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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部第23章 ずっとそばにいて 第1回

2010.05.07  *Edit 

 3月10日、水曜日。
 二人は電車の中にいた。周囲は学生で一杯だ。
多くの女性が増山を見ていた。
 3日前の7日の日曜日、二人は逢った。
前の週に購入したピアノや家具が運びこまれる日だったからだ。
 11畳の寝室は、ベッドで占領された。西側一面がクローゼットに
なっているので、ベッドは東側の壁面を頭にして置いた。北側の壁面には、
理子のドレッサーが置かれた。
 グランドピアノはリビングの、一番北側で、その隣にダイニング
テーブルと椅子が置かれ、少し離れてボード、そして南側にソファ
セットが置かれた。東の窓を背に4人掛けの長ソファーが置かれ、
その前にガラステーブル、それを挟んで南と北に二人掛けのソファが
一つずつ置かれた。西側は寝室と接する壁面で、増山はその壁面に
薄型大型テレビを掛ける予定でいる。
 一通りの家具が入ると、生活感が漂ってくる。ここで暮らすんだと
言う実感が少しずつ湧いてくるのだった。だが、そばにいる男性は、
矢張り少し現実感に欠けている。この人とここでずっと一緒に生活を
共にするんだと思っても、あまりピンとこないのだった。
 二人で逢った時、増山は諸星と話した時の事を、理子はゆきや
枝本達に話した時の事を話した。
 「君は、諸星先生に『大好き』って言ったんだってな。
気を良くされてたぞ」
 「あら・・・。諸星先生から聞かれたんですか。それで先生、
もしかして焼きもちを?」
 「妬かない。だけど、もしかして『和泉式部日記』をくれた
意味を知らないんじゃないか?」
 「えっ?あの本をくれた意味ですか?歴史と文学好きには
ピッタリだろうって言われたんですけど」
 「やっぱりな。君は、そっちの方面は鈍いもんなぁ・・・」
 似たような言葉を、つい最近も聞いたような気がした。
そうだ。確か卒業式の日に枝本が・・・。
 「あの、それって、どういう意味なんですか?」
 「裏表紙のサイン、君の名前の下にハートマークが付いてたんだろ?
和泉式部のように恋をたくさんして、いい女になって戻ってこい。
俺、お前が好きだぜって本気で告白してんだよ、あの先生は」
 「ええー?」
 理子は仰天した。
 「ご本人が、そうおっしゃったんですか?」
 「言わなくてもわかるだろう。俺は察した。だけど、君にはそれが
通じないんだよなぁ。おまけに、『俺、理子が好きなんだよ』って、
はっきり言われただろう。なのに、気付かない」
 理子は赤面した。
 「だって、あの諸星先生ですよ?どこまで本気にしていいのか、
わからないじゃないですか」
 「まぁなぁ。まぁ、諸星先生も、理子が本気で受け取らないのは
承知の上だけどな。だからこそ、君に『大好き』と言われたんで、
大喜びだったってわけだ」
 「私、そういうの鈍いって、謝恩会の時に枝本君にも言われました」
 理子の話しを聞いて、増山は笑った。
 「やっぱり、みんなそう思ってるんだな。耕介が君を好きだって、
みんな気付いてたさ。俺だってな。それから、岩崎も。告白されてた
だろう。でもって、帰りに何か、貰ってたな」
 「見てたんですか?」
 理子は驚いた。凄い数の女子に取り巻かれていたと言うのに。
 「見てた。しっかり。なのに君は、俺の事を3回くらいしか
見てくれなかったよなぁ」
 「いいじゃないですか。一度も見ないよりは」
 「開き直りの理子だな。相変わらず、つれない女だ」
 理子は、自分が増山を見た回数まで把握している事に驚いた。
そこまで見ていたとは思いも寄らなかった。自分は敢えて、
見ないようにしていたと言うのに。
