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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第5章 古都 第1回

2010.02.25  *Edit 

 文化祭は終わった。
 道具を壊して、校庭で燃やした。そのファイアーストームの回りで、
みんなは好き勝手に踊った。軽音楽部や和太鼓部、フォークソング部などが、
朝礼台の上で代わる代わる演奏し、それに合わせてみんなが自由に踊ったり、
一緒に歌ったりした。まるでコンサートのノリだ。
 先生たちの何人かも、一緒に踊っていたが、増山の姿はそこにはなかった。
どこにいるんだろう。自然と探している自分に気づき、自分を戒める。
 携帯が鳴った。メールだ。
 開いてみたら、増山からだった。鼓動が高鳴る。増山からのメールは
夏休みの東大キャンパス見学以来だ。背後に誰も立てない場所を探して
そこへ移動してからメールを見る。

  “お茶、ごちそうさま。歌も感動した。
   毎日忙しくて大変だったろうに、
   よく頑張ったな。
   今日はゆっくり休め”

 カーッと体と頭が熱くなってきた。
 お茶。歌。思い出してしまった。思い出すと、また恥ずかしくなってくる。


 こんな風に気遣ってくれて嬉しい。だけど先生は一体、私の事を
どう思っているんだろう?聞きたくなってしまう。切なくなってくる。
携帯の画面を見ながら、あれこれ思いを馳せる。時には増山の顔を
思い出してぼーっとしてしまう。
 理子は携帯の返信ボタンを押すと、

  “先生は今どこにいるの?”

 と打った。打ったが、送信ボタンを押せなかった。
 聞いてどうする・・・。
 削除した。
 携帯を握りしめる。心が揺れる。
 ファイアーストームの熱気が心を高揚させる。
 「理子」
 と、突然呼びかけられて、慌てて携帯を閉じた。声のする方を
見たら枝本だった。
 「どうしたの?こんなところで」
 笑顔である。
 「うん。ちょっと疲れただけ」
 「大変だったもんな。御苦労さま」
 「ありがとう」
 理子は枝本に笑顔を返した。
 枝本と一緒に文化祭を回って、楽しかった。
 中1の時の自分には、全く想像できなかった事だし、知っていたら、
どんなに喜んだだろう。
 あの時の自分にとって、枝本は憧れだった。その憧れの人と両想いに
なりながら、本格的に付き合うことなく別れてしまったのだった。
まだ子供だったのだからしょうがない。付き合うと言うことが、具体的に
どういう事なのか、よくわかっていなかったように思える。
 中学生のうちなんて、学校が別々になってしまえば、それまでである。
それが自然である。
 「あのさ。良かったら明日、映画を観に行かない?」
 「えっ?」
 枝本を見た。ちょっと照れくさそうな表情だ。
 理子は胸が高鳴るのを感じたが、平然を装って答えた。
 「何か見たい映画、あるの?」
 「うん。今度、城築城の小説が映画化されたでしょう。あれ、
一緒にどうかなと思って」
 「ああぁ~、あれね。あれは私も見たいと思ってたの。小説の方を
読んで、凄く面白かった。あれが映像化されたのには興味があるんだ」
 理子は洋の東西に関わらず、城が好きだった。できることなら、
まずは日本中の城巡りをしてみたい。外国へ行く機会があれば、当然、
その土地の城を見に行きたいと思っている。
 件(くだん)の映画は、戦国時代の、ある城を作った人々の人間ドラマを
描いている。築城にまつわる様々なエピソードが面白い。小説を読んだ時、
こういう時代の描き方も面白いと思って夢中になって読んだ。それが映像化
されるのである。城が実際に出来ていく様を見られるのが嬉しい。
 歴史ものなので、ゆきは興味が無いだろうし、かと言って一人で行くにも
勇気がいったので、ある意味好都合だった。だが、相手が枝本なので、少しときめく。
 「じゃぁ、OKって事でいいんだよね?」
 枝本が念押しするように言った。興味があると言っただけで、了承した
つもりは無い。だが、別に一緒に行っても構わないと思った。
 「うん。いいよ」
 これって、やっぱりデートなのかな。
 枝本との初めてのデートは、中学校の隣の公園だった。そこで会って、
お喋りしただけだ。その後も、会うと言えば、そこだった。二人でどこかへ
出かけた事は無かったので、これが初めてになる。それに、デート自体が
久しぶりだ。須田先輩と春休みにして以来だから半年ぶりか。そう思うと、
なんだか胸が高鳴るのだった。

