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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部第23章 ずっとそばにいて 第2回

2010.05.08  *Edit 

 自分の家なのに、中へ入るのが震える。玄関のドアの前に立ち、
増山を見た。増山も少し緊張した面持ちだが、それでも優しい笑みを
理子へ向けた。理子はベルを一回鳴らした後、鍵を開けてドアを開いた。
中から母が転がるように出て来た。
 「さっき、レタックスが来たわよ。合格、おめでとう!」
 母は泣きそうな顔をして、そう言った。
 良かった。これで、母にも正真正銘、合格した事がわかったのだから。
 「あっ、先生。ありがとうございました。お陰さまで合格できました・・・」
 「いえ。彼女の努力が実ったからです」
 母はその場で泣き崩れ、理子はそれを見て驚いた。まさか、
これ程喜ぶとは思っていなかった。奥から父が出て来た。
 「理子、合格おめでとう。よく頑張ったな」
 「お父さん。ありがとう」
 「さぁ、中に入りなさい。先生も、どうぞお上がり下さい」
 父は母を促し、母は泣きながら立ちあがり、皆は居間へと移動した。
居間にある座卓を挟んで両親と増山は座った。理子はお茶の支度を始めた。
母はまだ泣いている。増山が訪問する事を伝えておいた事もあり、
お茶の支度はほぼ出来ており、お湯を入れるだけの状態になっていた。
手早く済ませたいところだが、それでも理子は丁寧に淹れた。
増山はその様子を何気なく見ていた。
 お茶の支度が整い、理子は皆の前にお茶を置くと、増山の隣に座った。
増山は「頂きます」と言うと、理子が淹れたお茶に口を付け、
「美味しいよ」と優しく言った。そんな増山の様子に何かを感じたのか、
母が顔を上げて、増山の方を見た。母のその行動に、理子はドキリとした。
 「そう言えば、さっき電話で、大事な話しがあるって、理子言って
たわね。その為に、増山先生が一緒だって。大事な話しって、
何なんでしょう?」
 母が増山に問いかけた。母の問いかけに、増山は居住まいを整えると、
真剣な眼差しになった。
 「大変急で恐縮なんですが、理子さんと結婚させて下さい」
 思いがけない増山の言葉に、母は何を言われたか理解できないような
顔になり、視線を宙のあちこちへと泳がせた。そして、その視線が
理子と合った時、理子に問いかけるような表情をした。理子は
ただ黙って母を見つめた。自分自身、どういう顔をしたら
良いのかわからなかった。
 「あの、今何ておっしゃったんでしょう?」
 母の言葉に、増山は大きく吐息を吐くと、再び言った。
 「理子さんと、結婚させて下さい。お願いします」
 そう言うと、増山は深く頭を下げた。
 「け、結婚?な、何を言ってるんですか。結婚って、何を馬鹿な事を。
一体、どういうことなの?」
 母は理子の方に顔を向けると睨みつけた。
 「先生と、結婚したいんです。私が東大に合格できたら、この春に
結婚しようってプロポーズされて、お受けしました。もし不合格
だったら、結婚はもっと先にする予定だったんだけど、合格したので、
今月入籍したいと思ってます」
 理子の言葉を聞いて、母は目を剥いた。
 「何言ってるの。自分を幾つだと思ってるの。まだ未成年じゃないの。
子供でしょう。なのに、結婚ですって?馬鹿な事を言うんじゃない。
先生、これはどういう事なんです?結婚したいなんて、
あなた教師でしょう。教え子相手に何を言ってるんです。
一体、娘に何をしたのっ!」
 「まぁまぁ、落ち着きなさい」
 そばにいた父が、母をいなした。
 「あなた、何言ってるのよ。落ち着けるわけが無いでしょう。
担任の癖に、受け持ちの女生徒と結婚したいなんて、どう考えたって
おかしいでしょう。まだ、未成年なのよ?子供でじゃないの。