 「やっぱり、あれか?女子どもに取り巻かれている俺を見るのが
忍びなかったとか、そういう事か?」
 「また、先生も相変わらずの自惚れ屋さんですよね。あんなの、
想定内ですから。先生も、これが最後って事なんでしょうけど、
随分と鼻を伸ばしてらっしゃいましたよね。だけど先生、最後の
最後に私を呼ばないで下さいよ。みんな、すっごい形相で私の事を
見るんで、怖かったです」
 「ああ、あれかぁ。あれはな。仕方なかったんだ。礼が終わったら
すぐに言おうと思ってたのに、みんなが殺到してきちゃったからな。
言うタイミングを逸してしまった。でもって、君が帰ろうとしたから、
慌てたのさ。いや~、ごめんごめん」
 「私あの時、凄い恐怖を感じました。先生と私が結婚すると知ったら、
何か脅迫状とか送られてくるんじゃないかって、今から心配です」
 「その時は、すぐに俺に連絡してくれ。俺が対処するから。
いいな。君は心配しなくていいから」
 増山が、打って変ったように真剣な眼差しでそう言った。
 その時の眼差しを思い出しながら、今は増山と共に電車に乗っている。
二人で電車に乗るのは初めての事だった。混んでいるのもあって、
体が密着しそうである。ドキドキするのだった。
 もうすぐ結果がはっきりする。矢張り、二人ではっきりと確認
したかった。自宅へもレタックスで合格通知が来る事になっているが、
見に行った方が早い。増山は、今日は休暇を取った。発表を見たら、
学校へ連絡する事になっている。そして、その足で、二人で吉住家へ
行く。今日は水曜日なので、仕事が休みの父も家で待機している。
 増山は、二日前の月曜日に校長に事情を話した。諸星先生も一緒だった。
校長は当然の事ながら驚いていたが、増山の誠実な思いを最後には
わかってくれた。理子の父親は了解していると言う事と、諸星の
応援は、とても役立った。そして何より、この二年間の増山の頑張りを、
校長は評価してくれていた。
 朝霧で東大を受験すると言う事だけでも一大事なのに、恋愛に
溺れる事無く、しっかりと合格へと導いた事、そして、他の生徒達にも
同じように熱心に指導し、志望校へと導いた事。そして、東大合格を
結婚の条件とした事。単に教え子と恋愛していると言うのならともかく、
結婚すると言うのだから、それだけ真剣なのが受け取れる。
 「今回の結婚について、非難する人もいるかもしれません。
しかし、私は増山先生を守ろうと思います。私の期待に応えて
頑張ってくださった先生を、評価していますし、信頼もしています。
だから、安心して下さい。来年度以降も期待していますから、
よろしくお願いしますよ」
 校長はそう言うと、優しい笑みを浮かべて増山の手を取った。
増山は、心から嬉しく思い、涙ぐんだ。人格者の校長の事だから、
わかってくれるだろうと思ってはいた。だが、ここまで真心を
示してくれるとは思っていなかった。
 「良かったな、増山先生」
 諸星は軽く増山の背中を叩いた。
 「はい。本当にありがとうございます。信頼を裏切らないように、
これからも頑張ります」
 理子も、その時の話しを聞いて感動した。
 これで、少しは安心だ。だが、そういう好意を示してくれるからこそ、
そういう人達に迷惑をかけたくないと思う。できれば、母に、
事を荒立てて学校にまで迷惑をかけるような行為をして欲しく無いと
思うのだった。
 目的地に到着した。増山は理子の手を取った。人が多いので、
はぐれない為でもある。増山はひと際背が高いから、見失う事は
無いだろうが、増山の大きな手に包まれて幸せな気持ちになってくる。
何だかとっても新鮮だった。
 駅は、発表を見に来た生徒達でごった返していた。だが、受験の
時ほどではない。地方の学生はレタックスを待っているのだろう。
近郊の生徒でも、レタックスの方が早い者もいる。二人は急ぎ足で
掲示板へと向かった。そこへ着いた時、ちょうど貼り出される所だった。