 文化祭が終わると、2年生は修学旅行である。10月の最初の週に、
4泊5日で関西方面へ行く。スケジュールは既に決まっていて、まず倉敷で
2泊。3日目の朝、倉敷を出立し、姫路城へ寄る。夕方京都に到着し、
2泊して帰る。それぞれ現地ではグループ行動になっている。その
グループ編成はまだ決まっていなかった。文化祭の振替休日の後の火曜日に
決める事になっていた。
 その、振替休日の日、理子は枝本と映画を観に行った。駅で待ち合わせ、
横浜まで出た。横浜は馴染みの街である。両親が横浜出身なので、理子も
横浜で生まれた。祖父母が住んでいるので、小さい時から遊びに行っている。
 高校へ入ってからは、ゆきと二人で、よく遊びに行く。お小遣いが
少ないので、殆どウインドウショッピングだったが、二人で色々見ながら
ブラブラするのが楽しかった。去年は二人で山下公園にもよく行ったし、
元町へも出かけたし、まるでデートでもするように、あちこちへ行ったのだった。
そして、二人で気に入りのものがあるとお揃いで買った。
 理子は、彼氏の須田とより、ゆきと出かけた数の方が遥かに多かったと
言える。今年はそれが減った。
 文化祭が終わって帰宅した夜、10時頃にゆきからメールが来た。
小泉に告白されて、付き合うことになったとの報告のメールだった。その後、
電話がかかってきて、色々と話を聞いた。彼らも今日はデートの筈だ。
渋谷へ行くと言っていた。
 駅で枝本に会った時、新鮮なときめきを感じた。それは、中1の時に、
矢張り初めての私服を見た時の新鮮な感動と似ていた。ラフな服装であるにも
関わらず、素敵に見える。理子は色々考えて、3年前に初めて校外で枝本と
会った時に着た服を着て来たのだった。黄緑のブラウスに緑の半袖のベスト、
赤に深緑のチェック柄のフレアースカート。まぁ、覚えてはいまい。
 枝本は、理子を見て、「あれー?」と首を傾げた。
 「どうしたの?」
 「うーん・・・、なんか前にも見たシーンのような気がしたんだ」
 なるほど。記憶の底に存在しているのだろう。理子の服装を見て、
既視感を覚えたようだ。
 理子は敢えて何も言わず、先を促した。
 二人で電車に乗る。月曜日の中途半端な時間だったから、電車は
空いていた。二人で並んで腰かける。空いている事もあって、ゆったりと
少し距離を取って座った。それでも、やっぱりドキドキする。
 「明日さ、修学旅行のグループ決めがあるでしょう。自由らしいから、
どうかな、同じ班」
 枝本が理子の方へ顔を向けて言った。朝の眩しい光が斜めに彼の顔を
照らしていて、なんだか眩しい。
 「枝本君と?」
 「俺だけじゃないよ。耕介と茂木と小泉も一緒。小泉は最上さんを
誘うって言ってたから、ちょうどいいんじゃないかな。えっと、
前田さんも誘って」
 「ゆきちゃんと、美輝ちゃんが一緒なら、構わないけど」
 「じゃぁ、決まりだな」
 と、枝本は嬉しそうに言った。
 「だけど理子、昔とちょっと雰囲気が変わったよな」
 「えっ、そう?」
 「うん。昔はもっと大人しい感じだった。どちらかと言えば
目立たないタイプ」
 「ああ、そうかもね」
 理子は幼稚園へ入る前までは、女の子なのにガキ大将みたいな、
お転婆を超えてヤンチャな娘だった。引っ越して、幼稚園へ入ってから、
大勢の集団に馴染めなくなり、途端に消極的で内向的になった。
小学校へ入ってからは、いじめに遭ったりして更に内向的になったのだった。
 変わりだしたのは、中学へ入ってからだ。色々な面で少しずつ
自信がついてきた。小学生時代は人前で発言も出来なかったし、当てられて
教科書を読むのだって、小声で自信なげにやっと読む、そんな状態だったのだ。