大学に合格して、これからって時なのに。まだまだ沢山勉強しなきゃ
ならない事があるって言うのに。結婚なんて、大学を卒業して、
社会経験をして、それからの事でしょう!」
 母は捲し立てるように、一気にそう言った。興奮している。
少し気持ちが落ち着くまでは何も言わない方が良いと判断したのか、
増山は無言のままだった。理子も同じだ。
 予想通りの反応だ。常識的に考えれば、母の言う事も尤もだ。
ただ困るのは、母はいつでも感情的な事だ。冷静に話し合えれば、
互いにわかりあえると思うのだが、いつも一方的に怒るだけで、
一向に歩み寄れない。だから、父も母にはお手上げなのだ。
 「先生。二人して結婚したいと言う事は、それまでの過程が
あったって事ですよね。在学中から、娘と付き合っていたと
言うことなんですね?」
 少し落ち着いた母が、冷たい表情でそう訊ねて来た。
 「はい。そうです」
 「はい、そうですって、抜け抜けと・・・。自分の立場というものを
弁(わきま)えたら、そんな事はできないでしょう。
娘に東大を勧める一方で、誑(たら)し込んだと言うわけですか。
教育者として、あるまじき行為なんじゃないですか?」
 「誑し込んだつもりはありません。東大を勧めたのは、個人面談で
僕が申し上げた通りの理由です。それ以外の理由はありません」
 「じゃぁ、どうしてこんな事に?理子、あんたはまだ子供だから、
よくわかってないのよ。先生はイケメンだから、誘われればその気に
なるのも無理は無いでしょうけど、結婚は一生の事なのよ?まだ子供で、
男や世間をよく知らないのに、そんなに簡単に結婚を決めてしまって
いいの?絶対に、後悔するわよ」
 「結婚する為には、男や世間をよく知らないといけないの?」
 「当たり前でしょう。世間で揉まれて、男を見る目をしっかり
養ってからじゃないと」
 「じゃぁ、先生はお母さんの眼鏡には叶わない男性って事なの?」
 「それはそうでしょう。教師の癖に女生徒に手を出すなんて、
ろくな男じゃない」
 母は憤然と、そう言った。
 「お母さん、酷い事を言うのね。先生は私の為に懸命になって
東大に合格させてくれたっていうのに。ろくな男じゃないなんて、
酷過ぎる」
 「それとこれとは、話しが別です。幾ら東大へ合格させて
くれたからって、教え子と恋愛関係に落ちるなんて。
本当に愛しているなら、待てる筈でしょう」
 「先生は待ってくれたわよ。一年半も。合格できるかどうかも
わからない、東大合格を条件にして」
 「一年半って、そんな前から付き合ってたの?」
 「そうよ。でも、普通の恋人同士のようには付き合えなかった。
生徒と教師だったから。まして私は受験生よ。しかも、東大を受験する。
恋愛に現(うつつ)をぬかしている時間なんて、無かった。
先生も、私の受験の為に随分我慢してくれた。どれだけ支えて貰ったか
わからない。先生がいてくれたから、私ここまで頑張れたの。だから、
これから先も、ずっと先生にそばにいて欲しいのよ」
 「理子。あんたは恋に目が眩んでいるだけよ。結婚って言うのは、
もっと冷静に判断しないと駄目。両目をしっかり開けて、
相手の事をよく見ないと」
 「私、これでもかなり冷静よ。お母さんと違って、私って元々
冷めてるの。だからお母さんは私の事が嫌いなんでしょ。
冷めた目で自分を分析する娘が嫌なんでしょ」
 娘の言葉に、母は目を剥いた。
 「何言ってるの。自分の子供を嫌う親がいるもんですか」
 「そんな事、信じられない。私はいつも、お母さんに辛く
当たられてきた。小さい時からずっと、お母さんの愛情を
感じた事なんて無かった。・・・ううん。訂正する。ここへ
越してくる前は、とても可愛がって貰っていたと思う。いつも
守られている安心感があった。でも、ここへ越してきてから、
お母さんは変わった。いつも怒ってばかりで、すぐに子供にも
あたって。小1の時、いじめで私が登校拒否になった時、