理子は急いで受験票を取り出した。
 「先生・・・」
 理子は増山を仰いだ。増山は黙って頷いた。二人で番号を目で追う。
桁が大きいので、うっかりしていると途中で番号を見失いそうだ。
先に見つけたのは増山だった。
 「理子!」
 増山は理子の名を呼ぶと、理子の肩を掴んだ。
 「えっ?」
 理子は急いで番号を追った。そして、見つけた。自分の番号を。
何度も何度も、受験票と見比べた。一つ一つの番号を口ずさむ。
合ってる。合ってる、合ってる、合ってる!
 「理子、やったな!合格だ、合格!」
 増山はそう言うと、理子を抱きしめた。理子は受験票を握りしめたまま、
増山に強く抱きしめられた。増山は理子を抱きしめたまま、体を左右に
揺らしていた。その揺れは段々大きくなっていって、とうとう理子の
足は地から離れ、増山によって振り回されるようになった。理子は
振り落とされないように、増山の体にしがみついた。
 やがて地上に下ろされたが、少し目が回って理子は増山の胸に
凭(もた)れかかったままでいた。周囲では、合格した受験生たちの歓声が
あちこちで上がっていた。
 「理子、大丈夫か?」
 増山が首をもたげて訊いてきた。理子は頷く。
 「先生、振り回すんだもの。ちょっと目が回っちゃいました」
 「ごめん。あまりに嬉しくて。確信はしていたが、やっぱり違うな。
実際に見ると」
 理子もそう思う。自信はあった。あったが、矢張りはっきりと
目にすると喜びはひとしおだ。
 理子は、増山から体を離すと、増山を見上げた。増山は喜びに目を
輝かせていた。その目を見て、理子の瞳から涙が湧いてきて零れ落ちた。
増山はそっと、その涙を指で拭った。
 「先生・・・、良かった・・・」
 理子はそう言うと、再び増山の胸に頭を凭せかけた。そんな理子を、
増山は優しく抱きしめる。
 やっと終わった。これで全てやり切った。4月から東大生になる。
そして、先生の奥さんに・・・。長い道のりだった。やっと、
ここまで辿り着けた。
 二人で暫くの間喜びを噛みしめた後、まずは増山が学校へ連絡をした。
増山からの報告を受けた学校では、大騒ぎだった。
 「これから彼女の家へ行きます」との増山の言葉に、校長は
「頑張りたまえ」と激励してくれた。その後増山は、自分の家族に
連絡した。みんな喜んだ。そして、これから理子の家へ向かう増山を
元気づけてくれた。
 その後で、理子は家へ電話した。ワンコールで母が出た。
 「どうだったの?」
 母の声は、震えていた。
 「合格しました!合格よ!」
 「本当に、本当なのね?」
 「本当に本当です。じゃぁ、これから増山先生と一緒に、家に戻ります」
 「えっ?増山先生と?どうして先生と?」
 「大事な話しがあるの。だから、待ってて。じゃぁ、帰るから」
 理子はそう言って電話を切った。
 増山を見上げると、増山は優しい笑みを浮かべていた。そして、
理子の肩を抱き寄せた。
 「じゃぁ、行こうか。これからがまた、ひと騒動だな」
 増山の言葉に、理子は頷いた。これが、最後の山だ。最大の山とも言える。
でも、乗り越えなければ。
 理子は奥歯を噛みしめた。
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~ Comment ~

Re: とうとう…>OH林檎様 

OH林檎さん♪

やっと、ここまでやって来ました。
長い道のりでしたね・・・。

さて。
これからがまた一大事でございます。
強烈なお母さんは、どう出てくるのでしょうか・・・。

とうとう… 

ここまで来たんですねぇ。
思わず感涙…。
これから来るの事を思うと手放しで喜べないけど
二人なら乗り越えられるはず!
がんばれっっ!!!
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