 それが、中学生になってから、ホームルームで少しずつ発言できるように
なり、授業中も自ら挙手できるようになっていった。枝本からすれば、それでも
まだまだ大人しいタイプだったろうが、小学生時代を知っている人間からすると、
理子は大きく変わったように見えるだろう。
 理子は枝本と別れてからも進化し続けていた。枝本が知っている理子は、
まだ変化の途中だったのだ。二年生になってから、急激に変化したと言っても
良い。その一翼を担ったのが枝本である事を、勿論枝本自身は知らない。
 枝本の存在と、2年で同じクラスになり、その後好きになった多田哲郎と言う
男子の存在が、理子を大きく変えたのだった。
 新しい学校で生徒会役員となり、歴史クラブを創設して頑張っている枝本に、
理子は恥ずかしくないように自分も頑張らねばと、自分で自分を叱咤激励した。
そして、同じクラスで同じ班になった多田哲郎が、そんな理子を上から
引っ張り上げてくれた。
 勿論、多田も、そんな意識は全くない。たまたま、理子にとって、
そういう環境を提供してくれた存在になっただけである。いつも明るくて、
クラスの事は率先して引き受け、全力で力を合わせて頑張る班。
理子はその班員の一人に過ぎなかった。班長が多田である。
 理子はそこで磨かれた。周囲に注目され、先生たちにも注目され、
そして期待され、それに応えて来た。生来から持ち合わせていた積極的で
自由奔放な性格が、そこで花開いた感じだった。だが、長く続いたことで
培ってきた内向的な面も無くなってはいない。そのせいか、ちょっとした
事で臆病になったりする。
 「それで、どんな風に変わった感じがするの?」
 と理子は聞いてみた。
 「そうだな。以前よりも溌剌とした感じかな。だけど、それだけじゃなくて、
ミステリアスな部分も感じられたりする」
 「えっ、なにそれ」
 意外だった。「溌剌とした感じ」と言うのは、まだ理解できる。
大人しいと対照的だからだ。だが、ミステリアスって、どういう
意味なんだろう。
 「ごめん、上手く言えなくて。何ていうか、色んな面を
持ち合わせていて不思議な感じがするんだ」
 「ふーん・・・。なんか、そう言われても自分じゃわからないけど」
 自分の事は、自分ではよくわからない。他人の評価って様々だし、
思いもよらない受け止め方をされていたりするものだ。
 「俺は?どう?変わったと思う?」
 「うーん、そうだなぁ。まず、背が伸びた」
 枝本は笑った。
 「あれ以上伸びなかったら悲しいよ」
 「あと、眼鏡が変わった」
 「そりゃあ、変わるでしょう」
 「枝本君も、全体の雰囲気が変わったと思うよ」
 「どういう風に?」
 「マイルドな感じになったと思う。こうして話していても、それは感じる」
 「マイルドかぁ」
 「大人っぽくなったって言うのかな。落ち着いた雰囲気があるって言うか」
 中学の時は、もっと刺激的で攻撃的だったと言うか、ピリピリした部分が
あったように思う。いつも熱くて、不用心に触ったら火傷しそうな怖さがあった。
理子も同じ班になった時、好きな相手と近くなる嬉しさの一方で、
恐怖も感じたものだった。
 「そうかぁ。まぁ、大人になったとは思うよ。昔はガキだったと
自分でも思うから。ちょっと熱すぎた」
 随分、冷静になったんだな、と理子は感じた。そのせいなのか、以前よりは
安心感がある。その変わり良い意味での緊張感も無くなったような気がした。
 話しているうちに、電車は横浜についた。
 相鉄ムービルまで歩く。西口は閑散としていた。
 「手を繋いでも、いいかな?」
 と、枝本に言われた。
 えっ、どうしよう?
 「ごめん。そういうの、恥ずかしくて・・・」
 と理子は俯いた。須田先輩と付き合っている時も、結局手を繋いだ事は