お母さんはお父さんに学校へ行かせたでしょ。優ちゃんの時には
自ら凄い剣幕で乗り込んで行った癖に」
 「そんな事を今さら、何言うの。優子と差別してきたとでも
言うの?お母さんは差別した覚えはないわよ。ただ、扱い方に
少し違いがあるのは当然でしょう?理子も優子も違う人間なんだから、
同じように扱えるわけがないでしょう」
 「お母さんはそのつもりでも、私はその時に凄く傷ついたし、
それからもずっと傷ついてきたの。少しでも口答えをすると、
すぐに叩かれたり抓(つね)られたりして、力で押さえつけられてきた。
大きくなってからは、そういう事はしなくなった代わりに、
いつも足音を忍ばせて突然ドアを開けて、様子を窺うようになって。
けなされる事はあっても、褒められたり励まされたりする事はあまり
無かった。私がどれだけ苦痛だったか、お母さんにはわからないでしょう?」
 理子はそう言いながら涙を流し始めた。増山はそんな理子の肩に、
そっと手を乗せた。
 「おかあさん。実は去年の秋の事なんですが、夏休みのおかあさんとの
生活に疲れて、家へ帰りたくないと言い出した事があるんです」
 「なんですって?」
 母は驚いた。隣に座る宗次も驚いていた。
 「毎日、文化祭の準備に熱を入れていて、最終下校時間まで残って
いるものですから、僕の方も心配になったんですよ。いつもと
変わらないように振る舞ってるんですが、何か違和感を覚えて
彼女を問いただしました。そうして、夏休みの生活内容を
彼女から聞きました」
 増山はそれ以上は言わずに、真っすぐ母を見た。彼女は目を逸らせた。
 「おかあさん。どうか僕達を結婚させて下さい。僕は真剣に
彼女を愛しています。だから、東大合格の条件を自分自身に課して、
これまでずっと、彼女をサポートしてきたんです。勿論、こういう
間柄で無くても担任ですから、しっかりサポートはしましたが、
精神的な支えに、なりたかったんです」
 「先生。先生のおっしゃる事はわかりました。だけど、
今月入籍って言うのはどういう事ですか?結婚するにしても、
あまりに早すぎませんか。ここまで待ったんなら、大学卒業するまで
待たれたらどうなんです?」
 母は冷静な顔をして、そう言った。
 「申し訳ありませんが、これ以上は待てません。もう限界なんです。
その為に、二人して必死で頑張って来たんです」
 「だけど、私達親からしてみれば、あまりに急なお話しじゃ
ありませんか。担任の先生だと言う事は知っていても、あなたが、
どういう人間なのか、どういう男性なのか、全く知らないんですよ」
 「本当は、もっと早くに二人の事を話したかったのですが、
何よりも彼女の受験を最優先にしたかったんです。おかあさんが
激怒されるであろう事は、彼女の話しを聞いて予想できましたから。
それで、彼女に精神的なストレスを感じさせたく無かったんです。
東大を受験するわけですから、集中力が何より大切です。そういう訳で、
この時期になってしまいました。申し訳ありません」
 増山はそう言って、畳に手をついた。
 母は憮然とした表情で、暫く黙っていた。居間の中を静寂が支配した。
理子は固い表情をしている。父は、黙って腕を組んでいた。そうして、
暫くの沈黙の後、父の宗次がいきなり口を開いた。
 「お父さんは、理子の意志を尊重する」
 母は驚いて、隣に座る宗次を見た。
 「何を言ってるんですか。こんな重要な事を、そんなに簡単に」
 「君には申し訳ないと思うんだが、実は私は、二人の事を
半年以上も前から知っていたんだ」
 「何ですって?」
 母は仰天し、周囲を見回した。
 「どうして、あなたが知ってるの?」
 「去年の夏だったかな。理子が会わせたい人がいるから会って欲しいと
言ってきて、そして、先生を紹介されたんだ」
 宗次の言葉に、母は理子を見た。
 「お母さんは、いつも私に相談しないって言うけど、言えば、
お母さんがどういう対応をしてくるか、わかり過ぎる程わかるから
