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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部第24章(最終章) 旅立ち 第1回

2010.05.12  *Edit 

 朝霧高校では、理子が東大に合格した事で大騒ぎになっていた。
合格発表の日の帰りのホームルームで、全クラスに報告され、
在校生達の驚きは大きかった。
 翌日増山が登校すると、校内は興奮の渦に包まれていた。
職員室へ着くと、教職員が一斉に拍手をして迎えてくれた。
「おめでとうございます」と口々に言われ、不思議な感じがする。
自分が受かったわけじゃないので、合格の事よりも結婚の事を
言われているような気がしてくる。
 「いやぁ、増山先生。よくやってくれました」
 校長が満面に笑みを浮かべながら、やってきた。両手を握られた。
 「補習クラスは全員、志望校へ合格したし、先生のクラスの
生徒達もみんな合格して、本当に頑張ってくれました。生徒達も
よく頑張ったが、そこまで指導した先生のお手柄です。本当に、
ありがとうございました」
 いつもは温厚な物言いの校長だが、今朝はとても興奮していた。
 「それで、あの後、どうなりましたか?」
 校長が声をひそめた。
 「それが・・・」
 と、増山が言いにくそうにしていると、校長室へ誘われた。
諸星先生も呼ぶ。
 「増山先生、良かったな。合格して、万々歳じゃないか。
理子も喜んでるだろう」
 「はい。その件については。ですが・・・」
 増山は、昨日の出来事を二人に語った。増山の話しを聞いて、
二人は驚く。
 「驚いて反対するのは理解できるが、それにしても理屈の
通らないお袋さんなんだな」
 と、諸星が言った。
 「申し訳ありません。そういう事情で、入籍する前に一緒に
暮らす事になってしまいました」
 その言葉に、校長と諸星は顔を見合す。現状を言い表すなら、
教職者が未成年の女子と同棲している事になる。
 「それは先生、仕方ないよ。親に追い出されて、他に行く所が
無いんだ。数日後には入籍する予定だったんだから、当然の流れだよ。
負い目を感じる事は無い。ねぇ、校長」
 「私もそう思います。彼女をちゃんと保護する事を最優先すべき
でしょう。夜、一人にしておくのも、好ましくないですしね」
 校長がそう言うと、諸星がニヤリと笑った。
 「じゃぁ先生、昨夜(ゆうべ)はやったのかい?」
 「諸星先生、何をおっしゃるんです」
 校長が制した。
 「やってませんよ。そんな状況じゃないでしょう」
 「増山先生も、可哀そうに。まだお預け状態だ。俺だったら、
絶対にやるぞ」
 「諸星先生!」
 校長にいなされても、屁ともしない諸星だった。
 「こうなったら、さっさとやっちまう事だ。既成事実を作っちまえ。
そうすりゃぁ、親だって承諾するしかないだろうよ」
 諸星も大胆な事を言う。教師としての立場を考えれば、それは
大変な事だろう。そんな事になっても、懲戒を受ける事は無いのだろうか?
 「大丈夫だ。問題にはなるだろうが、免職になる事は無い。
結婚するんだしな。ねぇ、校長」
増山の疑問を察して、諸星がそう言った。
 「諸星先生、さっきからの過激な発言、控えて下さいよ。
増山先生はまだ赴任して日が浅いんですから、ご存じない事の方が
多いんです。変な事を教え込まないで下さい」
 校長は諸星の発言に、たじたじだ。
「校長先生、大丈夫ですよ。僕はそんな無謀な事はしませんから。
彼女はこれから大学生になるんです。折角東大へ合格したのに、
既成事実なんて、そんな事はできません」
 「なんだよ、度胸が無いな~」
 「度胸って、そういう問題じゃないですよ。彼女の事を思えば、です」
 「君は我慢強いよな。俺なら我慢できねぇ。理子相手じゃ、駄目だ」
 「どういう意味です?人の恋人に」
 増山は表情を少し固くして諸星を見た。
 「おおっ、恋人と来たよ。いいねぇ~、恋人。その響き、俺好き。
まぁ、心配するな。俺はもう、ジジイだから。だが、あと10歳
若かったら、わかんねーけどな。石坂先生みたいな回りくどいやり方は
しない。ストレートにガンガン行く。勿論、振られたらそれで終わりさ。
潔く諦める。だが、そうで無かったら、遠慮はしない。理子はいいよ。
どこがいいって訊かれたら上手く言えないんだが、そこはかとない
魅力がある。君だって、そこに惹かれたんだろう。男子にも隠れた
人気があるようだが、みんな同じ理由だろう。同世代の男には、
簡単に手を出せない雰囲気があるが、大人の男には、手籠めにしたく
なるような所がある。自分のものにしておかなきゃ、気が治まらねぇ」
 表現は悪いが、諸星の言う通りだと思った。だから自分も、
我慢できずに彼女を奪ってしまった。自分のものにしておかないと、