無かった。
 「そっか。そうだよね」
 別に手くらい繋いだっていいじゃないか。枝本と初めて校外で会った日、
別れ際に握手をした。枝本の方が手を差し出したので、理子は思い切り
ドキドキしながら手を合わせたのだった。あの時、とても幸せだったのを
今でもはっきりと覚えている。その相手から、手を繋ぐことを望まれたのに、
何故迷い、断ったのか。
 本当は、手くらい繋いでも良かったのだ。だが、恋人同士でもないのに手を
繋ぐ事に抵抗を感じるし、また手を繋ぐことで、勘違いされても困るという
思いも働いた。
 勘違い。そう思った時、枝本の気持ちを思った。まさか、もしかして?
そもそも、文化祭で一緒に回った事からして、そういう気持ちがあったから
じゃないのか?だから映画にも誘ったし、手を・・・。これは暗に気持ちを
伝えられていることなのか。
 そんな気持ちに捉われながら、映画館の中へ入った。月曜の午前中だけに、
ここも空いている。二人は真ん中の席に座った。薄暗い館内で、袖が触れあう程の
距離にいる事に、理子の鼓動は早くなる。映画が始まるまでの間に、息苦しさを覚える。
 「小泉と最上さん、渋谷でデートだって。聞いてるよね?」
 と、枝本が話しかけて来た。
 「うん。枝本君も聞いたんだ」
 「昨日の文化祭で告白してオーケー貰ったって、電話してきた。
嬉しそうだった」
 「へぇ~、小泉君が。へぇ~」
 「なんかやけに感心してるね」
 「うん。なんかやっぱり、小泉君って意外と積極的だったんだなって思って」
 「前にもそんな事を言ってたよね」
 「彼、普段も口数が少ないじゃない?だから、私にはよくわからなくて。
電気部の彼の友達から聞いた話しからすると、積極的なタイプじゃないって思ったし」
 「まぁね。でもあの二人は見た目のイメージと違って、結構、進んでるよね。
周囲からは、焦れったい程、奥手のように見えるけど」
 「言えてる」
 本当に、そう思う。
 そんな事を話していたら、場内が暗くなって映画が始まった。
 面白い映画だった。映画を観終わった後、東口へ行き、そごうの食堂街で
遅めの昼食を取った。
 話しが弾んだ。枝本は、昔、自分が作った歴史クラブの時の発掘の
話しなどをした。理子にとっては、いわく付きの歴史クラブだったが。
 「明日、増山先生に、歴研の申請をしようと思ってるんだ」
 増山は顧問を引き受けるだろうか?
 修学旅行が目前だから、許可が下りるにしても戻ってきてからになるだろ。
 そうごを出て、再び西口へ戻った時、理子は増山を見つけて驚愕した。
綺麗な女性と一緒だった。女性はスラックスのポケットに手を突っ込んでいる
増山の腕に腕を絡ませていた。二人はガラス張りの店の前で、品物を見ている。
買い物に来たのだろうか?通り過ぎる女性の何人かが、振り返って増山を見ていた。
矢張り、どこにいても目立つ。
 「あれぇ、もしかして増山先生?」
 枝本も気がついた。
 「え?どこ?」
 理子は咄嗟に気づいていないふりをした。
 「あそこだよ。あれって、やっぱりデートだよな?」
 ああやって、腕を組んでいるのだから、デートなのだろう。やっぱり、
彼女はいたんだ。理子の気持ちは沈んだ。胸が痛い。
 二人は増山に気づかれないように、その場を離れた。
 「驚いたなぁ。あんな場面に出くわすなんて」
 全くだ。まるで予想もしていなかったことだ。
 「やっぱり、先生には彼女がいたんだな」
 「大人なんだし、ルックスもいいわけだし、いない方がおかしいじゃない」
 理子は自分に言い聞かすように言うのだった。

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