言わないのよ。お母さんに先生の事を紹介なんてできないでしょ?
頭ごなしに反対されるの、わかりきってるし、実際、さっきみたいに
『誑し込む』とか酷い事を言うんだもの。でも私は先生と結婚する事は
決めていたから。その決意は変わらないの。だから、お父さんにだけでも
わかってもらいたくて、それで紹介したの」
 「私だって、話しを聞いた時には驚いたし、反対したよ。
常識で考えれば、はいそうですか、と簡単にいくわけがない。だが、
増山先生と色々話しているうちに、気持ちが変わった。増山先生は、
いい青年だ。彼は生まれも育ちもいい。見た目からも、それは
窺えるだろう。品がある。その上、頭もいい。そして何より、
理子をとても深く愛してくれている。彼なら理子を幸せにしてくれる。
それ以上に、何が不足だって言うのか?」
 「理子はまだ、子供です。若過ぎます」
 「母さんは、いつまで理子を自分の手元に置いておくつもりなんだ?
いつまで、縛り付けておくつもりなんだ」
 「縛り付けておくなんて、そんな事、してませんよ。大体、
生まれも育ちもいいって、何ですか?素性も知らないのに」
 母のその言葉を受けて、増山は鞄から一通の封書を差し出した。
表書きは「身上書」となっていた。
 「一応、用意してきたんです。良ければご覧になってみて下さい」
 増山に言われて、母はそれを受け取ると、中身を出して開いた。
それを見ながら、表情がみるみる変わる。目を丸くして驚いていた。
 「こ、ここに書かれてある事は、本当なんですか?」
 「全て、本当です。いずれ、うちの両親もご挨拶に伺わせて
もらうつもりです」
 「母さん。私は既に、先生のご両親にお会いしてるんだよ」
 「なんですって?」
 「二人の話しを聞いた後、先生のお父さんが、わざわざ私の会社まで
挨拶にいらしてね。恐縮したよ。立派な人物だった。あちらの
お母さんとは、先生が怪我で入院された時に見舞いに行ってね。
それで病室でお会いした。品のある、明るく優しそうな女性でねぇ。
あちらのご家族は、みなさん理子を気に入ってくださってる。
だから、嫁に出しても安心だよ」
 「そんな、いい人だからって、嫁に貰えば変わりますよ。
大事な息子を他人に取られるんだから」
 憎々しげに母は言った。
 「おかあさん。仮にそういう事があっても、その時には僕は彼女の
味方ですから。心配されないで下さい」
 「そんな事、口では何とでも言えますよ。いざって時には、
自分の親の方を取るに決まってます」
 どこまでも、人を信じられない、可哀そうな女性だと理子は思った。
 「僕にとっては、彼女が全てなので、他の誰も代わりにはなれません。
もし、万が一でも、嫁いびりなんて事があったら、僕は例え自分を
慈しんでくれた母であっても、彼女の方を選びます。この事に関しては、
信じて頂くしかありません」
 「一筆入れて下さいと言ったら、そうしてくれますか?」
 「勿論です」
 増山は即答した。そして、鞄から、色々な物を出してきた。
通帳に株券、債権、マンションの登記簿、免許証に保険証、
源泉徴収証、各種資格の証明書・・・。
 両親は、それを見て驚いた。一番驚くのは、何と言っても、
その財産だろう。一介の高校教師では考えられない程だった。
自分達よりも、持っているのではないだろうか。
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~ Comment ~

Re: もうこれは>OH林檎様 

OH林檎さん♪

詰将棋!
良い例えですね(^^)

だけど、これからが勝負なんですよぉ~。
感情オンリーのお母さんなので、どうなるんでしょうねぇ。

もうこれは 

詰将棋の世界!
先生の勝ちは、試合を始めた時から決まってた感じが…(笑)
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