気が治まらなかった。諸星の言う事は、いつも的確だ。
 「諸星先生、女生徒に対して何をおっしゃるんです。
手籠めにしたいだなんて、言語道断ですよ」
 「校長だって、理子には鼻を伸ばしてたじゃないですか。
文化祭の彼女の独唱の時なんて、握手を求めたりして。
何だかんだ言っても、校長も男なんですよ、男」
 と言って、諸星は豪快に笑った。

 週が明けた月曜日。
 増山を学校へ送り出した後、理子は家事をしていた。
お掃除ロボットがいると助かる。理子は家具や窓の掃除をした。
土曜日に増山の実家へ二人で行き、増山の荷物を持ってきた。
本の量が兎に角凄い。それから、研究に関する数々のレポートや
書類に資料。学校関係の書類。そして、音楽関係。楽器に楽譜、
CD、DVD。それにパソコン関係。デスクトップなので大きいし、
関連物も多い。大したものは無いと言っていたが、実際に
まとめてみると結構な量だった。
 日曜日にはカーテンを買いに行った。取りつけてみると、
部屋の雰囲気が変わった。矢張り、ぬくもり感がある。こうして
大体の物が揃うと、暮らしの実感が湧いてくる。バルコニーには
洗濯物がはためいている。二人のものだ。それを見ていると
顔が赤くなってくる。
 携帯が鳴った。電話である。出てみたら、父だった。
午後から3人で来ると言う。理子は酷く驚き、うろたえた。
 「お母さんも、随分と落ち着いてね。理子と話したいって言うんだ。
だから連れて行く」
 父は電話越しでそう言った。
 話したいって、一体何を話したいのだろう。母には随分
傷つけられたと思っている。それは今に始まった事ではないが、
あの時の事を思い出すと、これまでの集大成ではないかという気が
してくる。一体、どこまで娘を傷つければ気が済むのだろう。
 理子は家事を終えて教習所へ行き、昼に買い物をして帰宅した。
何となく落ち着かない。
 14時を少し過ぎた頃、インターフォンが鳴った。両親と妹だった。
下のロックを開ける。間もなくやってくるだろう。この間(ま)が、
何とも言えず緊張してくる。お茶の準備をしている途中で
玄関チャイムが鳴った。理子は急いで玄関まで行き、ドアを開けた。
父を先頭に、母と妹が立っていた。両親は憮然とした表情で、
妹は神妙な表情をしている。
 「元気にしてるか?」
 父の問いかけに、「うん」と頷いた。理子は中へ入って、
3人を招き入れた。中に入った3人は、それぞれに驚いていた。
 「なかなか、いい感じじゃないか」
 と、父が言った。
 「お姉ちゃん、この部屋は?」
 と妹が言った。理子の勉強部屋である。見ていいかと訊くので、
いいよと答えた。
 「へぇ。自分の部屋があるんだ。6畳?なんか広く感じるね」
 ベッドが無いからだろう。
 続けて、向かいの部屋を見る。増山の部屋だ。
 「広~い!本が凄~い!」
 優子が感嘆の声を上げた。両親は優子の後に続いて入り、
中を見まわしていた。
 「バルコニーがあるの?」
 「そうよ。ここのバルコニーは凄いわよ。東と南の全面に付いてるの」
 理子の言葉を受けて、宗次が東の窓を開けて顔を出し、驚いていた。
 「こりゃ、凄いな。随分と広い」
 続いて、母も顔を出し、矢張り驚いていた。
 増山の机の上に写真立てが置いてあり、優子がそれを手に取った。
 「何これ?お姉ちゃん、着物着てるじゃない。これって?いつの写真?」
 「それは、去年のお正月の写真。先生のお宅へ伺った時に、
向こうのお義母さんが着せてくれたと言うか、着せられたと言うか・・・」
 「可愛い!綺麗・・・。先生も素敵」
 着物を着てソファの上に二人で並んで座っている写真である。
増山はこの写真が気に入っていて、あれからずっと、
自分の机の上に置いていた。
 「ほぉ~。振袖じゃないか。この着物はどうしたんだ?」
 「先生のお義姉さんのなの。あちらのお義母さん、お茶の先生なんで、
家にお茶室があって。それで、お正月だから一緒に初釜を、って事で、
それで着物を着せられちゃったの」
 母はその写真を黙って見ていた。無表情である。
 3人はその後、トイレ、洗面所、風呂を見てから、リビングへ
入って驚愕の声を上げた。
 「ひっろーい!・・グランドピアノがあるっ!」
 何も聞いてなかった優子にとっては、驚きの連続である。
父はピアノの事や部屋の広さの事は知っていたが、それでも実際に見ると、
リビングの広さには驚いたようだ。
 「ここ、何畳あるの?」
 「28.5畳だって」
 「うわっ、凄い・・・。足の裏、あったかいよ?床暖?」
 その後、キッチンに入り、更に、寝室に入った。どこも広いので、
3人には驚きの連続だった。
 「やっぱり、二人で住むには広すぎるんじゃないか?」
 と父が言った。
 「まぁね。勉強部屋や寝室はともかく、リビングのこの広さは凄いよね。
先生は大きいから、広い方が好きみたい。ベッドだって、驚きでしょう?
