしゃいますけど、あまり頑張れ頑張れって言うのも、
可哀そうかと思って」
 「先生、いいんです。姉って、こういう人なんで」
 こういう人って、どういう人なんだ?と増山は疑問に思った。
 「こういう人って、どういう意味よー。散々、世話してきてあげたのに」
 「散々、いじめてきたじゃない」
 「酷いわね。小さい時、いっつも腰巾着みたいに付きまとわれて、
どれだけ迷惑した事か」
 「あたしだって、付きたくて付いてたわけじゃないもん」
 増山は二人のやり取りを聞いて目を丸くした。こんな理子を初めて見る。
 「こらこら、姉妹喧嘩は止めなさい。先生が驚かれてるじゃないか」
 二人は増山の方を見た。増山は笑ったが、顔が引きつって
いるのを感じた。
 「もう!先生の前で変な事を言わないでよ。誤解され
ちゃうじゃない」
 「あれー?既に誤解されてるんじゃ?あたしは、その誤解を
解いてあげようと・・・」
 「もおぉー、いい加減にしなさいよ。本気で怒るわよっ!」
 「怒れるものなら、怒ってみたら?先生の前だから
怒れないんじゃないのぉ?」
 「もう、我慢できないっ!」
 理子はそう言うと、立ちあがった。優子も立つ。
そして、追いかけっこが始まった。
 「こらこらっ!何やってるんだ。止めなさい!」
 と、宗次が叫ぶが、二人は止まらない。増山は茫然とした。
信じられない光景だ。
 「こんな事、しょっちゅうなんですよ。仲がいいのか悪いのか、
わかりゃぁしない」
 と、驚いている増山に、素子がそう言った。
 それを聞いて、増山は立ちあがった。そして、大声で
「やめるんだ!」と怒鳴った。その途端、ビデオが一時停止したが如く、
二人はピタリと止まった。
 「理子。こっちに来なさい」
 と、増山は打って変った静かな声でそう言った。理子はバツの
悪そうな顔をして、増山のそばへと来た。
 「何をやってるんだ、君は。相手は妹じゃないか」
 「だって。生意気な事ばかり言うんだもの」
 「仮にそうであっても、君の方が年上だろう?
まともに相手にしてどうする」
 「どうして、姉だからって非難されなきゃならないのかしら。
非は向こうにあるのに、年上ってだけで、悪者にされちゃうのって、
我慢できない」
 「相手にするから、批難されるんだろう?相手にしなきゃいいんだ」
 「そう言われても、腹の立つ時には腹が立つんです」
 「だからって、追いかけっこしてどうするんだ。捉まえた後、
どうするつもりだ?暴力でも揮(ふる)うのか?」
 その言葉に理子は黙って俯いた。
 「二人だけの姉妹だろう?喧嘩なんか、するなよ」
 増山の言葉に、優子が言った。
 「先生、すみません。私がつい、姉を挑発しちゃったものだから・・・」
 増山は溜息を吐いた。全く、しょうもない姉妹だ。
 妹は姉のそばに来ると、「ごめんね・・・」と謝った。
理子は黙って、首を振った。
 「じゃぁ、二人で食器を片づけてくれないかな」
 増山がそう言うと、二人は黙って食器を片づけ始めた。
 溜息を吐きながら席についた増山に、素子が言った。
 「先生、私がいつも言ってるのと同じ事を、理子に言われましたねぇ」
 「そうなんですか?」
 「そうですよ。姉だからって理由で自分が叱られるのが、
あの子は納得できないようで、だからいつもああやって、
口答えするんです」
 「口答え、ですか。彼女は理論派なんですよ。理屈が
通りさえすれば納得する。納得できないから、納得したいが為に、
ああ言うんだと思います」
 「でも世の中、理屈だけでは生きていけませんよ。理屈の
通らない事の方が多いでしょう」
 「その通りです。彼女だって馬鹿じゃないですから、ちゃんと
相手を見て言ってます。ああして言うのは、身内だからです。
赤の他人には、ああまで理屈を通そうとはしません。自分なりに、
ちゃんと割り切ってますよ。心配いりません」
 宗次はそんな増山に感心した。理子の事をよくわかっている。
あくまでも冷静に対処して、頭ごなしに叱ったりしない。
ちゃんと言い聞かせている。この男なら理子をしっかり導いて
くれるに違いないと思った。
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