今までダブルを一人で使ってたから、大きいのじゃないと嫌なんですって」
 「お姉ちゃん、ピアノ弾いてみたい。いい?」
 「いいわよ。どうぞ好きに弾いて」
 理子がそう言うと、優子は嬉々とした顔でピアノの蓋を開けて弾きだした。
 「わっ!凄い。いいタッチ。音も素敵・・・」
 力強い、綺麗な音色が響いた。姉妹で同じ先生に習っているが、
妹の方がタッチは力強い。
 「いいな~。羨ましい。このキーのタッチ、グランドならではだよね」
 「幾らしたんだ?」
 と父が訊いてきた。
 「250万だったんだけど、先生が値切って40%引きに
させちゃったんで、150万で買ったの」
 「ええー?100万も値切ったの?」
 母が驚きの声を上げた。それはそうだろう。家のアップライトも、
ヤマハのアップライトではグレードの高いもので、100万近い品を、
母は値切って80万で購入したのだった。増山はその上をいっている。
ピアノでこれだけの値引きは、あまり無い。
 「前にお母さんが、金持ち程ケチだって言ってたけど、先生はまさに
そんな感じよ。もう、凄いの。このマンションも半値で買ったって
言ってたし、ここにある家具も家電も、調理器具や食器も、物凄―く
値切って格安で買ったの。私、そばにいて恥ずかしいくらいの値切りだった」
 「えー?そんな風に見えなーい」
 と、優子が言った。
 「マンションの事はお父さんも業者から聞いたよ。半値にした上に、
リフォームまでさせたって言うから、凄いよな。水回りもみんな
最新のに替えてある」
 「広いから、掃除が大変そうね」
 と、母が言ったので、理子はお掃除ロボットを紹介した。
それを見た妹は目を輝かせた。
 「こんなの、役に立つの?」
 母は半信半疑である。
 「これ、すっごい役に立つのよね」
 理子はそう言って、ロボットを稼働させた。その動く様を見て、
皆一様に驚いた。家事嫌いの母にとっては、羨ましい家電だろう。
 「ところで、今日は話しがあって来たんだから、ちょっと座らない?」
 母に言われて、ダイニングテーブルの方の椅子に理子は座った。
母は理子の向かいに座り、父は母の隣に座った。優子はピアノの前にいた。
 「お母さんね。あれから少し落ち着いてきて、色々と考えたの。
この間、あんたには、随分と恨みごとを言われたわね。だけどね。
考えてご覧。あんたはお母さんにとっては、初めての子供なのよ。
あんたも子供ができればわかると思うけど、何もかもが初めての
経験なの。妊娠も出産も。毎晩夜泣きされて、ミルクも飲んだし、
オムツも替えたのに、まだ泣き止まないわが子に、どうしたら
いいのか途方に暮れた。流行感冒にかかったり、怪我したり、
いたずらしたり。必死で育てて来たのよ。幼稚園だって学校だって、
何もかもが初めて。だけど、優子の時は違うでしょ。既に理子で
経験してるから、余裕が生まれる。だからどうしたって、
扱いだって変わって来るのよ。それにね。優子は生まれた時から
小さくて育ちが悪くて、手もかかったけど、あんたは早くから
一人歩きを初めて、話すのも読むのも早かった。だから、ついつい、
優子の事ばかり心配してきたから、それを差別と思ったのかも
しれない。だけど、それは仕方の無い事でしょう?実際、
優子の方が手がかかったんだから」
 理子は母の話しを聞いて、所詮は詭弁に過ぎないと思った。
何だかんだ言っても、全ては言い訳だ。母の言う事もわかる。
初めての子育てだから、大変だったのは当然だろう。優子との
扱いの差も理解できる。実際、優子は喋り出すのが遅く、
4歳近くまで殆ど喋らなかったので、みんな心配していたのだ。
そのせいか、小学校の低学年まで、舌足らずな喋り方で、それが
原因でからかわれていたのだ。
だが、それと、理子に対する仕打ちとは別だ。
 黙っている理子に、母は話しを続けた。
 「お母さんさ。理子にも何度か話してるけど、お母さんも
自分のお母さん、つまり理子のおばあちゃんとは色々あってね。
お母さんはおじいちゃん子だったから、おばあちゃんは、
それが気に入らなかったみたいで。そもそも、自分に似て無い
お母さんを、あまり好きじゃないみたいだから。お母さんは
理子みたいに親に口答えは絶対にしなかったけど、心の中では
冷静に親を見てた。そんな可愛げのない子供だったから、
余計に好かれなかったんだろうね。それでね。そういう、自分と
親との関係を思い出してね。知らず知らずのうちに、自分も
おばあちゃんと同じ事を理子にしてきたんじゃないか、って気付いたのよ」
 理子は顔を上げて母の顔を見た。母は、困ったような、
いたたまれないような、複雑な表情をしていた。
「理子に言われてね。冷静になって、今まで可哀そうな事を
してきたなって思った。悪かったね」
 その言葉に、理子の目から涙が溢れだしてきた。
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